「手を打ったって……!? みゆき、まさか…… やっぱり、かがみを!?」
みゆきは答えなかった。
代わりに、俺が落とした傘を拾い上げこちらに寄せてきた。
「風邪をひきますよ?」
にこりと微笑む。
「質問に答えてくれッ!!」
思わず怒鳴ってしまった。
俺はベンチから立ち上がり、みゆきから距離をとる。
「かがみを殺したのかッ!? みゆきがッ!?」
「……もう、いいじゃないですか。いなくなった人のことなんて」
「どうして!? どうしてそんなことを!?」
「さっきも言った通りです。男さんを傷つけたのが許せませんでした。私の男さんを……」
息が詰まりそうだった。
みゆきに、怪我のことを正直に話すべきじゃなかった……
激しい後悔が俺の血を逆流させる。
「あ、あれは事故みたいなもんで……!」
「事故ですか? でも事故だとしてもそこには加害者と被害者が存在します。かがみさんが加害者、ですよね? だから……」
だから殺した!?
そんな理由で!?
友達を!?
……かがみは以前、俺に言った。みゆきのことを『何かほっとけない感じがあったのよ』と。
中学時代にいじめられて、環境を変えるために都内から埼玉の陵桜学園に進学したみゆき。
最初は友達なんて一人もいなかったに違いない。
そんなみゆきに手を差し伸べたかがみ。
そのかがみが、
手を差し伸べられたみゆきに!?
しかも、その真ん中にいるのは…… 原因になったのは……
俺!?
膝が震えるのを感じた。
口の中に胃液のすっぱさが込み上げてくる。
「そんな!! だからって…… そんな理由で友達を殺したのか!? かがみは大切な友達だったんだろ!? 地元の高校を避けて、陵桜に来て、それでも不安だったみゆきにできた最初の友達だったんだろ!?」
「最初の…… 友達?」
「そうさ! 俺もみゆきと同じだからわかる。陵桜に転入してきて、でも前の学校でのことが頭から離れなくて…… 『心機一転がんばるぞ!』なんて口では言ってても、不安で…… そんな時にこなたやつかさちゃんや白石、もちろんみゆきとかがみも、友達になってくれて、俺、マジで感謝してた!」
多分、そんなの普通のことだけど、俺やみゆきにとってはその『普通』が『特別』だったんだ。
「みゆきだってかがみに感謝してたはずだ! 壁を作っちゃうだなんて言ってたけど、うまく伝えられなかっただけで本当は思ってたはずだ!! かがみのこと大事な友達だって!!」
「………」
みゆきは何も答えない。
友達の死を知ったというのに、冷たく、感情のこもっていない眼。
俺は走って逃げ出したい衝動を抑え、その眼をまっすぐ見据えた。
一瞬の沈黙。
そしてそれは唐突に途切れる。
「何を仰っているんですか?」
みゆきが小さな声で言った。
「かがみさんは邪魔者。男さんが私を見てくれないのはかがみさんのせい。でも、我慢しました。男さん言いつけに従って。でもかがみさんは男さんに怪我を負わせる始末。そんな人が大事なお友達?」
静かなプレッシャーを放つ声。
「男さんは本当にお優しいんですね。本当に」
雨が、
「私…… もっとその優しさを私の方に向けてほしかったんです」
ますます、
「かがみさんがいなくなって、私『これで男さんは私のことだけ見てくれる』そう思いました。本当に、本当に嬉しかった」
激しさを増す。
「これで男さんの優しさは私だけのもの。そうなるはずなのに……」
いや、これは…… 雨か?
違う、雨に打たれているのは立ち上がっている俺だけだ。
みゆきはベンチに座って傘を差している。
じゃあ、みゆきの頬を伝うのは……
「……どうして? どうして、ますます男さんの優しさから遠ざかってしまうんでしょう……?」
……みゆきの目からは、降りしきる雨に負けないくらいの大粒の涙がこぼれていた。
「どうして……? どうして……?」
最終更新:2008年08月06日 15:04