634 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2009/11/24(火) 06:57:28 ID:gE8Zu1Mv
プルルルルッ
プルルルルッ
「もしもし…」
「あ、もしもしっ。照さん、お久しぶりです」
「久しぶり、京ちゃん。」
「今、時間大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫だよ。どうかしたの?」
「良かった~。あっ今、照さんがこっちに帰ってきてるって咲に聞いたんで、電話してみました」
「そっか。ありがとう」
「いつ東京に帰るんですか?」
「来週の月曜だよ」
「明後日ですか…。」
「うん…それがどうかしたの?」
「あのっ、照さん!実は………………」
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
外の冷たい空気がつんと肌を刺激し、野山の木々はだんだんと赤色や黄色に染まってゆき、やがてそれは落ち葉となる。
その光景は、季節が秋から冬へと変わろうとしていることを数多くの人々に認識させていく。
そんな季節の、ある日
「ねえ、お姉ちゃん…」
宮永咲が、姉である宮永照に、少し不安を含んだような声色で話し掛ける。
「ん…なに?」
咲に声をかけられ、ソファに座りながら読書をしていた照は目を通していたページに栞を挟み、パタリと本を閉じた。
それを見た咲が一歩一歩ゆっくりと照の元へ近付き、隣に腰をおろす。
そして照の顔を見つめ、少しだけ険しい表情になりながら、話を始める。
「あのさ…さっき電話してたのって、京ちゃん…?」
「えっ…」
それを聞いた照は、わずかに眉をぴくりと動かす。
「…聞いてたの?」
「うん…ご、ごめんなさい…。おトイレに行こうとしたら、偶然聞いちゃったんだ…っ」
ほんの少し俯き気味になり、更に咲は、本当は聞くつもりじゃなかったんだけど…。と、言葉を続けた。
「そっか…」
ふぅっと軽くため息を吐き、天井をぼんやりと眺めながら、照は咲の問いにきちんと答えようと覚悟を決める。
「そうだよ…さっき電話してたのは京ちゃん」
「や、やっぱりそうだったんだっ…」
下を向いたまま、服の裾をギュッと握り締める咲。その手は、プルプルと小刻みに震えている。
その様子を横目で見つめながら、照は話を続けた。
「うん…黙っててごめんね。実は、明日二人で隣町まで行くことになったんだ」
「ええっ…!?」
部屋の中に、ひときわ大きな声が反響する。
思いもしなかったことを突然告げられ、驚きのあまり咲は目をまるくしながら、ぽかんと口を開いたまま体が硬直してしまった。
「ふっ、二人きりで会うの…っ?」
「う、うん…っ」
急に出された大きな声に圧倒され、照も驚きの表情を隠せなかった。
目をぱっちりと開けて咲の顔をまじまじと見つめる。
「もっもしかしてお姉ちゃんって京ちゃんと付き合ってたの…っ?」
やや声が裏返り気味になりながらも、照を問い詰める咲。
「えっ…?い、いや…別にそんなんじゃないよ?」
ここで、照はふと考えこむ。
(何で、彼のことでこんなに必死になっているんだろう?咲にとって京ちゃんは、ただのクラスメイトってだけじゃなかったの…?)
咲はいつも、お姉ちゃん、お姉ちゃん!と言ってはにこにこしながら照にべったりくっついて離れなかった。
それほど、姉のことが大好きな妹だ。
小学生の頃なんかは、照が近所の男の子と喋っているのを見ただけで、頬っぺたをぷっくり膨らませて
「お姉ちゃんは咲のだよっ」
と焼きもちを妬いたりもしていた。
そんなことがあったので、今回の京太郎とのことも、その焼きもちの一種なのだろうと照は思い込んでいた。
そのため、咲にそのことを説明するのは少しだけ勇気が必要だったのだ。
しかし今の咲の態度は、小学生の時のもとは明らかになにかが違う。
「ふっ、二人で会う約束は、どっちからしたのっ?」
「……京ちゃんから誘われたんだよ」
「そ、そうなんだ…」
消え入るような小さな声で、しゅんと肩を落としてしまう咲。目の端にはうっすらと涙を浮かべている。
(あ…もしかして…)
その姿を見て、照はようやく咲の気持ちに気付き始めた。
「咲、もしかして京ちゃんのことが好きなの…?」
「…………うん…」
一瞬、肩をぴくっと動かしたあとに咲が返事をする。頬をうっすらと赤色に染めながら。
「そっか…」
(やっぱり、そうだったんだ。もう子供じゃないんだね・・・。)
「咲…」
「なに…?」
「何か勘違いしているみたいだけど、私は別に京ちゃんのことは好きとかそういう風に思ってはいないからね?」
「えっ…?そうなの?」
「うん。明日だって、買いたいものがあるから選ぶのを付き合ってほしいって言われただけだし…
だから、デートとかそうゆうのじゃないからね?」
「あ…なんだ、そうなんだっ…私、てっきりお姉ちゃんも京ちゃんのことが好きなんだと思ってた…」
そういって咲は、あははっと安心したように笑う。
だんだんと笑顔を取り戻していく咲の姿を見つめ、照もまた安心して頬を緩める。
「ううん。全然違うよ。だから、元気出して?」
頭を撫でながら、照が優しく微笑みかける。
それを、咲がくすぐったそうに、でも気持ちよさそうに目を瞑って受けとめる。
「あ、なんなら明日はやっぱり会うの止めようって京ちゃんに断ろうか?
それとも咲が代わりに行く?」
「えっ?あ、いや…っそれは京ちゃんに悪いから良いよっ…」
胸の前で両手を小さく振り、いやいやと咲が困ったように笑う。
「そう?」
「うんっ。明日はお姉ちゃんも、お買い物楽しんできてっ!」
「ん、分かったよ…」
誤解を解いて一安心した照は、咲に聞こえないように小さく、ふぅと安堵の溜め息を吐く。
「ところで、お姉ちゃんっていつ京ちゃんと連絡先交換したの?」
「ん?ああ…ええとね、全国大会の時かな。先鋒戦が終わって会場の中をぶらぶら歩いてたら偶然会ったんだ」
「あ、そっか。そういえば京ちゃんもお姉ちゃんに会ったよって言ってた気がする」
「うん。そうそう」
「お姉ちゃん、携帯持ってて良いなぁ…。」
「咲もそのうち買ってもらえるよ。」
「う~ん…そうかなぁ」
「それに携帯が無くてもほぼ毎日、部活で京ちゃんと顔合わせてるんでしょ?」
「うんっ」
「だったら、頑張って…。ね?」
照は、咲の肩に手を置き応援の声をかける。それを聞いた咲は、ぱぁーっと顔を明るくして、ニコッと笑った。
「うんっ!私、頑張るよっ…お姉ちゃん!ありがとうっ」
そのまま照の胸へと飛び込み、顔を埋める。
「こらこらっ…くすぐったいよっ」
「えへへっ…」
居間に、あはははっと二人の笑い声が響き渡った。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
翌日
「じゃあ行ってきます」
「いってらっしゃい!お姉ちゃんっ」
「うん…」
咲に見送られ、照は京太郎と会うために家を出かけた。
「うう…寒い…」
ひゅ~っと冷たい風が肌をかすめ、ぶるぶるっと体が震える。
「早く行こ…」
肩をさすりながら、待ち合わせ場所の駅まで早歩きで向かう。
家を出発してから20分くらいが経過した頃。ようやく駅が見えてきた。
「あっ照さ~ん!」
そこには既に京太郎の姿が見える。
「お待たせ、京ちゃん」
「寒くないですかっ?」
「うん…ちょっとね」
「よし、じゃあ早く入りましょう。」
「うん、そうだね。」
駅の中に入り、二人でホームに立つ。しかし、電車が到着するまでの間は、やはりこの寒さに耐えなければならない。
手をすりすりとこすり合わせ、はぁ~っと白い吐息を吐く照。
そんな様子を見兼ねた京太郎が、何か思いついたかのように口を開いた。
「あっ照さん、良かったらこれ…」
「えっ…?」
自分が首に巻いているマフラーを指差しながら、京太郎が照に笑いかける。
そして、しゅるしゅるとそれを外し照の手に握らせた。
「あのっ…良いの?京ちゃんは寒くない?」
「俺は全然平気ですよっ!電車の中も、まだ完全に暖房が回っていないと思うんで…」
「あっありがとう…」
「いえいえっ」
頭をぽりぽりとかきながら恥ずかしそうに、はにかむ京太郎。
「優しいんだね、京ちゃんは」
借りたマフラーを首に巻きながら、照が呟く。
「そ、それは照さんだからですよっ…」
「えっ…?」
思いがけないことを言われて驚き、京太郎のほうを振り向く。
しかし、すぐに視線を逸らされてしまった。
(聞き間違えかな?今のは…)
ガタンゴトン...ガタンゴトン...
不思議そうに京太郎の顔を見つめていると、ちょうど電車がホームへと侵入してきた。
「お、きたきたっ。じゃあ乗りましょう!」
「うん…」
二人で電車のシートに腰を下ろし、向かい合わせに座る。
照は、借りたマフラーの生地を撫でながら窓から外をぼんやりと眺めた。
(京ちゃんのマフラー…暖かいな)
そんなことを考えていると、何故だか急に心臓がトクトクと高鳴り始めてしまった。
(あ、あれ…なんだろう?この気持ちは…)
ふいに、京太郎と目が合い再びニコッと笑顔を見せられ、次第にドドッドドッと鼓動が早くなっていく
(う…胸が苦しいよ。なんなの、これ…?)
ギィーーーッ。車輪とレールが擦れ合う音が響き、ゆっくりと電車が動き始めた。
照は、その気持ちが一体何なのか分からないまま、ただひたすら、窓から流れる景色を眺め続ける――
「はぁ…。お姉ちゃん、行っちゃったよぅ…」
照が出て行ってから、もう10分以上も経っているというのに、咲は今だに一人で玄関のドアをぼーっと眺めていた。
(いってらっしゃい。なんて言ったものの、やっぱり少し寂しいな…)
「ううっ…京ちゃん…っ」
考えれば考えるほど、むなしくなる。
気がつくと目には自然と涙が溜まっていた。それをゴシゴシと手で拭いとる。
「はぁ…京ちゃんは、お姉ちゃんのことが好きなのかな…」
今までは、ただそばで眺めているだけで満足だった。
しかし、いざ誰かが京太郎と仲良くしている、という事実を目の当たりにしてしまうと途端に胸がチクチクと痛み出してくる。
その相手が実の姉なだけに、尚更このショックは大きいのだ。
「はあ…………」
涙でチラチラと光っている手を見つめ、大きな溜息を吐く…そのとき
プルルルルッ
プルルルルッ
「あっ…」
家の電話の鳴る音が聞こえた。慌てて居間に戻り、ううん、と咳払いをしてから受話器を手に取る。
「はいっ、宮永です」
「もしもし…私、原村と申します…」
(あ、この声…)
「は、原村さん!?」
「…あ、宮永さんですか?」
「うんっ!私だよっ。どうかしたのっ?」
連休に入ってから、初めて聞く部活仲間の声に、どこか安心感を覚える。
「実は今日、これから優希と一緒にタコスのお店に行くのですが…もしお暇でしたら、宮永さんも一緒にどうかなと思いまして」
「あっそこって、前にも三人で行ったとこ?」
「ええ、そうです」
”そこ”とは以前、片岡優希が試験で赤点をとった際に、原村和と三人で勉強会を行った店のことである。
「行く行くっ!ちょうど今日は暇だったんだ」
友人からの嬉しい誘いに、咲の気分はみるみるうちに晴れていった。
咲の元気な声を聞き和も電話越しに、ふふっと笑い声をあげる。
「良かったです。それでは――で待ってます…」
「うんっ分かった!じゃあまた後でねっ」
「はい」
ガチャ。
「さてと…着替えなくちゃ。何を着ていこうかな…」
受話器を置き、さっそく咲は出かける準備を始める。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
その頃、京太郎と照は目的地の駅へと到着し、街中まで移動する最中だった。
「そういえば京ちゃん、買いたいものってなに?どこのお店にいくの?」
二人で肩を並べて歩きながら、照が尋ねる。
「ああ~っ…ええと…」
その問いに対して、京太郎は少しの間口ごもる。
「あれ、京ちゃん…?」
どうして黙ってしまうんだろう?と不思議に思い、照は京太郎の顔を見上げる。
「・・・・!」
すると、そこでバチッと目が合ってしまった。二人とも自然に足が止まる。そして、ほぼ同時にお互い目をそらす
「ああ…いやっ。買い物は後にして、とりあえず飯でも食いに行きませんかっ…?」
「そ、そうだね。うん、分かった…」
(買い物は後回しで良いんだ…あ、もしかして京ちゃん、お腹空いてるのかな?)
「じゃあ、行きますか」
「うん…」
こうして二人は、再び歩き始める。
「・・・・・・・」
胸に手を当てると、ドドッ…ドドッと勢いよく振動が伝わってきた。
(なんで私、こんなにドキドキしてるんだろう…)
この感情が一体何なのか分からなくて、モヤモヤした気分になる。
ふと、自分よりも少しだけ前を歩いている京太郎の背中を見てみると、とても広いことに気がついた。
腕や足も、すらっとしていて長い。
(京ちゃん、大きくなったんだなぁ…)
昔はちょっと私よりも背が高かっただけなのに、今ではこんなにも身長に差がある。
照は、まだ自分が長野で暮らしていた頃のことを思い出し、懐かしみながらほんのりと口元を緩めた。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
「原村さん、優希ちゃん!お待たせっ」
「こんにちは。宮永さん」
「おお~咲ちゃん!久しぶりだじぇ!」
待ち合わせ場所の店の中へと入った咲を、和と優希が笑顔で迎えてくれた。
椅子を引き、二人の向かい側に座る。
「あははっ久しぶりって言っても、たったの二日ぶりだよ?優希ちゃん」
「んぁ~?そうだったっけ?」
「最後に会ったのは金曜の部活でしたので、二日ぶりですね」
「そうか~。あっ、そこのお姉さん!チキンタコス四つ追加注文だじぇ!」
「………まだ食べるんですか?今の注文で十二個目ですよ?」
「ええっ!?私が来る前にもうそんなに食べてたのっ?」
「我が胃袋は底知れず!まだまだいくじぇ~!」
両手を腰にあて、エッヘン!とポーズをとる優希。それを見た咲と和はお互いに顔を見合わせ、困ったように笑いあう。
「宮永さんは、何にしますか?」
和がテーブルの上にメニューを広げ、咲の前へと差し出す。
「うーん。どうしようかな…。原村さんはもう何か頼んだの?」
「はい。私はついさっき紅茶を。もうすぐくるはずです」
「そっか。じゃあ私はオレンジジュースにしようかな」
――お待たせ致しましたー!
先に和の紅茶、続いて咲のオレンジジュースを店員がテーブルへと運んできた。
「二人とも、この連休は何をしてたのだ~?」
タコスをあむあむ頬張りながら、優希が二人に質問をする。
「そうですね…とくにこれといっては…。暇な日はほとんどネット麻雀をして過ごしていました。」
「そっか!咲ちゃんは?」
「わ、わたし?」
和の話を聞いていた咲がストローから口を離し、優希のほうを向く。
「そうだじぇ」
「うーん。私も特になにも…。お姉ちゃんと一緒に買い物に行ったくらいかなぁ?」
「えっ?今お姉さんはこちらに帰ってきてるんですか?」
「うん。明日の夕方に東京に戻るんだ」
「ほぇ~そうだったのかぁ~…」
「あの…せっかくお姉さんが帰ってきてるのに、私たちと遊んでても大丈夫なんですか?」
和が少し遠慮気味に咲に尋ねる。
「うんっ。今日はお姉ちゃんも家に居ないし、私も予定が無かったから暇してたんだ。だから誘ってくれて嬉しかったよっ」
「………」
えへへっと二人に対して笑顔を向ける咲。しかし、その笑顔は無理をして作っているものだと和はすぐに気がついてしまった。
声をかけるべきか、そっとしておくべきか…。そう迷っている間に優希が咲に話しかける。
「咲ちゃんのお姉さんは今日どこかに出かけてるのかぁ…?」
「えっ…あ…」
一瞬、肩がぴくっと震え、それから咲の顔がピシッと固まってしまった。
その様子を見て、あっ何かまずいこと聞いちゃったかな?と優希が少し焦り始め、和はただじっと咲の顔を見つめている。
「実は…今、お姉ちゃんと京ちゃんが二人で出かけているんだ…」
「・・・・・・・」
咲の言葉を聞いて、一瞬その場が凍りついたように静まり返った。それからすぐに和と優希が同時に声をあげる。
「ぇえっ?きょ、京太郎が…!?」
「すっ須賀君がお姉さんとですか…!?」
そして、二人がテーブルに手をついてガタッと立ち上がり、咲のほうへ身を乗り出す
「うぇっ?うん…」
咲はそんな二人の姿を見て驚き、びくっと身を震えさせながら返事をした。
すると…
「えっ?」
「じょっ…?」
「優希…?」
「のどちゃん…?」
こんどは和と優希がお互いの顔を見合わせて、自分たちが今、全く同じ反応をしたことについて驚き始めた。
「あの…と、とりあえず…二人とも座ったら?」
一体今、何が起こったのかいまいち理解できていない咲が、やっとの思いで二人に声をかける。
「そ、そうですね。お騒がせしてすみませんでした…」
「ご、ごめんだじぇ…」
ガタガタッと二人が席につき直し、無言のままそれぞれが自分の飲み物を口にする
「・・・・・・・・・・・・・」
沈黙状態が続き、さっきまでは全く聞こえなかった、食器がカチャカチャと鳴る音や周りの客達の話し声が三人の耳をつく。
(二人とも急に黙っちゃって、どうしたんだろ…もしかして、この二人も京ちゃんのことが…?)
(さっきの優希の反応…。やはり、優希は須賀君のことが好きなのでしょうか…?それに、宮永さんもずっと暗い表情のまま…もしかして…)
(のどちゃんも咲ちゃんも、さっきから様子がおかしいじぇ…。まさか、この二人も京太郎のことが好きなのか…!?)
「・・・・・・・・・・・・・」
この沈黙状態を一番先に破ったのは、和だった。
「宮永さん、あの…須賀君とお姉さんは二人きりで出かけるほどの親密な仲だったのですか…?」
「わ、私もそこが気になるじぇっ!もしかして付き合っているのか…!?」
「え…ええと…」
二人とも、素直に自分も京太郎のことが好きだということを言いだせないまま、今はただ照と京太郎の関係について、咲から聞き出すしかなかった。
「昨日お姉ちゃんに聞いたら、別に付き合ってるとかそうゆうのは無いし、京ちゃんのことはなんとも思ってないって言ってた」
「なんだ…そうなんですか。」
(良かった…)
「そっか!付き合っている訳ではないんだな!」
(ふぅ…安心したじぇ…)
「うん。でも…」
「はい…?」
「じょっ?」
「京ちゃんは、お姉ちゃんのこと…どう思ってるんだろう…」
「……い、言われてみれば…。須賀君の気持ちはどうなんでしょう…」
「そ、そもそもっ!なんで京太郎と咲ちゃんのお姉さんは今日一緒に出かけることになったのだ…?」
「それは、なんか京ちゃんが買いたいものがあるからお姉ちゃんに選ぶのを手伝ってほしいって頼んだみたいなんだけど…」
「買いたいもの、ですか…なんでしょうね?」
「んん~ぅ…。近いうちに誰かの誕生日があるとかか…?」
「でっでも、少なくとも部活のメンバーの中には今月誕生日の人は居ないよね…?」
「ええ、確かに…。それに、友達の誕生日があるとしても、それだったらお姉さんではなく男性の方にお願いするはずです」
「ぐっ…。のどちゃんの言うとおりだじょ…」
(うん。確かに…原村さんの言うとおりだ。)
「やっぱり、京ちゃんはお姉ちゃんのことが好きなのかな…」
俯き気味になり、咲がぼそっとそう呟いた。
「………」
「………」
再び、三人の間に沈黙が生まれる。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
同時刻、隣町の喫茶店にて。
昼食をとり終えた京太郎と照は、二人で紅茶をすすっていた。
*
「さっきのパスタ、すごく美味しかったね。」
「気に入ってもらえて良かったです」
京ちゃんが案内してくれたお店は、味も良く値段もそれほど高くなくて、高校生の私達にとってはとても良心的なところだった。
でも、京ちゃんがあんなに良いお店を知っていたなんてちょっと意外。なんてこと言ったら怒るかな…。
「………………」
チラッと彼のほうに視線を向けると、目を閉じて静かに紅茶を飲んでいる姿が見えた。
その表情はどこか少し大人びていて一瞬ドキッとしてしまう。
「どうかしたんですか?」
「えっ?あ、いや…なんでもない…っ!」
「…そうですか」
突然京ちゃんと目が合い、私はびっくりして慌てて顔を背けてしまった。
なんで私、こんなに動揺してるんだろう。
自分でも分からない…。
だけど、胸に手をあてなくても私の心臓が今、ものすごい勢いで鼓動を刻みこんでいるのは分かる。
ドドッドドッと、音が聞こえてきそうなくらい激しく脈打っている。胸が苦しい…。
「照さん、顔が赤いですけど…大丈夫ですか?」
「えっ…私、顔赤くなってる…?」
「なってます」
そう京ちゃんにそう言われたので手を頬にあててみると、そこは自分でもびっくりするくらい熱を帯びていた。
なんだろう、これ…
「もしかして、俺と喋っててそうなってるんですか…?」
「……………」
どうしよう。京ちゃんの問いに答えられない。
確かに私が今こんな状態になっている原因は京ちゃんだ。
でも、それがどうしてなのかが分からない。
だから答えられない。
私が黙ったままでいると、もう一度京ちゃんが口を開いた。
「照さん…俺、期待しちゃっていいんすかね?」
期待?期待って、どうゆう意味だろう。
今京ちゃんが何を言っているのかがさっぱり分からない。
さっきから、分からないことが多すぎて、だんだん自分に対してもどかしい気持ちでいっぱいになってきた。
「…すいません、急に変なこと言っちゃって。とりあえず外に出ましょうか」
「あ、うん…」
会計を終えてお店の外に出ると、秋の冷たい風が頬をかすめた。
けれど、顔が火照って熱くなっている私にとってはその風はひんやりとしていてとても気持がいい。
「じゃあ、行きましょうか」
「うん」
こんどこそ、買い物に行くのかな?
そう思いながら京ちゃんの背中の後を追って歩く。
「…………」
京ちゃん、やっぱり足長いな。
それと、さっきと比べて歩くのが少し早い。
私がいつも通りの速度で歩いていたら、あっという間に距離があいちゃいそうだ…。
お店を出て十分くらい歩いたころ。
何故か急に、ピタッと京ちゃんの足が止まってしまった。
「どうし…」
どうしたの?と、私が聞こうとした瞬間、彼ではない別の誰かの声が聞こえてきた。
「あら、須賀君じゃない。奇遇ね、こんなところで会うなんて」
あれ…この人って、確か…
「部長。二日ぶりですね」
京ちゃんの言葉を聞いて、ふと思い出す。
ああ、そっか。この人は咲達の学校の…麻雀部の部長さんだ。全国大会で何度か顔を会せたっけ。
名前は竹井さんだったかな。
「お久しぶりです。咲のお姉さん。」
「あ…はい。こんにちは、竹井さん」
大会の時も思ったけど、やっぱりこの人は美人だな…。
「全国大会以来ですね。いつからこっちに帰ってきてたんですか?」
「金曜の夜からです。」
「そうですか。ところで…」
挨拶を済ませると、竹井さんが私の顔を二秒ほど見つめ、それから京ちゃんの方をチラッと見た。
そしてまた私の顔に目線が戻り、彼女の口が開く。
「もしかして、デートの途中だったかしら…?邪魔しちゃった?」
少し眉を下げ、申し訳なさそうに彼女が私達に尋ねてくる。いや、でもこれは…
「デートだなんてそんな…。京ちゃんが買いたいものがあるって言うので私は選ぶのを手伝いに来ただけです。」
うん…そうだ。これはデートとか、そうゆうのじゃない。京ちゃんの買い物に付き合ってるだけ。
今、私が言った言葉にウソはない…はず。
なのに、なんでだろう。また胸が苦しくなってきた。
しかも、さっきのとは違ってこんどはチクチクと針が突き刺さっているように痛い…。
一体なんなの…?
私が言葉を発してから、何故かその場がしんと静まり返ってしまった。
気のせいか京ちゃんの目が寂しそうに見える。そして、竹井さんの目はどこか驚いているように見える。
あれ…。二人とも、どうしちゃったんだろう?
「あ、そう…。そうよね。変なこと聞いてごめんなさい。」
ようやく竹井さんが喋ってくれた。私は
「いえ…」
と、返事を返す。
「それじゃ、私はここで失礼するわ。またね、須賀君。」
「ああ、はいっ。また部活で会いましょう」
「宮永さんも、またいつか会いましょうね」
「あ…はい。さようなら」
そう言った彼女の顔は先ほどとは打って変わって、ニコッと笑い、とても可愛らしいものだった。
「んじゃ、行きますか。」
「うん…」
竹井さんと別れ、私と京ちゃんは再び歩き始める。
*
「ごめん、まこ。お待たせーっ」
「部長…トイレにしては、ずいぶん遅かったのう?」
ギクッ。
「そ、そうかしら?あはは…」
「どこに行っとってんじゃ?」
まこのメガネがキラリと光る。ああ。やっぱり、バレてたか…。
「ごめんごめん…。実は、トイレに行く途中で須賀君が歩いてくるのが見えてね…」
「ほほぅ…。一人で居たんか?」
「いや…二人よ。咲のお姉さんと一緒だったわ。」
「なにぃ!宮永照とかぁ…?」
「ええ…金曜日からこっちに帰省してたみたい」
「ほぇ~…。京太郎と宮永照がねぇ~…。こりゃまた珍しい組み合わせじゃのう…」
「…そうよね。正直私も驚いたわ。」
うん。本当に…。咲や和ではなくて、咲のお姉さんと一緒だったんだもの。意外な組み合わせよね。
「つまり、二人はデートをしていたってことか?」
「いや…違うって否定してたわ。」
ふと、先ほどの出来事を思い出す。
否定…してたわよね?咲のお姉さんは、デートじゃないって確かにそう言ってたけど…。
けれど、彼女がそう言ったあとの須賀君の顔は、どこか悲しくて辛そうな表情をしていたわ。
それを見て、私はかなり驚いた。
だってあれは、どう見ても恋をしている目だったから…。
最近、須賀君が和にデレデレしなくなったと思ったら、まさか私の知らない所でこんなことになっていたなんて。
もう和のことは諦めたのかと思って、すっかり安心していたのに…。
はぁ…それにしても…。
私、須賀君達と別れるとき、ちゃんと笑えてたかしら…。
顔、引きつってなかったかな。
って、なんで私ったらこんなに彼のことで頭がいっぱいになるのよ…っ。
まあそりゃあ、好き…なんだから仕方がないけどさ…。
そう。私は須賀君のことが…
「そうなんか。じゃあ二人でどこに行くんじゃ?」
まこに言われて、ハッと我にかえる。
「ああ…ええとね、なんか須賀君が買いたいものがあるから、それに付き合ってるって言ってたわ」
「買いたいもの、ねぇ…」
「でも、買いたいものがあるから付き合ってくれ。なんて、デートに誘う口実の定番みたいなものよねぇ。」
「確かになぁ…。あいつならそうやって誘ってもおかしくないわぁ。」
「そうよね…」
須賀君なら、そうやって誘うかもしれない。だって彼、恋愛に関してはすごく不器用そうだもの。
まあ、あくまでもそれは私の主観に過ぎないのだけれど。
「で、あんたはそれで良いんか?」
「…っ!」
まこに、言われたくない何かを言われそうで、私は焦り始める。
「い、良いって…何がよ…?」
「京太郎が、誰かにとられても良いんかってことじゃ。好きなんじゃろ?あいつのことが」
「ばっ…何言ってるのよ!!」
うそ…そんなっ…。
は、恥ずかしい…。バレてる?もしかしてこれもバレてるのっ?
「だってあんたぁ、京太郎の話を始めた時からずっと、悲しそうな目をしとる。バレバレじゃよ」
「何かの間違いじゃ…っ」
まこの目にしっかりと私の目が捉えられる。まるで、全てを見透かされているようだ。
「ああ、バレバレじゃ。わしの目はごまかせんぞぉ」
「うう…」
あちゃー…。やっぱり、バレてたのか…。
「本当に分かりやすいのぅ。」
はぁ。もう駄目だ。こうなったまこには敵わないわ。
しょうがない。変な意地張らないで、素直になろう…
「そうよ…好き…なのよ」
あーあ、言っちゃった。自分で言うとますます恥ずかしくなってくるなぁ。
「顔、真っ赤じゃよ」
「うっ、うるさいわね…っ」
「まあ、頑張りんさい。わしはあんたの見方じゃけぇ」
「うん…ありがとう、まこ。」
「押し倒したりでもしたら、案外ころっと変わるかもしれんよ?」
まこが、ニヤニヤしながら私を見る。
「もう…何言ってんのよ!」
「はははっ冗談じゃ」
「もう…」
でも、確かにまこの言うとおりだわ。
須賀君くらいの年の男の子なら、不意打ちにキスとかしてアピールすれば、割とすぐに…
って、私ってば何考えてるんだか…。
「けど、このままじゃあ早めに動かんと先に誰かにとられてしまうかもしれんのぅ…」
「そう…よね…。」
さて、困ったわね…。
さすがに今回ばかりは悪待ちする訳にもいかなさそうだわ。
咲のお姉さんと須賀君の関係は恐らくはまだ、須賀君の片思い状態のはず。
今のうちに何か行動を起こせば、まだ間に合うかしら…。
まあでも。
私の気持ちをこんなにも振り回してくれた罰として、ちょっとくらいは悪戯しても良いわよね…?
よーし。待ってなさい、須賀君!
最終更新:2010年10月28日 21:54