久「にしても暇ね」
京太郎「しょうがないだろ。常時面子が足りないんだから」
久「こうして自動卓があるだけ奇跡みたいなものか」
「お、君たち来てたのか」
京太郎「おはよーございます」
久「今日も三麻やります?」
「その前に、はいどうぞ」
京太郎「これ、アイスですか?」
「今日も暑いからね」
久「部長自ら買い出しですか」
「部長って言ってもこんな部だからね」
久「それじゃ、ありがたくいただきます」
久「ロン、8000……これで終局ね」
京太郎「うあー、また久ちゃんがトップかー」
「やっぱり強いな。インターミドルで福路美穂子と互角以上に渡り合っただけはあるね」
京太郎「部長、それは……」
久「いいわよ、別に。そのうちリベンジするつもりだから」
京太郎「そうだな……じゃあその時のためにしっかりと腕磨いとかなきゃな」
久「でもこの状態じゃね……」
「そのことで提案があるんだけど、夏休み中に武者修行ってのはどうかな?」
京太郎「旅をしながら対局相手を探すってことですか?」
「物の例えだけどね。日帰りなら宿泊費もかからないし」
久「でも移動費はかかりますよね?」
「行く回数にもよるけど、君一人分だったら余ってる部活動費でどうにかできると思う」
京太郎「まぁ、たしかにここにいても仕方ないしな」
久「それは別にいいけど、事前のリサーチぐらいはしておきたいわね」
京太郎「適当に行って誰も見つかりませんでしたー、じゃやってられないからな」
「そこらへんはこっちに任せてくれ」
京太郎「お、頼もしいっすねー」
「仮にも部長だからね」
久「わかりました。部長の提案、受けさせてもらいます」
京太郎「武者修行ね……」
京太郎「どうも心配なんだよな、久ちゃんかわいいし」
京太郎「変なナンパ男に絡まれないとも限らないよな」
京太郎「……」
京太郎「何故だろう。今言ったことが弧を描いて戻ってきた気がする」
京太郎「ともかく、女の子の一人旅は心配だ」
京太郎「でもそんなに金ないしな……」
京太郎「親に頼む……いや、女の子と旅行行きますなんて理由で動いてくれるはずがない」
京太郎「誰かに借りる……親以外に貸してくれそうな知り合いはいないよな」
京太郎「となると……アルバイトだな」
京太郎「なるべく短期ですぐにお金をくれるような仕事か……肉体労働くらいしか思いつかないな」
京太郎「体力に自信がないわけじゃないけど、最近暑いしな――っと」
「おっと、失礼」
京太郎「俺の方こそ」
「申し訳ない、急いでいたもので」
京太郎「こっちも考え事してたんで、おあいこですよ」
「そう言っていただけると助かります」
京太郎「いやいや。そんじゃ、気をつけてくださいね」
「では……」
京太郎「……こんな気温でタキシードか」
京太郎「コスプレっぽくは見えなかったけど、もしかして本職の人か?」
京太郎「なんにしても珍しいもん見れたな」
京太郎「さて、本屋で求人雑誌でも――」
京太郎(なんだこれ……すごいプレッシャーだ)
京太郎(まるで深海にでも引きずり込まれるような……)
「……」
京太郎(あの子、なのか?)
京太郎(周囲に人がいない……いや、近寄れないんだ)
京太郎(なんでだろう……あの子を見ていると照ちゃんを思い出す)
京太郎(……そうか、ならほっとけないよな)
京太郎「よ、よう……迷子にでもなったのか?」
「……去ね」
京太郎「稲? 収穫にはまだ早いだろ」
「ふん、貴様のような有象無象と言葉を交わしている暇などない」
京太郎(ちっこいくせになんというか、難しい言葉遣いだな。ジョークも通じなかったし)
京太郎(てかどっからどう見ても暇そうにしか見えない)
京太郎(こんな小さな子がなんで一人で……)
京太郎「……そうか、迷子か」
「――っ!」ビクッ
京太郎「まぁ、それなら気がたっても仕方ないよな」
「こ、衣は迷子なんかじゃっ」
「ここにいましたか」
衣「ハギヨシ! 探したぞ!」パァ
ハギヨシ「申し訳ありません」
衣「全く……今度ははぐれないように注意するんだぞ」
ハギヨシ「では、お手を」
衣「うん!」
京太郎「良かったじゃん」
ハギヨシ「あなたは先ほどの……」
京太郎「どうも。さっきはこの子を探して急いでたんですね」
ハギヨシ「衣様がお世話になりました」
京太郎「俺はなんもしてないですよ」
衣「いいや、こいつは衣のことを馬鹿にした!」
京太郎「はいー?」
衣「本来ならハギヨシの素敵滅法で冥府行きだぞ!」
衣「でも、貴様を覆う残り香が気になる」
京太郎「……そんな臭う?」
衣「ハギヨシ、こいつを連れて帰るぞ!」
ハギヨシ「はっ」
京太郎「え、ちょっと待ってなにこれ」
ハギヨシ「失礼っ」
京太郎「うおっ、いつの間に簀巻きにされたんだよ!?」
衣「よし、帰るか」
京太郎「よしじゃない! これ拉致監禁――」
最終更新:2015年03月11日 02:40