男「黒井先生の手紙か…。」
男はとりあえず手に触れたものを、カードキー挿入口に当ててみた。
予想どおり、手紙はサイズ的に入らない。
男「鍵なんて持ってねーよ…。」
男がそう呟くと、ドアがひとりでに開き始めた。
男「…なんだ、鍵なんてかかってないじゃん…。」
ドアの中から光があふれてきた。
内部は相変わらず、幾何学模様が一面に描かれた丸い空間になっており、中心に一人の少女が居た。
少女はピンク色でそこまで長くはない髪を、左右で束ねた髪形で、背はこなたよりさらに小さい。
少女は男を見ると、その場から動かずに口を開いた。
少女「今日は、男お兄ちゃん。」
男「……君は…?」
少女「私の名前は『ラプラス』だよ。あっ『ゆーちゃん』て呼んでくれてもいいよ!」
男「…ゆーちゃん??……ラプラス?」
『名前につながりが全然ねーよ!』とか『ポケモンかよ!』とか突っ込みたかったが、ラプラスと名乗るその少女の威圧感に、そのような思いはかき消された。
少女の存在感は、その低身長とは裏腹に、まるで巨人を目の前にしているようだった。
男「君が………『observer』?」
ラプラス「そんなとこだよ。」
男『なんでこんな子供がいるんだ?』
ラプラス「あっ!今私の事、子供扱いしたでしょー!!私、子供じゃないよ!!その証拠にお兄ちゃんの事、何でも知ってるもん!」
男「…なんだって?」
ラプラス「お兄ちゃんが生まれた日の事も、お兄ちゃんのお母さんが死んだ日の事も、お父さんが死んだ日の事も、お兄ちゃんの大切な人が次々と死んでいった事も。」
男「……お前……誰だ…?」
ラプラス「みんな死んじゃったね。こなたお姉ちゃんも、かがみお姉ちゃんも、つかさお姉ちゃんも、みゆきお姉ちゃんも、お兄ちゃんの両親も、こなたお姉ちゃんの両親も、ななこ先生も。」
男「………お前……。」
ラプラス「誰が殺したんだろうねー?」
男「やめろ…」
ラプラス「答えを聞きたい?…つかさお姉ちゃんがヒントを出してたけど。」
男「やめてくれ…」
ラプラス「答えはね…お兄ちゃんの…」
男「やめろッッッッッッ!!!!!」
部屋に静寂が流れた。
少女は、相変わらずにこにこしている。
…
…
男「分かってる…みんなを殺したのは『俺の心』だ…。優柔不断な俺の心がみんなを殺したんだ。」
ラプラス「はい、正解でーす!!」
少女はいっそう明るい笑顔になって、手をたたいた。
その様子は、ひどく冷酷で、同時に殺意が沸いた。
ラプラス「あれれ?私の事まで殺したくなっちゃった?いいよ、簡単だよ、私は弱いし、お兄ちゃんが私を否定すれば、決定論として私は力を失う。」
男「…お前…少し黙れ…。」
少女は少し笑うとまた俺を見ながら話し始めた。
ラプラス「ふぅ…ダメだよ?カッカしちゃ。せっかくお兄ちゃんが頑張ったから、私なりのご褒美をあげようと思ったのに。」
男「…?」
ラプラス「では問題です。みんなが死なないためには、お兄ちゃんはどうすればよかったのでしょう?」
男「…下らないこと言うな。」
ラプラス「もぅ!またカッカしてるー。正解が導き出せれば、みんな死なない世界が来るかもよ?」
男「!!どういう事だ?!」
ラプラス「えへへ。興味持った?」
男「詳しく説明しろ!!」
ラプラス「まずは私のクイズに答えてよ。」
男「………分かった………。」
俺はあまりに非現実的だったみんなの死と、今おかれている状況によって、さらに非現実的な『こなたが生き返る』という少女の信じられない言葉を、ごく自然に甘受していた。
男「…俺が…初めからこなただけを選べばよかったのか?」
ラプラス「ブーーー!!!ハズレーー!!お兄ちゃんがこなたお姉ちゃんを選んだら、他の人が病み病みになりまーす!!!」
男「…じゃあどうすればいいんだよ…。」
ラプラス「もっと根本的な事だよ。…もしお兄ちゃんがいなければさぁ、みんなずーっと友達で、一生仲良く出来たんじゃないかな?」
男「俺が…いなければ…?俺が[ピーーー]ば…良かったって事か…?」
ラプラス「うふふっ…いくら私でも命を消す事は出来ないなー。」
男「でも…先生や………待てよ!!お前!!さっき先生が死んでるって言ったな!!?」
ラプラス「…言ったよ?先生も、こなたお姉ちゃんのお父さんも死んじゃったよ。」
男「!!!…なんでだ…?……お前が殺したのか……!!!?」
ラプラス「嫌だなー私にそんな力はないって言ったよねー?」
少女は言葉を続ける。
ラプラス「詳しくは秘密だけどね、二人もお兄ちゃんがいなければ死ななかったんだよ?」
男「……なん………だって……?」
ラプラス「ふー…話それちゃったね。つまり私が言いたいのはね、お兄ちゃんがこなたお姉ちゃんに会わなければ良かったんじゃないのかな?って事だよ。」
男「…俺が転校してこなければって事か…?…でもあれは親父の仕事の都合で…。」
ラプラス「ブーーー!!!またまたハズレーー!!」
ラプラス「お兄ちゃんがさー転校してこなくても、こなたお姉ちゃんの心の中にはずっとお兄ちゃんが居たんだよ?それにさーお兄ちゃんは知らないだろうけど、あそこで再会しなくても、いずれは再会させられるよ?そうなったらおんなじでしょ?」
男「…させ『られる』…?どういう事だ…?!」
ラプラス「それは秘密です。あはははっ!!」
男「お前…いい加減にしろよ…それ以前にお前いったい誰なんだよ…!!」
ラプラス「だからー私は『ラプラス』。あるいは『ゆーちゃん』。」
男「そうじゃねーよ!!!」
ラプラス「はぁ…もう…話、脱線したばかりだなぁ…もうかいつまんで話すよ?」
ラプラス「お兄ちゃんがね、初めからこなたお姉ちゃんに会わなければ良かったんだよ。そうすればこなたお姉ちゃんは、お兄ちゃんに興味持たなかったし、つかさお姉ちゃん、かがみお姉ちゃんとも出会わなかった。」
男「『会わなければ良かった』…。」
男「お前…何言ってるんだ?そんな訳行かないだろ?俺とこなたは幼馴染なんだから!」
ラプラス「えへへ。私は『ラプラス』。ヒトの命は操れないけど、過去や未来の人の心をいじるのは得意なの。」
男「…なんだって?」
ラプラス「…男お兄ちゃんが望むなら、『会わなかった』事にしてあげる。そうすれば、『今』って未来は変わるかもよ?」
男「……そんな事…出来るわけないだろ…。」
ラプラス「忘れたの…?ここはゲームの中。どうせ信じてないなら、だまされたと思って試してみれば?それでみんなが生きてたらラッキーじゃない?」
男「………俺は…どうすればいいんだ…?」
ラプラス「また優柔不断?また誰かを不幸にするの?」
男「……………分かった……受け入れる……『会わなかった』事に……してくれ。」
俺がそう言うと、少女はニヤッと笑った。
そして部屋の幾何学模様が動き出したような気がした。
…俺の体は…光に包まれた。
…どれだけ寝ていたんだろう。気がつくと俺はパソコンの前で眠ってしまっていた。
俺の背中には毛布が掛けてある。
…コンコン
ドアをノックする音がした。
女性の声「起きた?入るわよー?」
ガチャ
ドアが開いた。
男「母さん…。」
男母「もう。今日は試合の日でしょ!風邪ひいちゃったらどうするの?」
男「あっ…ゴメン…。」
母さんはにっこり笑った。
男母「ご飯出来てるわよ。」
食卓にはあわただしく朝食を食べる親父が居た。
男父「おう、おはよう男。悪いけど父さんもう行かないといけないんだ。今日は日曜だってのにラボのみんなで研究報告の会議があってな。」
男「あ…うんいってらっしゃい。」
男父「行ってきます。試合頑張れよ。」
男「うん。」
親父は出社していった。
男「さて、そろそろ行ってきます。」
男母「行ってらっしゃい!ホントに応援行かないでいいの?」
男「いーよ!恥ずかしいし、埼玉までわざわざ来てくれなくてもいいから。」
男母「はーい。じゃ、怪我しないようにね。行ってらっしゃい!」
男「行ってきまーす」
俺は空手着を抱え電車に乗った。
男「糟日部かぁ…だいぶあるなぁ…少し寝よ…。」
アナウンス『糟日部~糟日部です。』
男「あっあぶね!寝過ごすとこだった!!」
俺は急いで電車を降りた。
試合場は糟日部駅から少し歩いたところにある。
男「糟日部ってだいぶ都会なんだなー…」
向こうから女子高生の集団がやってきた。
あり得ないくらい長い青い髪で背の低いの女の子と、紫色の髪でツインテールの女の子、紫色の髪で大きなリボンの女の子、ピンク色で眼鏡の女の子だ。
青髪低身長「だーかーらー私みたいなスペックも需要はあるんだよー!!」
紫髪ツインテール「それはダメな大人の話だろーが!」
紫髪リボン「まあまあお姉ちゃん…」
青髪低身長「むぅーみゆきさんも何か言ってやってよー!」
ピンク髪メガネ「身長が低い事を気になさることはないと思いますよ?一般的には女性は背が高い事を悩むものですし…」
四人は割と大声でしゃべっている。
地元の高校生だろうか。
すれ違う瞬間、青い髪の少女と目が合った。
しかし次の瞬間、少女達はすれ違って、駅の方に歩いて行った。
青い髪…青い目…眼の下のほくろ…何となくその少女の容姿が記憶に残りそうだった。
男「……そうだ、試合試合!!」
俺は慌てて会場までの道を走りだした。
日差しが熱い。
夏が始まろうとしていた。
Fin.
【 ENDING1:それぞれの未来 】
最終更新:2008年07月05日 01:31