始業式。それは、日本だと桜が咲き、散り始めるころに行われる学校の行事だ。
ほとんどの生徒は、長くかったるい、誰もが早く帰りたいと思う。翌日には入学式もあるので、面倒なことこの上ない。
この陵桜学園に通う生徒の一人、泉こなたの考えだ。
できたら、明日転入生とかが来ないかななどと考えながら家路に着いた。
のはいいが、どうやら不幸にもサザエさんのような髪型をした不良集団に絡まれてしまった。
本来は不良どもの早とちりだった。こなたがあの時代遅れな髪型を見ていたのを、バカにされていると
思ったらしく、不良が因縁をつけてこなたに絡んできた、というわけだ。
こなたは、ある程度格闘技を身につけてはいるのだが、大抵は一対一の時にしか使えない。
集団、それも喧嘩の得意な不良ともなると、三人以上に同時に絡まれたら確実に負ける。
不良の数は、七人。これだけの数の不良に絡まれたら、手出しもできないだろう。
こなたが取った戦法は、逃げる。三十六計逃げるにしかず、ということわざがある。
下手に戦うより、逃げたほうがよい、ということだ。狭い路地にでも逃げ込めば、一対一で戦える。
そういうわけで逃げたのだが、逃げる途中、前を見ていなかったせいで立っていた男にぶつかり、尻餅をついた。
「ちゃんと前見て走ってくれよ。ぼーっとしてたこっちも悪いっちゃあ悪いけどな!」
「あ、す、すみません、いそいでますんで~!」
こなたはとにかく走って逃げようとした。
しかし、その時すでに遅し、後ろにも不良が回りこんでいた。
「……どういうこと?」
「え~と、話すと長くなるのですが~」
二人の会話に、一人の不良が割り込んできた。何を言っているのか、こなたにも彼にも、
ただの雑音にしか聞こえなかった。何を思ったのか、不良は殴りかかろうとした。
「まあ、落ち着け。そして黙れ」
彼がそう呟くと、足が不良の顎にヒットしていた。
おそらく、酷い脳震盪を起こしたのだろう。脳震盪だけでなく、もしかしたら首の骨が
折れているんじゃないか、と錯覚するくらい、鈍く痛々しい音も聞こえた。
「ま、とにかく、話を聞かせてくれよ。変なことはすんなよ。こいつより酷くなりたければ話は別だけどさ」
男は何もなかったかのように振舞う。
不良のうちの一人が、冷静に話しだす。さっきみたいな雑音ではないので聞き取りやすかった。
「なるほど。髪型を馬鹿にされた程度でキレて追いかけた、と。それは事実なのか?」
彼は、こなたのほうを向いて話しかけた。こなたは何も言わずに、首を縦に振った。
「あちゃー、そりゃ、お前が悪い。けど……」
彼は不良のほうを見た。
「多勢に無勢は、あまり好きじゃないんだよなあ」
怖気づいたのか、と一人の不良が挑発する。
「おまえらみたいに多人数のやつのほうが負けたときに惨めになるからさ」
彼は、不良たちに中指を立てて見せた。分数の掛け算割り算の仕方がわからないような不良でも、
これが何を意味するのかぐらいは、当然わかっている。
不良たちは、再び耳に障る音を発しながらこっちに向かう。そいつらをのらりくらりと避けながら、一気に片をつけた。
気付いたときには、すべての不良がその場に倒れていた。
「大丈夫そうだけど、怪我はあるか?」
彼はこなたに話しかけた
「いや、それはこっちのセリフ……と、とにかく、ありがと。大丈夫だよ」
「なに、気にすんな」
彼は誇らしげな顔で答えた。一種の満足感らしきものが漂っている。
こなたは、彼の姿格好をまじまじと見た。金髪に、碧眼。それに加えて背が高いので、一見外人に見えるが、
日本語が流暢なので、日本で育っただろうことは容易に想像できる。また、彼が着ているのは陵桜の制服だが、
少なくとも彼の様な人を学校で一度も見かけたことはない。勿論、学校の生徒をすべて知っているわけではないし、
ましてやクラスの男子の一部も覚えていないこなたのことだ。見逃してる可能性を完全に否定はできない。
だが、仮に彼のような人明らかに変わった人がいたならば、こなたであっても間違いなく忘れないだろう。
しかし、今日は始業式だ。転校生なら、明後日に来るはず。
「その制服、陵桜だよね? ってことは、君はもしかして転校生?」
「陵桜……そんな名前だったかな。 てか、なんで知ってんだ?」
「制服が、うちの学校のだからだよ」
「ほう。ということは、お前と同じ学校なわけだ」
「言わなくてもわかるよ……ところで、キミは何年生なのかな」
「たぶん三年生だぜ。高校のな」
そのべつに、高校であることを強調する必要はないのに、なんでわざわざ言うんだ。こなたは心の中で突っ込む。
「ってことは同級生だね。よろしく」
「学年違うだろうけど、よろしくな!」
「……私、一応三年だよ。というか、人の話はちゃんと聞こうよ」
「なん……だと……」
「嘘の様で、本当のこと。それより、こんなところでいったい何をしているのさ」
こなたの問いに、彼は普通の人ならありえない答えを出した。
「陵桜学園を探してたんだけどさ、地図見てもさっぱりなんだよ」
「ゑ?」
こなたは、持っていたかばんを落とした。落ちた時の音が、こなたの耳に響いた。
「……なるほど、転入の一週間前に来たのはいいけど、家が近いから遊んでたので全く来てなかった、と」
「その言い方にはなんか違和感があるけど、そんなところだ」
「編入試験の時には来たんじゃないの?」
「だからといって覚えているわけでもないだろう」
意味がわからない。こなたは内心、呟いた。
「ま、わからないようだから、案内してあげるよ」
「まじで!?」
「一応、恩があるからね」
「サンキュー。じゃあ、頼むぜ」
「うん。あ、自己紹介がまだだったね。私は、泉こなた。よろしく」
「おうよ。俺は、天地(あまち) あずま! よろしくな!」
双方が自己紹介をし終えると、こなたはあずまの手をつかんだ。
「じゃ、いくよ! 全速力で行くから、ちゃんとついてきてね、あまちー!」
「あまちー?」
「うん。天地だから、あまちー。ダメかな?」
「ディ・モールト・ベネ(すごくいい)! いいね! いいネーミングセンスだ! なら、俺はお前をこなたんと呼ばせてもらおう!」
「んふっふっふっふ。安直すぎなんじゃあないかな?」
「おいおい、何言ってんだよ。DQ4でも、ホイミスライムはホイミンだったろ? だからだぜ!」
「説得力がありそうで全く説得力のない力説ありがとう。とりあえず、行くよ!」
こなたは、あずまの手を握って走り出した。
このあたりはあまり見覚えのない場所だったが、それでも、陵桜学園からはそう遠くはなかったから、すぐに着けた。
「着いたよー」
「おお、ここが陵桜か。やっと見れてよかったぜ」
「それで、これからどうするの? 中見てく? まだ開いてるみたいだからさ」
「ん、いいや。後はこのまま帰る」
そっか、とこなたは少し寂しげに言った。
「ありがとな、こなたん。これで俺は帰るぜ。明日、また学校でな」
「うん。じゃあね」
そう言って、二人とも同じ方向に歩き出した。
「「……ゑ?」」
二人が同じ方向に歩き出したのは、こなたの向かっている駅の方向と、あずまの家の方向ほぼが同じだったからだ。
「いや、何たる偶然。まさか、向かう方向が同じとは……」
「別にいいじゃないか。なんなら、何か聞いてもいいんだぜ? 個人情報とか、性癖や嗜好はダメだけどな」
確かに、聞きたいことはいろいろある。性癖は、聞けといわれても聞きたかないけれど。
「その目と髪は、遺伝なのか、かな」
やはり、あずまを見た時、もっとも目に付くのは金髪と碧眼、その高い身長だろう。
その二つについて、あずまは説明をした。
「親父がアメリカ人でさ、俺と同じ金髪に碧眼なんだよ。まあ、母さんは日本人だけどさ。
それに、母さんのほうの爺さんがアメリカ人で、これまたアメリカ人なわけよ。要するに、俺は四分の三がアメリカ人ってことだ」
「ふむむ、難しいなあ。まぁ、遺伝であることは間違いないんだよね?」
「まあ、そういうことだな。最初からこう答えればよかった気がするけどさ」
「ちょっとあまちーのことを知ることができたから、結果オーライさ」
「こなたんは優しいんだな」
「ん、ありがと。褒め言葉として受け取っておくよ」
「まあ、こなたんの髪の色のほうがよっぽど不思」
ヘブンズドアーッ!
あずまは、今後らき☆すたキャラの髪の色を気にしないッ!
「あれ、なに言おうとしてたんだっけ?」
「さあ? あまちーにわからないのに、私に聞かれてもわからないよ」
「そうだな。あ、多分俺の家はこっちだ」
あずまは十字路を左に曲がった。こなたも、それに合わせて曲がった。
「あれ、こなたん、駅もこっちなのか?」
「ちょっと寄り道するだけだよ。どんな家か見てみたいしね」
「ん、わかった」
その後あずまは二、三分歩いた後、周りの家より一回りも二回りも大きいな家の前で立ち止まった。
家の外観はとても綺麗で、見るからに高級な家だと察せる。
「でかっ! もしかして、あまちーってお金持ち?」
「まぁ、どちらかというとそうかな。毎月、50万くらい仕送りが来るし」
「す、すごい……」
「つっても、仕送りはほとんど生活費に当ててるけどな。食費、水道代、光熱費、ガス代、学費とか、いろいろと。
家は、一括だからローンとかは無い。そういうことで、自由に使える金額は15万くらいしか残らない」
正直、こなたには雲の上の話のように思えた。……15万『しか』?
「……あまちー、もしかして死にたい?」
「いーや、死にたくない」
「今の君の発言は、死刑執行レベルだよ」
「気分を害したのなら、謝るぜ」
「まあ、ちょっとムカッと来たけど、それで因縁をつけるこなたんではないのだよ」
「ん、そうか。んじゃ」
それだけ言って、あずまは家の中に入った。
この家は、駅と学校のほぼ中間地点だ。学校へはそんなに遠くない。それに、彼と会った場所はどう考えても
陵桜と関係ない場所だ。その上、地図も持ってたのに、どうしてあずまはあそこで迷ってたんだ。
最終更新:2009年04月08日 00:44