「それでは泉さん、お邪魔いたしました」
「こなちゃん、ばいばーい!」
「うん、二人ともありがとね~ 特にみゆきさん! ホント助かったよ。宿題手伝ってくれて!」
「いえいえ、お安い御用です」
「それにしてもかがみん、結局来なかったね…… ここ最近様子が変だし心配だよ……」
「うん…… お姉ちゃん、何か悩んでるみたいなんだけど…… 私達に話してくれないし……」
……ここでも、かがみさんの話題ですか。
男さんといい、お二人といい……
「まあまあ、お二人とも、そう心配なさらずに。今日だってクラスのお友達とお勉強してらっしゃることですし。それに普段からつかささんや泉さんが気にかけてらっしゃるんですもの」
「う~ん、そうだね。あんまり私達が心配しすぎるのもかがみんに気を使わせちゃうかな?」
「わ、わたし、またお姉ちゃんの様子がおかしかったら二人に連絡するから、そのときはまた相談に乗ってね?」
「もっちろん」
「ええ、お安い御用です」
泉さんの家を出た後、私はつかささんと別れ、私は一人であるところに向かいました。
あるところ…… もちろん男さんのところです。
男さんのためにお野菜中心のおかずを作ったので、それを渡しに。
家でお母さんがご飯を作ってくれているので、男さんと一緒にお夕飯という訳にはいかないのが残念ですが……
「男さんは、いつもコンビニのお弁当ですものね。本当に栄養の偏りが心配です…… うふふ、男さん喜んでくださるでしょうか?」
美味しいと言ってくださる男さんの姿を想像するだけで優しい気持ちに包まれるような感覚が私の身体に広がっていきます。
男さんの家の近くまでバスで向かい、最寄の駅で降りたその時……
「あら……?」
道の反対側、逆方向に向かうバス停に見知ったその姿を見つけました。
「男さんと…… かがみさん!?」
いつもと髪型が違っていたので認識に時間がかかってしまいましたが、間違いありません。あれは、かがみさん!!
「な!? どうしてお二人が!? あ、あの、男さ――」
声をかけようとしたその時、無情にもあちら側のバス停にバスが停まり、お二人の姿が見えなくなってしまいました。
「ちょ、ちょっと待ってください!!」
考えるより身体が先に動いていました。
キキーッ!!!!
プアァァ!パパーッ!
「ゴルア! ねーちゃん! いきなり飛び出してくる奴があるか!? 死にてーのか、テメー!!」
思わず、道路に飛び出した私。
「す、すみません……」
車に轢かれそうになってしまいました。
「ったく、気をつけろや!」
そうこうしているうちに男さんとかがみさんの乗ったバスは行ってしまいました。
「あ、ああ……」
ぐちゃぐちゃにありそうな頭を必死で制御しながら、近くの横断歩道に回り男さん達のいた反対側のバス停へ……
お二人が乗ったバスは…… 駅に向かうバス。
次は…… 8分後。
8分。
その時間がこんなにも長く感じたことが、これまでの人生の中であったでしょうか……?
『一日千秋』という言葉がありますが、その時の私には1分が千秋に感じられました。
その1分1分が、明らかな悪意を持って私の自制心を蝕んでいく。
心の侵蝕。
……そのときの私には、はっきりとそう感じられました。
最終更新:2008年07月29日 16:59