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 高良さんのことを下の名前で呼んだ。

 敢えてそうした。

 それが持つ意味は、俺が考えていた以上に大きかったらしい。

 高良さ、いや、みゆきは一瞬怯えるような顔になっていたが、次の瞬間には顔を赤くして俯いていた。

 表情は良くわからなかったが、冷たく無表情だった顔に熱が戻ってきていた感じがした。

 ……かがみはほとんど放心状態だった。

 立っているのがやっとといった感じで、ぼんやり俺のほうに顔を向けていた。




「ごめん……かがみと二人で話がしたいんだ」

 俺は高良さ、いや、みゆきに向かって言った。

「でも……」

「頼む」

「……わかりました。取り乱してしまって……すみません」

「いや、きにすんな。先に昇降口で待ってて。すぐに行くから」

「はい」


「かがみ……」

「………」

「……俺に言いたいことあったら、今のうちに全部言っといてくれないか?」

「………」

「本当にごめん……」

 何も言わないかがみに対して、謝る以外に言葉が見つからない。

「………」

「………」

 沈黙。

「……あんな、みゆき初めて見た」

 唐突にかがみが口を開いた。

「え?」

「あんなこと言うみゆき」

「ああ……」

「それだけ本気ってことかしらね……」

「ああ……」

「あんた、苦労するわよ。あんたはこれからみゆきと喧嘩するたびにああいう風に言われるの」

「………」

「それで後悔するの、『やっぱりかがみと付き合ってれば良かった』って」

「……かもな」

「でも、その時は私はすでにもっといい人と付き合っていて、あんたもっと後悔するの。『なんで俺はあんなにいい子をフッちまったんだ』って」

「後悔先に立たずってやつだな」

「ホントよ!バカな男!」

 それはむしろ明るい口調だった。

「バカバカバカバカバカバカ!」

「………ごめん」

「ホントよ!ぶっ飛ばしてやりたいわ!」

 いつもみたいに……
 いつもの軽口を叩き合っている時みたいに……

 ……でも目にはまた涙が溜まっていた。




「いいぜ」

「え?」

「気が済むまで。かがみの気が済むまでぶっ飛ばして良いぜ」

「……武器の使用は許可されているのかしら?」

「……できれば素手でお願いします」

「しょうがないわね。じゃあ、目を閉じて、歯を食いしばって」

「いきなり顔かよ!?」

「グーで行くわよ」

「はいはい」

 言われたとおり、俺は目を閉じて歯を食いしばった。

 ギュッと……

 ………

 ………

 あれ……?

「――チュッ」

 唇に何か柔らかいものが当たった。

 唇?

 柔らかいもの?

「はむっ……むぐっ……」

 ――って!おい!?

「――ッ!?む、むぐっ!?」

「ぷは。あ、こら!目を開けるな!」

 ゴン!!

 グーでやられた。

「痛ってえ……」

「ねえ」

「ん?」

「昨日よりも……初めてのキスよりも……緊張しなかったわ、うふふ」

「……ぶっ飛ばすんじゃなかったのか?」

「そうしてあげても良かったんだけどね……いいじゃない、記念にってことで!」

「……そんなもんなのか?」

 俺は、心臓が破裂しそうなくらい鳴ってたのを、必死に隠していた。

 俺も二度目だったが、全然慣れない。

 というか、いかん。いかんぞ!

 心が揺らいでしまったら負けだ!

「あのさ、男……」

「ん?」

 俺は息を整えながら返事をした。

「だめだよ。私、男のこと諦められそうにない……」

「………」

「ごめん、男のこと困らせて。ホント嫌な子だよね、私。みゆきにああ言われてもしょうがないわ」

「ごめん……友達としてなら歓迎だが、それ以上は……」

「嫌だ」

「即答かよ!?頼むから……」

「……ッ。……ふぅ。……わかった。おとこのそばにいられるなら、今はそれでいい。それで我慢する」

「ごめん……」

「でも忘れないで、いつでも準備できてるってこと。うふふ、キャンセル待ちね」

 俺は飛行機の座席か……?

「……わかったよ。あと、かがみ……勝手は承知で言うけど、できれば高良さんとも……」

「……みゆきって呼んであげなよ。さっきみたいに」

「あ、えと、じゃ、みゆきともこれからも友達として……」

「それは……、今は無理かも……」

 ……だよな。

 でも……

「でも、やっぱり仲良し4人組はそのままであってほしい。みゆきにも言っとくから……じゃないとこなたやつかさちゃんに悪いし……」

 おとといのこなたとの電話を思い出す。

「わかった……私も一応努力はするわ」

「ありがとな。……みゆきも多分わかってくれると思う」

「あの子、男の言うことには従うとかなんとか言ってたもんね」

 皮肉っぽく笑うかがみ。

「あ~あ、それにしても、自信あったのにな~!フラれちゃったな~!」

「……ごめん」

「男ってば、キスもしてくれたのにな~!」

「……本当にごめん」

「んもう、それ以上謝らないでよ!逆に惨めになってくるわ」

「……ごめ」

「ほら!」

「あ……はは。じゃあ、ほら、こなたにでも慰めてもらえよ」

「はあ!?あんた、バカァ?」

「……?」

 柊・カガミ・ラングレー

「あいつにこんなこと相談できるわけ無いでしょ!?絶対、笑われるし!あいつはゲームの中でしか恋愛なんてしなさそうだし!そもそも、こなた相手じゃなくもこんなこと、誰にも言わないわよ!この私が、『告ったり』、『フラれたり』なんてこと……」

「そ、そっか……」

 顔を真っ赤にして怒鳴るかがみ。

 でも、良かった。いつものかがみに戻りつつある。

 例え、カラ元気だとしても。

 今は……良かった……

 まあ……俺のせいなんだけど……

 そしてかがみは大きく息を吐いて、言った。

「じゃ……私、もう行くね」

「うん……じゃな」

 そう言うとかがみは小走りで去っていった。

 ごめんな、かがみ……

 かがみの背中を見送り、俺はかがみとは反対方向に。

 みゆきの待つ昇降口のほうへ。

 歩き出し、校舎の角を曲がって――








 ――そこには、

 昇降口で待っているはずのみゆきがいた。

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最終更新:2008年07月12日 23:24