Side男
バッティングセンターを出た俺達はそのまま帰路につき、今は電車の中だ。
今日は結構遊んじゃったし、この後は気合入れて勉強しないとな。
「ねえねえ男君、今日はどうするの? うちくる?
お母さん達には今日男君くるかもって言ってあるから大丈夫だよ」
最近バイトのない日は、図書館が閉まったあとも、
柊家にお邪魔してかがみとつかさと一緒に遅くまで勉強をしている。
ただ、勉強するだけならまだしもその度なんだかんだで夕飯までご馳走になってしまっているのだ。
正直それはいい加減どうかと思う。
いくら付き合いが長くおじさん達とも仲良くさせてもらっているとはいえ、
あまり頻繁に夕飯の席にお邪魔するのはさすがに迷惑だろう。
一人分の食費というのも長く続けば馬鹿にならないし
「あ、ああ。お邪魔しようと思ってるけど。一度帰って夕飯食べてから―――」
「晩御飯はうちで食べるよね、私つくるから!」
輝くような笑顔で言うつかさ。まずい、このままだといつもみたいに押し切られる
「あー、つかさ? いいって、迷惑だろうし夕飯は自分で……」
「何がいい? こないだはお魚だったから今日はお肉にしようと思ってるんだけど。
ひき肉あるからハンバーグとかどうかな?」
「いやだからつかさ……」
「もう、今更遠慮なんかすんな。うちの誰も男がきて迷惑だなんて思ってないから。
ていうかあんた、高校入ってからあんまうちに顔出さなくなってたから心配してたのよ、お父さんたち。
最近またよく来るようになったんで元気なとこ見れて安心したって言ってたわ」
「そっか、それは嬉しいな。
でも甘えすぎるのはやっぱよくないような…」
「男君…うちでご飯食べるの嫌なのかな…?」
う、つかさが悲しげな表情で見上げてくる。
……つかさにそんな顔をされてしまうと断るに断れない。
はぁ…意思弱いな、俺
「…じゃあ、悪いが頼む、面倒かけてごめんな」
「うん、任せて!」
「なになに男君。これからかがみ達の家いくの?」
「ああ、勉強しにね。教えてもらえる相手がいると効率が違うし」
「はー、遊んだあとなのに元気だねぇ。さすが受験生」
「遊んじゃったからこそ、な。進学希望の身としては頑張らないとさ」
「ていうかなにがさすが受験生、よ。あんたも同じでしょーに。
こなたもいい加減進路どうするのか決めといた方がいいわよ、進学するつもりあるなら私も勉強手伝うからさ。
せっかくみんなで集まって勉強してるんだから、宿題だけじゃなく受験勉強もやっときなさいよ」
「むぅ、進路についてはまだなんともねぇ」
「いやさすがにまだとか言ってられる時期じゃないわよ……?」
「泉さんなら今からでもスポーツ系の道に進めるんじゃないか?
専門的にやるならさすがに種目は限られそうだけど、体格的に」
「ほほぅ、男君。それはサイズのミニマムさを気にしている私への挑戦かな…?」
「いっ!? あ、いや、そういうんじゃなくてさ……。ごめん、無神経だった」
しまった、傷つけてしまったか、
俺は人の心中を察するのがどうも苦手なので
発言にはなるべく気をつけているのだが…悪いことをしてしまった。
「あっはっは、冗談だからそんなマジになって謝んなくてもいいよ~。
悪気ないのはわかってるし、そもそも体小さいことそんな深刻に悩んでるわけでもないからさ。
むしろ今の世の中こういうニーズが急速拡大中なんだZE!」
ビシっと親指立てて誇らしげに言う泉さん、こういうニーズってなんだろう
「しかしあれだね、妙に生真面目だったり、かと思えばバッティングセンターでの意外なはしゃぎっぷりといい、
男君てば体大きくて顔もいかにも体育会系って感じなのに、
見かけによらずイジリ甲斐があるというか、意外にかわいいとこもあるんだねぇ、」
「ぶっ……か、かわいい? そ、そうかな」
柊家の面々にはたまにそう言われるが、知り合って間もない相手、しかも女の子に言われるとは…。
俺みたいなうすらでかい若い男がかわいいってのは、正直気持ち悪いだけじゃないだろうか
「でしょーこなちゃん。男君ってばこう見えて結構かわいいとこあるんだよ」
正直つかさにそう言われると複雑極まりないわけだが、色んな意味で…。
というか、かわいいと言うならつかさにかがみに泉さん、高良さんと、
みんなの方が余程かわいいだろうに、真っ当な意味で。
「うむ、男君が女の子なら外見と中身のギャップ萌えとして十分成立するかも。
あ、今のままでもアブノーマルな性癖の漢(おとこ)達にはウケたりして。
男君後ろには気をつけた方がいいかもね」
「男に萌えって言葉は似あわなすぎると思うわよー」
「なんかよくわかんないけど、つかさも泉さんもかわいいってのは勘弁してくれ……」
「あ、そだ。その泉さん、ってのさ、いい加減やめない?」
「……? やめるって?」
「そろそろそんなよそよそしい呼び方やめよう、って事。こなた、でいいよ
私も男って呼び捨てにさせてもらうし」
「え、そ、そうか?」
こなた、って名前を呼び捨てか。
今までかがみとつかさ以外の女の子をそう呼んだことないからな。
少し躊躇してしまうというか……
「えっと…どう思う? かがみ」
「…なんで私にふる」
「…確かに」
なんでかがみにきいてんだ俺は。
なぜかとっさにかがみの許可を得なければ、という考えが頭に浮かんだ
「やっぱマジメくんだねえ、男ってば。
そんな深く考えることじゃないって、ほれほれ、こ・な・た。復唱要求!」
「こ、こなた」
「よしよし、よくできました男!」
慣れない事なので少し恥ずかしさはあるが、
泉さん…じゃなくてこなたがそうするよう言ってるんだし、これでいいか
「お、駅ついた。んじゃーね、かがみ、つかさ、男、また明日―!」
「……ん、じゃあね」
「ま、またね。こなちゃん」
「気をつけてな」
挨拶を残し軽やかな足取りで去っていくこなた。
俺は人付き合いを上手くこなせる方ではないので、
ああやって向こうから踏み込んできてくれる人はありがたいな。
「……と、そうだ、つかさ。結局夕飯何にするんだ?」
「――――え? あ、えと。
ハ、ハンバーグにしようかなって。男君もいいかな?」
「もちろん文句なんてないよ、ハンバーグなら俺も全工程手伝えるしな」
柊家で夕飯を頂く時は支度の手伝いをしている。
しかし俺とつかさだと腕に差があるので
俺が得意じゃないメニューだとあまり出番がなかったりもするのだ。
つかさの方が美味しい物を作れるのに、俺が出しゃばる事で
ランクの落ちる物をおじさん達に食べさせるような事になっちゃ本末転倒なのである。
俺が作り慣れてる料理なら一応おじさん達に出しても恥ずかしくない程度には仕上げられるのだが。
その点ハンバーグなら問題なしだ。
肉料理は特に好きなので、自分でもよく作るから十分な慣れがある。
「あ、今日は私一人に任せてくれないかな?
男君はゆっくりしてて」
「え? いやでも」
「いいからいいから」
む、これは譲ってくれない時の目だな。
「う…ん、でもなぁ、よそ様の夕食にお邪魔するというのに何も手伝わないってわけにも――。
あたっ」
いきなり脳天にチョップをかましてくるかがみ、わざわざ背伸びしてまで何してくれてんだ
「こーら、誰がよそ様かっ、よりによって私達に対して。
水臭いこと言ってんじゃないの、殴るわよ」
「な、殴ってから言うな」
一応突っ込んでみるけど―――。
うん、今のは俺が悪かったか。
「お姉ちゃんの言う通りだよ、男君。お願いだからそんな寂しいこと言わないでほしいな」
つかさも、穏やかで優しい彼女にしては珍しい、厳しさを含んだ表情でそう言ってくる。
―――二人の言う通りだな、こんな俺に何年も付き合ってくれる柊家をよそ様扱いなんて失礼だった。
「……うん、俺が悪かった。ごめんな。あと、ありがとう。二人共」
「ん、わかればよろしい」
「ふふ、反省してね、男君」
一転まばゆい笑顔でそう言ってくれるかがみとつかさ。
―――本当に眩しいな。
いつだってそうだった。
かがみとつかさは、こんな俺を本当の家族のように扱ってくれる。
物心ついた頃からずっと傍にいてくれた二人にどれだけ助けられたことか。
二人がいなかったら俺はどうなってたんだろう、と思う。
「じゃあお詫びに今日は私一人に任せてね、
期待しててね男君、すっごく美味しいハンバーグ作っちゃうんだから!」
「お詫びに手伝いをやめるってのもおかしい話だな」
思わず苦笑する、まあつかさが任せてほしいと言ってるんだから何か理由があるのだろう。
……あ、もしかして手伝いながらつかさの技術盗もうとしてるのバレたかな。
Side つかさ
家についた私はさっそく晩御飯の支度に取り掛かった。
男君がうちに来る日は、私が夕食当番。
いつもは男君も手伝ってくれて、二人並んで台所に立つんだけど、
今日は私一人に任せてもらった。
肩が触れ合うような距離で男君と一緒に料理を作る時間はとてもとても幸せで、
そっちも捨てがたいんだけど……。
今日は久しぶりに、最初から最後まで私が一人で作る、私の料理を男君に食べてもらいたくなった。
手伝ってもらうと、男君てば「自分の分は自分で作るよ」なんて言ってぱぱっと作っちゃうから
私の料理を食べてもらえない事も多いんだよね。
しかも男君遠慮して自分の分は少なめにつくるし。
今日は私が男君の分も作るんだからたくさん用意してあげなきゃ。
男君ほんとはいっぱい食べるんだから。
いっぱい食べていっぱい運動してるからあんなに大きくなったのかな?
――――こなちゃん、今日はとうとう男君と名前で呼び合うようになってたなぁ。
まだ会って一月も経ってないのに。
今まで男君に名前を呼び捨てにされる女の子は、私とお姉ちゃんだけだったんだけどな。
それにこなちゃん、最近よく男君にお弁当作ってもらってもいるし……。
――――でも、こなちゃんに関しては大丈夫かな。
こなちゃんが男の子を好きになるっていうのも正直想像つかないし、
なにより、お弁当作ったりしてるとはいえ男君にそういう気はないはず。
男君は誰にでもあれくらい親切にする、下心とか一切なく。
男君の場合親切っていうのももしかしたらちょっと違うのかもしれない。
そうするのが当然、むしろそうしなきゃいけないって思ってるから。
やっぱり、気になるのはこなちゃんとの事よりお姉ちゃんとの事だ。
夕食作りの手伝いを遠慮してもらったので、今男君は料理ができるまでの間
お姉ちゃんの部屋で勉強してる―――お姉ちゃんと、二人っきりで。
そんな状況が生まれたのは私が男君の手伝いを断ったからで、自業自得。
わかってはいるけど、お姉ちゃんを羨ましく思う。
私もお姉ちゃんも、男君が好き。
でも私もお姉ちゃんも、暗黙の了解でそのことにはお互い一切触れずに今まで過ごしてきた。
私とお姉ちゃんに男君を加えた、三つ子の兄妹みたいに、三人仲良く。
男君への、ただの兄妹に対するものをとっくに越えた気持ちを抱えながら、
男君を、独り占めしたいという想いを隠しながら。
私はそのままでもいいと思っていた、たとえいつかお姉ちゃんが気持ちを打ち明けて、
……男君がそれを受け入れることがあっても……私は、自分の気持ちは胸にしまったままでいようって、
それでいいんだって、思おうとし続けてきた。
だって私は、自慢できるものなんて何も持ってないから。せいぜいお料理が人よりできるくらい。
比べてお姉ちゃんは運動もお勉強も得意で、そのうえ真面目でしっかりしてる。
どっちが男君に相応しいかなんて、考えるまでもないこと。
……それに、まだ小さかった時、一度だけお姉ちゃんの気持ちを垣間見た事がある。
あれは確か小学校にあがったばかりの頃、当時私はお兄ちゃんのような存在である男君が、
本当のお兄ちゃんになってくれたらな、と思っていて、
そのことをよくお姉ちゃんに話してた。
そんな時、ある日お姉ちゃんは
「私と男が結婚したら、つかさは正式に男の妹になれるわよ」
って言った。
―――その言葉を無邪気に喜んだ私に「つかさは……それでいいの?」とも。
その後お姉ちゃんはすぐに、冗談よ、って付け足したけど、
その時は、お姉ちゃんがなんで「それでいいの?」なんてきいてきたのかわからなかった。
男の子を好きになる事の意味を知らなかった私は、
大好きなお姉ちゃんと大好きな男君が結婚して、私は二人の妹になる、
それは私にとっても幸せなことなんだって、ただ素直にそう思ってた。
私が男君のことを、男の子として好きになっているということにはっきり気付いたのは
もう少しあとのこと。
そしてその時初めて、お姉ちゃんの男君への想いも正確に理解できた。
―――でも、お姉ちゃんはあの頃から、私の「好き」が幼すぎた頃から
男君のことが「好き」だった。
……他の何でも勝てないのに、男君への気持ちでまで負けてる私が、お姉ちゃんに勝てるはずがない。
だから私は今のままでいい。少なくともお姉ちゃんが男君を好きでい続ける限りは、私は妹のままでいい。
そう自分に言い聞かせ続けてきた、
―――はずだったのに。
年を重ねるごとに、体と共に心も成長していく。
私の「好き」も、どんどん大きくなっていく。
大きくなりすぎた「好き」は、私に我慢を許さない。
今だって男君とお姉ちゃんが二人きりでいることを考えるだけで、胸が痛い。
―――そういえば、男君こなちゃんを名前で呼ぶかどうかについて、お姉ちゃんに意見を求めてた。
なんでお姉ちゃんに聞いたんだろう。
男君本人も理由はわかってない様子で、ふと出ただけの言葉だったみたいだけど。
――――もしかして、もしかしてだけど、
好きな女の子の前で、他の女の子と必要以上に親しくする事に対する抵抗、
そんなものを、あの時無意識のうちに男君は感じたのかもしれない。
今の時点で男君がお姉ちゃんの事を異性として明確に好きになっているとは思わない。
長い付き合いだもん、そうじゃないことくらい見ていればわかる。
でも、完全に自覚してるわけじゃなくても、男君の心のどこかにお姉ちゃんへの「好き」が、
とうとう生まれだしてるのかも……。
それに、お姉ちゃんは、最近一歩踏み出そうとしてるみたい。
私が迷い続けてる一歩を。
このままだと、そう遠くない未来、二人は本当に結ばれるかもしれない。
そうなった時、私は耐えられるのかな。
――――そもそも、今男君がお姉ちゃんを「好き」になってない保証なんてどこにもないんだ。
私の目にはそう映ってるだけで、
そんな現実を否定したい私が勝手に見てるだけの虚像かもしれない。
もしかしたら、男君はもうとっくにお姉ちゃんを「好き」になってて
もう私の入り込める隙なんかどこにもなくて―――!
……いけない。こんなこと考えてちゃ、いけない。
とにかく今は晩御飯をつくることに専念しよう。
男君に「おいしいよ」って言ってもらえれば、こんな嫌な気持ちも全部吹き飛んじゃうはずだから。
今日のメインディッシュは煮込みハンバーグ。
男君は好き嫌いがなくて何を作っても美味しそうに食べてくれるけど、特に肉料理が好きなんだ。
男君の分は大きく作ろう、いっぱい食べてもらいたいもん。
ハンバーグは、大きく、且つ綺麗に仕上げるのは火加減が難しいけど、そこは腕の見せ所。
お料理しか自慢できる物がない私はここでこそ頑張らなきゃ。
男君。私、頑張るからね。頑張ってすっごく美味しいハンバーグ作るから。
――――だから、私を見て。
もう「妹」じゃない、男君の事が大好きな一人の女の子として
私を見て
Side かがみ
「かがみ、ここ教えてくれ、解説見てもよく理解できない」
「んー?どれどれ」
つかさが夕飯を作っている間、私と男は勉強タイム。
「ああ、これはね…、―――ってこと」
「……なるほど、わかった。サンキュ、やっぱかがみは教えるの上手いな。
お前と一緒に勉強できるのは凄い助かるよ」
「どういたしまして」
今は私が教える立場だったけど、最近じゃ教科によっては立場が逆転する事もあったり。
一緒に勉強するようになってから、男の学力はどんどん上がってる。
自分で言うのもなんだけど、男が言う様に私がこうしてわからないところがあっても
その都度教えてやれているからってのも確かにあるんだろう。
でも、成長の要因として何より大きいのは、やっぱり男の努力だ。
部活とバイトをこなしながら更に勉強も手を抜かなかったこいつは、元々テストの順位もそれなりのものをキープしていた。
今は部活も引退し、バイトも受験に専念するため減らしてほぼ勉強一本に集中できる環境なので、
その伸び率は凄いものがある。
でもこいつの場合頑張りすぎるのも心配というか―――
「ところでさ……あんたちゃんと寝てる?
頑張るのはいいけど、体壊したら元も子もないわよ?」
「大丈夫だって、今のとこ別に体調崩したりもしてないし。俺は頑丈なのだけが取り柄だからな」
……おい、それつまりあまり寝てないってことか?
こいつブレーキ壊れてるから何をするにしてもほっとくと無理し続けるんだもんなぁ…。
苦痛を苦痛と感じない、男はそういうふうにできている、というかそうなってしまった。
そんなこいつだからこそ勉強も運動も呆れるほど努力する事ができ、
三年の夏の大会まで野球をやり通してから一般受験で○○大を目指す、なんて真似もできるわけだけど。
でもいくら男が頑丈でも、人間限界はあるのだ、
だからこいつに代わって周りが……私がブレーキかけてやらないといけない。
「まあ……今までのあんたの生活考えると勉強だけに集中できてる今はむしろ楽になってるのかもしんないけど…、
それでも無理しすぎちゃ駄目だからね」
あまり時間もないんだから、今体調崩して寝込むようなことがあったら男にとっては致命的だ。
ていうかそれ以前に男が寝込むとこなんて見たくない、こっちの心臓に悪すぎる。
まあこいつが寝込むとこなんて久しく見てないけど、散々無理してきたくせに。
言うだけあってほんと頑丈なやつ。
「しすぎない程度に無理するよ、のんびりやってたんじゃかがみと同じとこ行けないしな」
む……そう言われるとこっちも手を抜けとは言いづらいじゃないか。
「――なら私も是が非でも受からなきゃね、
これで男が受かって私が落ちるなんてことになったらシャレにならないわ」
「おまえなら大丈夫だよ」
「落ちるつもりはさらさらないけど、そんな楽観視できるような余裕はないわよ」
「まあそうかもしんないけど。でもかがみなら大丈夫、俺はそう信じてる」
「根拠はなんだ根拠は……」
「かがみだから」
全く根拠になってないっつーの、でも適当に言ってるわけでもないんだろなこいつの場合。
男の中の私は、本当にそれだけ「できる」奴になっているんだろう。
――それは買いかぶりってものだ。
実際の私は、今日のこなたと男のことが気になって今一集中できないでいるような小さい人間だっていうのに
「ねえ…」
「ん?」
「こなたとあんたってさ、意外に相性いいみたいね。結構仲良くなっちゃって。びっくりしたわ」
「ああ…まあ言われてみればそうかもな、
向こうがどう思ってるかはわかんないけど、こっちとしてはあんな話しやすい同い年の女子ってのも初めてかも。
かがみとつかさは別にして」
ノートに目を落とし手を休めずにそう返してくる男
そりゃ別にしてもらわなきゃ困る、こちとら物心ついた頃からの付き合いなのだ。
いくらこなたでも一ヶ月足らずで私達と同じ扱いになられては納得できない。
「あー……でさぁ、……こなたの事さ、やっぱ名前で呼ぶわけ?」
「ん……ああ。彼女、かがみとつかさの親友だしな、
俺もこれからも仲良くさせてもらえたら嬉しいと思ってるし……。
向こうがそうしていいって言ってくれるなら断る理由はないよ」
「ん……そうだよね……」
いやそもそもこんな所にまで噛み付いてどうするんだ、私。
こなたは私の親友で、私とつかさを通じて最近男と一緒にいる事も多いんだから、別にいいじゃないか。
嫉妬心にかられて男の友人が増えるのを、
しかも相手は自分の親友だってのに、それを喜べないなんていうのはいけない。
いけないとは思うけど――それでも気になってしまうのは、私の度量が小さいからなんだろうか。
でも男が私以外の女の子と親しくしてるところは、なるべく見たくないんだ。
それが親友であるこなたでも、……大切な妹であるつかさでも。
―――男をとられるのは、絶対にいや―――
「…おい、どうした?かがみ」
「―――え?」
気付けば男が手を止めて心配そうな目で私を見ていた。
やば、そんな様子おかしかったかな私
「な、なに?」
「何か心配事でもあるんじゃないか?」
「べ、別になんでもないって」
「嘘付け、そうは見えない。
受験のことか? だったらおまえなら大丈夫だって
いや俺の言葉なんかじゃ安心できないかもしれないけど…、今までおまえのしてきた努力を信じろ。
おまえなら、なんとかなる。絶対大丈夫だっ」
「いやだから……」
「……あ。もしかして……た、体重のことか?
だったら何度も言ってるがおまえは全然太ってなんかいないんだから気にする必要なんかないぞ?
それでも気になるなら俺が低カロリーのダイエットメニュー考えるし、運動するなら付き合うから―――」
その後も続けてなんか必死な感じであれやこれやとまくし立て続ける男。
いやいやそこまであんたが慌てなくても、そんなに私が心配?
……そんなに私を心配、してくれるんだ。
「―――って、……おい、聞いてるか?」
「ふふっ…、へ? ああ、聞いてる聞いてる…、えへ……えへへ。あっははは」
「お、おいかがみ…?」
「い、いやね、あんたのテンパり具合がおもしろくて…、くくっ…!」
「お、おもしろいって…」
うそ、ほんとはね、嬉しくてしょうがないんだ。だから笑いが止まらないの。
あんたがそんなに取り乱すほど私を気遣ってくれることがさ。
まあ珍しく慌てふためいてる男がおもしろいってのも実際少しはあるけどね。
「…心配して損した」
むっつりした顔で睨んでくる男。おお、こういう拗ねたような表情はわりとレアだ。
しかしこいつ色々私の「悩み事」を想像したみたいだけどかすりもしないでやんの。
さっきまでの話の流れでわかってもよさそうなもんだけど。
まあこいつ自分に向けられる好意とか、そういうのが絡む事にはとことん鈍いからなぁ。
男のヤツ自分が人に好かれるとかあまり思えないタチだし、しょうがないっちゃしょうがないんだけど。
「で、結局なんだったんだよ。さっきの顔見るとなんでもないとは思えないぞ」
う……。…正直には言えないなぁ。
…というかそんなにひどい顔してたのか私。
男への気持ちが絡む悩みは特に悟らせないように気をつけてるつもりなんだけど
「まあ大丈夫よ、確かにちょっと気にかかる事あったけど、とりあえずは解消したから」
「――気が晴れたらしいってのは顔見ればわかるけど、どこに解決ポイントがあったのかさっぱりだ……」
内心を探るように私の顔をじっと見つめて、一応は安心したらしい男。
「まあまあ、女心ってのは複雑怪奇にできてるのよ」
ある面ではむしろ単純明快とも言えるけど、
男が私のことを、あんなに必死になって心配してくれた。
ただそれだけで、さっきまでの濁った気持ちが消えうせて、かわりに暖かい想いが胸を満たしていく。
「いや全くだ、俺には難しすぎる……」
「男、ありがとね。心配してくれて嬉しかった」
「ん……いやまあ、俺がおまえの心配するのなんて当然で。
べ、別に礼言われるようなことじゃない」
あらら、赤くなっちゃった。照れてやんの。
…まあ私もちょっと赤くなってるかもしれないけど、
いくら私と男の間柄でもこんな素直にお礼を言うってのはちょっと気恥ずかしい。
――よっし、とりあえずモヤモヤも吹っ飛んだし、男分も充電しまくれたし、
夕飯までもう一頑張りといきますか。
――でもその前に
「……ところでさ、私の体重がなんだって……?」
「あ、いやあれはだな……」
「次言ったらベランダから吊るすからね」
「……はい」
いくら男でも、いや男だからこそ言われたくないことってのもある。
体重気にしてる女の子に対して自分からその話題ふるなんて、デリカシーないわよあんた
最終更新:2009年03月25日 18:23