「ヴぁあああああああああああああああ!」
日下部さんが悲鳴を上げる。
みゆきは躊躇なく日下部さんの腕をへし折ったようだ。
こんなに…… 簡単に……
しかし、日下部さんもすぐさま身体を反転させ、立ち上がった。
落としたナイフを無事なほうの右手で拾う。
痛みに耐えながら、みゆきを睨む。
「やりやがったな…… 畜生! てめえのせいでひぃらぎは…… 私の大好きだったひぃらぎは!」
「日下部さん…… かがみさんの敵討ちですか?」
「気をつけろみゆき! 日下部さんが…… かがみを殺したんだ!」
『じゃあ、みゆきは?』というさっきの疑問は頭から吹っ飛んでいた。
「……? おかしいですね? 大好きなのに手にかけてしまったんですか?」
「うるせえ! おまえなんかにゃわかんねーってヴぁ! ブッ殺してやる、ピンクわかめ!」
「ええ、わかりません。だってそんなの最大の禁忌でしょう? 愛する人を傷つけるなんて…… そんな人には私負けませんよ?」
「負けない? 笑わせんなこのガリ勉女!」
日下部さんが再びみゆきに突っ込む。
今度はさっきよりも…… 速い!
陸上部の本領発揮.
部活をやってる人間とそうでない人間の運動能力の差は、思った以上に大きい。
元サッカー部の俺は身をもって知っている……
唸りを上げたナイフの刃が――
――みゆきの肩口に突き刺ささる!
しかし、それは服を切り裂いただけだった。
さっきよりも数段速い突きもみゆきは見切っていた。
そのまま突っ込んで来た日下部さんの勢いを利用して投げ飛ばす。
日下部さんは変な方向に曲がった左腕を激しく打ち付ける形で地面に落ちた。
響き渡る金切り声。
言葉で表現できないような悲鳴を上げた。
「日下部さんくらいの方でも続けられるんですから、陸上部って楽なんですね」
吐き捨てるようにみゆきは言った。
「愛する人のために力を行使するならともかく、力を行使して愛する人を傷つけるなんて、それはやはり禁忌ですよ?」
日下部さんは倒れたまま動かなかった。
「言ったでしょう? 私は負けません、と」
高良みゆき……
……強い
最終更新:2008年08月10日 15:24