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私が最後に思い浮かべた顔は…男さん…。
…好きだった。
…本当に好きだった。
出来る事なら皆さんと一緒にいたい。
でも男さんともう会えなくなることは、それ以外の何よりも辛い。
だから私が最後に思ったのは、男さん。
…私は間違っていますか?
…ワタシハマチガッテイマスカ…?
みゆきが光の粒のようになって消えた部屋で、一人佇む『ゆーちゃん』は相変わらずの笑顔だった。
ゆーちゃん「高翌良先輩がどっちを選ぶかなんて分かってましたよ?」
ゆーちゃん「また私に楽しい未来を見せてくださいね?」
ゆーちゃん「ずっと見てますから。」
もう一つの部屋をいくつかの『記憶』たちが通過していった。
そして少し遅れて男の記憶も、もう一つの部屋に辿り着いたらしい。
ゆーちゃん「やっぱりそっち行っちゃったんだね。」
ゆーちゃん「でもまあ高翌良先輩は私のもの。」
ゆーちゃん「私は『記憶』を代償にするけど、その代わり『忘れ』られても効果は消えない…マクスウェルとは違ってね。」
『ゆーちゃん』はもうその形を留めてはいなかった。
不定形の塊になった後、部屋の幾何学模様に溶け込んでいった。
ピンポーン
こなた「こんにちはー」
男母「はいはい、あらこなたちゃん。男は今ちょっと図書館に行ってるわよ。」
こなた「あ、そうですか…うーむ」
男母「…せっかく来てくれたんだし、うちで待ってる?アイスあるわよ?」
こなた「やった!」
図書館。
男の座っている席には『薬理学』や『抗生物質』といった文字が書かれた本が積まれていた。
男『やっと分かってきたよ…』
男『前の世界で父さんが殺された理由が…』
男『あとはこなたが引っ越すのを阻止するだけ…』
男『大丈夫、まだ時間はある。まだ一年以上…』
男はマクスウェルの告げた『ある一地点』を回避するため、図書館で情報収集していた。
こっそりと父と母のアルバムを見てこなたの両親との関係を知った。
また、こなたの母の死が不審であることを綴った父のノートを見つけ戦うべき相手を理解した。
男は一度はあの惨劇は夢なんじゃないかと思った。
しかし男の脳裏に焼きついた、あの雨の日の屋上の光景は、それが夢じゃないことを男に教えた。
男はこの夏休みを、自身の知識を伸ばす事に費やすことにした。
『見た目は子供!頭脳は大人!!』をそのままで体現している状態となった男だが、まだ知識が足りないと感じた。
敵はおそらくみゆきさん…と言うより高良総合病院。
みゆきさんは俺やこなたを庇って死んでしまった。
たぶんみゆきさんは知っていた。
知っていて、それでも尚俺たちの味方になってくれたんだ。
多少は罪の意識があったのかもしれないが…。
こうやって戻ってくるまで、みゆきさんの実家が近くにあったなんて気づかなかった。
もしかしたら、俺やこなたは幼い頃みゆきさんに会っていたのかもしれない。
『そろそろ帰るか…』
男がそう思って本を閉じると、目の前に顔を真っ赤にした女の子が立っていた。
女の子「あっ…あの……難しい本…読んでるんですね……。」
男「………」
女の子「あの…男さんですよね…?私…隣のクラスの…高良…みゆきです。」
俺の目の前に現れた女の子…
ピンクの髪…
眼鏡をかけていなかったし、口調も若干幼くて違和感を感じた。
でも、その女の子は間違いなく高良みゆきだった。
俺はとっさに本を隠した。
みゆき「あのっ…いっつもすごく難しい本読んでますね…その…私も本を読むのは好きなんです………尊敬しちゃいます///」
『…そうだよな。この頃のみゆきさんが…こなたの親の事なんて知ってるはずないよな…』
少し顔を赤くして喋るみゆきさんからは、俺が前に体験してきた凄惨な結末を感じさせるものはなかった。
男「あ…うん。俺の父さんがしてる仕事の本読んでたんだ。実は俺もよく分からないんだけどね。」
みゆき「そ…そうなんですか…」
男「……」
みゆき「あのっ…!」
男「え?」
みゆき「私と……お友達になってください…!」
再び、少しずつ、歯車が狂いだす…。
みゆき「実は私もこの図書館でよく本を読むんです。」
男「そうなんだ。」
みゆき「だからずっと気になってたんです…その…隣のクラスの男さんがいつも同じ図書館で本を読んでることが。」
みゆき「…やっと、声をかけられました///」
男「あ…うん…。みゆきさんは…『高良』って言うんだよね?もしかして高良総合病院と関係あるの?」
みゆき「えっ?!…はい…実家です。…その…よく分かりましたね。」
男「うん、結構珍しい名字だからもしかしてって思ったんだ。」
みゆき「男さんは…洞察力もすごいんですね…///」
実際は精神年齢に大きな差がある。
俺はこの時期のみゆきさんと仲良くなっておけば、いざという時味方になってくれるんじゃないかと考えた。
向こう側のように悲劇的でなく、みんなが、少なくともこなたとみゆきさんが納得できるゴールが見えるんじゃないかと思った。
男「みゆきさん。」
みゆき「は…はい!」
男「二学期からよろしくね。」
みゆき「…はい!」
俺は気づくべきだったのかも知れない。
少し顔を赤くして、今まで見たことないくらい嬉しそうに微笑むみゆきさんの、本当の気持ちに。
男「ただいまー」
こなた「お帰りなさいませご主人様。」
男「…」
こなた「…」
男「母さーん」
こなた「ちょwww無視wwww」
男「なんでいるんだ…?」
男母「男が帰ってくるの待ってたんじゃない。ねえ?」
こなた「ニヤマリ」
男「…そうか。」
こなた「え?」
男「宿題だろ?」
こなた「……えっとぉ…何のことやら…?」
男「…(さすがに小4じゃ切り返しが洗練されてないな)」
こなた「お…おとこぉ…」
男「ま、とにかくお互いの進行状況を見て決めようじゃないか。」
俺はちょっと悪い顔で笑うとこなたと共に自室に戻った。
…それにしてもなんか調子が狂う。
俺の記憶の中のこなたは、俺を守ってくれる強い存在だった。
だけど今の俺とこなたの関係はそれとは違う気がする。
…まあ全面的にこなたに勝ってるってのも気分悪くはないけど、高校生の知識の俺が相手でしかも前の記憶がある俺じゃフェアじゃない。
…そしてそれ以上に未来が変わるのが怖い。もちろん俺は未来を変えるために今ここにいるんだと思う。でも変えるべきなのはあの惨劇で、出来る事ならそれ以外はあのままでいたい。
もうすでに柊姉妹との友情は許されないだろう…もちろんこなたの引っ越しを止められればだが。しかしその事が既に俺を追い詰める。
つかさと…かがみにはもう会えない、会ってはならない。
…でもその未来は俺だけでなくこなたにも強要しているのだ。
…本当に正しかったのか…
こなた「お…男………怒ってる?」
怪訝な表情を浮かべていた俺の思考をこなたがぶった切った。
男「あ…い…いや、それはお前のノートを見てからだな!」
こなた「う…男ー私を見捨てないでーーー!」
稜桜の制服を着ている時と比べ、髪が短いこなたがちょっとおどけて言う。
いや、たぶん5%くらいは本気なんじゃないか。
『俺はお前を見捨てないよ…だからココに居るんだ』
“小学生らしく”それをこなたに伝えることは、今の俺には難しすぎた。
一通り宿題を一緒にやって(ほぼ俺のレクチャーだったが)、麦茶を飲みながらこなたとしゃべる。
男「なあ…『高良さん』って知ってる?」
こなた「ん…?誰?聞いたことあるような…」
男「隣のクラスの『高良みゆき』って人。」
こなた「…知らない。なんで?」
男「今日さ、図書館で勉強してたら話しかけられたんだ。」
こなた「ふーん…。」
男「『高良総合病院』って知ってる?」
こなた「あーあのでっかい病院だよね。」
男「うん。高良さん、あそこの子なんだって。」
こなた「ふーん。」
男「家近いみたいだし、今度三人で一緒に勉強とかしない?」
こなた「………」
俺は『しまった』と思った。ここは『遊びに行かない?』だろ…小学生的には。
でも、どうやら俺の予想と違うところで、こなたの表情は不機嫌になった。
こなた「なんかさー…」
男「うん。」
こなた「あんまり知らない人と急に一緒にはなー」
俺は直感で分かった。こなたは嫉妬してるんだ。前に高校生だった時の様な激しいものではないが、幼い恋の障害となると直感的に感じる嫉妬。
こなたの気持ちはちょっと嬉しかったが、あの惨劇はみんなのこういう気持ちから生まれたはず。
…でも、俺は『この世界』でただこなたと一緒にいるだけではダメだ!
こなたの引っ越しを防がなければならない。少なくとも前の世界でみゆきさんとのフラグは立っていなかったはず。みゆきさんは文字通り最後まで俺たちのことを心配してくれた。
…きっとみゆきさんなら、また俺たちの味方になってくれるはず。
少なくとも俺が描くシナリオでは、みゆきさんがこちら側にいてくれた方が『高良』と戦うのに有利だと思う。
そのためにはこなたとみゆきさんが親友でなければならない。
…あちら側と同じように。
俺はちょっとむくれっ面のこなたの頬をつついた後、俺の中で『俺たち三人』が一緒に遊べる算段を立てることにした。
夏休みも終わりに近付いていた。
男母「あら男、おはよう。」
男「おはよ、かあさん。」
男母「相変わらず早いのね。規則正しい生活できててえらいぞ。」
男「いや、せっかくの夏休みなのに遅くまで寝てたらもったいないじゃん。」
男母「フフ…そうね。朝ごはん出来てるわよ。」
男「あ、ありがと。」
…そう。勿体無い。
時間は無限ではないのだ。
あと二年弱で決着がつく。
その先も、こなたと一緒に過ごせるかどうかが。
朝食を食べて少し時間が経つと、俺はいつものように家を出る。
男「じゃあ遊び行ってくるね。」
男母「ちゃんと水筒持った?今日も暑くなるから気をつけてね。」
男「うん、行ってきます。」
見送る母さんの姿が小さくなると、自転車を一気に加速して図書館までの道を急ぐ。
俺は夏休みの殆ど全ての日を図書館で過ごしてきた。
さすが日本の首都の図書館。
俺が見たいと思っていた本は、嫌になるくらい所蔵されている。
高校生の頭を持っている俺にとって、『薬学』のコーナーに並ぶ本たちを読むのに苦労は無かったが、それは『漢字が読める』と言う意味を逸脱しておらず、初めは薬学辞典や百科事典と共にそれらを読んでいた。
しかし夏休みが半分を過ぎていた頃、それらの本を読むのに辞書は要らなくなっていた。
さながら大学受験を控えた高校生のように、ひたすら知識を得、それを反芻した。
そうやって培われた知識は又、膨大な本の中から読むに値する本を選ぶ能力をつけ、更なる時間の短縮を助けた。
併せて、古典文学、歴史、時事に至るまで―もちろん受験生や大学生が学ぶであろうそれと比べれば量は少なかったが―『一般教養』と言われるものを身につけた。
もしかしたら何かの折に役立つかもしれないからだ。
何せ相手はあの『高翌良総合病院』。
知識はあった方がいい。
夏休みが終わるまであと10日程。
正直、得るべき知識は飽和状態に近付いていた。
だから夏休みが終わる直前に、父さんに日記を見たことや、それによって今まで『高翌良』と闘ってきた事を知ったという事を打ち明けようと思っていた。
俺がうまく立ち回れば、父さんたちは『高翌良』に対して危険なアクションは起こさないかもしれないし、さらにうまくいけば、こなたの父親にも自然な形でコンタクトをとれるかもしれない。
そうすれば、こなたの引っ越しを止められる可能性は一気に上がる。
―おそらく、こなたの父親は何らかの『高翌良』の弱点を掴んだ。そして『高翌良』に挑んだ。結果は芳しくなく、そのため泉家は逃げることを余儀なくされた。
…それが俺の予想であり、おそらくそれは当たっているだろう。
『高翌良』に挑むのは、その時ではない。
もっと情報を得て、逃げ場をなくす。
少なくとも今彼等がやった作戦は失敗に終わった。なぜなら泉家は『未来』に引っ越したのだから。
俺が『未来』を知っている分、そこにアドバンテージがある。
…そして、無理なら諦めてもらう。
それは親たちにとってつらい決断だろうが、そうする事で誰も死なないならその方がいいに決まってる。
凡そ小学生らしくない事を考えながら自転車を図書館の駐輪場に滑り込ませた。
知識の吸収が飽和状態であっても、今の俺にはここに来る理由があった。
俺は本棚からティーン向けの文庫本をとった。
理由は二つ。
今日は読書感想文を書くこと。
…そしてもうひとつの理由が、読書コーナーで同じく文庫本を読んでいた。
男「みゆきさん。」
みゆき「ひゃっ!」
みゆきさんは、図書館の中と言う事でか、抑えた声で驚いた。
みゆき「お…おとこ…くん…。」
みゆきさんの呼び方に若干違和感を覚えたが、みゆきさんの表情を見るとそれは、早く仲良くなろうとする努力の表れだという事を理解した。
俺にとってもそれは嬉しい。
早く向こう側みたいに仲良くならなければならない。
男「早いね、いつもこんなに早くからいるの?」
みゆき「う…うん。私、本好きなんです…。おとこ君もいつも早くからいますよね。」
男「うん。知ってたんだ。」
みゆき「あ…!あの…!その…!そうじゃなくて…ぐ…偶然見てたんです!……あっあのっ!おとこくんは今日はどんな本読んでるんですかっ?!」
男「あ…うん。読書感想文のために、コレ。」
そう言って手にある文庫本を見せる。
慌てるみゆきさんの行動に多少の違和感を覚えたが、今日もみゆきさんが図書館にいた幸運をチャンスに変えるため、ごく普通に振舞った。
ごく普通の会話の後、俺はみゆきさんの隣で文庫本を読み始めた。
みゆきさんは時々チラチラとこちらを見る。
いつもと毛色の違う本を読んでいることが珍しいんだろうか。
もし聞かれたら、ごく自然に返す返事を考えていたが、その類の質問は出なかった。
読み終わり、原稿用紙に感想を書く。
あくまで『小学生』らしく。
こういう作業は、俺にバーローの気持ちを理解させた。
原稿用紙を三枚ほど埋めると俺は伸びをしてみゆきさんの方を見た。
みゆきさんもちょうどこちらを見て、目が合った。
男「みゆきさん。」
みゆき「はいっ!」
男「あ…ごめん、驚かせた?」
みゆき「大丈夫です!気にしないでください!」
男「あのさ、いつもずっと図書館いるの?」
みゆき「えっ?!…あの…そういう日もあります…その…夢中になると時間がどんどん過ぎて行ってしまうので…。」
男「うん、そうだよね。」
みゆき「はい…。」
男「昼ごはんは家に帰って食べるんでしょ?」
みゆき「はい、いつもは昼ごはん食べてから来るんですけど、今日は午前中から来てしまいました。…その……なんとなく、おとこ君に会えるような気がして…。」
そう言ってみゆきさんは少し顔を赤くした。
…どうやら俺はみゆきさんに、第一印象で嫌われてはいないようだ。
これからの事を考えるとそれはとてもいい事に思えた。
男「あのさ。」
みゆき「は…はい。」
男「良かったら今度一緒に夏休みの宿題見せっこしない?…いつもは幼馴染の友達とやってるんだけど、三人いた方がいい気がするし。」
みゆき「いいんですか?」
男「みゆきさん頭良さそうだし、一緒にやってくれたら助かるなーって…。ダメ?」
みゆき「は…はい!是非一緒にやりましょう。」
明日図書館で一緒にやる約束をした後、俺とみゆきさんはそれぞれの家に昼食を食べに戻った。
昨日の昼と同じそうめんを食べると、俺はこなたの家に電話した。
トゥルルルル…
トゥルルルル…
トゥルルルル…
ガチャ
こなた「もしもしー、泉ですー。」
男「あ、こなた?」
こなた「おとこー?うん、そうだよ?どしたの?」
男「あのさー午後一緒に遊ばない?」
こなた「おけー。どこで?」
男「こなたはどこがいい?」
こなた「うーん、うちでゲームしない?」
男「いいよ。じゃあ何時に行けばいい?」
こなた「何時でもー。」
男「じゃあ30分位したら行くね。」
こなた「おけー!待ってるー。」
少し経って、俺は家を出た。
ピンポーン
こなた「はーい」
こなたが顔を出した。
男「よっ。」
こなた「男、ヤフー。」
男「あれ、おじさんは?」
こなた「うーん、朝原稿を出しに行ったまま帰ってこない。たぶん電車で寝て乗り過ごしてるね。」
男「そ…そうか。」
二人で格ゲーを始めた。
プレステのでかいハードに違和感を覚えながら画面のキャラを操作する。
男「くそッ…相変わらず上手過ぎる…」
こなた「…ほんとはナコ●ル使いなんだけど今作では操作キャラじゃないからなー…」
男「あ、こなた。」
こなた「んー?」
男「こないだ言ってた『高良さん』なんだけど…。」
こなた「…ん?」
男「今日午前中図書館で勉強してたんだけどさ、また高良さんに会ったんだ。」
こなた「…ふーん。」
男「それでさ、明日辺り一緒に勉強しようかって事になったんだけどこなたも来ない?」
こなた「うーん…」
男「…高良さんってさ、すごい頭いいみたいだよ。宿題の答え合わせも兼ねてさ。」
こなた「…でもさ、男はいいけど私は初対面だし突然行ったら迷惑じゃないかな?」
俺はこなたの意外な反応に驚いた。こなたは自分が“迷惑”なんじゃないかと言っている。
フツーの小学四年生はそんなこと考えない――俺の常識はそう言っている。
何となくこなたの事を尊敬できた気がした。
こなたは自分勝手な様で、意外にも空気を読んでいる風な事があった。
『母親を早くに亡くした』その事がこなたを早く大人にしたのかも知れない。
男「…そんな事ないよ。ちゃんとこなたの事は高良さんに言った。」
こなた「えっ?!そーなの?」
男「うん…こなたがいた方が楽しいし。」
こなた「……!!!?なっ!!何言ってるんだよー!!」
いかんいかん…つい本音が出てしまった…
こなたはまだ小四だぞ…
男「まっ…まあ、みんなでやった方が楽しいしさ!」
こなた「うー…」
男「じゃあ、明日来てくれるかなー?」
こなた「いいともー」
翌日。
俺とこなたは自転車で図書館に向かった。
“こなたにしては”早い時間に図書館に着いた。
一時を過ぎて、今日はみゆきさんももう帰ってるかもしれないと思ったが、果たして、みゆきさんはそこに居た。
男「あ…こんにちは。」
みゆき「あ…お、おはようございます!」
男「こ…声大きいよ?」
図書館の読書室にいた人はみんなこっちを見ていた。
みゆき「あっ…!ご……ごめんなさい…。」
男「う…うん大丈夫。」
みゆき「あの…隣の方は…前言っていた幼馴染の方ですか?」
男「…うん。幼馴染の『泉こなた』だよ。」
こなた「ふおッ!」
こなたは突然自分に話が振られたので驚いた様だった。
みゆき「よろしくお願いします、泉さん。」
こなた「あ…よろしく…えと…」
男「あ……『高良みゆき』さんだよ。」
こなた「う、うん。よろしく、みゆきさん。」
みゆき「よろしくお願いしますね。」
みゆきさんは、にっこり笑ってこなたに挨拶した。
俺はその様子を見て少し安心した。
こっちのみゆきさんも、“向こう”と変わらず優しい。
こなたもそうだ。
きっとうまくいく…きっと。
俺の思い描いていたストーリーはゆっくりと進んでいく。
多少のノイズはものともしない。
なぜなら俺の強い意志が“みんなの幸せ”を願ってるはずだから。
出来る事なら誰も不幸にはしたくない。
“向こう側”から戻ってきて、何となく感じる。
誰も悪くはなかったんじゃないか。
みゆきさんの両親だって、怖かっただけなんじゃないか。
…そう思うようになってしまった俺は甘いのかも知れない。
それから何日か経った。
俺とこなたとみゆきさんの“図書館デート”はあれから続いていて、こなたとみゆきさんの仲もそれなりに仲良くなった。
無論俺とみゆきさんも仲良くなった…と思う。
夏休みもあと一週間で終わりとなった日、俺は“準備”の第一段階が終わった事を感じた。
そして“準備”を第二段階にすべく、俺は次の作戦を開始した。
男「父さん、母さん、話があるんだけど。」
男父「ん?どうした?」
男「ちょっと真面目な話なんだ…。」
男母「…?」
その日の夕食の後、俺は両親に『核心』を突いた。
こなたの母親のこと。
俺が父さんの日記を見て、その事を知ったこと。
“いつか”のために俺が勉強したこと。
俺が『未来から来た』なんて言ったって親たちは信じないだろう。
でも『高良』と戦うためには、俺が舞台に上がらなければならないのだから。
舞台に上がらなかった未来で、俺たちは『悲劇』を迎えた。
俺が話し終わったとこで、父さんは神妙な面持ちになった。
母さんも不安そうな顔つきをしている。
男父「………知ってしまったか……。」
男母「あなた…」
男父「いや…最近男の様子がおかしいと思ってたんだ…妙に落ち着いてるというか…」
男「父さん、母さん、…しようとしてる事は大体想像がつく。何年か掛けて証拠を探す、そしてマスコミなんかに発表する、ちょうどこなたの父親は作家だ。ノンフィクションとして…」
男父「男…分かった。全てを話す…。」
男母「あなた…!」
男父「大丈夫だ。男は…私達が思ってる以上に賢い。」
父さんは喋った。
俺の知ってる“未来”を。
でもそれじゃだめだ…。
男父「…と言う訳だ。…できればお前や、こなたちゃんは巻き込みたくない。」
男「父さん…父さんがそう思っててもきっと俺やこなたは巻き込まれるよ。」
男父「……そう、思うか?」
男「うん。」
男父「…そうか…そうだよな…。」
男「…なあ…俺に作戦があるんだ。」
男父「…?何だって?」
男「実は最近友達になったんだ。」
男母「誰と?」
男「……高良…みゆきさんと。」
男父・男母「…!!」
俺が話し始めてから一時間ほどが経った。
男「…と言う訳で、俺がみゆきさんを説得する。だから、危険を冒す様な作戦は止めない?」
男父・男母「…」
男「父さん、母さん…」
男父「…正直お前の話がうまくいくなら、マスコミに発表するよりも確実だと思う。…マスコミに言う事はある意味でケンカを売ることだからな…。」
男「…どちらにしろ、まだ十分な証拠とかはないんでしょ?…せめてそれまで俺の作戦に賛同してくれない?」
長い沈黙の後、父さんと母さんは首を縦に振った。
その後俺は付け加えた。
出来る事なら、誰も傷つく結末は迎えたくないと。
『家族会議』が終わるころ、時計の針は11時を指していた。
男父「…さて、もう遅いから男はもう寝なさい。」
男「うん。…父さん、母さん…俺の言う事賛同してくれてありがと。」
男父「…信じるさ、自分の息子のことだからな。」
そう言う父さんの言葉を聞いて、母さんは少し伏し目がちになった気がした。
そして母さんは何か言いかけたが、おそらくそれを止めて言った。
男母「…お休み、男。」
第二段階に入った。
男はそう思った。
未来を見てきた男にとっては大きなアドバンテージがあり、それを男はうまく使った。
おそらく、時間は可能な限りうまく進んでる。
しかし、新しい選択は、さらに新しい選択肢を産む。
男が寝静まった夜に男の両親が話していた。
男母「…あなた。」
男父「…分かってる。」
男母「でも…まだ危険じゃないかしら…」
男父「俺もそう思ってた…でも男の言う事が本当なら…」
男母「でもあの子は…何も知らない…」
男父「だからこそだ。…いつか男の言うように、俺たちの作戦が失敗して、俺も、お前も、そうじろうさんも、男も、こなたちゃんも死んで…あの子だけ残されたらどうなる?」
男母「…それは……」
男父「あの子にもちゃんと話そう。あの子はもう大人だ。…きっと分かってくれる。」
男母「…わかりました。あなたと…男の考えに、私も賛成します。」
男父「…うん…ありがとう…かなたさんの無念はきっと晴らすよ。」
男母「…うん。」
男父はそう言うと、立ち上がりどこかに電話をかけ始めた。
男父「……もしもし、夜分にすいません、黒井伯父さんのお宅ですか?」
夏休みが終わる三日前のこと。
俺とこなたとみゆきさんは宿題を終え、3人で市民プールで遊ぶため一旦みゆきさんの家に集合していた。
こなた「あー…」
男「どうした?」
こなた「夏休みも終わりだなーって。」
男「おまえは人一倍遊んだろうが。」
こなた「いやいや、今回は人生で最も勉強した夏休みだよ?!」
男「おま…」
みゆき「うふふ…」
こなた「うおっ?…みゆきさんに笑われた!」
男「当たり前だ!」
みゆき「ふふ…すみません。ただ…二人とも…本当に仲が良いんですね。」
こなた「ふぇ?!」
男「…」
ちょっと赤くなるこなたと、うふふと笑うみゆきさん。
俺は不思議なデジャヴュを感じた。
それを感じる程、俺は頑張らなければならないと思った。
みゆき「あ…そう言えば。」
男「ん?」
みゆき「実は向かいのうちに住んでる子がいるんですが、今日のプール一緒に連れて行ってもいいでしょうか?」
男「うちの学校の子?」
みゆき「はい。学年は二つ下ですが。私にとっては妹みたいな子です。」
男「ふーん…俺は別にいいけど。」
こなた「私も構わないよー。」
みゆき「良かった!じゃあ電話してきますね。」
そう言うとみゆきさんは部屋を出て電話をしに行った。
30分程して一人の女の子がみゆきさんに隠れるようにして、俺たちの前に現れた。
みゆき「みなみさん、男君と泉さんよ。」
みなみ「……こ…こんにちは。」
プールではみゆきさんが連れてきた『岩崎みなみ』ちゃんへの質問攻めだった。
…主にこなたが。
こなたに何を和聞かれるたびに、みなみちゃんは少し恥ずかしそうに俯きながら小さく頷いたり、相槌を打つように返事をしていた。
たぶん元々自分から話すような子じゃないんだろう。
みゆきさんがみなみちゃんと子供プールで遊び始めると、俺はこなたをちょっと窘めた。
男「おい、こなた…たぶんみなみちゃん怯えてるぞ。」
こなた「いやー小さい子は可愛いねぇ。私にもさー従妹に二つ下の子がいるんだけど、何て言うか妹キャラって言うのかな?守ってあげたくなるんだよねー」
男「たぶんお前が男で後5年時間が過ぎれば、犯罪者予備軍だぞ。」
こなた「奇遇だな、男もそう思うか。」
男「…」
こなた「そんなことより、せっかくだから泳ごうよ。」
こなたはそう言うと、体をくるっと回して潜水し、とんでもないスピードで突き進んでいく。
アウトドア発言には今も少し違和感を覚えるが、相変わらず運動神経は抜群だ。
夕方まで四人で遊び、みんな少し疲れたのか帰り道は皆口数が少なかった。
みゆきさんとみなみちゃんの家の前まで来た。
みゆき「今日は楽しかったです。また…学校が始まっても一緒に遊びましょうね。」
男「うん」
こなた「おけー!」
少し沈黙の後、みなみちゃんが小さい声で言った。
みなみ「お…お姉ちゃん、お兄ちゃん…今日は…ありがとうございゴニョゴニョ…」
後半は声が小さくなってよく聞こえなかったが、最後にみなみちゃんは俺とこなたの手をぎゅーって握って自分の家に走って行った。
みゆきさんはニコニコ笑って、こなたはほわーんとしていた。
…きっとみなみちゃんは、すごくいい子なんだろうな…そう思った。
俺はこなたとも別れ、自分の家の玄関を開けた。
――もしその日、おみくじを引いていたら間違いなく『新しい出会い』という一節があっただろう。
正直みなみちゃんとの出会いは“向こう側”では無い物であったが、俺の中でそれほど焦るズレでは無かった。
しかし、玄関を開けて俺の目の前に立っていた人の登場は、間違いなく俺の予想の範疇を超えていた。
玄関を開けてそこに立っていたのは、俺が知るよりも若くて、きれいな……黒井先生だった。
ななこ「…男?」
男「……?!!!」
ななこ「あ…あのね…私は怪しい人じゃ無いんや…その…何から説明していいか…」
俺の心臓が速くなるのを無視して、黒井先生は不完全な関西弁でしどろもどろに説明をした。
気がつくと俺は、リビングで黒井先生とお茶を飲みながら話していた。
ななこ「…でね、私はお前が生まれてすぐに黒井伯父さんの家に引き取られたらしいんや。」
男「…じゃあ…その……あなたは…お…お姉ちゃん?」
ななこ「……うん…。」
男「…いつ帰ってきたの?」
ななこ「今日。お前が、外で遊んでるとき。」
男「父さんと母さんは?」
ななこ「たぶん買い物。」
男「…」
俺はこの事実に初めは衝撃を受けたものの、冷静になって考えると違和感が極めて少ない事に気づいた。
“向こう側”での黒井先生の失踪やあの大量のお金、こなた父と話していたのも納得が出来る。
たぶん、“向こう側”では、黒井先生は情報を収集していたんだ。そして何かの核心をついて…消された。
予感を感じた黒井先生は、弟の俺に父から渡されたお金を託した。
…そう考えるとピースは面白いようにはまった。
ななこ「お…男?」
男「ん?…ああ!ごめん」
ななこ「あんなぁ…信じられないのは分かるけどな…」
男「…信じるよ。」
ななこ「え?」
男「信じる。何となくだけどお姉ちゃんの事覚えてる気がするもん。」
ななこ「…おとこ…」
男「…たぶん父さんたちは姉ちゃんに危険が及ばないように伯父さんに預けたんだよ。」
ななこ「…うん」
男「この前、俺が父さんたちと話したこと、聞いたんでしょ?こなたの家の事。」
ななこ「うん。」
男「たぶん俺の話で父さんたちは、お姉ちゃんを呼び戻したんだよね?…なんだかごめんね。」
ななこ「おっ!…男が謝ることはないんやで…むしろホントの事が分かってよかったなーって思うもの。」
そう言って黒井先生――お姉ちゃんは俺の頭に手をのばして撫でた。
男「…やっぱり黒井先生は…優しかったんだな…」
ななこ「えっ?!」
男「何でもないよ!…お姉ちゃん、お腹すいたね。」
お姉ちゃんは一瞬キョトンとしたが、すぐに笑顔になって「そやなー」とか「父さんと母さんは何してるんやー」とか言いながら悪戯っぽく笑った。
……たぶん、そんなに時間はかからない。
俺と、お姉ちゃんの溝が埋まるまでは。
だって、俺は知ってるから。
『黒井ななこ』は母さんと同じ優しさがあって、“向こう側”でも見えないとこから俺を守ってくれてたんだから。
それからまたしばらくして、親達が帰ってきたとき、何も説明していないはずなのに俺とお姉ちゃんが仲良くしている様子を見て、母さんは目を丸くしていた。
そんな様子を見て、俺はお姉ちゃんと目を合わせ、笑いあう。
……ほら、もう溝なんてない。
俺はこなた達の他にもう一人、守らなければいけない人がいたんだという事を実感した。
家族そろっての夕食の後、俺が風呂に入ろうとするとお姉ちゃんが後ろから抱きついてきた。
ななこ「一緒にはいろーや」
男「なっ!」
待て待て、よく考えたら俺は小学四年生、黒井先生はお姉ちゃん…
俺は出来るだけお姉ちゃんを見ないように一緒に風呂に入った。
そして夜は当然ぬいぐるみにされて眠る。
電気を消したあと、お姉ちゃんは色々と教えてくれた。
今までの人生の事。
そして俺も答えるように自分の事を話した。
記憶は希薄だったが、必死に幼い頃の事を手繰り寄せた。
たぶん話すうちに、俺とお姉ちゃんの距離は、本当の意味での姉弟になったんだと思う。
お姉ちゃんの匂いを感じながら眠りについた。
ラプラスが笑う。
メンバーが揃ったと。
マクスウェルには見守るしかできない。
ラプラス「あはは☆今回はこの四人。誰を選ぶ?」
ラプラス「もう少し先。みんなのフラグが確定したら、安価出すから☆」
最終更新:2008年11月20日 21:10