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 無表情、無感情。
ただの一言も発することなく、私は広がる青空を眺めながら弁当を食べていた。
そんな私の横でかがみが弁当を広げながら話しかけてくる。

「なにがあったのかは知らないけど」
「……」
「私は何も聞かない」

 かがみの言葉を右から左に聞き流しながら冷めたおかずを口に運ぶ。
男のために朝早く起きて、頑張って作ったはずのおかずのどれもが…なんだか味気ない。

「でも、あんたがあんなに泣くなんて見たことなかったから」
「……」
「さすがにほっとけなくてね」

 本当に嫌なところを見られた。
でも、からかうでもなくただ黙って私をここに連れてきてくれたことに
心の中で感謝した。口に出すと…言いたくないことまで言ってしまいそうで。

「…さて、つかさ達が心配するから先に戻るわ」

 中身を半分ほど残し、かがみは弁当を包み直して立ち上がった。
視線だけで周りに誰もいないかを確認するともう一度私に顔を向ける。

「まだ時間あるから、顔洗って戻ってきなさいね」
「……」
「…もう空よ、その弁当箱」

 かがみに言われて、空っぽの弁当箱の中で箸だけをスカスカと動かしていたことに
ようやく気付く――自分でも重症だな、と思った。

 辛いよ…苦しいよ…
誰かを好きになるのってこんなに辛いこと?

『辛いなら、苦しいなら、それを取り除かなきゃ』

 取り除く…?

『そうしないと、いつか壊れてしまう』

 どうやって?

『難しく考えることないと思う』

 …わかんないよ。

『彼のこと、好きなんでしょ?』

 ……。

『邪魔なのがいるなら排除すればいいだけの話』

 え?

『そうすれば障害なんてなくなる。あとは自分が勇気を出せばいい』

 排除、って…そんなことできるわけが…

『大丈夫。手伝ってあげるから』

 やめてよ…そんな…こと…

『素直になって。その衝動に素直に従えば――』

 したく……な…い…

「――っ!?」

 跳ね起きて辺りを見渡す。
そこにあるのはいつもの見慣れたクラスの風景。賑やかなみんなの話し声や笑い声が
悪夢から覚めた私の耳に響く。

「こなちゃん、どうしたの?」
「すごい汗ですよ」

 すぐ近くで話していたつかさとみゆきさんが心配そうに私の様子を見てくれる。
どうやらぼーっとしているうちに居眠りしてしまっていたらしい。

「ん~、大丈夫。階段から転げ落ちた夢でも見たんだよ、きっと」
「あるよねー、そういうの」
「顔を洗ってきては?額も汗だくです」
「うん、そうする…あれ、かがみんは?」

 つかさと一緒にいたはずのかがみの姿がない。

「今さっき教室に戻っていきましたよ」
「もう予鈴鳴っちゃうからね。こなちゃんがなんかうなされてたから、さっきまで
心配してここで様子見てたけど」
「そっか…」

 カバンからタオルを取り出し、教室を出る。
…よく思い出せないけど。ものすごい悪夢を見たような気がしていた。
見てはいけないものを見たような、聞いてはいけないことを聞いたような。

『大丈夫。手伝ってあげるから』

 その言葉だけが頭の中に残っている。
私の中にある、黒い何かが恐ろしいことを語りかけてきた――それだけは理解できた。

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最終更新:2009年07月28日 17:57