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『憩いの夜』


Side 男

夕食はつかさが予告した通りのハンバーグ、に一手間加えた煮込みハンバーグだった。
ハンバーグはもちろん煮込みのソースまで手作りだというのだから頭が下がる。
味ももちろん最高だった

「ごちそうさまでした。つかさ、本当に美味しかったよ、ありがとうな」

「えへへぇ……。お粗末様です」

はにかんだ笑顔が可愛い。
俺も自分の料理を美味しいと言ってもらえると嬉しくなるが、
こんなに幸せそうな表情は多分浮かべられていない。
これだけ「いい笑顔」ができるのはつかさの人徳のなせる業なのだろう、本当にいい子だ。
料理が上手く、誰より優しい心根に、
傍にいるだけでこっちまで穏やかな気持ちになれるような暖かい雰囲気を持っている。
つかさはいいお嫁さんになれるだろうな。

「あの、味付けとかで、どこか直した方がいいとこあった?」

「特に思いつかないな。
というか、もしあっても今のつかさの料理に文句つけるなんて恐れ多くてできないよ」

冗談めかして言ってみるが、文句のつけようのない美味しさだったのはもちろん冗談ではない。

「そ、そんな大した物じゃないよ。少しでも気になるとこあったら遠慮なく言ってほしいな」

「遠慮とかしてるわけじゃなくて本当に文句のつけようがないんだ。
まあ個人の好みもあるからあまり無責任な事は言えないけど、少なくとも俺にとってはつかさの料理は最高だよ」

「は、はぅぅ……。そ、そこまで言ってもらえると……。もう……照れちゃうよぉ……」

耳まで真っ赤にしながらぺしぺし叩いてくるつかさ。
反応がつかさらしく可愛い、しかし照れ屋のつかさにしてもちょっと赤すぎる気が……

「なあ、顔赤いぞ、もしかして熱でもあるんじゃ……」

「だ、だいじょぶだよ。熱とかじゃないから」

「ならいいけど、辛かったら無理しちゃ駄目だぞ?」

「う、うん。……もう、鈍いよぉ……。男君……。
で、でも心配してくれたのは嬉しいなぁ……。えへへ……」

今度は小声で何やら呟きながらの百面相が始まった

「えーっと、つかさ? ほんとに大丈夫かー?」

「は、はいっ。うん、だいじょぶだいじょぶ。
じゃ、じゃあお皿運んじゃおうか。……え、えと、洗うの一緒にお願いしてもいいかな?」

「いや、俺がやるから一緒にと言わず任せてくれていいぞ」

「いやいや男君、そんな気をつかわなくていいんだよ。勉強もあるんだろう?」

つかさの後ろからそう声をかけてきたのは柊ただおおじさんだ。
柊家の大黒柱であるおじさんはつかさに似て……
いやつかさがおじさんに似たと言うべきか。
とにかくつかさと同じように、優しげで、一緒にいると安心できる空気を常時纏った温かい人だ。
俺の事もよく気に掛けてくれて、何かと面倒をみてくれる

「いえ、やらせてください。最近よく夜御馳走になっちゃってますし」

「といってもこっちも普段からなにかと手伝ってもらってるからねぇ…」

「まあ男君の場合は何かお手伝いしないとむしろ気に病んじゃうものねぇ。
断ると勉強に集中できなくなっちゃいそう」

こちらはおじさんの奥さんであり、つかさ達のお母さんでもある柊みきさん。
みきさんは四人も娘がいるとは思えないほど若々しい人で、おじさんとは今でも二人で旅行に行くほど仲がいい。
俺にとっておじさんとみきさんは密かに理想の夫婦像だったりする。

「そういう事です」

「ん……、じゃあお願いしていいかな?男君」

「はい、おじさんもみきさんもゆっくりしててください」

おじさんを「おじさん」と呼ぶなら普通みきさんのことも「おばさん」と呼ぶところなのだろうが、
みきさんの場合外見があまりにも若すぎて「おばさん」とは呼びにくいのである。
俺が幼い頃も、子供心に他のお母さん達に比べて若い人だと思っていた記憶があるが、
その後今に至るまでも外見的にはほとんど年をとってないんじゃないだろうか。みきさん恐るべし。
家庭に入って体型が崩れた事を嘆くお母様方が多いと聞くが、
みきさんは顔が若々しいだけではなく、四人も子供を産んだうえで尚体型も維持している。
こんな凄い人が母親なのだから、かがみもそこまで体重を気にする必要なんかないだろうにと思うのである。
……「次言ったら吊るす」だそうなので本人には言わないが。

「じゃあ一緒にやろ? 男君」

「いや、任せてくれていいって、今日は支度の手伝いもしてないしな。
つかさは歯磨きして先に勉強始めちゃってていいからさ。かがみにもそう伝えておいてくれ」

「で、でもぉ。作るの一緒にできなかったからこそ、お皿洗いくらいは一緒に……」

「せっかく男君がいいって言ってくれてるんだからつかさは早く歯磨きしちゃいなさい」

「えー……」

「えー、じゃありません、男君も虫歯がある女の子なんて嫌よね?」

「? いえ別に―――」

「ふえっ!? お、男君! 私虫歯なんてないからねっ!?」

「あ、ああ。それは知ってるけど―――」

「ほらほら早くする、歯磨きは食後三分以内にやらないと効果半減よ」

「う、うんっ。ピカピカにしてくる!」

なぜか妙に焦った様子で洗面所に駆けていくつかさ、どうしたんだろうか

「なんか様子おかしかったですけど、どうかしたんですかね」

「ふふ、男君の名前出すと一発で言う事聞くのよ。かわいいんだから」

「はあ……」

「じゃあ悪いけど後はお願いね、男君が来てくれると色々助かるわ」

「いえそんな、俺の方がずっと助けてもらってますから」

あんな美味しい晩御飯をご馳走になって何もしないようじゃバチが当たるというものだ。よし、始めるか




洗剤をつけたスポンジで丁寧に皿を磨いていく。ソースは油物だからしっかり落とさなくては。
もちろんゆすぐ時も洗剤を残さないようにしっかりゆすぐ。
最後に指でこすってキュキュっと音がしないようでは不合格である。
なんせ食器や調理器具は、犠牲になった食材や調理してくれたつかさ達に次ぐ、今日の美味しいハンバーグの功労者。
彼らの存在なくしてあの素晴らしい料理は生まれ得ない。
旨い料理は芸術だ、食という生きるうえで必要最低限の行為に娯楽のような楽しみを与えてくれる。
だから料理人、食材は元より、食器や調理器具にも感謝の意を示し、こうしてピカピカに磨き上げなければならない。
……この辺りの考えに俺が食べる事が好きで大食らいである事は関係ない。
ただ食というものに対して真摯であるべきと思ってるだけだ、うん。
しかしそう言いつつ最近まで長いこと自炊の手を抜いてたんだよな、俺……。
ううむ、つかさがこれ程腕を上げているというのにあんな事でよかったのか?
食わせる相手が自分とはいえ、あれじゃとても食に対して真摯とは言えなかったのでは―――

「あれ、男君が洗ってるんだ」

などとグダグダ悩んでいた俺に、はい追加、とスプーンを渡してくる(顔は)綺麗なお姉さん。
柊家次女まつりさん登場、どうやらデザートにアイスを食べていたらしい。
まつりさんはかがみとつかさの姉で、現在大学生である。
ちなみに更に上の姉である長女のいのりさんは会社勤めをしていて、今日はまだ帰宅していない。

「またお手伝いしてんだ、相変わらず真面目だこと。
男君忙しい職場に就職したら過労死しちゃうんじゃない?」

「勝手に人の未来予想図を真っ暗にしないでくださいよ」

まつりさんには昔から何かとからかわれまくっている。
ついさっきの夕飯の席でも色々弄ばれたばかりだ。
いわく俺はいじりやすいうえに反応が面白い、とのこと。
…自分としてはそんな面白い反応返してる覚えはないんだが。

「そだ、ねえねえ男君」

「はい?」

ずぷ

………………

呼びかけに振り向いたら、まつりさんの人差し指が俺の頬にずっぷりと刺さったわけで。
肩を叩き、相手が振り向いたところに人差し指を伸ばしておくアレである、
未だにやる人いるんだな…

「……楽しいですか?」

「楽しいですよ?」

ひーかかったーひっかっかったーと喜ぶまつりさん。
…まあまつりさんが楽しいならいいですけどね。

「くだらない事しないでくださいよ……」

「くだらなくなんかないよー。後姿があまりに無防備だったからここは一つ油断は大敵なのだという事を教えてやらねば!と思ってさ。
私が敵なら男君死んでるよ?」

「まつりさんは敵じゃないでしょ」

「そだね、私はいつでも君の味方だよ」

「え……。そ、それは、どうも……」

「あは、赤くなった。照れたか? 照れたな?」

「む………」

「まあまあ、拗ねない拗ねない」

「拗ねてないですよ」

「ところでさ、男君的につかさのハンバーグどうだった?」

「美味しかったですよ、つかさの料理はいつでも美味しいですし。
まつりさんも意外に料理得意なんだから、
たまにはおじさんとみきさんに振舞ってみたりするのもいいんじゃないですか?」

「こらこら意外にってなにさ。
それはともかくやっぱ男の子からしたらお嫁にするなら料理上手い方がいいのかね?」

「それは……、まあ人によるんじゃないですか」

「男君的にはどうなのよ、
例えば、料理が得意なつかさと、料理は微妙だけど他はそつなくこなすかがみだったらどっちを嫁にしたい?」

「いやどっちをって……てか嫁にするってなんですかっ」

「まんまの意味ですよ、
男君の心さえ決まれば、我が柊家はいつでもあの二人を嫁に出す準備はできてるよ。
さあ選べ選べ!」

こ、この人は……何を言い出すかと思えば

「そ、そんなの俺に選択権がある話じゃないでしょう、ていうかかがみ達の気持ちは無視ですか!」

「いやあ、あの子達って基本的に男っ気ないしさー、売れ残る前に手近なとこに押し付けちゃえと」

「いやまだ高校生ですよかがみ達…」

何が悲しくて十代の身で売れ残るなんて事を心配されてるんだあの二人は。
ただかがみ達が未だに彼氏の一人も持った事がないというのは、俺としても不思議な話だ。
二人共顔も可愛くて性格も申し分ないというのに。
まあその辺りはまずきっかけがあるかどうかの問題でもあるか。
昔からかがみとつかさの事を可愛いと思うなどと言う声は男友達の間でチラホラ聞いていたし、
その中に一人でも、ちゃんと告白する気になるまで想いを昇華する奴がいれば、色々違っていたんだろう。
…そう想像するとなんとなく嫌な気分になるのはなぜだろう

「これからいい男に出会えるチャンスなんていくらでもありますよ、あいつらなら。
というかですね、妹の事よりもまつりさんは自分の心配を―――」

……やばい、口が滑った

「……吊るすよ? うちのでっかい御神木から吊るすよ?」

「すいませんでした」

口は笑ったままだが眼が違う、殺気全開である。本当に吊るされそうだ。
神社の娘が御神木から吊るすなんて冗談にしても不謹慎極まりないのでは、
なんてツッコミもさせてもらえない怖さ。
さすが姉妹、怒った時の発想がかがみと似通っているのであった。

「え、えと、まあですね、とにかくあの二人ならいずれいい相手捕まえますよ。
焦って俺なんかをあてがうのは駄目ですって」

「なんだい、うちの妹達じゃ不満だってかー?
男君の気持ちとしてはどうなのよ」

「そりゃ不満なんて……あるわけ、ないじゃないですか」

俺の方に二人に対しての不満なんてこれっぽっちもあるわけない。
正直に言えば、かがみかつかさと生涯を共にできるとしたら、それはなんて幸せなことかと思う。
だが、今までもずっと支えてもらっているのだ。
それだけでも十分過ぎるほどなのに、この上何を望む事ができるのか。
第一……俺じゃ二人を幸せにしてやれないだろう。
いやそもそもそれ以前の問題で

「ていうか、だからまずかがみ達の気持ち無視してこんな話成立するわけないでしょう」

「そこはほら、今のかがみ達の気持ちがどうだろうと、俺の魅力で振り向かせてみせる!ぐらいの気概でさ。
少なくとも嫌われちゃいない事くらいは愚鈍レベルマックスの男君にもわかるでしょ?」

ぐ、愚鈍って……

「そりゃまあさすがに嫌われてるとは思ってませんけど、
…というかあいつらに実は嫌われてるとかだったらもう死ぬしかないですよ、俺。
でもそれと生涯の伴侶に選べるかってのはまた別でしょ。
俺じゃあいつらにとって幼馴染以上にはなれませんよ、魅力なんてそれこそ欠片もないですし」

「…相変わらずというか、まーだそんなふうに思ってんだ。魅力、あると思うけどね、私は。
まあ私があの子らの気持ち勝手に言うわけにはいかないし、後は二人の頑張り次第か」

「なにがですか?」

「こんだけ際どい言い方しても一向に気付かない君にさすがのまつりさんもお手上げって話。
図体は無駄にでかくなったくせに、そういうとこは全然成長しないよね。
そういや今身長いくつよ?」

こつこつと俺の頭を小突きながら言うまつりさん。

「今年の身体測定で184でした」

「育ってるねえ。その分心の方も成長させなって。少しは気持ち察してやってくれないと妹達がかわいそうになってくるよ。
それとも、あの子達じゃなくて―――私にしとく?」

「え?」

不意にまつりさんの声色が優しくなったと思ったら、ぽすっと額を背中に押し付けられる

「大体何よ、つかさ達に嫌われてるんだとしたら死ぬしかない、とか。
万一そんな事になったとしてもさ……」

突然の事にとまどっていると、まつりさんの腕が前に回ってきて、ほとんど背中から抱きつかれてるような格好になってしまう。
あ、あれ? なんでこんな状況になってるんだ?
シャツ越しに感じる体温と背中に感じる柔らかさに混乱が加速していく。

「ちょ、ちょっとっ。 ま、まつりさん?」

「私がさ、いるじゃんか」

耳元で囁かれた言葉に思わず心臓が高鳴る、な、なんだこの雰囲気!?

「あ、あの……! えと……!」



「なんちゃって」



「…………は?」

さっきまでの優しげで甘やかな響きはどこへやら、
今聞こえた声にはいつも通りのいたずらっ気しか感じられないと思った次の瞬間――――

ぶーーーーーーー!!!!!

「ぬおおっっっ!!」

いきなり物凄い勢いで耳の穴に息を吹きかけられた。
み、耳が! というか鼓膜が痛い!

「きゃーはっはっはっは! びびった? びびった? ぬおお、だって!」

「ま、まつりちゃん!なんてことすんのさ! これマジで痛いって! 耳がキーンっていってるよ!」

「あ、あれ、そんな痛かった? ごめんごめん、ちょっとやりすぎたかな。悪気はなかったのよ」

「ていうか、俺の耳が痛いのはまあいいとして!」

「いいんだ」

「洗い物してる時にふざけちゃだめ! 食器割れてまつりちゃんが怪我したらどうすんのさ!?」

「は、はい、すんません。てか自分でやっといてなんだけど、私が怪我したらって。
まず自分の心配しなよそこは。
……まあそれよかさ、やっぱその口調のがいいな、私は」

あ……、突然の暴挙に驚いてつい子供の頃のようにまつりちゃん、なんて呼んでしまい
敬語も忘れてしまった。

「いつのまにかお父さん達だけじゃなくて私にまでさん付けのうえ敬語まで使うようになっちゃってさ、
おねーさんは寂しいよ、うりうり~」

「あたっ、たっ」

今度はわき腹を突つかれる

「いや、そこはまつりちゃ……まつりさんは年上ですし。
いくら付き合い長くとも最低限の礼儀は必要かなと……。だから痛いですってっ」

「なーに大人ぶってんだ、このこの。もっかいまつりブレス食らわせてやる」

俺の耳をつまんで再び自分の口元に寄せようと引っ張ってくるまつりさん

「ちょっ、やめてってばまつりちゃん!」

うお、またやってしまった。
未だにまつりさんにはペースを乱されるというか、
ちゃんと弁えた接し方をしようと意識していても、ちょっと弄くられるとそれが崩れてしまう。

「何じゃれてんのよ……」

俺の耳を離そうとしないまつりさんとしばらく組んず解れつしていると、
いつの間に傍に来ていたのか、かがみが呆れたような不機嫌なような仏頂面で俺達を見ていた。

「おっと。いやいや、いつも通り男君で遊んでただけだから気にしなさんな」

や、やっと耳が解放された、うう、伸びてないだろな

「あたた……。かがみ、助かった。ていうかまつりさん、遊ぶって俺『で』ですか……。」

「うん、男君『で』」

それが「いつも通り」と……。まあ事実だし、今更何も言うまい

「はあ……もういいです。えっと、かがみ。俺はこの通り洗い物してるから先に勉強始めててくれ」

「あ、うん。つかさから聞いた」

「つかさはもう部屋行ってるのか?」

「なんかあの子すっごい勢いで歯磨いてたわよ、なんかあったのかしらね? あの様子だともう少しかかりそう。
……それよりまつり姉さん、あまり男にちょっかい出さないでってば」

「いいじゃん少しくらい、私はこうしてイジるだけでいいんだからさ。
これくらいは笑って流せる度量がないとこの先も苦労するよー?」

「……まあいいけど。男、先行ってるから早くしてね。まつり姉さんの事は無視しちゃっていいから」

「ちょ、かがみー、ひどいよー」

「……ふんだ」

仏頂面のまま、かがみは二階は上がっていった

「……なんか機嫌悪かったですね。まつりさんまた何か怒らせるような事したんじゃないですか?」

「この状況でもやっぱり全然気付かないんだね、君って奴は……。
まああの程度で不機嫌を顔に出しちゃうかがみも、全く状況を理解できてない君も、
しっかりしてるようでまだまだ子供ってことよ」

「む……。子供って、まつりさんもほとんど変わんないでしょ」

「お、生意気言うじゃん。さっきは年上だから~とか言ってたくせに。
まあとにかく私は事実君らより年上で、それはこれから先もずっと変わらないんだし、
私から見ればいつまでも子供なのよ」

確かにその通りではあるんだけど、まつりさんにはっきりと言われると悔しさを感じなくもない。
……子供の頃から散々いじくられてきたせいか、思えば、
まつりさんに認められたいって思いが俺の中には常にあった気がする。

「だからさ」

不意にまつりさんがついっと背伸びをする、また俺の耳をつまむ気かと警戒したら

「変に大人ぶろうとしないで、いつでも甘えていいからね? 男君」

優しく、頭を撫でられた。懐かしい感触に心が揺れる。
……昔からそうだったな、普段俺をおもちゃにしながらも、結局優しい人なのだ、まつりさんは。

「……ありがと、なんだかんだ言って優しいよね、まつりちゃんって」

「へ!? や、べ、別に優しいとかじゃ……」

「でも、駄目だよ。そう言ってくれるのは嬉しいけど、そんな優しい人に俺なんかが甘えていいわけないんだからさ」

「は……?」

まつりさんも、かがみも、つかさも、いのりさんも、おじさんも、みきさんも、
みんなみんなとても優しい人達だ。
だからこそ必要以上に甘えちゃいけない、俺なんかがそんな事していいわけがない。
……まあそもそもこんなに仲良くさせてもらってる時点で相当甘えちゃってるか、うーむ。

「……ばか、ばーかばーか」

あ、あれ? なんかまつりさんの表情がかなりヤバイ感じに。
経験上これはかなりキレてる時の顔だ

「え、えと、まつりさん、……怒ってます?」

「べーつーにー? 怒ってなんかないですよー? ただ君はやっぱり一生治らないクソ馬鹿だと思ってるだけ」

「は、はあ……」

ど、どうしよう。俺なんかしちゃったんだろうか

「……ま、いいけど。そう簡単には人間変われないよね。
うんうんわかってるわかってる」

そう言いつつも顔は未だに怒ったままだ、うっすら笑ってるのが余計に怖い

「あ、あの、すいません、まつりさん」

「う……、そんな申し訳なさそうな顔で謝らないでよ。どうせ理由もわかってない癖に。
もう、怒りにくいなぁ……」

「やっぱ怒ってたんじゃないですか」

「うっさい、……もういいよ。私の事はいいから、ちゃっちゃと皿洗い終わらせてかがみ達のとこ行ってあげなね」

そんじゃね、と去っていくまつりさん。
まつりさんの事も気になるが、あまりかがみ達を待たせるわけにもいかないし、急いで終わらせるか。
話しながら手も動かし続けていたので、そろそろ洗い物も終わりそうだ。
よし、あとはキッチン周りの掃除か。




「うわっ、つかさ、アンタまだ歯磨きしてたの!?」

あ、まだやってたんだつかさ……




―――――――――――――


「あれ?つかさ寝ちゃってる?」

「そうみたいだな」

皿洗いのあと再び、
今度はつかさも加わって勉強に勤しんでいたわけだが、どうやらつかさがギブアップらしい。
気付けばテーブルに突っ伏して寝息をたてている。

「もう、しょうがないなぁ。ほらつかさ、寝るならちゃんと部屋で寝なさい」

かがみがつかさを揺すって起こそうとする

「え、えと、まつりさん、……怒ってます?」

「べーつーにー? 怒ってなんかないですよー? ただ君はやっぱり一生治らないクソ馬鹿だと思ってるだけ」

「は、はあ……」

ど、どうしよう。俺なんかしちゃったんだろうか

「……ま、いいけど。そう簡単には人間変われないよね。
うんうんわかってるわかってる」

そう言いつつも顔は未だに怒ったままだ、うっすら笑ってるのが余計に怖い

「あ、あの、すいません、まつりさん」

「う……、そんな申し訳なさそうな顔で謝らないでよ。どうせ理由もわかってない癖に。
もう、怒りにくいなぁ……」

「やっぱ怒ってたんじゃないですか」

「うっさい、……もういいよ。私の事はいいから、ちゃっちゃと皿洗い終わらせてかがみ達のとこ行ってあげなね」

そんじゃね、と去っていくまつりさん。
まつりさんの事も気になるが、あまりかがみ達を待たせるわけにもいかないし、急いで終わらせるか。
話しながら手も動かし続けていたので、そろそろ洗い物も終わりそうだ。
よし、あとはキッチン周りの掃除か。




「うわっ、つかさ、アンタまだ歯磨きしてたの!?」

あ、まだやってたんだつかさ……




―――――――――――――


「あれ?つかさ寝ちゃってる?」

「そうみたいだな」

皿洗いのあと再び、
今度はつかさも加わって勉強に勤しんでいたわけだが、どうやらつかさがギブアップらしい。
気付けばテーブルに突っ伏して寝息をたてている。

「もう、しょうがないなぁ。ほらつかさ、寝るならちゃんと部屋で寝なさい」

かがみがつかさを揺すって起こそうとする

「起こすのもかわいそうだろ、俺が部屋まで運ぶよ」

「運ぶ?」

そーっとそーっと、起こさないように細心の注意をはらいながらつかさを抱え上げる。
軽いなつかさは、やっぱり女の子だ。って当たり前なんだが。

「…………!!」

「じゃあつかさをベッドに寝かせてくるから、悪いがドア開けてくれないか? ……かがみ?」

「……え? あ、うん…」

ぷいっと顔をそむけドアを開け、足早につかさの部屋の襖も開けに行くかがみ。

「じゃ、じゃあよろしく、ちゃんと布団かけてあげてね」

「ああ」

戻ってきたかがみとすれ違うが、なぜか表情を隠すように俯いていた。





相変わらず綺麗に片付いているつかさの部屋に入り、起こさないように慎重にベッドに寝かせる。
安らかな寝顔だ、見てるこっちまで穏やかな気分になれる。
布団をちゃんと肩口までかけて……と。
よし、女の子の寝顔をあまり眺めるのも失礼だし、早く出よう

「ん……あれ……?」

「あ、悪い。起こしちゃったか」

目を覚ましたつかさが寝ぼけ眼で見上げてくる。

「ぁ…、ごめんね。寝ちゃったんだ、私」

「気にするな、もう11時近いしな。そのまま寝ちゃっていいぞ」

俺もそろそろ帰らなきゃな、さすがに時間が時間だ。

「……ねぇ、男君」

「ん?」

部屋を出ようとした俺につかさが声をかけてくる、目がさえてしまったのだろうか

「……男君は、大学行くんだよね」

「ああ、希望通りのとこに行けるかはわかんないけどな」

「男君なら大丈夫だよ…、それでさ、志望校……お姉ちゃんと同じとこなんだよね……」

「ああ」

「……」

「……つかさ?」

「……………なんで……………」

「……どうした?」

「……ううん、なんでもない。おやすみ、男君。
……あれ? そういえばなんで私ベッドにいるのかな」

「ああ、俺が運んだんだ」

「あ、そうなんだ……、って……!!ど、どうやって…?」

「どうやってって……あの、いわゆるお姫様だっこってやつで」

……口に出して言うと恥ずかしいなこの言葉

「あ、あううう……」

真っ赤になって呻きだすつかさ、
……あ、も、もしかして寝ているつかさに俺がよからぬ事をしたとでも思われたかっ?

「いや待てっ。へ、変なとこ触ったりはしてないから安心してくれ!」

「へ、変なとこってなに!? そ、それに違うよ。男君を疑ってるわけじゃなくて、
その……寝てたのがもったいないっていうか……あの……」

「も、もったいないってなにがだ?」

なにがどうもったいないというのか。
いかに気心知れた幼馴染と言えど、つかさも女の子。
こんなふうに考えが読めないことが最近増えてきた

「な、なにが、って……い、言えるわけないよぉっ!
うぅ……な、なんでもないからっ。おやすみっ!」

強い口調で言ってガバっと布団を被るつかさ。怒らせてしまったらしい。

「あ、ああ。……よくわかんないけど、その、悪かった」

「あ……ち、違うの! 怒ってるとかじゃないし、男君が悪いんじゃないから! 
……き、気にしないで」

「そ、そうか。……じゃあ、おやすみな。いい夢、見るんだぞ」

「お、おやすみ……。……うん、今なら、きっととってもいい夢、見れると思う……」

「そうか、何よりだ」

ドアを閉めてつかさの部屋をあとにする。




かがみの部屋に戻ると、何やらかがみが難しい顔をしていた。

「ただいま」

「お帰り、……なんか妙に時間かかってない?」

「つかさが目を覚ましちゃってな、少し話してた」

「……あっそ」

「……もしかして機嫌悪いか?」

「……べっつにー、ちょっと問題わかんないのがあって悩んでただけ」

「そ、そうか。…じゃあ俺もそろそろ帰るな」

「え、帰るの?」

「時計見てみろ、もう11時まわってる」

勉強道具をしまいながら時計を指差す

「ほんとだ」

「じゃあ、明日も図書館で勉強ってことでいいか?」

「う、うん。……ちょ、ちょーっと待った」

「どうした?」

「あー、えっと……。疲れてるでしょ? 手とか腕とかマッサージしてあげる」

「? いや別に―――」

「いいから手、貸せってーの」

有無を言わさぬ迫力で手をとり、さすりだすかがみ、いきなりなんなんだ。
手から腕へ、柔らかなかがみの指先が肌をすべっていく。正直かなりこそばゆい。

「………っておい、ど、どこ触ってんだよ」

何のつもりか、かがみは腹の辺りまでさすりだした。

「……だって、さっき、この辺りも思いっきり密着してた」

「な、なにがだ?」

「なんでもいいからじっとしてて。
……うわっ、腹筋形でてる。いつもあんなに食べてるくせに、なんで脂肪つかないのかしらねあんたは……」

すでにとてもマッサージとは思えないが、かがみにじっとしてろと言われれば逆らうわけにもいかない。

「あとは……耳と……」

「お、おい」

今度は耳を触られる、一体何がしたいんだ

「な、なあ、これなんなのさ?」

「……上書きよ」

「は?」

「……まあ私の自己満足で、特に深い意味はないから気にしないの。
別にいーじゃん、痛くしてるわけじゃないんだし」

「い、痛くはないけど……。むしろ気持ちよくて困―――じゃなくてだな」

「なに、気持ちいいの? 女の子に耳たぶ触られて喜ぶなんて、男、変態っぽーい」

「さ、触ってきたのはお前だろ!?」

だ、大体やってるのがお前じゃなきゃこんな気持ちには―――って
いやいや何考えてるんだ俺

「よし、仕上げ」

最後に頭をゆっくりと撫でてかがみの謎行動は終わった。
今日はなんだかよく頭を撫でられる日だな。
まつりさんの時も思ったが、かがみに撫でられるのは殊更久しぶりな気がする。
懐かしくも心地いいかがみの手の感触がまだ頭に――て、これじゃ本当に変態っぽいじゃないかっ。

「な、なんだったんだ? 一体。途中から明らかにマッサージ関係なかったと思うけど」

「言ったでしょ、上書き。あと充電も兼ねてるかな」

「いや意味わかんないんだが」

「意味、ちょっとは考えてみたら……?」

どこか緊張した面持ちで見上げてくるかがみ、考えてみたらと言われてもな……。
突拍子もなさすぎて想像もつかない。

「……俺とかがみは実はロボットで、こうする事で充電したりデータやらなんやらの上書きしたり……とか?」

「……あんた、バカだ」

心底の呆れ顔のうえ、断定系で言われてしまった

「い、いや、自分でも馬鹿な事言ったとは思うけど、上書きだの充電だのから連想できるのがそれしかなくて」

「まあお馬鹿なあんたでもこれくらいはわかってるでしょ?
男、あんたの手も、腕も、お腹も、耳も、頭も、今日最後に触れたのは誰?」

「……? かがみだけど」

今のところは、だが。
まあ後は誰もいない家に帰るだけだし、帰宅途中で変質者に襲われでもしない限り変わりはしないだろう。

「へへん、よろしい」

子供のように無邪気な笑顔で満足気に頷くかがみ、
結局なんのつもりだったのか全くわからないけど、かがみが嬉しそうにしてるなら理由なんてどうでもいいか。

「じゃあ、終わったんなら今度こそ行くな」

そろそろ本当に帰らなければ。
つかさが寝てるのに気付いた時からなんだかんだで三十分は経ってしまった。
かがみやつかさと話していると、楽しさにかまけてしまい油断するとあっという間に時間が経つ。
女の子の部屋にいる時間としても適切じゃないし、早く帰ってまた勉強しなくては。
今日は昼遊んでしまったし、時間はいくらあっても足りない。





「送ってあげようか?」

「バカ言わない、そしたらお前が帰り一人になるじゃないか。
近所だからって、こんな時間にあまり女の子が一人で出歩くもんじゃない」

「はいはい、言うと思った。この辺じゃそんなに心配する必要なんてないってのに」

玄関口で今までも何度か繰り返してきたやり取りをする。
俺が帰る時、かがみはこうやって毎回玄関まで見送りにきてくれる。
今は寝ているが、つかさも起きている時は同じようにしてくれる。
こういう些細な所でも、かがみ達は優しさを感じさせてくれる

「じゃあおやすみ、気をつけて帰るのよ」

「ああ、おやすみ。また明日な」

挨拶を交わして柊家をあとにする、
家についてから……まだ三時間以上は勉強できるな。
よし、帰ってもう一頑張りするとしよう

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最終更新:2009年06月17日 17:30