アットウィキロゴ
 心の中にぽつんとあったその黒い染みは。


『ほんのちょっと勇気を出せば…』


 どんどん大きくなって、こなたの心の中を支配していった。


『大丈夫。手伝ってあげるから』


 暗闇が心を完全に支配した頃、その手に銀の刃が渡された。


『あの子を……消しちゃえ』


 好きな人を、自分のものにするために。






「黒幕のシナリオ通りに事は進んでいった」

 こなたは『声』の誘惑に負け、いつの間にかその手にあったサバイバルナイフで
ゆたかを殺してしまおうと屋上に呼び出した。
そしてこなたがゆたかを刺し、ゆたかは死ぬ。

「私は正気に戻り、ゆーちゃんを刺してしまった罪悪感にさいなまれる」
「お姉ちゃんは完全に壊れたわけじゃなかった。おそらくはそこまで計算していたはず」

 ゆたかを刺し殺したこなたはその事実を認識することで正気に戻る。
ゆたかを殺すことで正気を取り戻す程度に狂わせる――
言葉にすると簡単だが、実行するのは非常に難しいだろう…やりたくなんかないが。

「泉さんは小早川さんを本当の妹のように可愛がっています。そんな子を自らの手で
殺してしまったというショックで…」
「こなちゃんも、自分を刺して死んでしまう。そういうシナリオ」

 これでゆたかもこなたも死に、黒幕には障害がなくなる。
自分が直接手を下すことなく邪魔者がいっぺんに消えるのだ。

「そのはずだったけど…ここで最大の誤算が起きた」
「だよね、みなみちゃん」

 こなたの言葉に彼女がうなずく。

「最大の誤算。それは私が男先輩を呼んで来たこと」

 このシナリオはゆたかとこなたの二人だけで屋上に上がることが達成条件。
だが、みなみちゃんがこなたの異常に気付き、俺を呼びに来た。
危ういところで俺達は間に合い、ゆたかは無傷というわけにはいかなかったが
最悪の結末を迎えずに済んだ。

「ゆたか以外の人物があの場にいると目的を達する障害になる。例え俺でなくても
止めに入るだろう。壊れきったわけではないこなたは説得に応じる可能性もある」

 だから部活のないテスト期間中でしかも放課後というタイミングを選んだ。
思ったよりも二人が屋上に来た時間が早かったのも誤算といえば誤算なのだろうが、
あの時間に屋上に上がろうという人間はまずいないだろうから大したことではなかった。

「結果的に一番こなたを止められる人間…俺が来てしまったことでシナリオの最終章は
エンディングを迎えられないまま打ち切りとなったわけだ」
「正確にはエンディングが変わった、ということになりますが」
「だねえ。みなみちゃんは今年のMVPだよ」
「…そんな大それたことをしたわけでも」

 ポツポツと小雨が降り出した。
かがみは何も答えない。立ち尽くし、黙ってこちらを見ているだけだ。
…黒幕だなんて言ったが、俺達はかがみが真犯人である確信を持っている。

「潮時だ、かがみ」
「カツ丼注文するなら今のうちだよ」

 生暖かい風が吹く。
かがみのツインテールが流れるように風になびいている。

「証拠は?」
「ん?」
「証拠はあるの?私がこなたを操り、ゆたかちゃんを殺させようとした犯人という証拠が」

 鋭い目。俺達を射抜くような…狩人の眼。

「今までの話は一つの推理に過ぎない。証明できるの?私が犯人だということを」

 確かに今の話は、かがみを黒幕…真犯人とした説を話したに過ぎない。
証拠もないのにお前が犯人だなんて話をすれば誰だって怒るだろう。しかし。

「――証拠もないのにお前を呼び出すと思ったか?」
「…!」

 俺はビニール袋に入れたサバイバルナイフをぶら下げて見せる。
そう、こなたがゆたかを刺すために持っていたあの凶器だ。

「こいつが何かわかるよな?」
「サバイバルナイフ…でしょ」
「ああ。こなたが持っていたんだ」

 それがどうしたのよと言わんばかりの顔。

「成実ゆいさん、知ってるよな?こなたの従姉だ。警官ってことも」
「…ええ」
「ゆいさんのツテで鑑識にナイフを預けて調べてもらった。その結果、このナイフからは
もちろんこなたの指紋が検出された。持っていたんだから当然だな」
「そりゃね」
「ところが、だ。もう一人の指紋が検出されてな」

 …かがみの肩がぴくりと動いた。

「ゆたかじゃない。俺はこなたの腕をつかんだのだからナイフには触っていない。
みなみちゃんも当然触っていない」
「……嘘」
「嘘だと思うか?」

 拳を握り締めながら否定しようとするかがみにさらに言葉をぶつける。

「あの場にいなかったみゆきさんやつかさの指紋があるはずもない」
「嘘よ…」
「では誰か?答えはもう出ているよな」
「…嘘よっ!出るはずはないわ!だって指紋が――」




「ああ、ウソだぜ」




「――な…っ!?」

 俺はニヤリと笑ってみせる。
警察に指紋鑑定なんてしてもらってない。今のは全部フェイクだ。

「だが…マヌケは見つかったようだな」

 かがみをにらみつける。
今、決定的な一言をこの耳で確かに聞いた。

「自分の指紋が出るはずがない。だって…指紋がつかないようにハンカチか何かで
包んで渡したから、か?」
「―――ッ!!」
「お前もあの場にいなかったんだから指紋がついているはずがない。消去法すら
通用しないのにそんな言い回しをするなんて、自分が犯人って言ってるようなもんだ」

 俺の言葉に歯軋りする黒幕…柊かがみ。
お前がこんなことをするなんて信じたくはなかったが…

「チェックメイトだ、かがみ」

 全員の視線が、かがみに注がれる。
今までで一番大きな雷鳴がして辺りが白く光った。

「……う…」
「こなたの心をコントロールして、ゆたかを刺そうと仕向けた」
「…く…うう…」
「見事だったよ。こんなこと褒めるなんて嫌だけどな」
「…っ――ふ…」
「でも、これで終わりだ」
「ふ――あ…は…」




「あっはははははははははははははははははははははははははははははははははははは
ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
ははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2009年09月06日 17:44