―――
―――そして、泉こなたの傷は悪化し、意識不明の重体になった。
さらに、激しく動いた影響で、小さな手術も必要らしい。
―――少なくとも、今年中には退院出来ないそうだ。
意識も絶え絶えのこなたのフォローによって、私に罪はかからなかった。
……無理しちゃって。酷い傷なのに。
……でも、そのお陰で警察も、私があの時病室にいた事を咎めずに、ただの事故として扱った。
……そして、こなたのいない日常が始まった。
私とつかさとみゆきと男。
つかさはまだ少し様子がおかしいけど、そこは私とみゆきの配慮で、二人の時間を増やすことで緩和させている。
仮初めのような日々だった。
十一月になる。
こなたはまだ、目覚めない。
十二月になる。
こなたはまだ、目覚めない。
期末テストが終わる。
こなたはまだ、目覚めない。
そして―――
☆―――
あの日、俺は絶望に打ちのめされた。
こなたの傷が悪化したのだ。
意識不明になり、手術まで必要だという。
……その原因。こなたを刺した犯人。
それを、俺は探していた。
学校でみんなと笑い合いながらも、みんなに気付かれないようにこっそりと。
みんなを危険にさらしたくないから。
こなたは俺にも危険が及ぶかもしれないと言っていた。
みんなを巻き込む事は出来ない。
だから、一人で。
―――俺は、友達を傷付けた奴を、絶対に見つけてやる。
そう、誓った。
☆―――
私は、寂しい。
こなちゃんの傷が悪化して、大変なことになった。
こなちゃんは大切な友達だ。
当然悲しい。
でも、寂しい。
私は知ってる。
男くんが、私に隠れてこなちゃんを刺した犯人を探していることを。
寂しいよ。
……何で私に隠すの?
そんな僅かな感情の綻びから、閉じ込めたはずのモノがあふれだす。
妬ましい。
妬ましい妬ましい。
妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい。
私以外のことに、そこまで必死にならないで―――!
殻を被りながら、私は日常を過ごす。
あふれだしそうなモノを抱えて。
☆―――
そして、あの風景が近づいてくる。
夕暮れの教室での風景。
これは過去の話。
過去をいくら変えようと、今ある現在は変えられない。
如何なる選択を選ぼうと、いつかきっと、あの風景に辿り着く。
つまりそれは、出口の決まった迷路。
―――だけれど、その先は、その出口を抜けた先は未来。
その未来がどう変わるかは、君の行動しだいよ? 男。
―――
十二月十七日(月)
「おーい! 男ー」
犯人探しでテスト勉強が全然出来ずに、補習を食らってしまった俺は、一人教室で問題集を解いていた。
「ん? 日下部か。どした?」
そこに張り裂けんばかりの大声をあげながら飛び込んできたのは、美術の居残りを受けていたはずのクラスメイトの日下部だった。
「どうしたじゃねえってヴァ! 柊が呼んでるから伝えに来たんだよ」
「柊? かがみか? つかさか?」
「両方ー」
ちなみにあの二人も美術の居残りだ。正確にはつかさの手伝いをかがみがしているらしく、かがみはもうとうに終わっているのだが。
「そっか。なんて?」
「終わったらこっちに来て、だって」
「そか。サンキュー日下部」
「いいっていいって! んじゃ、わたしは終わったからもう帰るな!」
「おう、また明日」
「じゃーなー!」
そうして日下部は┣¨┣¨┣¨┣¨、と走り去っていった。
……しっかし、ホント声のボリュームが大きい奴だな。
―――
「失礼しましたー」
ガラララ、ピシャッ。
職員室を出る。
あの後問題集はすぐに終わり、先生に届けに職員室まで行っていたのだった。
「……さて」
美術室だったか。
―――
ガラララ。
「つかさ、かがみ。いるか?」
「あ、男く痛っ」
「あー、つかさ。また切ったの? 大丈夫?」
「うぅ……」
……どうやら俺の声にびっくりして指を切ったらしいな。
「おいおい、大丈夫かつかさ?」
「う、うん……」
「あ、わたし絆創膏あるわよ……はい、これ」
「ありがと~、お姉ちゃん」
ぺたぺたと絆創膏を切った個所に貼り付けるつかさ……ってかまた不格好だなあ……。
「わるかったな、つかさ。驚かせちまったみたいで」
「ううん、大丈夫だよ。えへへ」
ま、傷も浅そうだし、平気か。
「さて……もう帰れるか?」
「えと、もうちょっとだけかかるんだ……ごめんね」
「そっか……」
まいったな。晩飯の買い物が……。
「……男」
「ん? なんだ、かがみ」
「先帰ったら? つかさえらく時間かかるわよ?」
「え? あー……」
……でも、なあ……。
「つかさも。いいでしょ?」
「……う、うん。そうだね……」
「……そか。悪い、つかさ。俺先に帰るわ」
片手で謝罪の意を示して、謝った。
「……うん……」
つかさが頷くのを確認し、美術室から出ようとする……と、
「おーい! 男!」
「ん?」
俺の名前を呼ぶのは誰だ? ……あれは、
「―――友」
「今帰りか?」
「そうだが?」
「じゃ、一緒にかえろーぜ! 俺も今終わったのさ!」
「ああ……」
たまには、男二人ってのも、いいか。
―――
「あーっ。男とかえんのも久しぶりだなあ!」
「そうだな」
かれこれ数カ月一緒には帰ってはいないだろう。
最後に一緒に帰ったのは―――
『―――十七分割してやるぜっ!』
『違うわよ。つかさのクラスの友達』
『まあまあかがみ~ん』
―――ああ、そうか……あの日だ。
こなたと初めて話した日。
……あれから、たった数週間で、あんなことがあった。
―――驚きだ。どれだけ濃い数週間だってんだ。
……もうその数倍、こなたと話しても無いのに、まだはっきりと。
『いやー、まさか君がつかさの彼氏なんて思わなかたよー』
『ネトゲをや ら な い か』
『うん、がんばってね』
『あははー、男がそんなに私のことを心配してくれてたなんて、感激ものだよー』
『でも、一つだけ忠告だよ。
……男も危ないかもしれない。
だから、気をつけて』
―――まだはっきりと、覚えてる。
こなた―――……。
「男?」
ぼう、と立ち尽くしていたら、ひょい、と友人が顔を覗き込んでくる。
「…………」
……岸場、ともき。
俺の知ってる中で、一番の、情報通―――
「―――友。頼みが、あるんだ―――」
最終更新:2009年09月04日 20:31