初夏、久との対立

京太郎「そんでさー、どう思うよ? やっぱ嫌われたかな?」

久「知らないわよ」

京太郎「素っ気ないなー。もしかして機嫌悪い?」

久「呆れてるのよ。あんなに突き放したのにまだ寄ってくるとはね」ハァ

京太郎「そんなため息つくと幸せが逃げちゃうぜ?」

久「それならあんたがいる時点でもう手遅れだから」

京太郎「そりゃ手厳しいな……で、話を戻すけどさ」

久「はぁ……だからあんたが誰に嫌われようと知らないって」

京太郎「気にしてくれよ―。だってめっちゃ可愛い子だったんだって」

久「あーもう、しつこいっ!」

京太郎「いでっ」

久「バカらし……お昼食べる時間がなくなっちゃうじゃない」

京太郎「あらま、今日はどこにも行かないのか?」

久「どうせ移動したってついてくるんでしょ」

京太郎「その通り。一緒に食べようぜ」

久「……邪魔しないならね」

京太郎「よしっ」



京太郎「でさ、久ちゃんが転校した後仲良くなったやつがさ、また変な奴だったんだよ」

久「あんたほどの変人も中々いないんじゃない?」

京太郎「いやいや、俺なんて足元にも及ばないって」

久「謙遜することないわよ」

京太郎「謙遜じゃないんだよな、これが。だってそいつ、よく迷子になるんだよ」

久「方向音痴なだけじゃないの?」

京太郎「いないと思ったらケーキ屋の窓に張り付いてるし」

久「甘い物が好きなのね」

京太郎「おまけにいつも本を読んでて、そんで迷子になる」

久「本と迷子の因果関係がよくわからないわ」

京太郎「久ちゃんは転校してからどうだった? なんか面白い奴とかいなかったのか?」

久「さぁ、どうだったかな」

京太郎「……」


京太郎「それでさ……もう麻雀はやらないのか?」


久「……食後の運動、ちょっと付き合って」

京太郎「まだ食い終わってないんだけど」

久「――っ、いいから……!」



京太郎「こんな人気のない場所に連れ込んで何? なんかいけないことでも――」パンッ


京太郎「ってぇ……いきなりビンタかよ」

久「言ったはずよね、二度とその話をするなって」

京太郎「だって気になったからさ」

久「なら答えてあげる……麻雀はもうやらない。これで満足?」

京太郎「いいや不満だね」

久「そう、なら勝手に悩んでれば。でももう関わらないで」


京太郎「だったらなんで麻雀部の部室、見に行ったんだよ」


久「……何の話?」

京太郎「えっと、たしか入学式の次の日だったっけ? 中には入らなかったみたいだけど」

久「あんた……」

京太郎「まだある。本屋で麻雀雑誌を手に取った。でも読まずに戻したよな」

久「とんだストーカー野郎ね! 反吐が出る……!」

京太郎「あと、県予選の会場の近くにもいたよな? あんな離れた場所に通りがかるとは思えないんだけど、どうなんだ?」

久「いい加減にして! そこまでつきまとって、あんたなにがしたいわけ!?」

京太郎「言ったろ。ほっとけないって」

久「この期に及んでそんな理由で納得しろって!? ふざけんな!」

京太郎「じゃあ久ちゃんも答えてくれよ! なんで麻雀やめたのかをさ!」


京太郎「去年の夏、見たんだよ。大会であんな楽しそうに打ってたじゃないか」

京太郎「俺はその時落ち込んでたけど、久ちゃんに元気づけられたんだよ」

京太郎「だからどうしても知りたいね」


久「くだらない……じゃあ教えてあげるわよ」

久「いわゆる家庭の事情ってやつね。より具体的に言えば両親の離婚」

久「それで大会どころじゃなくなって、おまけに名字まで変わっちゃって……経済的な理由で行きたい高校にも行けませんでした」

久「そして現在に至ります、と」


京太郎「……」

久「せっかく話したんだから感想くらい聞かせなさいよ。ほら、可哀想ー、とか面白かったー、とかさ!」


京太郎「……ふざけんなよ」


久「え?」

京太郎「ふざけんなよって言ったんだよ。要するにさ、久ちゃんはいじけてるだけだろ」

久「はあ? あんたになにが――」


京太郎「ああわかんねぇよ。前に久ちゃんが言った通りだ。久ちゃんの気持ちなんて俺にはちっともわかんねえ!」

京太郎「両親が離婚した? 大会を棄権した? お金がなくて行きたい学校に行けなかった!?」

京太郎「それがなんだってんだよ! 久ちゃんはまだ麻雀が打てるだろうが!」

京太郎「やりたくてもそれができないやつがいるってことを、忘れんな……!」


久「なによ、なによなによなによ! ――このっ」ブン

京太郎「おっと、二度もおとなしく喰らうと思うなよ」ガシッ

久「離せっ」

京太郎「いいや、離さない。まだ言いたいことがあるからな」


京太郎「俺と麻雀で勝負しようぜ」


久「は? 麻雀はやらないって言って――」

京太郎「こんなずぶの素人に負けるのが怖いのか? ああ、棄権した本当の理由ってもしかしてそういうことだったり?」

久「~~っ、……いいわ、その安い挑発に乗ってあげる」

京太郎「よし。じゃあ一週間後に麻雀部の部室でだな。あそこにはたしか自動卓があったはずだ」

久「面子は? 当日になって揃えられませんでしたーじゃ困るんですけど」

京太郎「二人でいいだろ。俺たちの勝負に邪魔者はいらねぇよ」

久「二麻ね……まぁいいわ。細かいルールはそっちに任せるから。正面からぶっ潰してやる……!」
最終更新:2015年03月10日 00:48