system5 > 農業博覧会用藩国ブースの様子

◇博覧会での玄霧藩国の様子◇



某日、共和国・帝国の垣根を超えた農業博覧会に、玄霧藩国も自国産の農作物や加工品を携えて参加した。

そこに至る経緯としてはまず、参加をするか否か、という重要な判断
移民問題などで国が荒れた事を受け『外に出るのではなく、国の内部のことに注力すべき』という意見も一定数あり、今回は参加を見送ることも考えられた。

が、二つの理由から多少の無理をしてでも参加をすることが決定された。
理由の一つは、内向きに視野を向けるのではなく、藩国の農作物や加工品をもう一度アピールする機会を逃さず外に視野を向けねばこの先の産業問題へのアプローチが滞るという判断。
もう一つは、実際に参加することで他国がどのように農作物や加工品をアピールするかを直接確認し、それによって様々な情報を得ることが目的でもあった。
国の生産品を発表し、また、他国の発表を直接見る機会。すべてが産業育成においては値千金の価値を持つ情報となりえる。


このことから、藩国でのうどんの第一人者であり、様々な調査で実績を残す九条イズミが責任者と任命された。
うどんの売り込みの際には会場ブースでうどん打ちの実演と、準備しておいたうどん生地を切り分けて茹でたてを提供するのを売りにしよう、という人選である。
そのうえで博覧会の様子を詳細に記録し、提出するのも任されている。


要するにブースの切り盛りと市場調査の責任者をやれ、という任命である。
これを聞いたときのイズミの反応は

「えっ、あっ、はい」

であり、その直後に

「えっ、一人で?????」

と聞き返した、と議事録には残されている。
その言葉を受け、玄霧藩王がイズミの護衛として藩国で野菜乗りとしての活躍実績をもつニムを着け、さらには久藤睦月が選抜した吏族を補助として2名つけることを約束。
人員増加を確認したイズミが頷いたことで問題なく話は進み、晴れて開催当日となったわけである。


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そして、イズミは博覧会の玄霧藩国ブースで唸っていた。

「これさー、やっぱりさー、どう考えても作業量がさー」

先ほど実演で粉から捏ねて寝かせたうどん生地を布で三重にくるみ、木で作った桶の中に入れ、足でそのうどん生地を踏み込む。
衛生面を考えると本来はよろしくないわけだが、きちんと消毒して清潔な布を使ったうえでのパフォーマンスである。
とはいえ、中々の重労働だ。

「ああー、そのー・・・」

そんなイズミをみて、護衛の名目で着いてきたニムが申し訳なさそうな声を上げる。
踏み込むだけなら手伝えなくもないが『どの程度の時間やればいいか』『踏み込む強さはどれくらいか』などの判断がつかないため、質問などで余計に手間をかけさせるのも、と手伝えない状況である。
さらにいうと、現在は『野菜乗り』そのものに注目が集まっており、ニムが質問を受けることも多くそちらに手が取られてしまう。
ついてきた設定国民3名も、それらの対応や本来の護衛の目的を外れるわけにいかず、という次第である。
また、吏族2名はブースの運営をしているため、うどんの面倒を見ている暇がない。

「いや!わかってるんですよ!でもそれでも言いたくはね!?」
「あわわすみませんすみません」
「いやなんかこっちこそすみません!」

ニムとお互い謝りながら、イズミは「うどん打ち」と「捏ね」と「振舞いの時間」を吏族の人たちがきちんとタイムスケジュールを切ってくれたことに感謝していた。
そうでなければ今頃、うどんを足で踏みながら手元でうどんを切って茹でていた可能性もある。

(帰ったら絶対に文句・・・はあとで問題になりそうだからめっちゃ大変だったって言おう!)

うどんの面倒をみて他の国の特産品やブースのアピールの仕方を見て。
ささっと戻ってうどん生地を麺棒で伸ばす実演をして。
とおもったらまたいろいろ回っていろんな国の情報を得てまとめて。
そしたら戻って伸ばしたうどん生地を切って茹でて振舞って。

(やっぱちょっとくらい文句いってもいいんじゃないかな!)

そんなイズミの心境とはうらはらに、うどん以外の加工食品などもそれなりに人気があるようで、ブースそのものは賑わっている。
昨今騒動が多かった関係で、こういったイベントが久々なのもあるだろう。
また、参加する各国の気合の入り方も様々であるが、一様に自国のアピールをしたい、これが何かのきっかけになれば、という良い空気も流れている。

博覧会そのものは盛況のままつつがなく進行し、終わりを迎えるであろう。
そのころ、イズミがどうなっているかはこの時点では誰も知らない。


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これは全くの余談であるが。
博覧会から戻ったイズミは各種調査内容を報告した後、藩王に直談判し丸三日の休暇をもぎ取ったという。

最終更新:2024年03月02日 02:47