―――
病室から出た。
玄関に行くと、かがみが待っていた。
「悪い、かがみ。待たせた」
「あ、男。
いいわよ、別に。親には連絡してあるし、まだ時間に余裕もあるしね」
「そか」
二人並んで病院を出る。
「……あ、そうだ、かがみ」
「ん? 何?」
「……つかさ、家でどんな調子だった?」
「……何で?」
「……いや、ちょっと」
「言ってみなさいよ。相談に乗るわよ?」
……話そうか。
……いや、この事は秘密にしておくべきだ。
つかさを想うなら。
「……すまん。言えない」
「……あっそ。
……つかさは帰ってきてからは部屋に籠ってるわ。
こなたのお見舞いにも電話してみたんだけど、繋がらなかったのよ。
……だから、何かあるんじゃないかと思ったんだけど……ま、言いたくないならしょうがないわね」
「そう拗ねるなよ」
「だ、だれが拗ねてるのよっ」
「かがみん」
「……何か、あんた図太くなったわよね……」
「そうか?」
ま、ちょっとは変わったかもしれないけど。
「ま、いいわ。
……それより、さ。こなたを刺した、犯人のことなんだけど、さ……」
……さっきのこなたの話は、話さない方がいいんだろうな、やっぱ。
「そうだな……身近な奴のような気がするんだよ、俺は」
さっきのこなたの忠告からすると、その可能性が高い。
「身近な……例えば、みゆき」
「いや、それはないだろ」
「黒川先生」
「教師だし。あの日は平日だから無理じゃないか?」
「みさお」
「あいつはそんな奴じゃねえよ」
「あやね」
「同文」
「白石」
「誰だよ」
「……つかさ」
……つかさ?
「いや、それは無いよ」
「……何で?」
「ん、だって昨日つかさは帰ってきたんだろ?」
「そうよ。遅かったけど」
「その後一回でも出掛けたか?」
「ううん、それはないわ。けど、その前に……」
「だから、それは無いって」
「……どうしてよ?」
何をそんなに突っかかるのか。
つかさが犯人? 有り得ない。何故なら……、
「だって、今日は俺と一緒に帰ったからな。不可能だろ、普通に」
「え……?」
「あれ? つかさから聞いてないか?
今日は一緒に帰ったんだよ。
家の前まで送ったから間違いない。家に入るとこもしっかり見届けたから、その後外出してないならつかさは犯人じゃないよ」
まあ、一緒に帰ったと言えるほどフレンドリーな雰囲気でもなかったけどな。
「そう……なんだ」
「しかし……参ったな。他にこなたと親しい奴……」
「…………」
「かがみ、誰か他に当てはないか?」
「…………」
「……かがみ―――?」
「あ、はは」
「……?」
何、笑ってんだ?
「……男。
私、もう帰るわ」
「え? 犯人は?」
「明日にしましょ。
―――男はまだ、何にも解ってないんだから」
「……? え、あ、そうか」
「……ん、じゃあまた、明日ね」
そう言ってベンチから立ち上がるかがみ。……その顔は見えない。
「あ、ああ……あ! そうだ、かがみ」
声をかける。立ち止まるかがみ。
それでも彼女の表情は伺えない。
「……何?」
返事が返ってくる。
だけど彼女は振り返らない。
「え、と……今から、かがみん家に行ってもいいか? 送るついでにさ」
ピクリ、と肩を揺らす。
だけど彼女の頭は回らない。
「……何で?」
「いやさ、つかさの様子見にさ。
それと、明日もお見舞いに行こうと思うんだけど、それをつかさに言おうと―――」
「駄目」
そして振り返らないまま、強い否定の言葉が世界を遮断した。
「……え、あ」
声が詰まる。
うまく喋れない。
……そうしていると、かがみはようやくこちらを向いた。
……何の変鉄もない、いつものかがみの顔だった。
……変だな。何であんなに意識してたんだ……?
「今日はもう遅いし、つかさには私から言っておくわよ」
「……そうか」
「送るのもいいわ。ここから近いしね」
「解った。それじゃ、かがみ」
「ん、また明日」
☆―――
「……や、来たんだ」
「…………」
「大丈夫、私は何にも言ってないよ」
「……傷が浅いなんて嘘でしょ。
私、あんたを殺す気で刺したんだから」
「……そうだね。
でも、刺さり所は良かったみたいだよ?
全治一週間で『済んだ』からね」
「…………」
「私を刺したのは、やっぱ男の事?」
「…………」
「多分……つかさに罪を着せようとしたのかな? でもね、あの二人はそう簡単には切れないと思うよ?」
「……っ!」
「……ね、私を殺すの?」
「……余計な事を話さなければ、別に殺さないわよ」
「……あはは、見え見えだよ。
……実際に刺してみて、怖くなったんでしょ? 人殺しが」
「…………」
「あ、帰っちゃった……。
……ねえかがみん。
かがみんは何でそんなに、苦しそうなのかな……?」
☆―――
最終更新:2009年09月04日 19:31