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 朝起きて、みんなと合流してはしゃぎながら一緒に学校に行って。
とっても賑やかで楽しい一日を送った後は、男さんと並んでお喋りしながら歩く。

「ほほー、それってそういうことだったのか」
「らしいですよ。だからあの話も…」
「あはは。やっと理解した」

 彼に、この日常に、何か特別なことを望んでいるわけじゃない。
いつかは男さんも卒業してしまうし、この日々がずっと続くわけじゃないと
わかっているけれど。

 こんな穏やかな気持ちで過ごせる時間が、今はとても大切でかけがえのないもの。
本当に私は幸せなんだなって思う。

「ん、あれは」
「…あ」

だけど、そんな幸せなはずの日々にひとつの不安がある。

「お姉ちゃん…?」
「おーい、こなたー」

 いつも通りに過ぎ行く日常。
その日常を共に過ごす賑やかなメンバーの一人であるはずのこなたお姉ちゃんが…
私達の前でも、かがみ先輩達の前でも笑顔を見せなくなっていったこと。

「…行っちゃった」
「最近おかしいな、あいつ…」

 時折、何か呟いているようだけど何を言っているのかまではわからない。
ついこの間まで一緒にやっていたネットゲームにもログインしなくなってしまって。
帰ってからはずっと、部屋にこもってしまっている。

「ゆたかは何か知ってるか?」
「様子がおかしいのは気付いていたけど…聞いてもとぼけて教えてくれないんです」

 とぼける、と言うのは正確ではない。
「ん、なんでもないから。大丈夫だよ」とは返してくれるけど…あまりにも無表情で、
目もすぐそこにいる私ではなくどこか遠くを見ているようで、私に返す言葉さえも
お姉ちゃんじゃない『誰か』が代わりに答えているような錯覚すら覚える。

「……」

 どうしてそう思うのかは私にもわからない。
ただ、とても怖い。根拠も理由もなく漠然と…今のお姉ちゃんを怖いと思っている私がいた。

――ねぇ、お姉ちゃん。


「……」


どこに行くの?そっちは真っ暗だよ?


「……」


え…なに、その手に持ってるもの…?


「…もうすぐ終わるから。そうすればもう大丈夫」


しっかりと握られている銀色の何かが怪しく光る。


「やめて…その先に行っちゃダメ」


お姉ちゃんの姿が暗闇の先に消えていく。そして…そして。


「いやああああああっ!」


最後にはあまりにも鮮やかな赤の世界が広がった。


「――ッ…!」

 心臓がバクバク言っている。
呼吸が乱れて落ち着かない。目を閉じて必死に息を整え、額から流れ落ちた汗を拭う。

「は…っ」

 銀色の光が、赤い世界がしっかりと脳裏に焼き付いている。
なんだろう。この…不安と恐怖と、いろんな気持ちが入り混じったものは。

「おねえ…ちゃん――」


…日常が壊れる。


 それはあいまいな夢の記憶から導き出された、たった一言だけの答え。




 やかましいはずのセミの声も今の私には何も気にならず、すっと耳を通り抜ける。
近くでは男やかがみ達がいつものように楽しそうに喋っていた。

「えー。男くんって入学した頃からそんなだったんだ~」
「ちょ、ちょっと待てこら!そんな誤解を招くようなことは…」
「年下好きは間違いないでしょ?」
「う…いや、まあそうだが」

 からかい口調で話すかがみと、それにうろたえる男。
くすくす笑っているつかさ。

「だからって別にロリコンとかいうわけではなあああい!」
「まあ私もフォローしてあげたいけどね。というか大声上げると余計危険よ?」
「…げふんげふん」
「人の噂も七十五年と申します~」
「そうそう、七十五年…ってなげえよ!」

以前ならその輪の中に私も入っていたはず、なのに。

「お前が広めたんじゃないだろうな?」
「失礼ね。いくら当時同じクラスだったからって発信源になりうるとは限らないわよ」
「元々そんな噂あったみたいだよね~」

 私だけが――ひとりぼっち。

「マジか…そりゃあ、ゆたかと付き合っちゃいるけど…別にそういう趣味は」
「ゆたかちゃんは確かに可愛いよね…うんうん」
「つかさも意味深な発言をするな」

 ゆーちゃん…ゆたか…
小早川…ゆたか。私の従妹。私の可愛い…可愛かった、可愛かったはずの従妹。

『邪魔者は、消しちゃわないと』

そしてまた――『私』の声が聞こえた。

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最終更新:2009年08月12日 13:24