中学二年、三月、照との別れ

※回想シーン以外は、咲が入部した直後の時間軸です


久「やっと面子も揃ったし、そろそろなにか大きいことやりたいわね」

京太郎「大きいことね……合宿とかか?」

久「それ、そんな感じの」

京太郎「合宿かー、中学の頃思い出すな」

久「そういえば、ハンドボールやってたんだっけ?」

京太郎「ま、中三に上がる前にやめちゃったけどさ」

久「荒れてた時期ってそれ関係だったりする?」

京太郎「いろいろ無茶やって、肩壊しちゃったんだよ」

久「……もしかして地雷踏んじゃった?」

京太郎「んなわけないだろ……小腹空いたからコンビニ寄っていいか?」

久「オーケーよ」


京太郎(たしかに肩を壊したのはつらかった……)

京太郎(でも、なによりつらかったのは――)





京太郎「ん、朝か……」

京太郎「六時半……停学中だってのになんでこんな早起きしてんだよ」

京太郎「……肩、上がんねぇな」

京太郎「畜生……」



照「おはようございます。京ちゃんは……」

「起きてるみたいだけど、今日もダメみたい」

照「おじゃまします」

「ごめんなさいね。私たちがなんとかしてあげられれば良かったんだけど……」

照「気にしないでください。私も元気な京ちゃんに戻ってもらいたいですから」

カピ「キュッ」

照「あなたも京ちゃんが心配なの?」ナデナデ

カピ「キュ~」

照「待ってて。私がなんとかするから」



照「京ちゃん、起きてる?」コンコン

照「朝ごはんできてるって。一緒に食べよ?」

京太郎『食欲ないんだ。食べたくなったら食べる』

照「そう……じゃあお菓子食べない?」

京太郎『いや、食欲ないから』

照「そう……」シュン

京太郎『……照ちゃん、悪いけどほっといてくれ。俺が停学くらった理由、知ってるだろ』

照「うん。先生殴ったって」

京太郎『今誰かの顔見たら、また同じ……もっと酷いことしちゃうかもしれないんだ』

照「わかった……じゃあ入るね」ガチャ


照「おはよう、京ちゃん」

京太郎「――っ、見るな!」

照「……泣いてたの?」

京太郎「帰れ、帰ってくれよ……!」

照「肩、痛いの?」

京太郎「頼むから、見ないでくれよ……」

照「……わかった。ポッキー、ここに置いとくから」



京太郎「なにがポッキーだよ……こんなものっ」


照『京ちゃん、お菓子おいしいよ?』


京太郎「……捨てられるわけないだろ。畜生っ」



照「おはよう。今日はきのこの山とたけのこの里。でも私はすぎのこ派」

京太郎「宗教上の理由できのこもたけのこも食べられないんだ」

照「残念……あ、そうだ。ミキサーで粉々にして混ぜたら問題ないよね?」


照「今日は奮発してケーキ。しかもワンホール」

京太郎「……どう見てもクォーターなんだけど」

照「……ちょっと味見し過ぎた」


照「今日から学校いけるんだよね? 一緒に行こ?」

京太郎「悪いけど、一人で行ってくれ。俺も一人で行くから」

照「わかった。じゃあ京ちゃんの後ろを一人で歩くね」


照「一緒に帰ろ?」

京太郎「寄るとこあるからパス。ついてくんなよ」

照「ん……じゃあ家で待ってるね」



「停学明けてから須賀のやつ、宮永に対して冷たくね?」

「怪我のこともあるし、落ち込むのはわかるけどあれは流石にな……」

「彼女にとる態度じゃないよな」

「彼女? 須賀と宮永って付き合ってたのか!?」

「あれだけ一緒にいれば誰だってそう思うべ」

「まじかー」


京太郎「……お前ら何の話してんの?」


「す、須賀っ?」

「い、いやなんでもないから、本当に」

「俺たちもう行くわ……じゃあ」



京太郎「……なんだっての。好き勝手言いやがって」

照「あ、いた。京ちゃん、一緒に帰ろ?」

京太郎「用事あるから」

照「最近そればっかり……でも、嘘だよね?」

京太郎「なにか証拠でも?」

照「うん。だって京ちゃんが嘘吐くとき、いつも鼻かくから」

京太郎「――ちっ、そういやそうだったな……で、それがお前に何の関係があるわけ?」

照「京ちゃんが心配だから……元気な京ちゃんに戻ってほしいから」

京太郎「あのさ……」

照「なに?」


京太郎「――京ちゃん京ちゃんってうるっせぇんだよっ!!」


京太郎「ハンドができなくなって落ち込んでる俺に優しくして満足か? そうだよな。これまでと立場が逆だもんな!」

京太郎「気持ちはわかるってか? だがあいにくとな、俺の気持ちが俺以外にわかるわけねぇんだよ!」

京太郎「どんだけ遠ざけてもひっついてきやがって……」ガシッ

照「京ちゃん、痛い……」

京太郎「前に言ったよな? 酷いことするかもしれないって。そうしたら俺から離れてくれるのか?」

照「……酷いことでもなんでも好きにして。でも――」


照「――私が京ちゃんから離れてくなんてありえない」


照「だって私には視えるから」

照「京ちゃんは私の手を引いてくれたときからちっとも変わってない。私の大好きな優しい京ちゃんのまま」

京太郎「こんなことされてるのによく言うよな」

照「お菓子、全部食べてくれた」

京太郎「は?」

照「食欲ないって言ってたのに、全部食べてくれた」

京太郎「……なんだよそれ」


京太郎「なんっなんだよ畜生! 付き合ってらんねぇ……帰る」


照「京ちゃん、また泣いてた」

照「結局、言えなかったな……」

照「……これでさよなら、なのかな」





京太郎(その日を境に照ちゃんは家に来なくなった)

京太郎(急な引っ越しで母親と東京に行ってしまったらしい)

京太郎(部屋に引きこもってなにもかもシャットアウトしていた俺がそれを知ったのは、春休みに入ってすぐのことだった)

京太郎(本人からそんな話は聞いてなかったし、そんなそぶりも見せなかった)

京太郎(いや、もしかしたら会えなくなるのがわかっていたからこそ、傍にいようとしたのかもしれない)

京太郎(なんにせよ、今となっては確かめようがない)

京太郎(ただ、離れてほしいと思っていたのに、いざそうなると酷く裏切られた気持ちになったことは、よく覚えてる)


京太郎「なーんて、大概俺も自分勝手だよな」

久「なによいきなり」

京太郎「いや、なんでも……ポッキー食う?」

久「それじゃあ一本だけ……」
最終更新:2015年03月12日 00:07