「ダメだね、私…… こんなこと言って」
「え?」
「ゆきちゃんのこと、来ても来なくてもいいみたいな言い方して…… 来てくれたこなちゃんや男くんにも失礼だし……」
「いや、別に俺は……」
「お父さんがね、親しい人に連絡しなさいって言って。こんな時間に駆けつけてくれてありがとう。お姉ちゃんも喜んでると思う……」
親しい…… か。
「俺、まだみんなと会って一ヶ月くらいだけど……?」
「ううん、会ってからの時間は短かったけど、お姉ちゃんも、私も……男くんのことお兄ちゃんみたいに思ってたから……」
『お姉ちゃんも』か……
かがみは、つかさちゃんにそんな風に言ってごまかしていたのかな?
何も知らないつかさちゃんに対して、ひどく申し訳ない気持ちになった。
「本当はお姉ちゃんのクラスのお友達にも連絡しようとしたんだけど、連絡先がわからなくて…… ケータイは警察の人が持って行っちゃったし……」
「………」
「つかさ…… そろそろいいかい?」
席を外していたかがみとつかさちゃんのご両親とお姉さんたちが戻ってきた。
お父さんらしき人がつかさちゃんに声をかける。
俺とこなたは帰ることにした。
お通夜の予定と、警察から話しを聞かれることになるかもしれないということを伝えられ、それから『かがみはいいお友達に恵まれた』といったような言葉をかけられて、俺たちは霊安室をあとにした。
病院の廊下を歩き、敷地を抜ける間お互いに何も話さなかった。
「じゃあ……」
「うん……」
病院前でこなたと別れた俺は、ただでさえ小さいこなたのさらにしぼんだような後姿を見送った。
そのあと、歩きながら携帯電話を取り出す。
かける相手はもちろん、
みゆきだ。
トゥルルルルルルルル……
トゥルルルルルルルル……
トゥルルルルルルルル……
トゥルルルルルルルル……
「……留守番サービスセンターへ接続します。」
ピッ!
くそっ!!
どうしようもなく嫌な予感……
一度芽生えた疑心暗鬼の心はなかなか消えてくれなかった。
『許せない……』というみゆきの言葉を思い出す。
それは俺の手の傷を見たときにみゆきが放った言葉……
あの時のみゆきの目……
あの時感じた、冷たい手で背中を撫でられたような悪寒……
いやいや、落ち着け、俺! そんなことがあるはずない!
みゆきが、みゆきが……
……かがみを殺したなんて!
そんなことあるはずがない。
何てことを考えているんだ、俺は!
あの優しいみゆきが、そんなことッ!
大体、今日はこれから俺とデートする予定じゃないか!
そう、デート。
でも、あのみゆきの言葉……
『用事』
『やり残した事』
『なるべく今日中に』
いやいやいやいやいや!
全部ただの妄想だ!!
俺のお茶目な想像力の産物だ!
「……留守番電話サービスに接続します」
これで何度目だろう?
何度かけてもつながらない。
一言だけでいい。
一言だけ、みゆきの優しい声を聞けば、そんなことないんだって実感できるはずなんだ!
でも…… つながらない。
何でだ!?
人を殺してしまって…… それどころじゃないから?
ダメだ、悪いほう悪いほうへと考えてしまう。
疑心暗鬼が加速する。
何だ、これ?
雛見沢症候群か!?
L5か!?
落ち着け、俺!!
おはぎに針なんか入ってないんだ!
喉を掻きむしっちゃダメなんだ!
時報はもう嫌だッ!!
……頭がどうにかなりそうだった。
俺はつながらない電話をかけ続けた。
家に帰り着いたあとも……かけ続けた。
連絡網を引っ張り出してみゆきの自宅の電話にかけようかと思ったが、こんな時に限って見つからない。
こなたにでも聞こうと思ったそのときに、俺は、携帯がベッドの上で震えているのを視界の端に捉えていた。
最終更新:2008年08月04日 02:03