「あ、この先だよー」
京太郎「お、おう」
京太郎(つ、つらい……)
京太郎(運動部で鍛えた体でも、人一人抱えての山登りは無理があったか)
「着いたよー」
京太郎「そ、そうか」
「ここまで来たらもう大丈夫だよ」
京太郎「足の痛みは?」
「ん、ちょっと歩くくらいだったら平気、かな?」ヒョコヒョコ
京太郎「無理すんなよ。家の人呼んでくるから」
「お父さんは夜まで帰ってこないよ?」
京太郎「は?」
「それじゃ、どうぞー」
京太郎「えっと、姉帯豊音さんだっけ?」
豊音「なーに?」
京太郎「お父さんが遅いのはわかったけど、お母さんもいないのか?」
豊音「お母さんは……いないから」
京太郎「……なんつーか、ごめん」
豊音「ううん、いいよ」
京太郎「お詫びっつーのもあれだけど、なんかさせてくれよ」
豊音「じゃあ……話し相手になってほしいな」
京太郎「いいぜ、なにから話す?」
豊音「それはねー、私のお母さんのこと!」
京太郎「え? さっきいないって言ってたろ」
豊音「でもお父さんからいっぱい話を聞いたから」
京太郎「まあ、そっちがいいなら、な」
豊音「なら二人の出会いからだね!」
京太郎「わー、長そう」
豊音「ちょー感動するよー」
豊音「初めはね、お母さんがたまたまここに来てたお父さんに一目惚れしたんだって」
豊音「それでアプローチをかけたんだけど、周りの妨害にあって離れ離れになっちゃったみたい」
豊音「お母さんもここから出してもらえなかったから一旦は引き下がったんだけど、諦めずに追いかけて会いに行ったんだって!」
豊音「ちょー感動だよー」ウルウル
京太郎(……なんだろう。いい話なんだけど、どっかでそんな怖い話を聞いたことがあるような)
京太郎(首が折れた地蔵……まさかな)
京太郎「ところで、首がない地蔵があったけど、あれっていつからああなんだ?」
豊音「えっと、私が生まれる前だって聞いたけど……お父さんそれ以上は知らないって」
京太郎「ちなみにさ、あの地蔵より向こうに行ってはいけないって言われたことは?」
豊音「あ、よくわかったねー」
京太郎「……おう、まあな」
豊音「実はね、今日は言いつけ破ちゃったんだよ」
京太郎「ああ、だろうな」
京太郎「最後に一つ聞きたいんだけど、お母さんって背の高い人だったのか?」
豊音「ちょー大きかったらしいよ。八尺(約240cm)ぐらいはあったって」
京太郎「はいビンゴー!」
豊音「今お茶淹れてくるからちょっと待っててねー」
京太郎「……どうしよう、なんかすごくピンチな気がしてきた」
京太郎「落ち着け、そんなオカルトありえないだろ……SOA、SOA」
京太郎「――って、今更そんなこと言えるか!」
京太郎「この前鹿児島に行ってきたばっかなんだよな……」
豊音「お茶が入ったよー」
京太郎「うおっ」
豊音「どうかしたの?」
京太郎「い、いやなんでもない」
豊音「それじゃあ、どうぞどうぞ」
京太郎「いただきます……」
京太郎「……」ズズッ
豊音「――♪」
京太郎「楽しそうだな」
豊音「うん! だって家にお友達が来たみたいだなーって」
京太郎「友達、ね……」
京太郎(そういや、この家だけ他の家から妙に離れている)
京太郎(それに、ここに来る途中、俺と同年代の人をまったく見かけなかった)
京太郎(単なる考え過ぎかもしれないけど……この子、友達がいないのか?)
京太郎「……あのさ」
豊音「なあに?」
京太郎「どうしてお父さんの言いつけを破ったんだ?」
豊音「……ここから出たら、お友達に会えるかなって」
京太郎「……やっぱりか」
豊音「うん、ぼっちだよー」
京太郎(なーにやってんだか)
京太郎(余計なことを考えるな)
京太郎(要するに女の子が寂しがってる……そういうことだ)
京太郎(なら、向き合わないとな)
京太郎「一つ言っとくけど、外に行っても友達には会えないぞ」
豊音「……うん」
京太郎「だって友達ってのはそれ以前に知り合ってなきゃいけないからな」
豊音「……うん」
京太郎「つまり、俺だったらその条件を満たしてるってことだ」
豊音「へ?」
京太郎「一緒になんかしよーぜ。まずはそれからだろ」
豊音「……ちょー嬉しいよー!」
京太郎「で、結局これなのね」
豊音「その、嫌だった?」
京太郎「いや、もはや運命だなって」
豊音「?」
京太郎「どうやって遊ぶ? 面子が足りないから普通のゲームはできないけど」
豊音「うーん、どうしよう?」
京太郎「そうだな……なら俺が前にやった二人麻雀のルールだけど――」
豊音「ふんふん」
京太郎「――ってのはどうだ?」
豊音「わぁ、ちょー面白そう!」
京太郎「そんじゃ、まずは山を作りますか」
京太郎「リーチ!」
豊音「あ、私もリーチだよー」
京太郎「殴り合いか……負けねーぞ」トン
豊音「あ、それロン」
京太郎「うげっ、マジですか」
豊音「チーだよー」
京太郎「これで4副露目かよ。そんなに鳴いて大丈夫か?」
豊音「うん。だって……今はぼっちじゃないから」
京太郎「なんだそりゃ? ……俺も聴牌だ」
豊音「あ、ツモだ」
京太郎「あ、そうですか」
京太郎「あー、打った打ったぁ」
豊音「こんなに楽しかったの、初めてだよー」
京太郎「そうか?」
豊音「うん!」
京太郎「そいつは良かった」
豊音「……京太郎くんって、私の初めての人だね」
京太郎「……は?」
豊音「初めてのお友達で、初めて一緒に麻雀をしてくれた……それに、お姫様抱っこも」
京太郎「お姫様抱っこ? ……ああ、緊急事態だったしな」
豊音「実はね、ああやって男の人に抱っこしてもらうのに憧れてたんだ」
京太郎「図らずも俺がその夢を叶えてしまったわけね」
豊音「電車が来たら、帰っちゃうんだよね?」
京太郎「まあ、人も待たせてるからな」
豊音「そっか……なんか――」
豊音「――いや、だな」ゾゾッ
京太郎「はいストップ」ピシッ
豊音「あうっ」
京太郎「もうこういうの何回目だよって話だな」
豊音「酷いよー」
京太郎「これでっと……はい」
豊音「……これ、なに?」
京太郎「俺の住所と連絡先」
豊音「へっ?」
京太郎「家に電話はあるんだろ?」
豊音「う、うん」
京太郎「なら大丈夫だな。ま、暇になったら遊びに来いよ」
豊音「えと、いいの?」
京太郎「一緒に麻雀やった仲だろ。こっちに来たら面子も揃うし、もっと打てるぞ」
豊音「……お友達も、増えるかな?」
京太郎「そこはそっちの頑張り次第だな。でも……」
京太郎「勇気を出して言いつけを破ったから、さっきみたいに二人で麻雀ができた……そうだろ」
豊音「そう、なのかな?」
京太郎「言いつけを破れってことじゃないけど、一回それだけ頑張れたんだから、次もできないはずないってこと」
豊音「……うん、そうだね!」
京太郎「ま、俺も応援するよ。友達としてな」
豊音「私、もうぼっちじゃないんだね」
京太郎「その通りだ。さ、今度はなにする?」
豊音「えっとね……」
京太郎「それじゃ、そろそろ帰るよ」
豊音「……ちょっとだけ寂しいな」
京太郎「そんな顔すんなって。いつでも電話してくれよ」
豊音「うん、夜討ち朝駆けだよー」
京太郎「それ電話じゃ無理だからな」
豊音「それじゃあ、帰る前に一個だけ」
京太郎「なんだ――」
豊音「私の初めてが京太郎くんで、良かった」ムギュッ
京太郎(……事件です)
京太郎(今まで意識してなかったけど、この子も中々大きい)
京太郎(それをすごい力で顔に押し付けられた日には……)
京太郎「――ムガッ」
豊音「ん?」
京太郎「……」ガクッ
豊音「京太郎くん!?」
「豊音、帰ったぞ」
豊音「あ、お父さん」
「誰か来ていたのか?」
豊音「うん、お友達が出来たの!」
「そうか……良かったな」
豊音「次、いつ会えるのかな」
「……あの地蔵のことだが、もう気にするな」
豊音「え、じゃあ電車に乗ってもいいの?」
「母さんが俺を追ってこなければお前はいなかった。お前にもそういう出会いがきっとある」
豊音「……ぐすっ、ちょー嬉しいよ~」
京太郎「お、いたいた。久ちゃーん」
久「あら、乗る電車を間違えたおバカさんじゃない」
京太郎「いいだろ、こうして合流できたんだからさ」
久「そうね。なにかあったら部長に迷惑がかかるものね」
京太郎「素直に会えて嬉しいって言えよー」
久「うるさい」
京太郎「明日でひとまず終わりだっけ?」
久「そこまでお金に余裕はないからね」
京太郎「まぁ、うちの部は実績もクソもないからな」
久「次は東京か……インターハイの舞台ね」
京太郎「東京……」
久「あそこも強豪が揃ってるわね。白糸台とか臨海とか」
京太郎「ああ、そうだな……」
久「……どうかしたの?」
京太郎「いや、なんでもない」
京太郎「なんでも、ないんだ」
最終更新:2015年03月11日 06:03