アットウィキロゴ
 不思議な夢を見る。
誰かが私の隣を歩いている。誰だろう?

「…行こう、ゆたか」

 お姉ちゃん?みなみちゃん?どちらでもない。
その人は私に笑顔で手を差し伸べ、ここから動けなかった私を連れ出してくれる。

「どこに?」

 その人に尋ねる。
彼は笑顔のまま答えてくれないけれど私にはわかるような気がする。
私が知らない場所へ。いつかは私が知るその場所へ。

「いずれ、わかるよ」
「…はい」

 そう。いずれわかる――私が辿り着くその場所は。

「……か」

 昼休みも終わり間近。
何をするわけでもなく、ずーっと窓の外を眺めている。

「ゆ…か?」

 校庭の隅には菜の花が黄色い花を咲かせている。
桜もつぼみをつけ始め、もう少し経てば綺麗な花を咲かせてくれるはず。
あの桜色に染まった世界をまた今年も歩けるのだと思うと楽しみで仕方がなかった。

「ゆたか」
「!?……は、はいっ?」

 それでもう何度目だったのか。
みなみちゃんに呼ばれていることにようやく気付いて私は顔を上げた。

「ご、ごめんね。ぼーっとしちゃってて」
「いや、いいけど…楽しそうだね」
「楽しそう?」

 今考えていたことが顔に出ていたんだろう。
これからのことを考えるとつい笑顔になってしまう。

「そうだね。もうすぐ桜が咲くから」
「桜…ゆたかは桜が好き?」
「うん、大好き。私が一番好きな色でもあるの」

 今年はこなたお姉ちゃん達とお花見に行く予定。
できたらみなみちゃんも誘いたいな。それから…それから――あの人も。

「男先輩と二人で花見か…そうか」
「ふえっ?な、なに言い出すの!」
「いや、言ってみただけ」

 わかってる…絶対わかってるよ…

「うう~」
「ゆたか、男先輩が来てる」
「えっ?」

 反射的に顔を上げて廊下に顔を向ける。
ああ、確かに先輩が来てる…けど誰に用なんだろう?  

「……」
「…私?」

 私に向けて小さく手を上げている…のかな。
他に反応している子はいないし、みなみちゃんも「行ってらっしゃい」と手を振ってる。
と、とりあえず行けばわかるよね。

「えっと…私に用ですか?」
「ああ、ごめんな。この前借りた本を返しに来たんだ」
「あ、はい。どうでした?」
「……」

 なんでそこで黙り込むんだろう。
も、もしかして何か怒らせるようなことしたかな…?

「徹夜だったんだ…」
「え?」
「さっきまで爆睡してた」
「え、ええ?」

 よく見れば目が少し赤い。
ついさっきまで寝ちゃってたのは本当なんだろうな。

「何が言いたいかというと、そうなっちゃうくらい面白かった。ありがとう」
「は…はいっ」

 男先輩から本を受け取る。
私が薦めた本を楽しんで読んでくれたことがとても嬉しかった。
寝不足になっちゃったのは…その、ちょっと申し訳なく思うけど。

「あの、先輩。これ、実は続きがあるんです」
「続き…続編があるんだ?」
「はい」
「それなら借りようかな…いやしかしまた寝不足になるのは…」
「あの、別に今日じゃなくてもいいんじゃ?」
「…そうだな」

 昼休み終了の予鈴が鳴り始める。
クラスのみんなも戻って来始めたところで本の続きはまた今度ということになった。

「ゆたかちゃん」
「はい」
「その、うん…他人行儀に先輩って呼ばなくてもいいから」

 顔を背けながら目だけはこちらを見て。
男先輩…じゃなくて男さんは私にそう言った。

「――はい。男さん」

 笑顔でうなずき、それじゃまたねと自分の教室に戻っていく。
…呼び方が変わっただけでなのに何かが大きく変わった。そんな気がした。

「お楽しみだったね」
「うひゃっ!?」

 男さんの去っていく後姿を見つめていたすぐ後ろでみなみちゃんが妙に
楽しげに呟いた。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2008年07月01日 02:03