『うー…眠い…。さすがに徹夜はやりすぎたかな…。』
青い髪の少女がフラフラしながら、駅のホームで電車を待つ。
ちょうど、紫色の髪の二人の少女が階段を上がりプラットホームに現れた。
つかさ「こなちゃん、おはよー!」
かがみ「おはよ、こなた。」
こなた「おはよ、つかさともう一人。」
かがみ「だから、略すなっ!!」
つかさ「こなちゃん、すっごく眠そうだよ?大丈夫?」
こなた「いやー昨日も盛り上がってさー」
かがみ「またゲームか。」
こなた「さすがかがみん。鋭いねー」
かがみ「あんたの生活サイクルはゲームかアニメしかないのか!」
青い髪の少女――こなたにとって、ごく普通の日常。
こなたにとって、今ある日常はかけがえのないものだ。
こなたは生まれて間もなく母親を病気で失って以来、父親と二人で暮らしてきた。
父親であるそうじろうは(かなり個性的であったが)、それなりに娘の気持ちが暗い方向へ行かないように努めてきたし、その親戚(そうじろうと比べればかなり常識的な)はちょくちょくこなたの元に来て一緒に遊んだ。
しかし、それでもやはり補えない違和感を抱え、成長していったこなたが、初めて心の違和感を拭えたのは、友達の存在だった。
元来明るい性格であったこなたは、いじめなどとは無縁な位置に居たが、彼女のクラスで、僅かではあるが、いじめの存在があった。
スポーツが苦手で少し暗い男の子――名前は男と言ったが、こなたは自分と正反対のその少年が気になる存在となっていた。
母親が居ないという、自分ではどうしようもない運命のような物を、生まれつき手渡されていたこなたにとって、その少年の性格が社交的で無い、という事は『個性』程度の問題でしかなく、他のクラスメイトとは違い、自然に男と接する事が出来た。
しかし男にとっては、そのこなたの対応は奇異なもので、結果初めて心を開ける存在となった。
男のその反応は、こなたにとっても初めてのもので、自分に対して心をすべて開いて来る男の存在は、かけがえのないものとなった。
おそらくそれは、母親が娘に心を全て開くように、男がこなたに心を全て開いた事で、こなたがどうしても手に入れられなかった感覚を、感じる事が出来たからであろう。
二人が、お互いを、取り換える事の出来ない存在と自覚し合えた時、こなたは『さいたま』という街に引っ越すこととなった。
こなたにとっても男にとっても、それは余りに突然で、こなたは父親に引っ越しの訳を聞くひまは無かった。
こなたはかけがえの無い物を二度失って(父親の影響や元々の趣味もあったのだが)、少しずつインドアな生活が身についていった。
しかし、大切な友達であった男の事は、新しい友達が出来ても忘れる事はなく、その気持ちは『新しい友達を大切にする気持ち』となって生き続けていた。
新しい大切な友達――かがみ、つかさ、みゆき。
十時を過ぎた頃、ネトゲー仲間のななこ先生(独身)が言う言葉で視線を黒板に向けた。
ななこ先生「……遅刻してきた男君や。……」
『…男…?』
こなたの脳裏には『フラグ』という言葉がよぎった。
いくつかの、こなた自身にしか分らない慎重なアプローチを経て、転校生は自分の中の『男』と一致した。
思い出は美化されるものだが、それを上回るほど、男は優しさを保ったまま、強く変わっていた。
こなたは男の様子を見て、一つの決断を出した。
男が自分のことを、彼の記憶の中の『泉こなた』と一致させてくれる日まで、自分からは言わない。何度も「私のこと、覚えてる?」と言いそうになったが、我慢した。
しかしもし、男が自分に気づいてくれた時は………。
男が転校してきた次の日、みゆきさんが家に遊びに来て、家の中で行方不明になっていたケータイが発見してくれた。
ピッピッピッ…
久しぶりにケータイをいじるこなた。
『じゃ明日…っと。』
『ありがとう、みゆきさん…!!!』
わんこシティに行った日の夜。
こなたは普段、親友のかがみにさえもめったにしない電話を男にした。
こなた「(昔みたいに)宿題教えて、てゆーか写させて。」
こなたは男の性格をよく知っていた。男は長期休みに入った時点で大抵もうすでに宿題を終えている。
男「駅まで行くから何時に待ち合わせする?」
『計画通り!!!』
こなたの中の夜神月が微笑んだ。
ゴールデンウイーク最終日。
こなた「………。」
無言で男の家のインターホンを押しまくるこなた。顔がにやけそうになるのを必死で抑えていた。
男「早すぎる。」
寝ぐせをつけたままの男が玄関に現れると、跳び付きたい衝動に駆られたが我慢した。
アキバの雑踏の中で今にも迷いそうな男が冗談ぽく「置いてかないでぇ」と言うと、こなたは「早くしないと色々まわれないよ!!」と急き立てるふりをして、男の手を引いた。無論、男の顔は一度も見なかった。
男「荷物持ってやるよ。」
何気ない言葉が、こなたの気持ちを上空から引き戻した。
『マズイ、完全に浮かれてたよ。』
ゴールデンウイークが終わった最初の火曜日。
こなたの中の男は、空いていた時間を簡単に埋めるほど輝いて、埋めるに飽き足らず、溢れ始めていた。
こなたはゲマズでラノベの新巻をチェックすると、もう時間が八時近いことに気づき急いで家路についた。
こなたは、今まで自分がしたことが無いスキップをしていることに驚いた。
でも、そのスキップは、男の姿を見つけて止まった。
男は、女の子と手を繋いで歩いていた。
女の子はこなたのよく知っている、こなたの親友。
柊つかさ。
最終更新:2008年06月29日 03:28