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―――

「…………じゃあな、かがみ」

「…………ん」

 公園。
 俺とかがみは別れた。
 ……そういやここら辺は、かがみと初めて会った所だ。
 あのときは、公園で野宿しよう、なんて馬鹿をやろうとしてたっけ……。

―――それが、何でこんなことになったのか。

 こなたが刺されて。
 自分の彼女を疑わなくちゃいけなくて。
 ……こんな、酷いことって、ない。
 どうすればいい?
 俺は、どうすればいいんだ?

「―――まったく、俺ってやつは……」

 ……答えを、見つけられないまま、俺はゆらゆらと、帰路についた。




☆―――

「それじゃあこなた。また来るからね」
「うん。ばいばいゆいねえさん」

 病室のドアが閉められて、私は肩の力を抜いた。

「ふう……」

 やっと、出ていった、か。
 かがみんと男が出ていった後、ゆいねえさんが刑事さんを連れてやってきた。
 ……私を見つけてくれたのはゆいねえさんだったみたい。感謝しなきゃ。
 色々なことを訊かれた。
 でも、その時のことは覚えていない。



―――そう、言い通した。


 嘘だった。
 ホントは全部、覚えていた。
 犯人も、よく知った人だった。

 それを、誰かに言うつもりはなかった。
 だって……友達だから。
 なにか理由があるんだって、思うんだ。
 ……そう思いたいだけかも、しれないけど。


「……ねえ、何で、あんなことしたの……?」


 一人きりで呟いたその言葉は、当然誰に届くことも無く、空気を振るわせただけだった。





☆―――

 ……眠い。
 現在夜十時。
 いつもなら、余裕で起きてる時間だ。
 ……なのに、今日は疲れたからか、やたらと眠かった。

「……はあ」

 ……ホントに、今日は疲れた。

「どうすりゃいいんだ……」

 疑っちゃ駄目なはずなのに。
 疑ってしまう。
 あの、今日の不自然な挙動が、引っ掛かる。
 ……俺は、彼女を疑っている。

「……くそっ」

 ……彼氏失格だ。こんな奴。
 ……俺は、つかさと付き合ってて、いいのだろうか。
 ……自信、無いや。

 駄目だと思っているのに、俺は眼を閉じた。
 ……ゆっくりと、意識は落ちていった。



―――



―――

―――ピンポーン。
 チャイムの音。
 ぼんやりと、頭が覚醒する。
 時計は……いつもの時間。……なのに、やたら眠い。
 ……チャイム?

「男くーん?」

 ……つかさだ。

 まだ寝間着だが……とりあえず、出とくか。
ダルい身体を無理矢理起こし、玄関に向かった。
ガチャリ。ドアを開ける。
そこに、先程の声の主。柊つかさが笑顔でいた。

「おはよー、男くん」

「……おはよ、つかさ」

「あれ? まだ寝起きかな?」

「……ああ、チャイムで眼が覚めた」

「あ、ごめんね? 起こしちゃったんだ、私」

「……気にすんな」

「あ、じゃあ朝ごはんもまだかな?」

「……ああ」

「じ、じゃあさ、私、作ろうか?」

「…………」

「……? 男くん? どうしたの? ちょっとおかしいよ? 調子悪いのかな?」

「……いや」

「そう? ならいいけど……」


―――ああ、俺は……なんて、酷い奴なんだ―――


「……つかさ」

「? なに?」

「……悪い、今日は、体調が悪いんだ……一人で、行ってくれないか?」

「え? 男くん、どこか悪いの? じ、じゃあ看病しなくちゃ……っ」

 ぎり……。歯をくいしばる。

「……いいんだ。つかさは学校に行ってくれ」

「でも、心配だよ……」

「……これは、持病みたいな物だから。
 看病も、必要ない」

「……じ、じゃあ帰りに寄って……」

「いや、いいよ。……今日は、一日中寝てるから。
 ……無駄足になっちまう」

「でも……でも……っ」


「ごめん」


「……わかった。……お大事に、ね?」

「ああ……ありがとう、つかさ」

 バタン。扉は閉じた。
 カンカンと、階段を降りる音がして、すぐにやんだ。

「…………はは」

 口から渇いた笑いが漏れる。
 自嘲の笑いが漏れる。
 ……ああ、俺は馬鹿だ。
 ……つかさの笑顔をみたら、もう、分かんなくなっちまった。
 つかさは犯人?
 いや、違……わない?
 こなたを刺したのは何故? いや、そもそもつかさは犯人か?
 でも、理由がある。でも通り魔か何かかもしれない。でもそんな噂なんて聞かない。
 でもこなたが初めての被害者だったら? でもそんな偶然があるか? 
 でもあのつかさがやったとは思えない。でもそれは、

 ……俺が、そう信じたいだけじゃ、ないのか?


 わからない。
 わからない。
 わからないわからないわからないわからないわからないわからないわからない……っ!
 気が狂いそうだった。
 頭を抱えて床を転がり回る。
 苦痛で顔が歪む。
 涙が出てくる。

「あ、ああ」

 どうしてつかさが?

「ああああ」

 何でこなたを?

「ああああ……っ」

 彼女を疑う彼氏。
「ああああああああ……っ!」

 それを知らずに俺を心配して、学校を休もうとする。朝ごはんを作ってくれようとする彼女。

「うあ、あああああああ……っ!」

 ……つかさが、やるはずない。
 それとも、俺が知ってるあいつは本当のあいつじゃない―――?


「ああああああああ―――っ!!」


 わからない。わからないまま、俺は意識を手放した。

☆―――

 学校。

「じゃあ、こなたさんは無事なんですね?」

 現在、昼休み。

「無事って言えるかは微妙だけど、命に別状はないってさ」

 柊つかさの所属クラスで、つかさ、かがみ、みゆきは朝食を摂っていた。

「それは良かったです。あ、お見舞いに行かないといけませんね」

「あ、じゃあ明日一緒に行きましょ。ね、つかさ」

「…………」

「つかさ?」

「つかささん? 朝から何か変ですよ? 今日の美術の時も、手を何度も切っていましたし……」

「そうなの? つかさ。大丈夫?」

「……え、うん。彫刻刀で軽く切っただけだから……大丈夫だよ」

「そうじゃなくて……いくらつかさでも、そう何度も失敗するなんて、大丈夫って訊いたのよ」

「……大丈夫、だよ」

「……男と何かあった? 今日はあいつ休みみたいだけど……」


「……大丈夫、だから」






☆―――

「―――、―――、―――、―――、あ」

 意識が覚醒する。
 背中には硬い床の感触。……あのまま寝てしまったのか。
 瞼を透かして夕焼け色の赤色が見えた。……今は、もう夕方か。
 そして、ゆっくりと目を開けた。


「―――え?」


 そこは、夕焼けに染まる、教室だった。

 ―――なんだ、これは。
 夢か? 現実か?
 夕日で赤く染まる教室……その中心に、俺は寝転がっていた。
 見る限り、俺のクラスか。
 時計は……もう、下校時間を過ぎたころだ。
 ……俺は、まさか。

 ガラっ。

 教室のドアが開いた。
 こんな時間にいったい誰が……?
 そう思い振り向くと、そこには、


「男くん……?」


 彫刻等を手に持った、柊つかさがいた。


「つか、さ……」

 つかさは、唖然とした顔でそこに立っている。
 ……俺が、なんで今ここにいるのか、という疑問を持った顔だ。
 ……当然だな。俺は今日体調不良で学校を休んでいるはずなんだから。
 ……さて、どうしたものか。

「えと……こんばんは?」

 とりあえず挨拶。馬鹿か俺は。

「あ、……うん、こんばんは」

 おまえも返すなよ。

「……って! そうじゃなくて男くんっ、なんで学校にいるの……?」

「あー……気がついたら」

「へ?」

 ああ、うん。意味不明だよね。

「ま、まあ、俺のことはいいとして、つかさはどうしたんだよ。剥き出しの彫刻等何かもって」

「え? うん。私は今日授業で全然進まなかった彫刻の居残りしてたの。えへへ」

 恥ずかしそうに頭をかいて笑うつかさ。その手には、たくさんの絆創膏が貼ってあった。

「……っておい、大丈夫かよ、その手!」

 急いで起き上がり、つかさの手を掴んで自分に引き寄せる。

「ひゃ……う、うん。大丈夫だよ。もう血も止まってるし……」

「そ、そうか……」

 安心して、ゆっくりと手を放す。

「あ……」

「ん? どした?」

「え!? な、なんでもないよ!」

「?」

 なんで顔を赤くしてるんだ。


 ……そうだ。
 このとき、俺はふと思いついた。
 ……もう、はっきりとつかさに訊いてみよう、と。
 寝起きで思考がくるってるのかもしれない。
 でも。
 ……こなたを、刺したのは、お前なのか、と。
 訊くなら、今だ。
 そう、直感的に、思った。


「―――つかさ」

「な、なにかな」

「……訊きたいことが、あるんだ」

 俺の真剣な顔を見て、つかさもしっかりと、俺を見据える。

「こなたのことは……知ってるよな?」

「うん」


「昨日、なんで見舞いに来なかったんだ?」


「え? それは携帯の充電が切れててお姉ちゃんの連絡に気がつかなかったんだよ?」

「…………じ、じゃあ、なんでかがみだけは来たんだ?」

「私、その時買い物に出てたの。出かける前に充電するの忘れててさ」

 えへへ、と笑うつかさ。……嘘をついてる風ではない。

「……話は変わるが、昨日何で弁当持ってきてたんだ?」

「え?」

「だって、俺が弁当持ってきてたらどうしたんだよ」

「あ、そ、それはね……あの、男くんなら、たべてくれるかな、って」

 そう言って赤面するつかさ……あれー?

「なんだよ……じゃあ、全部おれの勘違いかよ……?」

 頭を抱えて座り込む俺。
 やべえ、マジ俺最低やろうじゃねえか!
 ああああああああ!

「ど、どうしたの男くん……?」

 上からつかさの心配そうな声が聞こえる。
 ……ああ、俺は何でこんないい子を疑ったりしてたんだろう。
 馬鹿だなあ……。大馬鹿だなあ……。

「つかさ……ごめんな、ごめん」

「え、ええ!? ホントにどうしたの男くん!?」

 とりあえず立ち上がってつかさを強く抱きしめる。
 ここで泣いたら本気で情けないので必死に堪えた。

「え? え? ええ!?」

 めちゃくちゃ混乱してるつかさが愛おしくて、ぎゅ、とさらに力をこめて抱きしめた。

―――ああ、よかった。
 つかさは、犯人じゃなかったんだ。


「お、男くん……ちょっと苦しい……」

「あ、悪い」

 そっとつかさを放す。
 つかさの顔は真っ赤で、夕焼けとさして変わらないほどだった。

「ま、とりあえず。詳しい話は後でするからさ。
 ……一緒に帰ろうぜ、つかさ」

「……う、うん」

 つかさを先頭に、教室から出ようとする……と、つかさが急に、こちらに振り向いた。

「ん、どしたつかさ」

「えと、お姉ちゃんもいるんだけど……」

「え?」

「一緒に居残りしてくれてたの。美術室で待ってるはずなんだ」

「そうか、じゃ、三人で帰るか?」

 かがみにもつかさが犯人じゃないこと、教えてやらなきゃだし。

「え、えーと……」

「? どうした? つかさ」

「ふ、二人で帰りたいな……」

「……そうか」

「うん、お姉ちゃんには私からメールしとくね?」

「ああ、たの―――」


―――その時、つかさの背後。
 つかさの身体でよく見えないが、誰かの振りかぶる手が見えた。
 ……握っているのは、……刃物……!

「―――つかさっ!!」

 反射的につかさを横に押しのけ、そのまま俺も避けようと身をそら―――


 ヒュッ、ドス。


「―――あ、が……?」

 刺さって、る……?
 避けきれなくて、横腹に何かが刺さってる。
 熱い。
 焼けるような熱さ。
 ……まるで、熱せられた鉄でも突き刺されたような灼熱。

―――いや、これは痛みだ。

 そう理解してしまった瞬間、灼熱は激痛となり、


「う、があああああぁっ―――!!」


 俺を襲った。


「う、ぎ―――」

 そのまま床に倒れる俺。
 見えるのは近くに倒れたつかさと、俺に刺さっているモノ。
―――彫刻刀だ。
 深く、深く刺さっている。
 刃の部分は完全に俺の身体にめり込み、柄の部分でさえ侵入している。

「あ、ぐ、ああ……っ」

 赤い教室。
 俺の腹には墓標のように彫刻刀が刺さっている。
 血が流れ、徐々に流れていく。
 痛みで意識を失い、痛みで意識を取り戻す繰り返し。
 視界が朦朧とする中、俺を刺した相手を、見た。


「―――あ」

 なん、で、お前が。
 驚愕に目を見開く中、我に帰ったつかさが泣きながらすがってくる。

「――――くん! し――――てっ!」
 よく聞こえない。
 五感が失われていく。
 死が近づいてくる。
 痛みも感じなくなってきた。


 そのまま、俺の意識は消えていった。
 最後に、一つの疑問を抱いて。



『何で、お前が…………かがみ』



―――

 次に目が覚めたのは、病院だった。

 俺は魂が抜けたように、こなたの従姉妹だという成実さんの話を聞いていた……。


「そん、な……」


 その話は、俺に絶望を与えるモノだった。

 あの後、つかさは殺されて、こなたも殺されて、―――最後に、かがみも自殺したという話だった。

 嘘だと思いたかった。

 でも、成実さんは新聞の記事等の証拠を見せてくれた。

 そう、これは現実だ。

 俺の繋がりはことごとく破綻した。

 ……そして、成実さんが帰った後。

「あはは」

 かがみ……。

「何で、だよ」

 こなた……。

「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは―――っ!」

 つかさ……っ!

 世界に絶望した俺は、病院の窓から、身を投げ棄てた。



―――グシャ。





エンディングⅠ
DEADEND
『多くの謎』

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最終更新:2009年09月03日 20:46