ピンポーン!
俺が携帯を折りたたむ頃には、もう玄関のチャイムが鳴っていた。
ガチャ
「よう、かが――」
「今日、みゆきも来ることになってたのね?」
玄関を開けると、かがみが寂しさと怒りを混ぜ込んだような暗い瞳でこちらを見ていた。
「……いや、高良さんは突然来たんだよ。……確か、サプライズ作戦とか言ってたな」
「そう……油断したわ。あの子がそんな策を使ってくるなんて。正攻法以外の手も知ってたのね……」
「……お前、さっきのメール……高良さんがうちに来てたこと知ってたのか?」
「今朝、男の家の近くで偶然みゆきを見つけて、ね。まさかとは思ったけど、案の定あんたのアパートに入っていったから、時間をずらしたのよ」
「気持ちはわからないでもないけど、そこまでしなくても……」
「いやよ!私は男と二人っきりになりたかったの!むしろみゆきにも感謝してほしいくらいよ。私が時間をずらしたおかげで男と二人っきりになれたんだから」
そう言うと、かがみは体を俺に押し付けてきた。
抱きつくような形で俺を家の中に押しやり、玄関の戸を閉めた。
「だから、今度は私の番、だよね?」
「かがみ……」
「できれば、もうみゆきの番は来ないでほしいな……」
ずっとかがみのターン……か。
「……まあ、とりあえず上がれよ」
「って言うか、全然元気そうね」
「ああ、おかげさまで」
仮病ですから。
「あ、これ、おみやげ。ここのプリン超美味しいんだから!感謝しなさいよ!」
靴を脱いで振り返ったかがみは、俺に紙の箱を渡した。
「お、おう!さんきゅ!」
そう言えば、昨日、メールでかがみにプリンをリクエストしたんだったな。
さっき高良さんのプリンを食べたばっかりだけど……
……って、あ!
リビングには、高良さんにもらったプリンが残っていた。
食べ終わったカップが二つ。さらに残り二個の手作りプリン。
「……なにこれ?」
「……高良さんからのおみやげ」
「………」
冷え切った目で高良さんのプリンを見つめるかがみ。
まるで汚いものでも見るような目だった。
「……えして……」
「え?」
「返して!私があげたプリン返して!」
「ちょ!?どうしたんだよ?かがみ!」
「なによ!?私、バカみたいじゃない!みゆきは手作りのプリンを持ってきてたのに……私は買ってきたのなんて……」
「べ、別に俺は手作りだからいいとか、買って来たやつだからダメとか、そんなこと全然思ってないって!」
「ウソよ!そんなの手作りのほうがいいに決まってるじゃない!」
「ウソじゃないって……だ、大体、かがみがくれたこのプリンの所有権はすでに俺に移ってるんだぜ?こいつらを返そうが返すまいが俺の勝手ってことだ」
「むむ……!」
「なあ、落ち着けよ。これ一緒に食おうぜ?超美味しいんだろ?俺はプリンならまだまだ食べれるぜ!」
「……それなら……捨てて」
「は?『返して』の次は『捨てて』か?往生際の悪いやつめ!」
「違う!みゆきのプリンを捨てて!」
「おいおい……」
「私の買って来たプリンを食べてくれるのなら、みゆきのプリンはいらないでしょ?」
「……お前んちの親は『食べ物を粗末にするな』って怒らないのかよ?」
「……怒る……けど……でも、見たくないの、それ。みゆきが、男のために作ったものなんか……見たく……ないの」
「……わかったよ。捨てはしないけど、これは片付ける。かがみの目に付かないところに。さ、一緒に『かがみの』プリンを食おうぜ!」
「……わかった」
「コーヒーでいいか?」
「うん、ありがとう……なんか、ごめんね……」
「まったくだ。いつもつかさちゃんの前でお姉ちゃんしてるかがみんはどこに行ったんだよ?」
俺は努めて明るく言った。
「私だって……いつもお姉ちゃんやってるわけじゃないもの。甘えたい時くらいあるわよ」
濡れたような瞳でこちらを見つめてくる。
「私は男にもっと甘えたいのに……もっと男に私のこと見てほしいのに……どうして邪魔が入っちゃうんだろ?」
「………」
「大体おかしいよね?みゆきは一度、男のことフッてるくせに。今更手作りプリン持って一人でお見舞い来るなんて、まるで男のこと好きみたいじゃない?」
「あの、かが――」
「でも、一度フッてるんだからそんなはずないわよね~?あはは、そうよ、きっとあの子、男のこと弄んでるんだわ!普段はおっとりしてるように見えるのに……ホント人って見かけによらないわよね?男は騙されてるんだよ!」
「……高良さんがそんな人じゃないことは、お前のほうがよくわかってるはずだろ!?俺の話を聞いてくれ、かがみ!」
かがみはビクッと体をこわばらせる。
つい声が、大きくなってしまった……
「俺……高良さんにも告られたんだ。日曜日に」
「え……!?だって、この前はフラれたって……」
「そう確かに、俺は一度高良さんにフラれた。でも、それはどうも俺のことが嫌いだったわけじゃなくて、高良さんにそんな経験がなかったから、どうしていいかわからず拒絶してしまったって感じみたいなんだ。日曜日に、そう、つかさから話を聞いたかもしれないけど……あの日つかさとも駅前の本屋で偶然会ったんだけど、そのあと高良さんと待ち合わせをしてて話をしたんだ。その時に……」
「そう……それで迷ってるのね?私を選ぶか、みゆきを選ぶか……」
「うん……まあ……」
「みゆきが男を迷わせてるのね?」
「でも、それは……かがみにも同じことが言えるわけであって!」
「うふふ。まあ、いいわ。恋に障害はつきものだもんね。悠二をゲットするには吉田一美は邪魔ってことよね?うふふ。うふふふふふふ」
かがみの言葉の後半部分はよくわからなかったが、
そのかがみの笑いには、背筋を冷たくさせる何かがあった。
最終更新:2008年07月06日 13:46