秋、キャットチャンバー

久「あーもう、この時期やること多すぎー」

まこ「選挙出るんでしたっけ?」

久「それに加えて学祭の準備だってあるし……さらに選挙の後は修学旅行よ?」

まこ「あー、それは大した詰め込みっぷりで」

久「これだったら、学祭ぐらい6月か7月に回してもいいと思うんだけど」

まこ「それはそれでインハイの予選とかぶりそうですけども」

久「春夏秋冬どの時期でも大会やってるからいいんじゃない?」

まこ「はぁ」

久「それにしても、今日はお客さんいないの?」

まこ「もうちょい遅くならないと常連も来ないですよ」

久「せっかく休みの日に気晴らしにきたのにねー」プルルル


久「あれ、靖子から? ……もしもし」


靖子『色々忙しそうにしてるみたいだけど、元気?』

久「忙しくて暇で死にそう」

靖子『それは一体どっちなんだ……』

久「ともかくっ、気晴らしの相手募集中なの」

靖子『悪いが私は無理だぞ? 今は東京だし』

久「えー? じゃあだれか送り込んでよ」

靖子『無茶言うなよ……あ、そうだ』

久「なに?」

靖子『今、長野に三尋木プロがいるはずだ』

久「三尋木プロ? 日本代表の?」

靖子『もし見かけたら声をかけてみたら? あの性格だとそこらで遊び歩いてるかもしれないしね』

久「もし見かけたらって……中々難しいと思うんだけど」

靖子『そっちには彼がいるだろ? じゃあ』

久「あ、ちょっと――」プツッ


久「……なによもう、一方的に」

まこ「電話は終わりですか?」

久「ねぇ?」

まこ「はい?」

久「京太郎、今日はなにしてるって言ってたっけ?」

まこ「たしか友達と出かけるとか」

久「そうよねぇ……」



京太郎「こっちだろ」

一太「いいや、こっちだ」

京太郎「はぁ? 見ろよこの見事なスタイル。胸なんて世界レベルだぞ?」

一太「君は何も分かっていない。重要なのはラインだ。この流れるような」

京太郎「いやいや、なんの引っ掛かりもない体型のどこに魅力があるんだよ」

一太「そっちこそ、なんで脂肪の塊になんか執着してるんだ」

京太郎「だがな、内木――」


京太郎「ロリ巨乳って言葉もあるんだぞ?」ペラッ


一太「そ、そんな……まさか! あどけない顔と暴力的なまでの丘陵のコラボレーション!?」

京太郎「さあ認めろ! おもち持ちの魅力を」

一太「くっそぉぉおおお!」


「盛り上がってるところ申し訳ないんですけど……その雑誌、お買い上げになるんですか?」


京太郎「あ、はい」

一太「じゃあこれで」チャリン

「お買い上げありがとうございまーす」



京太郎「それでさ、俺らどうしてこの雑誌で言い争ってたんだっけ?」

一太「そもそも、どうして二人で出かけてるんだろうか」

京太郎「選挙のことで打ち合わせしようって俺が呼び出したからだろ」

一太「ふんふん……なるほど――」


一太「――って、合流してから一度たりとも言及してないじゃないか!」


京太郎「いきなり大声出すなよ」

一太「当初の目的はどこいった!?」

京太郎「とりあえず落ち着こうぜ。そんで昼飯でも食いながら雑誌の鑑賞会だ」

一太「それ、ぼくが払ったんだから優先的に見せてくれよ?」

京太郎「いーや、ページをめくる権利はこっちにある」

一太「どうしてそんな身勝手な理屈を……!」

京太郎「だって貧乳眺めてても楽しくないし」

一太「世の中のAカップ以下の女性に謝れっ!」



京太郎「そういやお前、この前ラブレターもらってなかったっけ?」ペラッ

一太「なんでそれを君が知ってるんだ……あ、そこのページ飛ばすな!」

京太郎「机に入れたの俺だから。けっこう可愛い子だったけど、断ったのか?」ペラッ

一太「今は忙しい時期だし……だからページを飛ばすんじゃない!」

京太郎「やっぱあれか、背も胸ももうちょい小さいほうがよかったのか」

一太「あ、あらぬ疑いをかけるのはやめてくれないかっ」

京太郎「もう今更だよな……」


一太「ところで、そっちは浮いた話ないのかい?」

京太郎「なんもねーって。むしろ久ちゃんのファンだかに追い回されたぐらいだし」

一太「まぁ、だろうね」


一太(君が竹井さんと付き合ってるのかってよく聞かれるんだけどね……)


一太「あれ……この雑誌、プロの写真も載ってるみたいだ」ペラッ

京太郎「ん? どれどれ……これはっ――」


京太郎「――はやりん!!」


京太郎「やっべマジかよ! やっぱ実物も写真もかわいいなぁ!」

一太「まったく……どこがいいんだか……ん? これはっ――」ペラッ


一太「――うたたん!!」


一太「まさかこんな雑誌に写真が載ってるだなんて! この余った着物の袖……かわいいなぁ!」

京太郎「おい、勝手にめくるなよ……って、こいつが三尋木プロなのか?」

一太「あれ、知らなかったのかい?」

京太郎「名前とおおまかな特徴しかな……」


京太郎「なんだよ、お兄さんとか言って自分の方が年上じゃん」


一太「も、もしかして会ったことあるのかっ?」

京太郎「夏に東京行った時にさ」

一太「……っ!」

京太郎「け、血涙を流すほどか……」



咏「ひっまだねぃ」

咏「お仕事も終わったし、帰りは明日だし」

咏「ここらへん、なんもねーし」

咏「ま、紅葉は悪くないけど」

咏「眺めながら酒ってのもおつだけど、ちょーっと時間が早いんだよねぃ」

咏「いっそ龍門渕あたりに殴り込みでもかけてみっかね?」

咏「場所は知らないんだけどさ」


咏「あーあ、何か面白いこと転がってないかなー」


咏「ん? あれって……」

咏「いいじゃんいいじゃん! これも運命ってやつかねぃ」

咏「なんちゃって」


咏「おーい、お兄さーん!」



一太「うう……」

京太郎「だ、大丈夫か?」

一太「ぼくは今日ほど運命を呪ったことはないよ……」

京太郎「まぁ、ついてるっちゃあついてるのかもだけど……はやりんにも会えたし」

一太「あ、それはどうでもいいかな」

京太郎「ぶっ飛ばすぞてめぇ!」


京太郎「本当に一人で帰れるのか?」

一太「ショックは大きいけど、それだけだから……ははっ」

京太郎「か、乾いた笑い……」

一太「そもそも男に送られるなんて気持ち悪いじゃないか」

京太郎「お、珍しいな。そこのところは俺も同じ意見だ」

一太「まったくだね……じゃあ」

京太郎「ああ、気をつけろよー」



京太郎「さて、急に暇になったな」

京太郎「まこっちゃんのところにでも顔出すか?」

京太郎「久ちゃんもいるかもしれないし」


「おーい、お兄さーん!」


京太郎「……なんか聞き覚えのある声だ」


「お兄さんってばー」


京太郎「具体的には、インターハイの最中に聞いたような……」


「あっれー? 聞こえてないのかね」


京太郎「今日、話題にあげたばかりのような……」


「……ていっ」シュッ


京太郎「いてっ!」

「ヒット!」パシッ

京太郎「人様に扇子投げるなって教わらなかったのか!」

咏「えー? だっていくら呼んでも振り向いてくんないだもん」

京太郎「悪いな、ちょっと考え事してた」

咏「ふーん……ま、いいけどさ」

京太郎「そんで、今日は仕事?」

咏「ありゃ……もしかしてわかっちゃった?」

京太郎「今日気づいた。どっかで見たことあると思ったらな」

咏「ほんとにっぶいよな、これでも結構有名人なのにねぃ」

京太郎「そっちこそお兄さんってなんだよ。俺より半周り上なのに」

咏「こーんな可愛い子にお兄さん呼ばわりとか役得じゃね?」

京太郎「もうちょっとバスト増量して、どうぞ」

咏「おっもしろいこと言うねぃ」ビキビキ

京太郎「ははは、それほどでも」

咏「うんうん、謙虚なのはいいことだ……そんでさ」

京太郎「うん?」


咏「もっぺん扇子投げていい? 答えは知らんけど」シュッ


京太郎「じゃあ聞くなよっ」ヒョイ



咏「で、調子どう?」

京太郎「おかげ様かどうかわからないけど、仲直りは出来た」

咏「あたしが聞いたのはそっちじゃないんだけどねぃ」

京太郎「そっちじゃない?」

咏「麻雀麻雀」

京太郎「ああ、そっちは相変わらずで」

咏「ということは、まだフラフラしてるわけだ。憎いねぃ、この色男っ」グリグリ

京太郎「痛い痛い扇子でつつくな」

咏「そもそも年上への言葉遣いがなってないんじゃね? 知らんけど」

京太郎「知らんなら不問に処せよっ。今更変えるの難しいんだから」

咏「いや、知らんし」

京太郎「そこは知っとけ!」



咏「もしお兄さんさえよかったら、あたしがちょこーっとレクチャーしてあげてもかまわないぜぃ」

京太郎「レクチャー?」

咏「なんか面白そうなの持ってるからさ、それの使い方とか」

京太郎「使い方……」

咏「世間やちまたで言うところのオカルト、能力ってやつだ」

京太郎「それを使えば、強くなれたりする……んですか?」

咏「相手にもよるけど……ま、その分だったら大丈夫じゃね?」

京太郎「……そう、ですか」

咏「さて、どうする?」


京太郎「……やっぱやめとく、ます」


咏「ありゃま」

京太郎「約束がある。俺が麻雀にかまけてたら、多分疎かになる……ますから」

咏「うんまあ……とりあえずその不自然な日本語を直してもらいたいねぃ」

京太郎「仕方ないだろ! 矯正中なんだから!」

咏「じゃあもうタメでいいよ……特別だぜぃ?」

京太郎「わかった……」


京太郎「でも、オカルト云々は置いとくにしても……普通のレクチャーは受けたいかも」

咏「うーん、あたしの楽しみは減るけど……ま、いっか」


咏「いいぜぃ、このキャットチャンバーが面倒見てやるよ」


京太郎「……ところで、その称号みたいのって自分で考えてんの?」

咏「んなわけないっしょ。エンジンの膨張室とかけてるんだろうけど、直訳したら猫の箱だぜ? シュレディンガーかっての」

京太郎「だよなー」



久「……」

まこ「……」


咏「ども、謎の三尋木さんだぜぃ。あ、職業と年齢は秘密ってことで」


京太郎「いや、隠す気無いだろ」

久「まさか本当に連れてくるとは……」

まこ「……これは宣伝のチャンスかの?」


咏「それにしても、まっさか個人戦9位と知り合いだったとはねぃ」


久「あの、今日はどうしてここに?」

咏「ただの暇つぶし」

久「は、はあ……」


京太郎「おい、まこっちゃん、なに立ててるんだ?」

まこ「こ、これは……」


『三尋木プロ対局会、絶賛開催中!!』


京太郎「……」

まこ「……」

京太郎「まこっちゃん、気持ちはわかるが……」ポン

咏「あたしとしても、必要以上に騒がれるのは勘弁してもらいたいとこだねぃ」

まこ「そう、ですよね」

咏「ほら、一人で大勢の相手すんのも疲れちゃうしさ……あ、今のなんかエロかった?」

京太郎「はいはい、とにかくやろうぜ。教えてくれるんだろ?」

咏「それじゃ、席決めから……っと」


咏「あ、お二人さんもどう? 実戦形式の方が色々捗るんじゃね? 知らんけど」


久「是非」

まこ「お願いします」

咏「ま、9位だったら楽しめなくもないってところかね?」

久「……あなたが格上だってのはわかってますけど」


久「あまり舐めてると、足元掬っちゃいますよ?」


咏「おーおー、いい気合だねぃ」

久「これでもグランドマスターと打ったこともありますから」

咏「なるほど、あの小鍛冶さんと……ぷっ、あはははは!」ゲラゲラ

久「……なにかおかしなことでも?」

咏「いや、随分かわいいこと言うねぃ。でもまぁ――」


咏「あたしは小鍛冶さんに負けてるつもりなんてサラサラないから、そのつもりでかかってきたらいいんじゃね?」ゴッ


京太郎「……なんだか俺が蚊帳の外に置かれつつあるな」

まこ「まぁ、諦めましょうか」ポン



咏「んー、こんなもんかね?」


京太郎「」

久「」

まこ「」


咏「三人仲良く飛び終了……これぞ青春ってやつなのかねぃ」


京太郎「いや、下手人が言うことじゃないだろ……」

久「つ、強い……」

まこ「こりゃ写真でも撮らんと割に合わん……」


咏「あっれー? もうこんな時間かい」

京太郎「帰るのか?」

咏「まぁねぃ」

京太郎「じゃあ、送ってく。一応のお礼も含めて」

咏「意外と律儀さんだ」

京太郎「あんた、一方的にボコってただけなんだけどな」

咏「わっかんねー、全てがわっかんねー」

京太郎「はいはい……っと」

咏「うわわっ、なにすんのさっ」

京太郎「猫もこうやって持ち上げられたりしてるからさ、キャットチャンバーだけに」

咏「い、今離したら許してやらないこともないぜぃ?」

京太郎「ははは、ちょうど客も増えてきたし、このまま恥辱の刑に処す」

咏「はーなーせー!」ジタバタ


久「……」

まこ「うぐ、せめて記念写真……」

久「もう突っ込む気力もないわ……」



咏「あぁもう……まったく、信じられねーっての」

京太郎「それはこっちのセリフだ……」ボロボロ

咏「お兄さんの手管はよーくわかったぜぃ。そうやってたらしこんでるわけだ」

京太郎「身に覚えがまったくないから」

咏「そんなんだから勝てないんじゃね? 知らんけど」

京太郎「なにそれ」


咏「それじゃ、お勤めご苦労さん」

京太郎「ここまででいいのか?」

咏「お金がある大人にはタクシーって手段もあるんだぜぃ?」

京太郎「なるほど、その手があった」

咏「はい、これ」

京太郎「番号とアドレス?」

咏「ちょっとツバつけとこうと思ってさ」

京太郎「は?」

咏「一応プライベートなものだから、悪用は厳禁ってことで」

京太郎「言われなくてもしないって」

咏「そっか……じゃあ、また」フリフリ

京太郎「またな」



「三尋木プロ!」プンスコ

咏「あっれー? 野依さんじゃん」

「仕事終わった!」プンスコ

咏「ラジオの収録だっけ? 野依さんにはきついんじゃね?」

「平気!」プンスコ

咏「ま、いいけどねぃ」


咏「あ、そうだ。この前長野に行ったとき、面白いことがあってさぁ」
最終更新:2015年07月25日 03:10