二年、夏、スリーピングビューティ――if

小蒔「霞ちゃん、こちらはだれですか?」キョトン


京太郎「……マジか」

霞「目覚めてからこの状態なの」

巴「須賀さんの記憶だけがすっぽり抜け落ちてて……」


小蒔「もう、私を除け者にして内緒話なんてひどいです!」


霞「ごめんなさいね。すぐ終わるから」

小蒔「あとで私ともお話してくださいね」

霞「ええ……」


霞「解離性健忘症だそうよ」

京太郎「……」

巴「辛い記憶を締め出したんだって言っていました」

京太郎「人から忘れられるのって案外辛いんだな……けど」


京太郎「元気になるならそれが一番だろ、きっと」


霞「あなたはそれでいいの?」

京太郎「ま、忘れちまえばファーストキスだってリセットだしな」

巴「そんな……」


京太郎「ともかく、元気そうでよかったよ。んじゃ、俺は自分のとこに戻るわ」


小蒔「あの、私たちどこかで……」

京太郎「いや、きっと気のせいだろ」

小蒔「でも……」

京太郎「じゃあな、姫さん」

小蒔「あ……」


『――っと、ギリセーフ……大丈夫か? お転婆姫さんよ』

『手、つなぐ? さっきはできなかったし』

『ありがとな……小蒔』

『やっとお目覚めか?』


小蒔「い、や……」ガシッ

京太郎「……」

霞「小蒔ちゃん?」

小蒔「名前で、呼んで……」


小蒔「京太郎、様」


巴「姫様、記憶が……」

小蒔「あ、え……なに、これ」

霞「落ち着いて、無理しなくてもいいから……!」

京太郎「……」

小蒔「私、なんで……いや、いやいやっ」ブンブン


京太郎「――小蒔」


小蒔「――あ」


京太郎「逃げたほうが、忘れた方が幸せなことだって絶対にある」

京太郎「でも、悪い。わがまま言わせてくれ」

京太郎「思い出してくれよ……忘れられるの、結構辛いんだよ」


巴「そんな……!」

霞「待って、巴ちゃん」


小蒔「――ずっと傍にいて、くださいますか……?」

京太郎「俺なんかでいいならな」

小蒔「なら、証をください」

京太郎「ああ……じゃあ――」


小蒔「――んっ」


京太郎「まだ、なにかほしいか?」

小蒔「はい、でも……ちょっと、眠く、て――」スゥ


京太郎「……また寝ちゃったか」

京太郎「はは、これで起きたら何も覚えてません、とかは勘弁してくれよ? なぁ?」


霞「あぁ……」カァァ

巴「うぅ……」カァァ


京太郎「……どした?」

霞「し、シラフで見せ付けられるとさすがに……ね?」

巴「わ、私たちには少し……刺激が強いかなー、と」

京太郎「あー、なんかごめん」



小蒔「う、ん……」


霞「あら、起きたの?」

小蒔「霞ちゃん……京太郎様は?」

霞「もう自分のホテルに帰ったみたいね」

小蒔「そうですか……きっと明日には帰ってしまうんですよね」

霞「……そうね」

小蒔「鹿児島と長野……ちょっと遠いなぁ」

霞「小蒔ちゃん」

小蒔「はい?」


霞「一つ、提案があるの」


小蒔「提案、ですか?」

霞「ええ、あまり褒められたことではないのでしょうけど」

小蒔「なんでしょうか?」

霞「それはね――」



久「それじゃ、明日寝坊するんじゃないわよ?」

京太郎「わーってるって」


京太郎「ふぅ……明日で東京ともおさらばか」

京太郎「長かったような短かったようなだな」

京太郎「でも、出る前にもう一度ぐらい顔出しておきたいよな」

京太郎「ずっと傍にいるって約束した手前もあるし」


コンコン


京太郎「こんな遅くに……久ちゃんか?」

京太郎「にしては叩き方が控えめなんだよな……夜中だからか」


コンコン


京太郎「はいはーい――」ガチャ


小蒔「えへへ、来ちゃいました」


京太郎「――はい?」

小蒔「明日帰っちゃうから、今夜ぐらいは一緒にいてもバチは当たらないって霞ちゃんが言ってくれたんです」

京太郎「あ、ああ」

小蒔「あの、ご迷惑でしょうか?」

京太郎「そんなことはないけど……」


京太郎(こんな時間に男の部屋に来るってことの意味、わかってるのか?)

京太郎(石戸は少なくともわかってるとは思うけど)


京太郎「なあ、姫さんは――」


小蒔「小蒔です」ムスッ


京太郎「――っと、悪いな小蒔」

小蒔「それに……ちゃんとわかってます。だから来たんです」

京太郎「……本当にいいのか?」

小蒔「はい……私、もっともっと証がほしいです」


小蒔「京太郎様を、刻みつけてほしいんです」


京太郎「そこまで言わせたら、もう断れないし――」ギュッ

小蒔「――あっ」

京太郎「――いい加減、我慢も限界だな」

小蒔「あの、まずは口づけから――んっ」

京太郎「じゃあ、次は?」


小蒔「や、優しくお願いします……」



小蒔「京太郎様の体、あったかい」

京太郎「小蒔の体は柔らかいな」

小蒔「私、太りすぎでしょうか?」

京太郎「そんなことないだろ。栄養はこっちに行ってるみたいだしな」モミモミ

小蒔「あんっ」

京太郎「やっぱいいな、これ」

小蒔「も、もうっ、さっきまであんなに激しくしてたのに……!」

京太郎「そっちが可愛すぎるのが悪い」

小蒔「あぅ……ずるいです」


小蒔「でも、夜が明けたらまた離れ離れなんですね……」


京太郎「そうだな……だけど、俺は約束を破るつもりはないけどな」

小蒔「約束、ですか?」

京太郎「心はいつも一緒ってことだな。まぁ、陳腐な言い回しかもだけどさ」

小蒔「……嬉しいです」ギュッ

京太郎「織姫と彦星じゃあるまいし、会えないわけじゃないからな」


小蒔「あの……これからも愛してくださいますか?」

京太郎「そうだな、一生分ぐらいなら」

小蒔「……それだけじゃいやです」


小蒔「来世まで、愛してください……京太郎様」




つづ……かない
最終更新:2015年06月05日 23:57