墓石に花束を供えて手を合わせる俺の両隣には母さんとゆたかがいる。
親父が亡くなって数年。『俺達が表を堂々と歩けるようにしたい』と裏の世界を
抜けてからも、親父を尊敬していた人達はたまに会いに来ていたっけ。
やってきたことは褒められることではなかっただろうけど、人望のある人だったから。
「ゆたかちゃん、ありがとうね」
「いえ。私が男さんにお願いしたんですから」
「男にこんな素敵な恋人ができるなんて、この人は予想していたのかしらね」
「す、素敵とかそんなことないですよっ」
くすくす笑う母さんとあたふたするゆたか。
『好きな子ができたら力の限り守ってやりなよ』って親父は言ってたっけ。
…怖い目にあわせちゃったからな。もう二度と危険には晒したくない。
だから俺はゆたかをこれからも全力で守り抜きたいと思う。
「――おや、久しいのう」
「じいちゃん」
「あらあら、お久しぶりですね」
俺のじいちゃん…周りからは会長なんて呼ばれている人。
老いてはいても、その目は今も若さを失っていない。裏の世界を抜けると宣言した
親父にその試練として一対一でチャンバラごっこをやりあったなんて話を聞いた。
なんともまあ、俺の親族にはとんでもない人達が揃っている。
「ほっほ、男にも奥さん候補ができたと聞いてな」
「話が早いって」
「そうか?ウチの連中からも仲睦まじい場面を見たなんて話を聞いておるぞ」
面識ないけど俺を知っているって人も多いしな…
知らないうちにあちこちで見られているらしい。勘弁してくれ。
「男をよろしく頼むよ。両方の父親に似て無茶するからのう」
「はい。無茶してますからね」
「ゆ、ゆたかまで…」
本当の親父も無茶する人だったという。
小さい頃に両親が命を落としたトレーラー事故の際、大怪我をした俺を抱えて
炎の中から這い出したなんてことを聞いた。
…そりゃあ度胸もあるはずだな。二人の心を受け継いでるわけだから。
「男、そろそろ時間じゃないの?」
「ああ。ちょっと余裕あるうちに行くかな」
「そうですね」
腕時計は9時45分を指している。今からなら少し早めに着くだろう。
「待ち合わせかね?」
「友達が帰ってくるから迎えにね」
「そうか。今度遊びに来なさい、ばあさんもたまには顔を見たいと言っていたからな」
「わかった。来週でよければ」
「うむ。それじゃの」
去り際、親父の墓に目を向ける。
――みんな前に進み始めたから、もう大丈夫。心配しないでくれ。
「…遅いですね」
「うん。電車が遅れたのかなあ」
駅に着くと先に来ていたのはみなみちゃんとつかさの二人。
こなたとみゆきさんはまだ来てないな…みゆきさんはともかくこなたは
まだ寝てないか心配ではある。
「みなさん、おはようございます」
みゆきさん登場。久々に会うな…旅行に行っていたらしいし。
今回の件でいろいろと考えさせられることがあったって話していたっけ。
二人にあれこれ言う気はないらしい。また仲のいい二人に戻れるなら…と。
「おはよう」
「おはようございます」
「ゆきちゃんおはよ~。こなちゃん見なかった?」
「あら、まだなのですね。もしかして寝坊されたのでしょうか…」
俺と同じことを考えてらっしゃる。
「起こせばよかったかなあ…」
「家に電話してみるか?おじさんは起きてるだろうし」
「そうですね」
墓参りのために朝早く出てきたから、ゆたかも起こすのはためらったのだ。
まあ、親友を出迎える日に遅刻するとは思えないのだが…あいつだからな。
「失礼だな~。私もしっかりする時はあるよ」
「心を読むな。そしておはよう」
「あはは、おはよう」
そしてこなたは今日も元気だった。
もうあの頃のような陰は微塵も感じられないくらいに。
「お姉ちゃん、髪はねてるよ」
「ん?おー、これは失礼」
さりげなく取り出した櫛でこなたの寝癖を直してあげるゆたか。
どちらが姉かたまにわからない時がある。ゆたかがしっかりしてるのか
こなたがだらしないのか。
「あ…電車、着きましたね」
こなた達を微笑ましそうに見ていたみなみちゃんが奥に視線を向ける。
改札からぞろぞろと出てくる人達に混じって、一人の女の子が歩いてきた。
「おねーちゃーん、こっち~」
手を上げるつかさに気付き、人ごみを掻き分けてこちらにやってきた。
何かの決意の証か、その髪はツインテールではなくなっていて短くなっている。
「よっ…久しぶり」
俺の挨拶に笑顔で答えるかがみ。
――時間をかけて頭の中を整理したい。そう言ってかがみはこの街を去った。
「か~が~み~ん!」
「なっ、なに!?」
なんか危ない目でかがみに抱きつくこなた。
「はう~、ショートもかあいい~!お持ち帰り~」
「だー、まとわりつくなああああ!」
「こなちゃんが壊れたー!」
「かあいいモードが発動したようだな…」
ひとしきりスリスリした後、ようやくこなたはかがみから離れた。
解放されたかがみは暑さからではない変な汗をハンカチで拭っている。
「何か答えは出ましたか?」
「…そうね」
みゆきさんの問いに、かがみは少し間を置く。
「私は男が好きです。これは今でも変わりません」
「かがみん…」
「でも、もう絶対に間違ったことはしないから」
言いながらゆたかの手をそっと握る。
「勝手に暴走して誰かを傷つけるようなことは、二度としない」
「先輩…」
「男は『戻ることはできない』って言ったからさ」
「うん」
「自分のしてしまったことは忘れないで、その上で新しい私達の関係を作っていきたいと思う」
強い決意がその瞳に込められていた。
ああ、お前ならやれるさ…今のお前――いや、俺達ならきっと。
「ゆたかちゃん」
「はい」
「男を、よろしくお願いします」
「――はい」
ゆたかもまた、強い決意を持っている。
辛く悲しかったいろんなことを乗り越えて、俺と一緒に生きていく決意。
そして俺もそれに応えたい。
「こなたは何か決めたことがあるの?」
「私?そだね~」
意味深な笑顔を浮かべながらまたもやかがみに抱きつく。
「ゆーちゃんが男の嫁ならかがみんは私の嫁にするってとこかな」
「ちょっ、意味わからん!」
「…親友を、大事な人を絶対に裏切らない。そういうこと」
「――そか。ってどこ触ってんのあんたっ!」
言ってることは真面目なのにかがみにスリスリするのはやめれ。
「それじゃ行きましょうか」
「どこに?」
「お姉ちゃんがせっかく帰ってきたんだから、ぱーっとお祝いにでも」
「だな。おーいそこの二人、いちゃついてないで行くぞー」
「ちょ、違…助けてー!!」
「かがみんは私の嫁~。すりすり」
「ぎゃー!」
ああ、変わったようで変わってないな。
ま、それが二人らしいと言えばらしいのかも知れない。
「綺麗な空ですね」
「――ああ」
どこまでも続くような真っ青な夏空をゆたかと並んで見上げる。
新しい俺達の日常はここから始まり、そしてどこまでも続いていく。
――行こう。過去を乗り越えて、希望ある未来へ。
-Fin-
最終更新:2009年09月22日 00:42