「なぁ、ひぃらぎぃ。 休憩しようってヴぁ」
「なに言ってんの。あんたさっきから全然進んでないじゃない!」
「う!?」
「みさちゃん、もうちょっと頑張ろ?」
「ううう、あやのまで……せっかくひぃらぎが構ってくれるようになったってのに、勉強ばっかじゃつまんねぇよぅ」
今日、私は峰岸の家に勉強に来ていた。日下部も一緒だ。
そう、こなたの家ではなく、こっちに……
今頃、あっちではみんなで勉強していることだろう。
こなたとつかさとみゆきと、もしかしたらゆたかちゃんや……男も。
「そう言えば、柊ちゃん、ここ何日か私達とずっと一緒だけど泉さん達のほうはいいの?」
「あ……えーと……」
「こら!あやの!よけーな事言うなってヴぁ!せっかく背景コンビから格上げになりそうなチャンスなのに。これを機にひぃらぎをあのちびっ子達の手から取り戻すんだってヴぁ!」
「そんな大げさな……それに、背景コンビ云々の話は一人でキャラソン出したみさちゃんが言うことじゃないよね?」
「……う!?もしかして、あやの、そのこと根に持ってる?」
「ううん、全然(笑顔)」
う~む、これは、根に持ってるわね、峰岸の奴……
それにしても、正直この二人とのこういうやり取りも高校に入ってからはずいぶん減ってたし、なんだか懐かしい気もする。
……今はこなたやつかさ、なによりみゆきや男の前にはいたくないし。
最近、私は少しおかしい……らしい。
自分のことなのに『らしい』って言うのもおかしな話だけど、自覚症状がイマイチ無いからしょうがない。
数日前から、線路に落ちそうになったり、気がつくとハサミを握り締めてて、隣でつかさが泣いてたり……その他にも、目が虚ろになってたり、訳のわからないことを時々口走ったりしてるみたい。
確かに、時々頭がボーっとなって、身体から魂が抜けるような感覚に襲われることはあるけど……
特に……男のことやみゆきのことを考えると……
私、どうしちゃったんだろう?
やっぱり、男の子とまだ引きずって……るのかな……?
いや、だめよ。だめ!
もう、男のことはきっぱりと吹っ切らないと!
つかさにもこなたにも心配かけちゃうし。
それに……男もきっと迷惑よね……
……ついでにみゆきも。
でも、吹っ切ろうとすればするほど、
心配かけまいとすればするほど、
心が、その弾力を失っていくような気がした……
「……らぎ?……なあ、ひぃらぎってば?」
「……あ?え?ごめん。聞いてなかった」
「どうしたんだってヴぁよ?ボーっとしちゃってさ?」
「あ、いや、ちょっと考え事してて……」
「……ふ~ん」
「別に対した考え事じゃないわ。それより勉強は進んだの?」
「……やっぱり、傷ついたんだな……?傷つけられたんだな……?(ボソッ)」
「え!?」
今、何て……?
『傷つけられた』って言った気が――
「あ、柊ちゃん?ごめん、ここがちょっとわからないんだけど……」
「え?あ、うん。どこどこ?」
……峰岸には聞こえなかったんだろうか?
それとも私の空耳……?
「あ、私も同じと怖からないから教えて!」
日下部は、さっきまでの高めのテンションに戻っている。
「日下部、あんた……」
「おおーっと!あやのには教えて、私には教えないなんて無しだぜ?」
「………」
「どったの?」
「いや……なんでもないわ。えっと、ここはね、何ページか前に出てた公式を使って――」
夕方。
私と日下部は峰岸の家をあとにした。
「ひぃらぎぃ、一緒に帰ろうぜ!」
「あ、悪い。私ちょっと寄ってくとこあるんだ」
「え?どこ行くんだ?」
「えっと……」
……あれ?
どこだっけ?
どこかに行かなきゃと思ってたんだけど……
「えと……あ、そうそう。晩御飯の買い物よ。頼まれちゃっててさ」
口からでまかせを言った。
思い出せない。
でも、このまま日下部と一緒に帰っちゃいけない気がする……
一人で、どこかに行こうと思って……
「ふ~ん……すげぇな、ひぃらぎは。私は家の手伝いなんか全然してねーや」
「まあ、うちは小さい頃から手伝うのが当たり前みたいな感じだから」
「ひぃらぎはきっとイイお嫁さんになるな!」
「ちょ!?なに言い出すのよ、いきなり!?」
「いや、別にぃ」
「ったく。それじゃね」
「あ、ちょっと待って……」
「ん?何?」
「……いや、やっぱいいや」
「……?」
日下部とはそこで別れた。
私はどこに行くつもりだったのか……?
思い出せないまま、でも家に帰るわけでもなく彷徨うように歩いていた。
歩きながら、ふと、さっき日下部が口にした言葉を思い出す。
『ひぃらぎはきっとイイお嫁さんになるな!』
お嫁さん……
ふいに男の姿が脳裏をよぎる。
「違う!違う!男のことはもう吹っ切るのっ!」
思わず頭をぶんぶんと振る。
と、その拍子にかばんをぶん!と放り投げるような格好で落としてしまった。
かばんの中身がいくつか道に散らばる。
「あっぶな……周りに人が居なくてよかっ――ん?なにこれ?」
かばんから飛び出して道に散らばったものの中に見慣れないものがあった。
大きなハサミ。
お母さんが裁縫で使う、布地裁断用の大型のものだ。
「何これ……?私こんなもの入れた記憶ないけどな……」
ハサミを拾い上げた。
その時……
………あ、そうだ。
私、行かなきゃ。
男のところに……
最終更新:2008年07月26日 11:44