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Side かがみ


「ちょっとゲーセン寄ってかない?」


図書館からの帰り道、こなたのその一言で私達は駅前のゲームセンターに来ている。
今日は館内整理だとかで図書館が2時に閉館してしまい時間には余裕がある。
みゆきは用事があるらしく帰ってしまい、男、私、こなた、つかさの四人だ。
今は男とこなたが格ゲーで対戦してるんだけど――


「い、泉さん強すぎ……」

男ボロ負け。まあそうなるわな。
男のゲームの腕は部活の友達や私に付き合って覚えたってぐらいのもので、私ととんとん程度だ。
全くの素人ってわけではないけど、さすがにこなたに勝てるわけはない

「むっふっふ~、まだまだ修行が足りないねえ」

「男じゃ無理だって、私結構こなたに付き合ってゲーセン来てるけど、
この子が負けたとこ見た事ないもん」

「こなちゃんいつも勝ってるもんね」

「むむ……」

あ、なんか悔しそう。
特にやり込んでるわけでもなし、上級者相手じゃ負けて当然ってのは本人もわかってるだろうに、
勝負事には熱くなるというか…結構負けず嫌いなとこがあるのだ、こいつは。
体はすくすく大きくなり、精神的にも同年代の男の子に比べるとしっかりしてて、
どんどん大人に近づいていってように見えるけど、まだまだ子供っぽいところも残ってたりする。

「も、もう一回いいかな泉さん」

「いいよ~、どんどんかかってきたまへ!
誰に喧嘩売ったか教えてあげる! byヨーコ・Y!」

「もうやめときなって…」

「男君ファイト!」

つかさ、いくら応援しても無理なもんは無理だと思うよ



――やっぱり勝てるわけもなく、連敗数が10を越えたところで男はギブアップしましたとさ



――――――――



「そういやこないだ久しぶりに対戦した時かがみが妙に強くなってたけど、
あれ泉さんのおかげだったのか」

「あー、まあそうね」

こなたと友達になってから、あいつに付き合ってゲームをする機会が増えたので
私の腕も多少は上がっている。
こなたには何度やっても勝てないけど。

「通りで勝った方が何か奢る、なんて賭けを自信満々で持ちかけてきたわけだ。
ハーゲンダッツだったっけ? 普通のアイスより高いんだなあれ。あの時はじめて知ったよ」

「高い分おいしいのよ、あんたにも一口あげたじゃない。おいしかったでしょ?」

「む……ああ、まあ」

? 何やら男の顔が赤くなった……。
ああ、あの時私が自分の使ってたスプーンでそのまま食べさせたの思い出したのか。
昔はお互い普通にやってたことなのに、最近こいつもそういうの意識するようになったらしい。
……まあよく考えたらあれって、こないだ私と男が二人してつかさに
やっちゃ駄目、なんて注意した「あーん」そのものだったわけで、男女の役割こそ逆転してたけど。
そりゃ意識もするか。
私はその程度で赤くなったりなんかしないけどね。
十年以上気持ちを隠し続け幼馴染のポジションに甘んじているんだ。
男の前でのポーカーフェイスには慣れっこなのである。

……つかさにはダメと言っておきながら自分はやってるなんてのはダブルスタンダードにも程があるとは思う。
でもあの時、男がつかさに言われるまま「あーん」をしそうになったのを、私は黙って見てはいられなかった。
少し前までなら内心はともかく止めようとまではしなかったのに。
もう子供じゃない、あの時つかさに言った言葉。まさにそのとおりだ。
胸に秘め続けた男への想いは年を重ねるごとにどんどん大きくなり、
思春期真っ只中を迎えた今の私は、つかさと男のふれ合いにすら嫉妬するようになってしまっている。

「……どうした? かがみ」

怪訝な顔でたずねてくる男。
いけない、男の顔を見つめながら考えに没頭しちゃってた。

「あ、ううん、何でもない」

慌てて視線を逸らす。
……男は私の事、どう思ってるんだろう。
さっきの話で赤くなるくらいなんだから、私の事を女として全く意識してないってことはないはずだけど。
こいつのクソ真面目な性格を考えると、意識しているとは言っても
単に年頃の男女として親しき仲にも礼儀あり程度に考えてるというのも十分以上にあり得る。
私はそれだけじゃ嫌だ。
特別な相手として意識してほしい、男にとっての一番になりたい、それ以外じゃ意味がない。
考えたくもないけど、男がこの先私以外の女の子と付き合うようになり、やがて家庭を持つようになったとする。
そうなっても私はきっと男にとっての二番ではいられると思う。
男にとってまず家族のみんなが一番、そして私やつかさが同率で二番。
男が他の誰かを愛するようになっても、最悪二番手の位置だけはキープできるはず。
今までの男との付き合いはそれだけの自信を持つに値するものだ。
きっと男は私じゃない誰かを愛しながらも、幼馴染の親友として私の事も大切に思い続けてくれるだろう。

――でも、そんなんじゃ足りない。幼馴染のまま終わるなんて絶対嫌だ。

子供の頃は、ただ一緒にいられるだけで無邪気な幸せに浸っていられた。
少し成長して、男が幸せなら私が男と結ばれない未来も受け入れられると思えた時期もあった。
――――更に成長した今、もうそんな我慢はできないであろう自分がいる。
男が私以外の女と結ばれるなんて耐えられない。
他の子なんか見ないで、私だけを見て、と、心の底からそう思う。
……これじゃ成長なのか退化なのかわかんないや。
純粋に男の幸せだけを願うなら、私じゃない誰かが相手でも、男がその人を好きになったなら祝福すべきなんだろう。
でも今の私にはそれができない、絶対に。



――ごめんね、男。私、凄い我侭な女だ――



「男くーん、道こっちで言いの?」

私達の少し前をこなたと並んで歩いているつかさが訊ねてくる

「ああ、そこを左だ」

「は~い、バッティングセンターなんて初めてだよ私」

「私も初めてだよ、お金払ってまでスポーツするなんて考えた事もなかったし。
それでねつかさ、その漫画の主人公が手をこうパンって合わせて魔法みたいな錬金術を……」

つかさとこなたは何かの漫画の話で盛り上がっているみたい。
ゲームセンターで一通り遊んだあと、男がバッティングセンターに寄るというので
みんなでついていく事にしたのだ

「でもいいのか?バッティングセンターなんか女の子が行ってもあまり面白くないんじゃ……」

今更何を言うかこいつは、ついてくって言ったのは私達の方だってのに

「たまにはいいわよ、私はあんたが打つとこ見てるだけでいいから遠慮なく楽しんできなさいって」

男は今のところ大学で野球をするつもりはないらしい。私はもったいないと思うけど。
それなのにバッティングセンターに行くっていうのは、純粋に楽しむためなんだろう。
基本的に人に誘われなきゃ「遊び」というものをしないこいつが自分から
そういう事をするのは珍しい。
私はそれを見るだけでも楽しい、というか男が遊びにしろなんにしろ楽しんでると私も嬉しい。
それに、男が一番かっこいいのは野球をしてる時なのだ。



――――――――――



バッティングセンターにつくと、男は早速打ちだした。
まあ軽々と打つ事、140kって相当速いはずなのに。さすがに野球推薦で陵桜にきただけのことはある。

「おー、景気よく飛ばすねぇ。
私は野球よくわかんないけど、ウチでレギュラーになるくらいだしやっぱ上手いみたいだね、男君」

「ふふん、あったりまえじゃない。
あいつ元々の運動神経もいいけど、何より誰にも負けないくらい努力してきたからね」

「男君中学の時はピッチャーもやってたんだよ。
球がすぱあん!って速くて凄かったんだから!」

「いやなんでかがみんとつかさが自慢げ?」

中学に上がった時に友達に誘われて始めた野球。
あいつ自身は元々特に野球が好きだったわけじゃない、友達に一緒に野球部に入ってくれと頼まれたから始めただけ。
多分最初に誘われたのがサッカー部ならサッカー部に、茶道部なら茶道部に入っていただろう。
うちの中学に茶道部なんてなかったけど。

そんなふうにただ誘われるままに始めた野球だけど、その野球に男は誰より真剣に取り組んだ。
団体競技だから自分が下手なことでチームメイトに迷惑かけられない、とか言って。
ほんっと真面目なんだから、まあ男のこういう部分はただ真面目なだけってのとも違うんだけど。
男が野球を始めてからは一緒にいられる時間が激減して、正直不満に思った事もある。
でも今思うとあいつが野球始めたのはやっぱりいい事だったんだなって思える。
野球してる時や、野球の話をしてる時、男は凄く楽しそうだから。

……などと考えてるうちに、とりあえず一回分を打ち終え男がケージから出てくる

「お疲れ、さすがじゃない。ゲームセンターでの汚名返上ってとこね」

「やっぱり男君凄いね! 私なんか外で見てるだけでも球の速さにびっくりしちゃったよ」

「さすが野球部って感じだね」

「い、いや。ここは変化球も球速ミックスもないからな、当然全部ストライクでくるし。
高校で野球やってたら誰でもあれくらい打てるよ。別に凄くはないって」

三人揃って褒められて照れてるな男。
確かに他の人も男と同じスピードのとこで結構打ってるみたいだけど……
男は自己評価が常にマイナスな奴なので事実なのか謙遜で言ってるだけなのか
野球にそこまで詳しくない私じゃ判断がつかない。

「私は野球やっててもあんな速いの絶対打てないと思うなぁ。
あ、こなちゃんだったらもしかしたら打てるかな?」

「へ? 私?」

「うん、こなちゃん運動凄い得意だし」

うーん、確かにこなたなら打てるかもしんないけど。
でもあんな小さい球を棒で打ち返すなんて、
ちゃんと練習したならともかくいきなりやってできることじゃないと思う

「じゃあ泉さんやってみる? 野球とかやったことは?」

「授業でソフトやったから一応やり方はわかるよ」

「いくらこなたでもいきなり速いとこでってのはきついでしょ、やるにしてもまずは一番遅いとこにしたら?」

「ん~、じゃあちょっとやってみようかな。
サンデーの某野球漫画もアニメ化に続いて映画化ゲーム化と頑張ってるしねー」



―――――とかいう感じでこなたが打席に立つ事になったわけなんだけど―――――



「す、凄いじゃないか泉さん!」

「こなちゃんすっごーい!」

「うっそ…」

まず90kmのケージではじめたこなたは初球から難なくジャストミート。
その後ほとんどの球を軽々とはじき返し、なんとホームラン賞の的にまで当ててしまった。
それどころかその後入ったさっき男がやっていた140kmのケージでも、
さすがに男がやった時程ではないが見た感じいいっぽい打球を何度か飛ばし、結局空振りは一度もなし。
フォームも素人目にみてもわかるほど綺麗だ。
……こなたの運動神経の良さは知ってたけどここまでとは……。
これで本人の志向は完全にインドアなんだから持ち腐れにもほどがある。

「うーん、さすがに140kmはあんま打てなかったね、男君はポンポン打ってたのに」

「な、なに言ってるのさ! いい打球多かったし、
ソフト部でもない女の子が140kmで空振りなしなんて時点で凄すぎだよ!
しかも90でやったあとすぐに140でなんて、目が遅い方に慣れちゃうから
経験者でも球速の差に初球から対応するのは結構難しいってのに……
いやそもそも90kmだろうと普通未経験者の女の子があんな簡単に打てるもんじゃないっていうか……!
ああもうなんか凄すぎてどこから褒めたらいいかわからない!」

「あうう、男君や、そこまで褒められるとさすがの私も照れちゃうんだぜ」

「いや本当に凄いよ泉さん! なんで運動部に入ってないのさ!?」

「部活なんてやったらアニメ見れなくなるもん、そもそも運動自体好きってわけじゃないんだよねぇ」

「もったいなさすぎだよ!」

……男のテンションがえらいことになってる

「男君凄い興奮してるね、あんなとこ見たの久しぶり」

「……そうね」

本当に久しぶりだ、特にあいつどっちかというと人見知り……とは違うけど、
基本的に人に対して踏み込もうとしない奴だし。
こんなに感情を露わにして接するのは、最近じゃ私達柊家の面々以外だと野球部仲間くらいのものだ。
まして知り合って間もない女の子が相手でこんなふうになるなんて、それこそ初めてと言ってもいいかもしれない。

「ちょっと男、いい加減落ち着きなさいよ」

「落ち着いてらんないだろ! 極上の才能が磨かれもせず埋もれてるんだぞ!」

む……な、なによ。こなたばっかり褒めちゃって。
大体あんた最近こなたにお弁当作ったりしちゃってさ……
野球部の男友達にも似たような感じで世話焼いてたのは知ってるし、
あんたはそういう奴だって、こなたに対して何か思う所があってやってるわけじゃないって、
頭ではわかってる。
わかってるけど……感情まで納得させられるほど私は大人じゃないんだ。
それを見てる私がどういう思いでいるかわかってんの……!?
ってこいつがわかってるわけなんかないんだけど。

私だって、こなた程じゃないけどスポーツは得意な方だし……私だって……!

「……私もやる」

「え?」

「私も、そこでやる」

「そこって140でか? ……正直厳しいと思うぞ。かがみ、前やった時90のとこでもろくに当たらなかったじゃないか」

「え、お姉ちゃんバッティングセンター来たことあるの? ……男君と?」

「ああ、前たまたま帰りが一緒になった時にな……ってかがみ、だから待てって」

「いいから、あんたはそこで見てなさい! やってやるわよ! 私だって…!」

「ど、どったの? かがみん。目が怖いよ……?」

見てなさいよ男!



――――まあ、どれだけ意気込んだところで無理なものは無理なわけで
結局私の挑戦は一球もバットにかすることすらなく終わったのだった。
まぐれでもいいから一回くらい当たれっての!

「しょ、しょうがないよお姉ちゃん、こんな速いの打てない方が普通だって」

「そ、そうそうかがみん。私が打てたのはたまたまだよ」

「いいよ……慰めてくれなくても……」

つかさに続きこなたまでもが、らしくもなく本気で心配した様子でフォローしてくる。
そんな落ち込んでるように見えるんだろうか私……見えるんだろうな。
都合20球、一度も当たることなく延々と空振りを繰り返し続けたのだ。
外から見た私はどれだけ哀れに映ったことか。
最初は茶化してたこなたや、応援してくれてたつかさも段々静かになって
徐々に空気がなんとも言えない微妙なものになってくし……。
そしてその空気の中扇風機の真似事を続ける私、途中でちょっと泣きそうになったわよ。
――まあ、それでもなんで最後まで続けたかって言うと――

「残念だったな、でもいいセンいってたよ。かがみ昔から運動も得意だもんな」

微妙な空気をものともせずこいつが色々アドバイスとばしてきたからで。
最初はやめとけなんて言っておきながら、
いざ私が打席に入ったらなんとか打たせようと男は頑張ってくれて。
後ろからとんでくる男の声を聴いてると
なんか男の意識の全てが私に向いてるって感じられて、やめるにやめられなかった。
というかやめたくなかった。

「しかしかがみが野球に興味あったとは驚いたな、上手くなりたいならいつでも教えるぞ」

んー……それはちょっと違うかな、まああんたの野球話に付き合うために少しは勉強してるけど。

「いいって、そういうわけじゃないから」


野球自体に特別興味があるわけじゃない、あんたがやってる時は別だけど。
今だって上手くなりたくてやったわけじゃない、
ただあんたに褒められてるこなたが羨ましくて、黙ってられなかっただけ

……とか言ったら、こいつはどんな顔するんだろう

「そうか、残念。…じゃあそろそろ帰るか」

ぽん、と頭に手を乗せてくる男。
む……こいつ最近これよくやるのよね。高さがちょうどいいとか言って。
ちょっと大きくなったからって生意気な、昔は私のほうがしてたことなのに。
……まあ嬉しいからいいんだけどさ

「ん、行きますか。こなたもつかさも、もういいでしょ?」

「う、うん。私はいいよ」

「私も。……かがみんも機嫌直ったみたいだしねぇ~」

……なにか含みのありそうな顔で言ってくるこなたはスルースルー

「ああそうだ、泉さん、さっきホームラン賞の的に当てただろ。景品もらえるよ」

「へ、そうなの?」

「ああ、前来た時男も当ててもらってたわね。あまり期待しないほうがいいわよこなた。
景品っていってもそんなにいい物ないから」

ちなみに男はどこにでもあるようなキーホルダーをもらって、……それを私にくれてたりする。
男がくれたっていうだけで「どこにでもあるようなキーホルダー」が
輝いて見えてしまう辺り、私も単純というかなんというか。
私やつかさは、そういう突発的な物にしろきちんとした物にしろ、
割と頻繁に男から贈り物をもらっていて、部屋にはそれらの物が溢れている。
まあプレゼントをくれるっていっても、男の場合色めいた意図なんかなく
純然たる感謝の気持ちしか込められてないんだろうけどさ……。



わかってるけど、ちょっとぐらいは期待してもいいよね、男――

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最終更新:2009年03月23日 01:11