「推理としては粗いけど…さすがね、男」
ひとしきり笑った後、顔を上げそう言ったかがみの目を見て俺は思う。
ああ、お前は…こなたよりも『先』に行ってしまったんだな。
「むしろ評価すべきは推理よりもフェイクを通すその度胸かしら」
「そりゃどうも」
「その度胸も父親譲り、か」
「そういうことは冗談でも言うな」
「…そうね。悪かったわ」
何故、こなたをあんなにしてしまったのか。
こなたにゆたかを殺させようとしたのか。それを聞き出すつもりだったが…
おそらくは俺も無意識に気付いていたのかも知れない。
その理由が俺であることに他ならないことに。
「いつ気付いたの?私が男を好きだってこと」
「今年の初め頃にはとっくに気が付いてた」
実際にこなたが俺を好きになったという時期はまだ前なのだろう。
きっかけが何なのかは自分じゃよくわからない。正直心当たりがなかった。
「…ずっと見てたの。出会った時から、ずっと」
高校じゃない…それよりも前から。
そう、中学の時から。かがみは俺のことを見ていたんだ。
「だから知ってる。男の好きな色も、ゲームも、公園の桜の樹が自分の場所なことも
「……」
「男は本当は部活に入りたかったけど、一人で働くお母さんのためにせめて家事を
手伝おうと帰宅部で通してきたことも」
「かがみ、やめろ」
「死んだ父親があんなだったから学校じゃずっと一人だったことも」
「…言うな、それ以上――っ」
「全部知っても、私は…男が好きだった」
呟くように言って、目を閉じる。
一人ぼっちでいた俺に最初に声をかけてきたのが…彼女だったことを今も覚えている。
だけどそれが、かがみが俺に一目惚れしたからなんてわかるはずもなかった。
「さっきのお弁当の話で二つ目の疑問、言ってないわよね」
「……」
「当てて見せよっか。なんでゆたかちゃんが自分の好みのおかずばかり作れたか…そうでしょう?」
「――っ」
「二人の仲を引き裂けないのはわかってたから。男の好みを教えることでもっと
仲良くなるならいいと思ったの」
それが、純粋に応援する思いから来ていたのならよかったが。
『今の』かがみはそんな動機じゃ動いていない。
「大好きな人を失った男は悲しみにくれる。そこに手を差し伸べる女の子がいたら…」
いつかその心は『彼女』に傾くかもしれない」
こなたの震えるような声。
「さすがこなた…わかってるのね」
「仲が良ければ良いほど、悲しみが深ければ深いほどその効果は大きい、ということですか」
そのシナリオに利用されそうになったゆたか。心なしか声も強張っているように思える。
――効果は大きいだろう。好きな人のことを簡単に忘れることなどできはしないが、
優しく手を差し伸べてくれる人がいたならば…その心が揺らぐことは十分にありえた。
「男とくっついてしまうようなことさえなければ、こんな目に遭わなかったのに」
「悪いのはお姉ちゃんじゃない!」
かすれ気味の声を上げるつかさ。
…つかさが声を荒げたことなんてなかった。自分の姉だからなおさらなのだろう。
臆病故に止められなかったという自分への怒りも含まれているように思える。
「こなちゃんは大切な友達なのに、ゆたかちゃんも大事な後輩なのに…なんで、
なんでこんなこと…!」
「つかさ…」
「私が何を言ってもお姉ちゃんの耳には届かなくて、こなちゃんがおかしくなって、
こなちゃんにも届かなくなって…私じゃどうにもできなくなっちゃって」
こなたの病室に来たあの日まで、ずっと自責の念に駆られていたつかさ。
あまりにも強く、黒い闇に囚われた二人には彼女の小さな声など届かなかったのだろう。
こなたの心の闇が晴れたあの日になってようやく、つかさは償う機会を得たのだ。
「つかさ。男はね、私を見てくれなかった」
「え?」
「反応はしてくれるけど、私がどんなアクションをとってもそれは心には残らない」
それは…一言で言えば、時期が悪すぎたんだ。
あの頃の俺の心は空虚になっていたから。
「ずっと悩んだ。どうしたら男は私を見てくれるだろう。気にかけてくれるだろう。
だから勉強も頑張ったし男の好みも調べて私なりに頑張ったつもりだった」
それでも、俺の心にかがみが住み着くことはなかった。
高校に上がってもただなんとなく日々を過ごしていた俺の目を覚ましたのは…
「でもだめだった。私にはだめだった。男の心を最初に揺り起こしたのは――
こなただったから」
「こなた…お姉ちゃんが?」
きっかけは憶えてない。
ただ、出会った当初は強引にあちこち連れ回されたという記憶がある。
そのうちにつかさやみゆきさんも加わって、かがみもその輪の中に入ってきて。
少しずつ俺は元気が出てた気がする。
「でも私の役目はそこまでだったね。男を本当に支えてくれる子が現れたから」
「それが…ゆたかちゃん…」
一緒にいると不思議と穏やかな気持ちになれる女の子。
こなた曰くゆたかは『歩く萌え要素』だけど、そういうのとはきっと違ったんだと思う。
その笑顔でどんな嫌なことも全部吹き飛ばしてくれる。
「ゆたかちゃん。あなたは知ってるの?」
「…何をですか」
「男がどんな人間なのか、よ」
おいおい…ここで『それ』を言うつもりか。
二人の仲は引き裂けないとか言っておきながらえぐいことをしようとしやがる。
もっとも――ゆたかがそれを知らないならの話だが。
「知ってます」
「そうよね、知るわけが…え?」
「男さんは全部話してくれましたから」
「う、うそ…」
「残念ながら今度は嘘じゃない」
それでも、ゆたかが今でも俺の隣にいてくれるということは…
つまりはそういうことだ。
「そっかあ…全部受け入れたんだ」
「…はい」
「それでも、好きなのね」
「はい。それは変わりません」
かがみにまっすぐな視線を向け、はっきりと言い切ったゆたか。
ああ、不覚にもかっこいいと思っちまった。ほんとに…成長したな、ゆたか。
「そっか…じゃあ」
かがみは答えながら不気味にニヤリと笑い、スカートのポケットに手を入れる。
「ゆたかっ…離れろ!!」
「えっ…」
「――死んじゃえ」
白い電撃が、悪魔の笑みを浮かべるかがみの右手からゆたかに向けて放たれた。
最終更新:2009年09月07日 22:48