京太郎「お、雪」
部長「初雪だね。もう十二月かぁ」
京太郎「積もったらなんかやります? 雪だるまとか雪合戦とか」
久「雪が降ったらはしゃぐって、犬か何か?」
京太郎「人を犬扱いとは非道いじゃないか」
久「そうね。一緒にしたら失礼か……犬に」
京太郎「犬以下かよ!」
久「それじゃ、私は帰りますね」
部長「あ、気をつけてね」
部長「……なんかあったの? 今日はなんだか刺々しいけど」
京太郎「そんな大したことは……いや、やっぱあれかなー?」
部長「心当たりあるんだ」
京太郎「この前一緒に出かけようって誘われたんですよ。先約があったんで断ったんですけど」
部長「あー」
京太郎「人気者は辛いというかなんというか」
部長「そのうち刺されるんじゃないかな?」
京太郎「そこまでですか!?」
京太郎「ただいまー」
「おかえりー。電話来てるわよ、それも女の子から」
京太郎「そのニヤケ顔やめようぜ」
「えー、だってー」
京太郎「だってー、じゃないよ。電話は?」
「受話器そこに置いてあるからご自由に」
京太郎「はいはい」
豊音『きょ、京太郎くんですかっ』
京太郎「京太郎くんですよ」
豊音『よかったー、ちゃんと繋がってるよー』
京太郎「てか電話で話すのは初めてじゃないよな?」
豊音『でもでも、突然切れたらーとか考えると……』
京太郎「うんまぁ、心配すんなよ」
豊音『うん……それでね、覚えてるかな?』
京太郎「今度の休みな。バッチリだ」
豊音『ちょー楽しみだよー』
京太郎「じゃあそっちのお父さんによろしくな。挨拶しとかなきゃだし」
豊音『そ、それはちょっと早いんじゃないかなー……とかとか』
京太郎「なんで?」
豊音『ちょっ、ちょー恥ずかしいよー』
京太郎「はい?」
豊音「と、とにかくっ、また今度ね!」ガチャン
京太郎「……切れた」
「あれー、電話終わったの?」
京太郎「だからにやけるなって」
「だって母親としては息子の女性関係を把握しとかなきゃだし」
京太郎「残念ながらそんな色っぽい話じゃなかったよ」
「そう思ってるのはあんただけかもね」
京太郎「はぁ?」
京太郎「なに、この雪山」
京太郎「……スキーできんじゃね?」
京太郎「雪の降り始めだと思ってなめてたぜ……」
豊音「あ、京太郎くーん」
京太郎「おう、あねったいさん」
豊音「日本は温帯だよ?」
京太郎「じゃあ、おんたいさん」
豊音「もう、京太郎くんの意地悪。ちゃんと呼んでよ」
京太郎「はは、悪い悪い。久しぶり、姉帯」
豊音「うん。ちょー久しぶり。もう何年も会ってなかった気がするよー」
京太郎「そりゃ、言い過ぎだな」
豊音「でもでも、ずっと楽しみだったんだよ?」
京太郎「じゃあ行こうぜ。今日はいろいろ持ってきたからな」
豊音「そうだね」
豊音「あ、そうだ。京太郎くんにお知らせがあるんだよ」
京太郎「なにそれ。新しい友達ができたとか?」
豊音「そ、それは違うけど……」
京太郎「あー、悪い」
豊音「ううん、いいんだよ。じゃあ気を取り直して……」
豊音「なんと、うちの村の近くまでバスが通るようになりました!」
京太郎「マジで? それは助かるな」
豊音「だよねだよね」
京太郎「この雪山を踏破するのはさすがにきついからな」
豊音「遭難して冬眠中の熊に会ったら大変だよね」
京太郎「え、ここって出るのかよ」
豊音「うん」
京太郎「前来た時は出会わなくてよかったよ……」
豊音「私が手を振ったら逃げちゃうんだけどね」
京太郎「あっ、はい」
「……君が須賀くんか」
京太郎「どうも、豊音さんとは仲良くさせてもらってます」
「そうか……」
京太郎(……なんでこんな空気が重いのか)
京太郎(俺、遊びに来ただけだよな?)
「これからも、豊音のことをよろしく頼む」
京太郎「それは……もちろんですよ」
「ところで、君は婿養子とかに興味はあるかな?」
京太郎「む、婿養子ですか?」
「そうだ、もし良かったら――」
豊音「すっ、すとーっぷ!」
「――ぐほぁっ」
豊音「もうっ、お父さんは気が早すぎだよっ」
京太郎「……話はよくわからないけど、気絶してるぞ」
豊音「あ……」
「うっ……ここは……」
京太郎「あ、目が覚めました?」
「君は……須賀くんか。豊音は?」
京太郎「豊音さんは今お茶淹れてます」
「あいつはいい子なんだが、少し力が強すぎてな……」
京太郎「まぁ、たしかに」
「君も大変だとは思うが、どうか仲良くしてやってくれ」
京太郎「大変だなんて。むしろ面白い子だと思いますけど」
「そう言ってくれると父親としても嬉しいよ」
豊音「お茶持ってきたよー」
京太郎「お、悪いな」
「私ももらおうか」
豊音「お父さん、さっきはごめんね?」
「いや、たしかに気が早かった」
豊音「京太郎くんとは、まだお友達だから」
「そうだな……それにしても、お茶を淹れるのがうまくなったな」
京太郎「いつ嫁に出しても恥ずかしくないってやつですかね?」
豊音「ぶっ」
「あちっ!」
京太郎「あれ? まずいこと言った?」
「いやいや……君はもらいたいと思うのか?」
豊音「――っ」ピクッ
京太郎「俺ですか? うーん……」
京太郎「もしそうなったら、毎日楽しそうですね。もらえたら、ですけど」
豊音「あ、あぅ……」プシュー
「……そうか」
京太郎「大丈夫かー?」
豊音「だ、ダメかも……」
京太郎「よし、じゃあそろそろだな」
豊音「京太郎くん、帰っちゃうんだね」
京太郎「電車逃したらさすがにやばいからな」
豊音「そっか……」
京太郎「そんな顔すんなって。また遊びに来るよ」
豊音「うん、また電話かけるね」
京太郎「おう。それじゃ」
豊音「京太郎くん、またね」
「行ったのか」
豊音「……お友達とお別れするって、寂しいんだ」
「だが、その分次が楽しみになる……そうじゃないのか?」
豊音「そう、だね」
豊音「……今度はいつ会えるかな」
最終更新:2015年06月01日 01:05