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「男…… ホントに…… ホントにごめんね」

 左右で長さの変わってしまったツインテールを解き、うまくごまかすように片側括りにした髪。

 そして申し訳なさそうな眼。遠慮がちな視線。

 駅の改札の前で、別れ際にかがみは言った。

 さっきからもう何回謝られたかわからない。

「ああ、もう気にすんな。この通り、指もちゃんと付いてるしな。それにこっちこそ、包帯巻いてくれてありがとな」

 あのあと、俺の家で応急処置をした。

 自分ではうまく包帯を巻けない俺を見かねて、かがみが包帯を巻いてくれた。

 かがみも、お世辞にも上手とは言えなかったが……

 傷のほうは、幸い縫ったりする必要もないみたいだ。

「ううん、私が悪いんだもの。当然よ……」

「とにかく、謝るんだったら、今後このようなことがないよーに! しっかり自分を律してくれたまえ!」

「ゔ……すみません」

「まだ不安なようなら、カウンセラーの先生を紹介するよ。前の学校でサッカー人生オワタ\(^O^)/ になったときに保健の先生が紹介してくれた人がいるから。ま、俺は結局行かなかったけど」

「それで問題起こして転校する羽目になったのよね」

「……そんな軽口が叩けるようになったんなら、もう心配いらねーな。ほれ、とっとと帰れ」

「なによ~ 失礼ね!」

 そう言って、かがみは改札をくぐった。

 そして振り返る。

「ホントありがと。私、もう負けない。もう甘えない」

「ああ、頑張れ」

「男、みゆきのこと幸せにしてあげてね」

「ああ…… 合点承知!」

「うん…… じゃあね……」

「気をつけて」







 かがみには『カウンセラー紹介する』なんて言ったが、あいつはもう大丈夫だろう。

 別れ際のあいつの眼を見てはっきりそう思った。

 しっかりとした「柊かがみ」の眼をしていた。

 ……そんなことを考え、痛む右手を時々さすりながら、バス停へ向かう。









 ……そこに彼女はいた。

 息を弾ませ。

 額に汗を浮かべ。

 メガネがわずかにずり下がっていた。

「あ、あれ!?みゆき!?どうし――」

 ガッ!

「おっと……」

 いきなりみゆきにタックルを…… じゃなくて、いきなりみゆきに抱きつかれた。

 それも結構な勢いで。

「ど、どうしたんだよ?」

「男さん…… 男さん…… お願いです。どこにも行かないでください……」

 みゆきの震える声。

「……どこにも行かねーよ」

 驚きはしたものの、悪い気はしない。

 俺はみゆきの頭をなでる。

 それにしても、みゆきのこの行動、このタイミング……

「本当ですよ! かがみさんのところに何か行かないでください。お願いしますお願いしますお願いします」

「……行かねーよ。さっき俺とかがみが一緒にいたとこ見たんだな?」

「はい…… お二人で一緒にバスに乗るところ見て…… それで私……」

「心配いらねーよ。かがみと話をつけてたんだ、きっちりと。俺が選んだのはみゆき、あいつもそれをわかってくれたし、あいつの様子が変だっていうのももう大丈夫だと思う」

「ほ、本当ですか……?」

「ああ! それよりどうしたの? 今日はこなたやつかさちゃんと勉強してたんじゃ?」

「あ、あの、これをお渡ししたくて。男さん、きっと今日もコンビニのお弁当でしょうから…… 野菜のおかずです」

「わざわざ、そのために? いや~ ホントにありがとう!」

「あら? その手…… どうされたんですか?」

 おかずの入った容器を受け取る手にみゆきが目を留めた。

「あ、いや、これは…… はは、かがみと…… ちょっとあってさ、はは……」

「かがみさん!? かがみさんに怪我をさせられたんですかッ!?」

 みゆきが急に大声を出す。

 驚きの中に、明らかに怒気が混じっていた。

「あ、でも、俺の自業自得なところがあったし。血は出てるけど、指はちゃんと付いてるし……」

「ゆ、指はちゃんと付いてるって……!? 一体何をされたんですかッ!?」

「あ~ ちょっと欠陥製品v.s.人間失格の再現というか、なんと言うか……」

「?? 何があったにせよ、男さんを傷つけるなんて……」

 みゆきの顔がどんどん険しいものになっていく……

「許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許s」

 何かの呪文のように繰り返すみゆき。

 ……しまった、言い方が悪かったか?

「みゆきッ!!」

「……!! ご、ごめんなさい」

「あ、いや…… 謝らなくてもいいよ。それより俺は大丈夫だから! なあ、時間があるならうちで一緒にご飯食べない?」

「あ、いえ…… うちで母が夕飯の準備をしていますので……」

「そっか…… まあ、時間も遅いしね」

 日はもうすっかり落ちている。

「ええ…… それに用事もできましたし……」

「用事?」

「あ、いえ、なんでもありません」

「そっか。じゃ、これで」

「はい…… 失礼しま――!?」

 俺はみゆきを抱き寄せた。

「……た、たまには、ほら、俺から……な?」

「嬉しいです…… 私、頑張ります……」

「そだ、明日ゴールデンウィークの最終日だし、ヒマだったらどっか遊びに行こうぜ! この前のデートは何かアレだったし……」

「え!? やった! 嬉しいです!」

 みゆきの顔がにわかにほころぶ。

「ただ、やり残した事があるので、また明日、改めて連絡しますね。なるべく今日中に終わらせますから」

「……? そっか、それなら連絡待ってるから」

「はい、失礼します!」

 駅の改札でみゆきを見送った。

 手はまだ痛んだけど、俺の心は晴れやかだった。

 ゴールデンウィークも残り一日。

 今度こそみゆきと楽しいデートだ。

 ヌフフ……

 ニヨニヨ……






 ――そう、そのまま、ゴールデンウィークが平和なまま、終わってくれたらどんなに良かったことだろうか……

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最終更新:2008年07月31日 14:58