初夏、最後の県予選

京太郎「よし、みんな準備オーケーだな?」

まこ「忘れもんはないかー」


優希「タコスは完備してるじぇ」

和「問題ありません」

咲「お財布は……あった」ホッ


京太郎「概ねバッチシだな……咲はまこっちゃんと持ち物の確認すること」

咲「だ、大丈夫だもん」

まこ「はいはい、こっちじゃこっち」

咲「だからっ」ズルズル


京太郎「あっちは任せるとして、俺はそろそろ久ちゃん呼んでくるよ」


和「……咲って呼んでましたね」

優希「幼馴染だって聞いたじぇ」

和「幼馴染……」

優希「ちなみに部長も幼馴染だとか」

和「……ちょっと、羨ましいですね」

優希「大丈夫、のどちゃんにはあの二人にないものがある!」

和「……」サッ

優希「なぜ胸を隠すのか」

和「このあとの展開が見えたので」

優希「さー、タコスを食べてリフレッシュだじぇい」

和「誤魔化せてないですからね、全然」



久「……」

京太郎「日向ぼっこか?」

久「一緒にどう?」

京太郎「それもいいけど、そろそろ出発だろ」

久「残念ね」

京太郎「ようやっとだな」

久「泣いても笑ってもこれで最後なのよね……」

京太郎「団体戦は最初で最後だな」

久「そうね……でも、不思議と不安はないの」

京太郎「去年とは大違いだな……荒川と打ったあとはやばかったのにな」

久「あーあー、聞きたくなーい」ブンブン

京太郎「はは、心強いチームメイトがいるから今年は大丈夫ってか?」

久「そうね……」


久「……ねぇ、あの時にもし――」


京太郎「ストップ。そんなの今更だろ」

久「なによ、人のこと振っておいて」

京太郎「明らか正気じゃなかったしな」

久「じゃあ今だったら?」

京太郎「どうだろうな……てか、する気もないだろ」

久「さぁ、どうでしょうね」

京太郎「じゃあ行くぞ、みんな待ってる」

久「ねぇ、手」

京太郎「ん、外に出るまでな」スッ

久「はーい」ギュッ



優希「着いたじぇー!」

京太郎「はしゃいでんなー」

和「さすがに人が多いですね」

まこ「迷子にならんようになー」

優希「もちろんだじぇ」

和「そんな子供じゃありません」


久「それで、宮永さんは?」


まこ「……おらんようじゃの」

優希「きっと隠れ身の術だじぇ」

和「そんなわけないでしょう」

京太郎「あちゃー、こりゃトイレ行って迷子パターンだな」

久「任せていい?」

京太郎「まぁ、慣れてるからな」

久「慣れてる、ね」

京太郎「じゃ、サクッと見つけてくるよ」


優希「先輩も忙しい人だじぇ」

まこ「そう思うんじゃったらあまりタコスをせびらんように」

優希「これでも我慢してるじぇ」

まこ「あれでかっ」

和「本当に優希は……それにしても、騒がしくなってきましたね」

久「優勝候補が来たからね……ほら」


一「うわぁ……カメラ一杯」

純「普段あんな格好してるのに、随分及び腰だな」

透華「そうですわ! 目立ってなんぼですわっ!!」

一「えぇ……無茶言わないでよ」

透華「ほら、カメラに向かってピース!」

智紀「バッチリ録画してる」

一「なんで智紀がカメラ構えてるのさ……」


久「去年、強豪の風越を破って全国に進んだ龍門渕高校よ」

優希「ほへぇ、でも咲ちゃんクラスはいなさそうだじぇ」

久「……それだったら去年も風越が全国進出してたわよ」ボソッ

まこ「お、その風越も来たようじゃな」


華菜「キャプテン、今年こそは優勝ですよ!」

美穂子「ええ、頑張りましょう」

華菜「おー! ほら、みはるんも」

「恥ずかしいからやめてよ……」

「き、緊張します……」

「ドンと構えていれば大丈夫」


和「あれが……風越の福路美穂子」

優希「知ってるのか、のどちゃん」

和「前に読んだ雑誌に載っていたので」

久「ちょっと話してくるわね」


久「美穂子ー」


優希「二人は知り合いだったり?」

まこ「親友といっても差支えはないじゃろうな」

和「去年は二人共個人戦で全国進出したみたいですね」

まこ「まぁ、ライバルでもあるわな……いろんな意味で」


美穂子「久! あなたも団体戦に?」

久「そうそう、ようやくなのよ」

美穂子「なら、今年は去年以上に厳しい戦いになるわ」

久「すっごい一年生が入ったんだから」

美穂子「そう……でも、負けないわ」

久「こっちもね」

美穂子「それで……あなたがいるということは、京太郎さんも?」

久「今は迷子を探してる途中よ」

美穂子「残念ね……」


優希「ライバルって……そっちも?」

まこ「いろんな意味でと言ったじゃろが」

和「……あの人も」


透華「失礼」

美穂子「あなたは……」

透華「去年はお世話になりましたわ」

美穂子「はい、こちらこそ」

透華「今すぐ去年の雪辱をと言いたいところですが、それは後のお楽しみにとっておくとして……そこのあなた!」

久「私?」

透華「ふーむ、あなたが……」マジマジ

久「ちょっ、なによ」

透華「自己紹介をと思いまして……私が須賀京太郎の主である龍門渕透華ですわ!」


美穂子「えっ」

久「はぁ!?」


一「透華……それじゃ誤解を招くだけだよ?」

透華「アルバイトとはいえ執事として私に仕えた。それだけで十分ですわ」

久「あいつのアルバイト先ってまさか……」

美穂子「京太郎さんが……」

一「ごめんなさい、うちの部長はちょっとものを大げさに言ってるだけなんです」

久「ま、そうよね」

美穂子「良かった……」ホッ

透華「割り込んできて何の用ですの?」ブスッ

一「あ、うん……衣がいないんだよね」

透華「なんですって!? すぐに総力を挙げて捜索隊を――」

一「ハギヨシさんが探しに行ったから大丈夫だと思うんだけど」

透華「それを先に言いなさいな!」


「ユミちん、なんかすごい人がいっぱいいるぞ」

「そういう人たちを相手取るんだ。気後れはしていられないぞ」

「わはは、男前だな」



咲「どうしよう……トイレ行ってたら迷っちゃった」

咲「ここ広すぎだよ……」


「ほう、奇妙な気配に惹かれてきてみれば……」


咲「えっ……」ゾクッ

「いつぞやの残り香とよく似ている」

咲「誰、ですか?」

「天江、衣」ゴッ

咲「ひっ」ビクッ


京太郎「こーら、なにうちの一年いじめてんだ」


咲「京ちゃ――」

衣「きょうたろー!」

京太郎「今年も出てきやがったな?」

衣「うん、今年はもっと楽しめそうだから」チラッ

咲「知り合い、なんですか?」

京太郎「俺のバイト先のお子さん」

衣「子供じゃない!」

京太郎「はいはい、今度一緒に飯食おうぜ」

衣「わーい!」

咲「すごく仲良い……」

京太郎「お前もなに萎縮してんだよ。いつもはもっとゴッてしてるだろ」

咲「し、してないもん」

衣「いいや、間違いなく衣と同じ妖異幻怪の気形だ」

咲「き、きぎょう?」

京太郎「また身も蓋もない表現を……」


咲「さ、さっきからなんですか! いくらなんでも年上に失礼だと思うんだけどっ」


衣「むっ?」

京太郎「いやいや、こいつは高校二年生だ」

咲「えっ!?」

京太郎「信じられないことにな」

衣「どういう意味だ!」


ハギヨシ「ここにいましたか」


京太郎「ハギヨシさん!」

ハギヨシ「お久しぶりです、京太郎くん」

咲「こ、この人……いきなり現れたように見えたんだけど」

衣「衣の執事だ。その程度容易い」

京太郎「俺の師匠だしな!」

咲「えぇ……」

ハギヨシ「お騒がせして申し訳ありません。龍門渕家に仕える萩原と申します」

咲「あ……宮永咲です」

衣「宮永……なるほど」

京太郎「ハギヨシさんはこいつを探してたんですか?」

ハギヨシ「お嬢様がたが心配しておられたので」

京太郎「なんだ、お前も迷子だったのか」

衣「ううん、咲に会いに来たんだ。面白そうな気配がしたから」

京太郎「お前のセンサーは中々だな。まぁ、うちのは純然たる迷子なんだけど」

咲「わ、私もただならぬ気配を感じて……」

京太郎「はいダウトー!」



「よし、全員いるな?」

「あの、桃子さんが……」

「ああ、それなら……蒲原」

「んー、ニオイ的にかおりんの後ろだな」

「えっ?」クルッ

「バレちゃったっすか」

「ひゃっ」

「相変わらずの神出鬼没……」

「睦月もモモも揃っているな」

「わはは、ユミちんに仕切り役を取られたぞ」

「えっ、部長って加治木先輩じゃなかったんすか?」

「……ユミちん、後輩が厳しい」

「さぁ、普段が普段だからな……ん? あれは……」



京太郎「ただいまー……って、みなさんどしたの?」

久「あんたの交友関係に呆れてたとこ」

美穂子「龍門渕の部長とも知り合いだったなんて……」ジトッ

透華「衣も一緒ですわね。余計な手間が省けて結構」


華菜「お命頂戴っ」


京太郎「てい」ピシッ

華菜「いったぁ……お、女の子に手をあげるなんてっ」

京太郎「そんなお前に正当防衛という言葉を贈ろう」

華菜「くっそー」

一「相変わらず君の周りは賑やかだね」

京太郎「枯れ木も山の賑わいってか?」

一「それ多方面に喧嘩売ってるよね」

京太郎「はは、冗談だって」

まこ「とりあえず場をおさめてくれんかの。うちの一年坊の機嫌が斜めになってきた」


和「……」

咲「……」

優希「?」モグモグ


京太郎「いや、そんなこと言われてもな」

まこ「大体あんたが原因じゃろうが」

京太郎「えぇー」

純「そうそう、うちのお嬢様も無視されてキレかけてるし」

智紀「衣もご立腹」


透華「ムッキー!」

衣「ふんだっ」プンプン


京太郎「モテる男はつらいぜ……てか、あれは既にキレてるっていわないか?」


「取り込み中のところ悪いが、少しいいだろうか?」


京太郎「タイミングが非常に悪いっ。もう少し後に――って、お前……」

「久しぶりだな。最後に会ったのは三年前だったか」

京太郎「加治木ゆみ、だよな?」

ゆみ「覚えててくれてなによりだ。須賀京太郎」

京太郎「ここにいるってことは、大会に?」

ゆみ「その通りだ」

京太郎「そっか……俺の高校も出てんだ」

ゆみ「ならどこかであたるかもしれないな」

京太郎「それまでは生き残れよ」

ゆみ「君のチームにも負けないさ」

京太郎「言ってくれるねー」

ゆみ「それじゃあ、私は戻るよ」

京太郎「おう、またな」


京太郎「ふぅ、思いがけないやつに出会っちまったぜ」

久「京太郎?」ガシッ

京太郎「……久ちゃん、肩痛い」

美穂子「京太郎さん……」シュン

京太郎「みほっちゃんも精神攻撃は勘弁してくれ……」



「わはは、今の知り合いか?」

ゆみ「中学校の頃のな」

「ユミちんに男友達がいたなんて驚きだぞ」

ゆみ「友というほど深いつながりだったのかどうか……でも」

「でも?」

ゆみ「元気な姿を見て安心したのはたしかだな」
最終更新:2015年06月05日 22:44