二年、if、冬の二等辺三角形

照「京ちゃん、今度の休みは?」

京太郎「うちの学校で練習試合。まぁ、昼には終わるんじゃないか?」

照「わかった。迎えに行くから一緒にご飯食べよ?」

京太郎「迷子になんなよ?」

照「大丈夫、いざとなったら菫がいる」

京太郎「弘世になら安心して任せられるな」

照「一人でも大丈夫だけど」

京太郎「いやー、怪しいな」

照「むっ」

京太郎「冗談だって」

照「じゃあキスして?」

京太郎「りょーかい」

照「あ、でも舌は入れちゃダメ。我慢できなくなるし」

京太郎「そう言われるとしたくなるんだよなぁ」



京太郎「終わり終わりーっと」


「須賀、お疲れ」

京太郎「先輩こそ」

「いやー、これで来年も安泰だな」

京太郎「任せてくださいよ、今度こそ優勝取りますから」

「頼むぞ、エース」

京太郎「了解っす……じゃ、俺はそろそろ」

「なんだ、いつものコレか?」

京太郎「昼一緒に食べる約束してて」

「このリア充が……しかも相手はあの宮永照だしな」

京太郎「はは、そういうことなんで」

「よし、じゃあ爆発してこい!」バシンッ

京太郎「いって!」



京太郎「いててて、思いっきり叩かれたな」

京太郎「照ちゃんは……まだ来てないか」

京太郎「まぁ、思ったよりも早く終わったしな」

京太郎「少し待ってるか……お、雪か。東京じゃ珍しいな」


「えっと、たしかこの学校のはず……」


京太郎「外人さんか? こりゃまた珍しい」

京太郎「道にでも迷ったのかね」

京太郎「……ま、いい暇つぶしにはなるか」


京太郎「あー、メイアイヘルプユー?」

「……c'est incroyable」ボソッ

京太郎「あれ、発音悪かったかな?」

「日本語で大丈夫ですよ?」

京太郎「それは助かる。うちの学校になんか用?」

「実はハンドボールの試合を見学しようと」

京太郎「それならもう終わったぞ」

「そうなんですか?」

京太郎「残念ながら」

「そうですか……」

京太郎「わざわざ来てもらったのに悪いな」

「でも、目的の一つは達成できたので」

京太郎「目的の一つ?」

「はい。須賀京太郎さん、よければ少しお話しませんか?」



京太郎「えっと、雀さんだっけ?」

明華「明華で構いませんよ?」

京太郎「じゃあ明華さんはその……俺のファンなんだって?」

明華「それはもう、かなり」

京太郎「か、かなりか……」


京太郎(フランス出身だって言ってたな)

京太郎(むこうじゃハンドってけっこうメジャーなんだっけか)

京太郎(にしてもファンか……なんかむずがゆいな)


京太郎「なんにしても、応援に来てくれたんだったらありがとな」

明華「せっかく日本に来たので、いい機会だと思いまして」

京太郎「フランスから来たんだっけ?」

明華「春からはこっちのリセ……高校に通う予定です」

京太郎「ということは留学生か」

明華「連絡先交換しませんか? お近づきの印に」

京太郎「ああ、今携帯出すからちょっと待って――」


照「京ちゃん」


京太郎「照ちゃんか」

照「その子、だれ?」

京太郎「雀明華さん。はは、ファンだなんて言われたの初めてだよ」

明華「初めまして」ペコッ

照「こちらこそ初めまして。京ちゃんの恋人の宮永照です」ペコッ

明華「……恋人……宮永照……あなたが」

照「それじゃあ、私たちはお昼食べに行きますから」

京太郎「ちょっと待ってくれ、連絡先の交換がまだ――」

照「いらないよね?」

京太郎「いや、でもせっかくのファンだし――」

照「いらないよね?」

京太郎「……もしかして機嫌悪い?」

照「そう? お腹空いてるせいかも」

京太郎「わかったよ……悪いな、俺たちこれから昼だから」

明華「わかりました、そういうことならしかたないですね」


明華「では、私もご一緒させてもらいますね♪」


照「ダメ、ついてこないで」

明華「なら、たまたま同じお店の同じテーブルになる……というのはどうでしょうか?」

照「ダメ、ありえない」

明華「決まりですね」

照「勝手に決めないで」

京太郎「あー……」


京太郎(この時、こじれそうな気配に辟易したのは確かだ)

京太郎(恋人である照ちゃんを蔑ろにはできない、かと言って俺のファンだと言ってくれた子を無碍に扱うこともできない)

京太郎(結論から言えば、俺が日和ったことで状況はややこしい方へ向かっていくことになる)


明華「ところで、略奪愛ってどう思います?」

照「……どう言う意味?」

明華「さぁ、世間話でしょうか?」
最終更新:2016年10月28日 02:23