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 朝9時にあらかじめ決めておいた場所に集合。
…なのに、私達はそろって寝坊していたのでした。

「こ、こ、こなたお姉ちゃん!」

 声を上げながらお姉ちゃんの部屋に飛び込むと、パソコンはつけっぱなしで
ベッドでぐっすり眠っていた。昨夜も遅かったみたいだけど何時頃までネットゲームを
していたのだろう。

「ん~?おはよ、ゆーちゃん」
「おはよう…じゃなくって!」
「ん…ああっ!」

 時間に気付いた?と思ったらそうではなくて視線はパソコンの画面に向いている。
よく見ればこなたお姉ちゃんのキャラクターは「DEAD」表示になっている。
モンスターに倒されて、そのまま朝まで放置されていたらしい。

「おっかしいなー。確かレアアイテム探して戦ってたのに」
「でも、ベッドで寝てたよね?」
「それがわかんないんだよ。たぶん一旦は寝落ちして、ネトゲ放置に気付かず
寝ぼけながらベッドに潜りこんだんだなあ」

 叔父さんが寝落ちしているお姉ちゃんに気付いてベッドに運んで寝かせたとかいうので
なければそれ以外に説明がつかない。

「ところでゆーちゃん、なんで慌ててたの?」  
「うん?えっと、忘れちゃった」
「あはは、うっかりさんだなあ…」

 お互いにそう言いながら視線は壁にかかっている時計に向けられる。
その近くのカレンダーの今日の日付は赤い丸で囲まれていて、その下に「お花見」と書かれ…  

「「わああああああ!」」

 それを見た私達は同時に慌てだす。
お、おじさんも寝てるのかな…起こさないと大遅刻になっちゃう。

「まずい、非常にまずいよ」
「と…とりあえず叔父さんを起こさないと」
「そだね。ああ、かがみんのアイアンクローで今日が私の命日になるのか…」

 縁起でもないことを言いつつこなたお姉ちゃんはタンスから着替えを引っ張り出す。
それじゃ、私は叔父さんを起こしてこなきゃ。

「――こ、こなたあああ!ゆーちゃあああん!」

 と思ったけど起こすまでもなかった。

「おはよう、こなた」
「オ…オハヨウゴザイマス」

 冷や汗をかきながらかがみ先輩に挨拶するこなたお姉ちゃん。
笑顔。笑顔なんだけどそれが私達には恐怖そのものだった。

「それじゃ言い訳タイムいってみようか」
「……」
「言えないの?」

 言えません。ネットゲームしながら寝落ちしてたなんてとても。
ちなみに私は目覚まし時計を気付かず止めて二度寝していた。叔父さんはアラームの
セットを忘れてたとか。

「か…かがみ。そう怒るなよ」
「あら、男には私が怒ってるように見える?」

 見えません――そう、見た目だけなら。

「男には見えるんだね…かがみんの背後に立つ不動明王が」
「こなた、誠意を込めて謝るんだ。まだ死神のお迎えには早いぞ」
「短い付き合いだったけど楽しかったよ、男。お墓はお母さんと一緒がいいな」
「あんた達は私を何だと思ってんのよっ」

 まあまあ、と周りの人達がなだめる間にお花見の準備は終わりつつあった。
どこを見渡しても満開の桜。見上げれば空は雲ひとつなく真っ青だった。

「いい天気になったね」
「うん」

 みなみちゃんと並んで空を眺める。
時折南から吹く風が、散った桜の花びらを空にふわりと飛ばす。 

「はい、それじゃ始めるよー」

 先頭に立って準備していたゆいお姉ちゃんがみんなにグラスを配る。
…あれ、なんかお姉ちゃんのグラスはもう何か飲んだ跡があるんだけど?

「ゆいちゃん、フライングはダメだぞー」
「う…ばれちゃったか。みんな、ジュースとビールついじゃってちょうだい」

 叔父さんに苦笑いされながらゆいお姉ちゃんはビールをついで回る。
こんなに賑やかなお花見は初めてだな。私もかがみ先輩からジュースをついでもらって
お返しにジュースをつぎ返す。

「ありがと。しっかし三人揃って寝坊とはね」
「すみません…」 
「たまにはこういうこともあるわよ。こなたは例外だけど」
「は、ははは…手厳しいなあ、かがみんは」 

 一時間が経った頃、完全にできあがった叔父さん達は隣で花見しているグループに
混じってカラオケ大会を始めてしまっていた。

「あれ?」

 その賑やかな光景を見ている間に、男さんがいないことに気付く。

「みなみちゃん、男さんは?」
「あっちに歩いていった。散歩じゃないかな」
「そっか…」
「追ってみるといい。追いつくと思うから」

 不思議な笑顔でそう言われ、私は席を立って男さんが歩いていった方向に向かう。
今日は朝からあちこちでいろんな人達が花見をしていた。
誰もが楽しそうで、それを見ている私もなんだか楽しくなってくる。

 でも、そんな人達の中でいったい何人がこの桜の花を見ているのだろう。

「――」

 人気のなくなった辺りの広場に立つ、一本の桜の大樹。
その前に男さんは静かに佇んでいた。

「……」

 声をかけていいのかどうか迷う。
寂しそうな、悲しそうな表情でその桜の樹を見上げる彼に。
それ以上あの人に近づくことも出来ずに私はその場に立ち尽くしている。

「やあ、ゆたかちゃん」
「あ…」

 でも、先に彼から声をかけてくれた。
さっきから来ていたことに気付いていたのか、今しがた気付いたのか。
私はゆっくりと歩を進める。

「大きな樹ですね」
「中学生の頃かな。初めてこの樹を見つけて登った時に見た景色は今も覚えてる」
「の、登ったんですか」

 上まで何メートルあるのだろう。
私にはとても登れそうにないこの樹の頂上から見る景色はどんなものなんだろうか。 

「今はあの頃より背も伸びてるからまた感じ方も違うんだろうけど、あの時…
広い空を眺めながら、世界って広いんだなあって思った」

 楽しそうに語る男さん。
いつか卒業して、いつか樹の上から見たこの街の外に広がる世界に出て行くんだろうか。
そこでも…こんな笑顔を見せてくれるのだろうか。

「ま、今登ったら起こられちゃうけどな」
「私も見てみたかったです」
「そうか…見せてあげたいな。たぶん俺しか知らない最高のスポットだ」

 光射す桜の森で、私達は指切りをする。
彼と私だけの秘密の約束。

「今日はみんながいるからちょっと無理だけど、いつかゆたかちゃんに見せるよ。
俺以外誰も知らない、樹の上に広がる世界を」
「はいっ」

 指切りして一度は離れた手が、また繋がれる。

「戻ろうか」 

 彼の言葉にこくんとうなずいて、手を繋いだまま桜の樹を離れる。
私の手を包む大きな温もりが私の心に幸せを運んでくれていた。

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最終更新:2009年03月05日 09:41