秋、旅館の娘と将来の就職先

京太郎「んー、最近暇だな」

久「それ、部活への顔出しが絶対じゃなくなったからじゃない?」

京太郎「そうだよなぁ……しかし、みんな忙しないよな」

久「だんだん受験シーズンが近づいてるからでしょ」

京太郎「このクラスで暇そうにしてるのなんて、推薦決まってる久ちゃんと一太ぐらいのもんだ」

久「サラッと自分抜かないの、この暇人」

京太郎「でも俺、進学するって決めてるわけじゃないからな」

久「……まだ進路決めてなかったわけ」

京太郎「進学か就職かフリーマンくらいにはしぼってるぞ」

久「それは進路じゃなくて方向って言うの」

京太郎「まったくだ」


久「でもね、受験するにしたって大分スタート出遅れてるわよ?」

京太郎「もう十一月だしなぁ」

久「一応出願はしたんでしょ?」

京太郎「迷ってるならとりあえず出しとけって」

久「それは先生呆れてたでしょうね」

京太郎「めっちゃため息深かったな」

久「わかった、なら私が決める」


久「あんた、とりあえず私と同じとこ受けなさいよ」


京太郎「久ちゃんと同じとこ? 学力的に厳しいような……」

久「だったら勉強して……はい」ドサッ

京太郎「こ、この重量感あふれるブツは……!」

久「問題集。一応買ってみたけど、私は推薦で通っちゃったしね」

京太郎「……俺の成績知ってるよな?」

久「テスト前にちょっと勉強しただけで平均点越すんだから楽勝楽勝」

京太郎「そのテスト前のちょっとは一夜漬けって言うんだけどな……」

久「とにかく、選択肢は多いにこしたことないでしょ?」

京太郎「……正論だな」

久「暇な時は私も教えるから」

京太郎「教えてくれるってか……」


京太郎(みほっちゃんだったら優しく教えてくれそうだな……)


久「……なんだか思いっきり不快なこと考えてない?」

京太郎「滅相もない! それで、この後は?」

久「美穂子と約束があるからまた今度ね。それともあんたも来る?」

京太郎「……いや、とりあえずペラペラめくってる」



京太郎「う~ん……」

和「先輩?」

京太郎「ん、和か」

和「悩み事なら相談に乗りますよ?」

京太郎「いや、こればっかりはなぁ」パサッ

和「問題集……定期テストにはまだ早いと思いますけど」

京太郎「そりゃあ試験勉強じゃないからなぁ。受験勉強ってやつだ」

和「進学してくれるんですか?」

京太郎「まだ決めてないけど、選択肢は多いほうがいいだろ?」

和「それは、たしかに」

京太郎「いざ受験しようって時に学力足りないんじゃ話にならないからな」

和「頑張ってください、将来のためですから」

京太郎「ああ、そうだな」


咲「あ、二人ともいたんだ」


京太郎「悪いな、部室借りてる」

咲「借りてるって……勉強してるの?」

京太郎「こう見えて受験生らしいからな」

咲「……槍でも降るのかな?」

京太郎「どう言う意味だこのっ」グリグリ

咲「いたっ、やめてよもー」


優希「おらー、副部長様の到着だじぇ!」


優希「って、なんか見慣れないものが」

京太郎「お前なら俺の気持ちがわかるはずだ……ほらっ」バッ

優希「ぐあっ、頭が割れそうだじぇっ」

京太郎「そうだろうそうだろう」ウンウン

優希「そんなのポイしてまずはタコス」

京太郎「それは自分で買いにいけ」

優希「そんなっ」


京太郎「あと来てないのはまこっちゃんだけか」

和「竹井先輩は今日は来ないんですか?」

京太郎「みほっちゃんと約束だってさ。まったく、暇そうでいいご身分だよな」

咲「昨日までは京ちゃんもそのいいご身分だったと思うんだけど」

京太郎「悲しいよな、立場が変わると見えるものも変わるってのは」

優希「つまりどういうことなんだじぇ?」

京太郎「正直、勉強したくない」

咲「やっぱり……」


まこ「なんじゃ、もう揃っとったか」


京太郎「おう、お邪魔してる」

まこ「まぁ、別に今更じゃがの……ん?」

京太郎「これか? まぁ、受験勉強ってやつ」

まこ「……どれ」ピトッ

京太郎「なんだ、人のおでこに手を当てて」

まこ「ふむ、熱はないと」

京太郎「軽く失礼だな」



京太郎「……」カリカリ


まこ「さて、今後の予定じゃが」

優希「予定もなにも、いっつも揃った面子で打ってるだけだじぇ」

咲「部活内容のバリエーションが少ないのも、やっぱり人が足りないからかな?」

和「清澄って優勝したんですよね?」

まこ「い、痛いところを……」


京太郎「……」カリカリ


まこ「とにかく、前々から予定しとった合宿じゃ」

優希「おお、奈良で大仏で鹿せんべい!」

咲「そういえばまこ先輩は向こうに行って帰ってきたばっかりなんじゃ……」

まこ「まぁ、奈良には寄っとらんけぇ、ギリセーフじゃな」

和「ありがとうございます、私の案を取り入れてくださって」


京太郎「……」カリカリ


咲「阿知賀の人たちって、みんな和ちゃんのお友達なんだっけ?」

和「みんなというわけではないですよ。でも先輩たちは知り合いだったんですよね?」

まこ「そうじゃな、麻雀したりボウリングしたりの」

優希「ボウリング!」

咲「えぇ、合宿に行ったんじゃ……」

京太郎「そりゃ遊ぶだろ、なぁ?」

優希「最高スコアを叩き出すじぇ!」

まこ「こら、勉強はどうした」

京太郎「休憩」

まこ「早すぎじゃ」

咲「まだ三十分も経ってないよね」

和「お茶、ご用意しましょうか?」

京太郎「ああ、悪いな」

咲「和ちゃん、甘やかしたらダメだよ!」

優希「お茶のついでにタコスもお願いするじぇ」

和「それは自分で用意してください」

まこ「あー、話進めてもええかの?」



まこ「――というわけじゃ。土曜の朝に出発するけぇ、遅れんように」

優希「咲ちゃんは特に」

咲「遅れないよっ」

和「迎えに行きましょうか?」

咲「だから大丈夫だってば!」

京太郎「こいつの寝起きと迷子に関してはなぁ……まぁ、フォローしてやってくれ」

咲「もう、みんなして!」

優希「先輩、もしかしてついてこない気かー?」

京太郎「俺は引退した身だからな、部費でついてくってわけにもいかないだろ」

優希「むむ……タコスのお供が」

京太郎「俺はお供扱いか、このっ」グリグリ

優希「うあー」


咲「そっか、竹井先輩も京ちゃんもいないんだ」

和「少し寂しいですけど、仕方ないですよね」

まこ「もっと部員が増えれば違うとは思うがのぉ……」

咲「というか、このまま増えなかったら来年団体戦に出れなくなるんじゃ……」

優希「来年はきっとムロが来るから人数的には問題ないじぇ」

咲「室橋さんだっけ、高遠原の後輩さんなんだよね?」

優希「そして再来年はマホが来るからあと二年は大丈夫だなー」

京太郎「そりゃまたすごいのが入ってくるな」

優希「ふふふ、来年の今頃は私が部長なんだじぇ」

京太郎「和、咲、よろしく頼む」

和「ゆーきに好き放題させてたら大変ですからね」

咲「部費でタコスを買いそうだよね」

優希「この扱いはあんまりだじぇ!」

まこ「まぁ、残当じゃな」



玄『え、じゃあ京太郎くん来ないの!?』


京太郎「――っ、いきなり大声出すなよ」

玄『ご、ごめん……その、本当なの?』

京太郎「まぁ、引退したし、いつまでも張り付いてるわけにはいかないだろ」

玄『そ、そんなぁ』

京太郎「お前好みの和がそっち行くだろ」

玄『それは楽しみだけど、そうじゃなくて……』

京太郎「わかってるって、おもち談義できなくなるもんな」

玄『そうだけど……あ、そうだっ』


玄『アルバイトさん、募集中なのです!』


玄『最近ちょっと人手足りないから手伝ってくれたらなーって』

京太郎「思いっきり思いつきのように聞こえるんだけど」

玄『そそそっ、そんなことないよ!』

京太郎「ま、いいよ。そういうことなら手伝う」

玄『ふぇ? 来てくれるの?』

京太郎「なんだかんだで良くしてもらってたしな」

玄『うん、ありがとうね』

京太郎「こっちにも目を背けたい現実があるしな……」


京太郎(勉強とか勉強とか勉強とか)


玄『なにかお困りごとかな?』

京太郎「大したことじゃないから気にすんな」

玄『じゃあ楽しみにしてて、いっぱいサービスするから!』

京太郎「こら、アルバイトにサービスしてどうすんだ」



玄「京太郎くん来てくれるって!」


穏乃「へぇ」

憧「ふーん」

灼「そ」

宥「あったかぁい」ホワホワ


玄「みんな反応薄いよっ」

憧「だってあんなにあたふたする姿見てたらねぇ」

灼「逆に落ち着く」

穏乃「ご飯食べたあとだからちょっと眠いかも……」ウトウト

宥「楽しみだねぇ」

玄「うぅ、味方はお姉ちゃんだけだよ……」スリスリ

宥「よしよし」ナデナデ


憧「でも、来てもらうだけでいいわけ?」

玄「えっと、とりあえず一緒に居られたらなーって」

憧「それで、今までなにか進展は?」

玄「……あんまり」ショボン

憧「やっぱり……」ハァ


憧「じゃ、作戦練りますか」


玄「さ、作戦?」

憧「そ、私たちでサポートしてあげるわよ」

宥「うん、クロちゃんのためだもんね」

灼「いい加減、あたふたされるのもうっとおしいし」

穏乃「……zzz」スピー

玄「み、みんな……」


憧「アルバイトとして来るんだっけ?」

玄「うん、とっさの思いつきだったけど、お父さんも許してくれたし」

灼「玄にしては機転利いてる」

憧「じゃあ、仕事教えるって名目で一緒にいられるってことね?」

玄「なるほど、その手が……!」

憧「いやいや、このくらい思いついてよ……」

宥「事務仕事だったら私も手伝えるんだけど……」

憧「さすがにアルバイトにはやらせないと思う」

灼「そもそもの話だけど」

玄「なに?」


灼「玄、あの人とどこまで行きたいの?」


灼「手をつなぎたいとか、キスしたいとか」

憧「たしかにそれは重要かも」

玄「それは……い、いけるとこまで?」

憧「つまり……え、えっちするまでってこと?」

玄「ふぇっ!?」ボンッ

憧「だ、だって、いけるとこまでってそういうことじゃん」

宥「わぁ、いいなぁ」

玄「ちょ、ちょっと待ってよ! それはさすがに急ぎすぎというか……」

灼「でも、しょっちゅう会えるってわけじゃない」

憧「だから行けるとこまでっていうのは間違いじゃないと思うけど」

玄「それは、そうだけど……」

宥「クロちゃん、大事なことだし、ちゃんと決めといた方がいいと思う」

玄「私は……おもちって言ってもらえたけど、自分ではそうは思えないから……」

宥「つまり?」


玄「京太郎くんに胸を揉んでもらいたいのですっ」


憧「……」

宥「ふふっ」

灼「……淫乱」

玄「ち、違うよぉ! えと、これはえっちな意味じゃなくて――」

憧「あー、はいはい。要するに行けるとこまでってことね」

灼「じゃ、そういう方向で」

憧「灼さん乗り気?」

灼「さっさと終わらせたいだけ」

宥「頑張ろうね、クロちゃん!」

玄「だから違うんだってばぁ……」


穏乃「うゅ……うるさーい」



優希「到着!」

和「なんとかたどり着けましたね……」

咲「ご、ごめん」

優希「集合時間には間に合ったのに、こっちではぐれるとは何事だじぇ」

咲「だからごめんってばぁ!」

まこ「こがぁなとこで先輩不在の重みを感じるとは……」


憧「あ、いたいた」


和「憧、久しぶりですね」

憧「和もね」

穏乃「のーどーかっ」ヒシッ

和「きゃっ」

優希「いきなりのどっぱいに突撃とは失礼な!」


灼「さわがし……」

まこ「すまんのぉ、うちの副部長が」

灼「それはお互い様だから」

宥「今日はよろしくお願いします」ペコッ

まこ「……相変わらずの厚着」

宥「はい?」

まこ「こちらこそよろしく」


咲「温泉……ちょっと入りたいかも」

憧「それ賛成。最近寒いしねー」

宥「本当にね……」ブルブル


咲(この人、すごい着膨れしてる……)


まこ「さ、なら風呂に入りがてら交流といくかの」

和「そういえば、玄さんはいないんですか?」

憧「あー、玄はちょっと手が離せなくて」

穏乃「そうなの?」

憧「そうなの。手が空いたらこっちに来るから」

和「わかりました……なんだかいつもより人数が少なくて」

穏乃「そういえばそうだね。京太郎もいないみたいだし」

和「先輩は……今頃頑張ってるはずですから」ポッ

憧「……まさか」

和「はい?」

憧「えっと、ちょっと電話かけてくるね」



京太郎「さて、もう何度目だかな……松実の旅館」

京太郎「思えば一人で来るのは初めてだけど」

京太郎「とりあえずは……どこいきゃいいんだ?」


玄「あ、もう着いてたんだ」


玄「久しぶりだね」

京太郎「ああ、この土日の間だけお世話になる」

玄「こちらこそ、よろしくお願いします」

京太郎「うちの連中は? 俺も行くって言ってなかったし、顔見ておきたいんだけど」

玄「えーっと……」


憧『玄、清澄の人達とあの人、会わせないほうがいいかも。特に和とは』

玄『なんで?』

憧『なんというか、嫌な予感がする』

玄『うーん、憧ちゃんがそう言うなら』


玄「ちょっと、今練習してるから邪魔しない方がいいんじゃないかな?」

京太郎「そうか、ならそれは後回しだな」

玄「う、うん……じゃあ、案内するね」



京太郎「……こんなもんか?」

京太郎「燕尾服じゃないとやっぱり違和感あんなぁ」


玄『着替え終わったー?』


京太郎「おう、一応変なとこないか確認してくれ」


玄「了解なのです」ガラッ


京太郎「どうよ?」

玄「うーん……」


灼『とりあえず胸押し付けとけばその気になると思……』

憧『単純だけど効果的じゃない?』

宥『おしくらまんじゅうあったかーい』

玄『でも、それだとどうしても不自然になるんじゃ……』

憧『それなら――』


玄「ちょっと直してもいい?」

京太郎「マジか、じゃあ頼む」

玄「そ、それじゃあ……」ムニュッ

京太郎「……」


京太郎(思いっきり当たってんですけど……)

京太郎(またいつもの天然なのか?)


玄「んしょ、ここをこうして……」ムニュムニュ

京太郎「……」

玄「で、できあがり!」

京太郎「あ、ああ……悪いな」

玄「じゃ、行こ?」ギュッ


憧『手を握るなんてのは?』

灼『いくらなんでも子供っぽい』

宥『あったかそうでいいかもぉ』

憧『だ、男子の手を握るとかすっごくハードル高いんだから効果的に決まってるわよ!』


玄(京太郎くんの手、なんかお父さんみたい)


京太郎「行かないのか?」

玄「え、あ……う、うん、そうだね」


玄(せっかくみんなが協力してくれてるんだもん)

玄(よぉし、頑張っちゃうよ!)



京太郎「よいしょっと……ここはこれでいいのか?」ドサッ

玄「うん。京太郎くん、すごいね」

京太郎「まぁ、力仕事は男の方が有利だしな」

玄「それだけじゃなくて、他のことも教えたらすぐできるようになっちゃったし」

京太郎「なんだかんだで下地はあるからな」

玄「下地?」

京太郎「龍門渕ってとこでバイトしてるんだ」

玄「え、龍門渕さんのところで?」

京太郎「知ってるのか……って、練習試合してたんだっけ」

玄「うん。ね、どんなことしてたの?」

京太郎「掃除とか洗濯とか、お茶淹れたりとか……たまに料理?」

玄「家政婦さん?」

京太郎「執事」

玄「たしかにいたね、執事さん。萩原さんだったかなぁ?」

京太郎「その人、俺の師匠なんだよ」

玄「なんだかすごい人だったよ」

京太郎「そう、あの人マジすごいんだよ」グゥ


玄「あ、お腹減っちゃった?」

京太郎「まぁ、もういい時間じゃないか?」

玄「だね。お夕飯、持ってくるからちょっと待っててね」タタタ


京太郎(……なんだろうな、普通に会話してるだけなんだけど)

京太郎(なんか、すごくかわいく見えてきた)

京太郎(そもそも見た目とかは好みなんだよなぁ。言動がちょっとあれなだけで)


玄「お待たせっ」

京太郎「お、来た来た」

玄「うちの板前さんの自信作なのです!」

京太郎「じゃあ早速……ん?」


京太郎「俺の箸、ないんだけど」


玄「ほ、本当?」

京太郎「ああ、持ってき忘れたのか?」

玄「そうみたい……ごめんね」

京太郎「そんな謝るほどのことじゃないだろ」

玄「うん……じゃあ」

京太郎「箸をもう一膳持って――」


玄「わ、私が食べさせてあげるね」


宥『あーんってするの、とってもあったかそう』

灼『それこそハードル高いと思……』

憧『ベタだけどいいんじゃない?』

灼『さっきは手をつなぐ程度で動揺してなかった?』

憧『わ、私がやるわけじゃないし』


玄「はい、あーん」

京太郎「ってちょっと待て!」

玄「な、なに?」

京太郎「あのな? 俺は普通に箸を持ってこればいいと思うんだよ」

玄「えっと、その……そう、これはお詫びだよ!」

京太郎「お詫び?」

玄「お箸忘れてきちゃったから、そのお詫び」

京太郎「いや、それならもっと別のことで……」

玄「うぅ……」ジワッ


京太郎(おいおい、それは反則だろ……)


京太郎「……わかったよ、食べさせてくれ」

玄「え……いいの?」

京太郎「早くしろって。腹減って死にそうだ」

玄「うん……おまかせあれ!」


京太郎(不安だ……)



京太郎「……ごちそうさまでした」

玄「お粗末さまでした♪」

京太郎「思いのほかなんもなかったな」

玄「?」

京太郎「いや、もしかしたら味噌汁ぶっかけられるんじゃないかと警戒してたんだ」

玄「そ、そんなことしないよぉ!」

京太郎「まぁ、わざとはしないだろうな」


京太郎「この後は?」

玄「片付けとか手伝ってもらおうかな」

京太郎「よしきた」

玄「終わったらお風呂でお背中流しちゃうよ」

京太郎「いや待て」

玄「?」

京太郎「そこで不思議そうな顔すんな!」



京太郎「ふぅ……それなりに汗かいたな」

京太郎「もうすぐ終わりっぽいし、気持ちよく風呂に入れそうだ」

京太郎「寝る前にまこっちゃんたちのとこに顔出そうかな」


「おや、君は……」


京太郎「どうも、お疲れ様です」

「ご苦労様、須賀京太郎くんだったか」

京太郎「あれ、どうして……」

「娘達が世話になっているね」


京太郎(この人があの二人の父親……)


「実は前々から君のことは聞かされていてね、私も気になっていたんだよ」

京太郎「えっと、どんなこと言ってました?」

「それを言ったら玄に怒られてしまうよ。悪いことではなかったとだけ言っておこうかな」

京太郎「そうですか……」


京太郎(色々親には言えないようなこともやらかしてるからなぁ)

京太郎(まぁ、でもこのぶんだったら――)


「ところで、背中を流してもらったんだって?」

京太郎「――っ、な、なんの話ですかね?」

「妻に先立たれて以来、あの二人を私なりに愛情込めて育ててきたつもりだ」

京太郎「た、大変立派なことだと思いますっ」

「その娘たちに悪い虫がついた……となったら?」

京太郎「それは……」ダラダラ


「と、考えていたんだがね」


「どうやらその心配はなさそうだ」

京太郎「え?」

「今日一日、君の働きをそれとなく見させてもらったよ」

京太郎「は、はぁ」

「今は高校三年生だったね……どこか大学に?」

京太郎「それは……今更ながら未定です」

「そうか……なら、君さえよければここで働いてくれても構わないよ」

京太郎「え……え?」

「娘二人はここを継いでくれると言ってくれているがね、やっぱり傍で支えてくれる男手もあった方がいいと思うんだよ」

京太郎「それを俺にってことですか?」

「もちろん強要しているわけじゃないよ。あの子達なら二人だけでもやっていけると思うしね」

京太郎「……」

「ただの父親の戯言と聞き流してもらっても構わない。でも、少しでも気になるのなら考えてみてくれないか?」

京太郎「俺は……」

「いや、悩ませてしまってすまんね。数ある道の一つとだけ思っていてくれたらいいよ」

京太郎「そう、ですね。高校を出るまで考えてみようと思います」

「ありがとう」


玄「京太郎くーん、ちょっとこっち手伝って……お父さん?」


「玄か、京太郎くんと仲良くな」

玄「えと……う、うん」

「それじゃあ、私は失礼しよう」


玄「……何か話してたの?」

京太郎「なんだろうな……進路相談とか?」



京太郎「それじゃあ、この部屋の風呂借りるな」

玄「本当にお背中流さなくていいの?」

京太郎「お前、それで何回恥ずかしい思いしたか忘れたのか?」

玄「そ、それは……でも、今日は頑張ってくれたから」

京太郎「そういうことなら気にすんな、バイト代もらうんだし」

玄「そうじゃなくて、私がなにかしてあげたいのに……」シュン

京太郎「……わかった。なら、今着てるの洗濯しといてくれ。明日も使うんだろ?」

玄「……そんなことでいいの?」

京太郎「なにかしたいって言ったのはお前だろ。じゃ、籠の中に入れとくから頼むな」

玄「うん」



玄「――なんて引き受けちゃったけど……」


憧『これで最後になるけど……決着は土曜の夜よ』

憧『もうそこで……き、既成事実でもなんでも作っちゃえばいいんじゃない?』

憧『多分、そこ逃したらしばらく機会ないと思うし』


玄「って言われてたのになぁ……」

玄「既成事実……お風呂がダメならもう夜這い……」

玄「~~っ」カァァ

玄「む、無理だよぉ……」

玄「はぁ……洗濯してこよ」

玄「これ、京太郎くんが着てたんだよね……」

玄「なんだろう……この匂い」クンクン

玄「なんか、やめられないよぉ……んんっ」ピクン


玄(胸の先が、擦れて……)

玄(私、やっぱりえっちな子なのかなぁ?)


玄「ん……京太郎くん」モミモミ

玄「京太郎くん、京太郎くん……!」モミモミ


京太郎「危ない危ない、俺としたことが忘れ物を――」


玄「……」

京太郎「……」


玄「――○△□×っ!!」

京太郎「叫びたいのはこっちだよ!」

玄「これはそのあの……む、胸を揉んだら大きくなるって聞いて!」

京太郎「痴女かお前はっ!!」


京太郎「あーもう……ちょっと待ってろ。すぐ出るから」

玄「う、うん……」

京太郎「ちなみに説教だからな」

玄「え……」

京太郎「……なんでちょっと嬉しそうな顔してんだよ」



和「先輩、どうしてここに……」

京太郎「人手が足りないから手伝ってくれって頼まれてな」

優希「来てるんなら連絡ぐらいほしかったじぇ」

咲「うん、今回は優希ちゃんに賛成」

まこ「たまにはまともなことを言うのぅ」

優希「この扱いの悪さはいかがなものか」

京太郎「悪いな、なんだかんだで忙しくてさ」

咲「そういえばすごいクマ……」

まこ「よっぽどハードだったんかい」

京太郎「ま、まあな……」


京太郎(まさかずっと説教してたからだとは言えないな……)



憧「玄ー、どうだった?」

玄「それは……ふわぁ」

憧「寝不足……これはもしかするともしかしちゃった?」

玄「ううん、ダメだったのです……」

憧「あちゃー……ま、結構強引な手だったしね」

玄「でも……」


玄「叱られるのって、いいかも……」ポッ


憧「え……」

玄「和ちゃんたちのところに行ってくるね」

憧「う、うん……私も後で行く」

玄「じゃあ、お先」


憧「……一体なにがあったのよ」
最終更新:2016年10月28日 20:16