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「真相ってなによ…それよりあんた、抜け出してきて大丈夫なの?」
「はっはっは、こなたさんの回復力をあなどっちゃいけないよ」

 顔を引きつらせながら言っても説得力ないぞ。

「ま、ちょっと付き合いなよ」
「……」

 こなたはかがみに一番近い位置に立ち、その後ろに立つゆたか達はみな一様に
真剣なまなざしをかがみに向けていた。

「私がおかしくなってきたのは、公園で男とゆーちゃんがキスしてる現場を見た日から」

 他人にそういうことを言われると照れくさいが、事実だしごまかす場面でもない。
それにこれは全てを明かすために話すべきことのひとつ。

「本当ならあの公園を通る用事なんかなかったんだ。だけど散歩に付き合わない?って
言われて、私もちょうど暇だったから一緒にぼーっと歩いてたわけさ」

 特に話題があったわけでもない。
何かを話すわけでもなく、二人でぶらぶらと歩いて過ぎるだけのはずだったその散歩道は、
こなたが壊れる最初のきっかけを作った。

「あの時点で気付くべきだったかなあ。その人、ただ散歩したいだけの割には落ち着きなく
その辺りをうろうろしてたっけ」

 視線を向けた相手――かがみは答えない。
ただただ無表情で、無言でこなたの話を聞き続けている。

「――次がさ、お弁当の話」

 ゆたかが俺に弁当を作ってきてくれた日。
前の日には何も言わなかったから、驚きと喜びがいっぺんに襲ってきたのを覚えている。

「俺、びっくりしたよ。すっごく嬉しくて、おかずもご飯も本当に美味くて」
「男さんの笑顔を見て、ああ作ってきてよかったって心から思いました」

 俺の言葉にゆたかも笑顔で続けてそう言ってくれた。
だけど、あの幸せな出来事すらも悲劇へ続く扉の錠前をまた一つ壊す道具にされていたなんて。

「普通ならカップルの仲が進展するおいしいイベントなんだけどね」
「その夜、こなたお姉ちゃんが空の弁当箱を流し台に置きっ放しにしてるのに気付いたんです」

 当時、ゆたかにはこなたに訊ねる勇気が持てなかった。
全然元気がなくて、今にも泣き出しそうだったから聞くに聞けなかったんだ。

「ゆーちゃんにはバレないって思ってたんだけどさ」
「その日は私が家事の当番でしたから…弁当箱に気付いてしまいました」

 あの時点ではその意味まではわからなかったけれど、お互いの話を聞いた今なら
全てがかみ合うのだ。

「私とゆーちゃんが同じ日に同じ目的…男に食べてもらうために弁当を作った。
さて、これって偶然かな?」

 偶然でそんなことがありうるのか。
もしかするとそんなこともあるかも知れない、が。

「こなたが料理ができるって話はゆたかから聞いていたけど、その証拠に弁当を作ってくると
いう話をこなたがした時はゆたかはいなかったからな」
「そう。そして男も私もゆーちゃんには話さなかったからこのことは知らないんだよ」

 なのに、翌日二人とも弁当を作ってきた。
結果として男が受け取ったのはゆたかの弁当で、一方のこなたは…

「あの時は本気で泣いたね。あんなに泣いたのはコミケで自分の目の前でその日だけ
限定販売のグッズが売り切れた時以来かもね」
「コミケのレアグッズと同レベルなのか…」
「眠い目をこすって早朝から並んで、目の前というところになって売り切れたあの悔しさ!」

いや、拳を握り締めながら熱く語られても。

「まあそれはさておき…ここで疑問が二つ起きるんだ」
「――二つ?」

かがみが訝しげに訊ねる。そう、二つだ。

「一つ目はもちろん、私達の約束を知らないゆーちゃんが偶然とは思えないタイミングで
弁当を作ったこと」
「…偶然でもありえるでしょ?お弁当作ってあげたら喜ぶかな、とか思いつきで」
「そうだねえ。思いつきで作るってこともあるかもね」

不思議な笑みを浮かべながらこなたが返す。

「でもさ、違うんだよね」
「違うって…何が?」
「偶然じゃないんだよ。ゆたかが弁当をあの日に作ってきたのはな」

 違うのだ。ゆたかとこなたが同じ日に俺のために弁当を作ってくれたのは
偶然なんかじゃなかった。
そう…これは、ゆたかに聞いてわかったことなのだが。

「あの日の前日、私に勧めて来た人がいるんですよ」


『――もし、お弁当でも作ってあげたら喜ぶんじゃないかな?』
『わ、私がですか?』
『うんうん。きっと喜ぶわよ』
『そ…そうでしょうか…あんまりたいしたもの作れないですけど』
『大丈夫。相手への気持ちがこもっていれば受け取る方は嬉しいものよ』



「…勧めたにしても、それが故意とは限らないじゃない」
「じゃあどうして私の行き先まで把握してたのかな?」
「――」

 屋上への階段の踊り場。
コトリとその場に弁当箱を落とし、ひとり泣き崩れている私の元に現れた人影。
それは静かに、呆然としながら弁当を食べるこなたの隣で見守るように座っていた。

「書かれたシナリオ通りに進められた昼休みの出来事は、また一つ、私の心を
崩壊に導いていった」

 やがて聞こえ出す幻聴でない幻聴。
苦悩するこなたに、ゆたかを邪魔者と定め、この世から消させようと囁きかける。
心が荒み、疲れきったこなたにはそれに抗う気持ちがだんだん薄れていった。

『大丈夫。手伝ってあげるから』

 ゆたかは自分の敵であり、この世界から消してしまわなくてはならない。
そうすればもう悩み苦しむことはない。俺もこなたを見てくれるようになる。
そう囁き続けて――こなたは、とうとうその声に心を委ねてしまった。

「この声なんだけどさ。聞き覚えがあるんだ」
「…へえ?」
「囁きだから普通に喋るのとは違うんだけどね。あの時とは違って、今の私なら
あの声の正体がわかる」
「あら、そうなの…」

 平然と話しているように見えるが、かがみの表情に少しずつ歪みが出始めている。
…ここで、みゆきさんとつかさが俺の前に歩み出た。二人ともかがみをまっすぐに見据えながら。

「ここ数週間、泉さんはいつもうなされるように眠っていました」
「そんなこなちゃんを…いつもすぐ近くで見てたよね」

 どれくらい壊れてきているのか。
果たして自分の思い通りに動いて、ゆたかを抹殺してくれるのか。そう思いながら。

「うなされるこなちゃんを見てる時の顔、自分でわかってたかな?」
「…つかさ」
「とても怖かった。うなされるこなちゃんを見ながら不気味に微笑んでた」
「あんた、何を――」
「あの頃…夢を見たんだよ。何度も」



ねぇ――どこへ行くの?そっちは真っ暗だよ。

『……』

え…なに、その手に持ってるもの…?

『…もうすぐ終わるから。そうすればもう大丈夫』

しっかりと握られている銀色の何かが怪しく光る。

『やめて…その先に行っちゃダメ』

姉の姿が暗闇の先に消えていく。そして…そして。

『いやああああああっ!』

最後にはあまりにも鮮やかな赤の世界が広がった。

「…ゆーちゃんも同じような夢を見たそうだよ」
「夢の内容があまりにも似てて…他人事だとは思えませんでした」

 そしてそれからそう経たないうちに。こなたの洗脳は完了し…もう囁きかけなくても
こなたの頭の中で勝手に『声』が聞こえるようになっていた。

『邪魔者は、消しちゃわないと』

そして当日…事件は起こった。

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最終更新:2009年09月02日 20:50