☆―――
「……遅いわね」
ここはこなちゃんの入院している病院の前。
わたし、お姉ちゃん、ゆきちゃん、そして男くんの四人で、お見舞いしようって、待ち合わせていたんだけど……。
「来ないねー」
男くんが来ない。
もしかして待ち合わせ場所を間違えたのかもと、ゆきちゃんが探しに行ったけど……どうなるかなぁ?
バレンタインディキィース バレンタインディキィース
「……あ、男くんからだ」
この音……メールだ。
「! なんて?」
「ええっとね……都合が悪くなったから、今日は行けない……だって……そんなぁ」
しかも、妙にそっけない文章。……不機嫌なのかな? 大丈夫かな?
わたしは変な、不安を覚えた。
―――
じゃあしょうがないと言うことで、わたしたち三人でお見舞いすることになった。
男くん探しから戻ってきたゆきちゃんは、それを聞いたら少しだけ考えるそぶりを見せたけど、「……いえ、じゃあ行きましょうか」と言って笑った。
……そして、受付。
「あの……」
「はい?」
「お見舞いしたいんですけど……」
「あ、はい。お名前は?」
「こなちゃ……あ、いや泉こなたさんです」
「面会謝絶です」
「…………」
え?
「ちょ、ちょっと」
お姉ちゃんが反応するも。
「面会謝絶です」
「……あの、出来ればどうした面会謝絶になったのか教えていただけませんか?」
そこにゆきちゃんが丁寧に受付のお姉さんに訊く。……すごいなぁ、ゆきちゃん。
「警察の方の指示ですので。
本日はお引き取り願います」
そのあまりに強い口調に、わたしたちは諦めるしかなかった。
☆―――
解散した後、私はこっそりと一人でもう一度病院に来ていた。
そしてナースさんに文句を言われる前に、自分の名前を提示する。
……思った通り。
病室に案内された。
……病室のドアを開けると、まるで私が来るのを分かっていたかのように、あいつは上半身を起き上がらせていた。
「……や、かがみん」
「……あんた、これ」
「そ、私が誰にもかがみんのことを喋らないよっていう証明」
「……なんで、わざわざこんなことをするのよ」
無意味だ。
こんなこと。
「一つは、やっぱりもう刺されたくないから、かな」
嘘だ。
どうせ病院なんかじゃそんなことは出来ない。
「それともう一つは、やっぱりかがみんは友達だから、かな」
……嘘。
「嘘よ。
あんたがまだ、私のことを友達と思ってるはず……ない」
「そこは『嘘だっっっ!!』って言わないとだめだよかがみん」
「……あんたね」
「―――嘘じゃないよ」
「……っ」
「嘘なんかじゃない」
「…………」
嘘だ。
嘘だ嘘だ嘘だ。
だって、だって私は……っ。
「ね、かがみん。
苦しいなら、もうやめなよ。
私はかがみんを許すよ? それで、もう誰も、悪くなんかない。
みんなでまた、元通りに、なろうよ」
……何を、言っているの。
「もう……遅いのよ」
この手には今でも感触が残っている。
「そんなことないよ」
目の前にいる少女を刺した感触が。
「……手遅れなのっ……!」
それは確かな、罪の証だ。
「―――手遅れなんてこと、ないよ」
―――なのに、なんでこいつは。
「……っ。
あんたは、自分が何を言ってるのか、解ってるの……! 何で、何でそんな……!」
「―――そりゃあ、さっきも言ったじゃん。
かがみんは、私の友達だからだよ」
「―――っ」
……ああ、そうだ。
こなたはいつもそうだったじゃないか。
つかさを通して知り合った、今最も近しい友達。
いつもいつも、こいつは私をからかってきて。
ツンデレだー、とか。かがみーん、だとか。訳の解らないことばっかり言って。 ……でも、不思議と嫌いにはならなかった。
なんだかんだでいつも楽しい。
いつもいつもバカ言って。
いつもいつも笑ってる。
―――心地よかった。私の居場所。
男に言わせればそう、『繋がり』と言うだろう。
……そして私は、男との『繋がり』を創るために、こなたやつかさとの『繋がり』を断ち切ろうとした。
それなのに。
私は、そんなことをしたのに。
こなたは私をまだ、『友達』と呼ぶ。
……ああ、そうだ。
私はこいつがこんな奴だから、殺しきれなかったんだ。
全力でなんて、殺せるはずがない。
―――なんて、中途半端なんだろ、私は。
『友達』として、『姉』として、男とつかさの仲を応援しようとした。
……でも、やがて私の気持ちは私の胸を激しく突いてきていて。
一人の『女』として、我慢が効かなくなってしまった。
挙げ句、暴走。
つかさに罪を着せようとした。
あの日、つかさとこなたと男のやり取りを見ていた私は、チャンスだ、と思った。
つかさがこなたを刺す動機が出来たから。
……でも、予想外の事が起こった。
男はつかさを追いかけていた。 結果、つかさにはアリバイが出来てしまった。
そして、このままでは、やがて犯人は突き止められるだろう。
こなたが秘密にしようがしまいが、結局は彼にバレてしまう。
……嫌われるんだろうなあ。
……友達を殺そうとして、好きな人には嫌われて。
―――そんな未来に、私は絶望した。
「―――ごめんね、こなた」
そして私の『女』としての欲望からくる勢いみたいなものは消え去ってしまった。
「かがみん……」
後悔。自分がやってしまったことへの自覚が私を呑み込んでゆく。
「私、間違ってた。こんな卑怯な方法。私らしくない」
全く、こなたにツンデレだと言われてもしょうがない。
……ホントに素直じゃない、私。
「じ、じゃあ……!」
「……ごめん」
ごめん。私はもう、未来への恐怖と罰に、耐えられない。
……私はやっぱり手遅れだ。そう、自覚してしまった。
「え……?」
「―――サヨナラ」
そして未来に絶望した私は、服に潜ませていた、こなたを刺した小さな、
それでいて強靭なナイフを、たとえここ病院であっても即死する勢いと力を込めて、
自分の喉元に、降り下ろした。
―――
「――――――――――――え?」
刺さらない。
思い切り、首を貫通する覚悟で降り下ろしたナイフが、私の肌を穿たない。
何故?
何故?
何故……?
ボタタッ。
何の音だろう。
私にナイフは刺さっていない。
なら、私の血が流れる音じゃない。
じゃあ。
じゃあこれは―――
「……よう、かがみん
随分物騒なモン持ってるなぁ、オイ」
「おと、こ―――」
ここにいない筈の、私の好きな人が、そこにいた。
最終更新:2009年09月09日 23:21