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おもち少女4」を以下のとおり復元します。
咲「ん~っ」ノビ

咲「地元の駅まで来ると帰ってきたって気がするよね」

優希「タコスの香ばしい匂いがするじょ」

まこ「はは。優希はそればっかりじゃな」

まこ「まぁ、優希がすぐさまタコスを買いに行きたそうな顔をしてるし、もうここで解散するか」

優希「さっすが染谷先輩は話が分かるぅ~♪」

優希「ほら、京太郎!一緒にタコス買いに行くじょ!」

京太郎「あ、悪い。俺、先に寄らなきゃいけないところがあるんだ」

優希「えー…最近、付き合い悪いなぁ…」

京太郎「はは…悪いな」

京太郎「でも…あっちの方が先約って言うか…そんな感じだからさ」

京太郎「これが片付いたら、俺から誘わせて貰うよ」

優希「その時は奢りだじょ?」

京太郎「あぁ。分かってる」

京太郎「それじゃ、皆。また明日、学校でな」ガラガラ

咲「……」




京太郎「(結局、俺は逃げてたんだ)」

京太郎「(和の様子を確認する方法は幾らでもあった)」

京太郎「(メールも連絡も出来なくても…家は知ってるんだから)」

京太郎「(どれだけ迷惑でも頼み込めば…言伝を頼む事くらいは出来ただろう)」

京太郎「(でも、俺はそれをやらなかった)」

京太郎「(確認するのが怖くて…嫌われたら…どうしようと思って…)」

京太郎「(だけど…もう逃げてられない)」

京太郎「(俺よりも立ち向かった人がいるから)」

京太郎「(前を見て…俺の背中を押してくれた人がいるから)」

京太郎「(だから…俺は…その人の為にも逃げない)」

京太郎「(コレ以上、格好悪い須賀京太郎になったら…漫さんに悪いもんな)」

京太郎「(だから…俺は…)」



………



……



…



和父「…君は?」

京太郎「和さんと同じ清澄に通っている須賀京太郎と言います」

和父「…その須賀君が何の用かね?」

和父「人の家の前で立って…不躾とは思わないのか?」

京太郎「すみません。でも、俺にはこれくらいしか方法がなくて…」

京太郎「和さんとどうしても話がしたくて…ご家族の方を待っていました」

和父「…君と娘との関係は知らないが、君のような怪しい男を娘に会わせるとでも?」

京太郎「勿論、そんな事は思ってはいません」

京太郎「ですから…一言、言伝だけお願い出来ないでしょうか?」

和父「何かな?」

京太郎「須賀京太郎が例の件で謝りに来た…と、それだけ伝えて貰えれば結構です」

京太郎「それでダメだったら今日はおとなしく引き下がります」

和父「…待っていたまえ。それくらいならやってやろう」

和父「だが、私は弁護士だ。もし、何か不用意な真似を少しでもするようなら…」

京太郎「はい。その時は警察に通報していただいて結構です」

和父「ふん…」



京太郎「(うわぁぁ…凄い迫力がある人だったなぁ…)」

京太郎「(声も渋いし…なんつーか『力』のある人なのをひしひしと感じる…)」

京太郎「(そりゃ弁護士なんだし、そういうのなかったらやってけないのかもしれないけど…)」

京太郎「(そんな人相手に…良くもまぁ、あんな啖呵がきれたもんだ)」

京太郎「(でも…これでもう俺は後戻り出来ない)」

京太郎「(どれだけ辛くたって…苦しくったって…賽を投げてしまったんだから)」

京太郎「(その結果はどうであれば、俺は前に進まないといけないし…受け入れないといけない)」

京太郎「(今の俺に出来る事つったら…それが良い結果である事を祈る事くらいかな)」

― ガチャ

京太郎「あ…」

和父「…」

京太郎「あの…どうでしたか?」

和父「…娘が会うそうだ。着いて来たまえ」

京太郎「え…あ…はい…」

和父「…君はあの娘とどういう関係なんだ?」

京太郎「え…?」

和父「今日まで部屋から出てこようともしなかったあの子が君の言葉には強い反応を示した」

和父「今まで酷く落ち込んで、ろくに食事もしなかった娘が…だ」

和父「何かあったと思うのは当然だろう?」

京太郎「その通り…だと思います」

京太郎「そして…その問いにはあまり具体的な事は答えられません」

京太郎「ただ…一言だけ言わせてもらえるならば…」

京太郎「俺は…恐らく娘さんが学校に来なくなった原因です」

和父「…そうか」

和父「それが事実であれば、私は父親として君を一発ぶん殴るべきなのだろう」

和父「だが…この二週間近く、あの子は痛々しいくらいに気を落としていた」

和父「それを君が何とか出来ると言うのであれば、今は任せよう」

京太郎「ありがとう…ございます」

和父「ただし…だ」

和父「私は君が何をしたのかは知らないし、信用をした訳じゃない」

和父「何かあればすぐに入れるように部屋の前で待機させてもらうぞ」

京太郎「はい。それは当然だと思います」

京太郎「寧ろ…和と二人っきりにさせてくれるだけでも有難いです」ペコリ



~和~

あの日から…私の生活は変わりました。
いえ、正確に言うならば、今までだって多少の変化はあったのでしょう。
高校に行き、麻雀部の仲間と切磋琢磨し、そして家に帰る日々。
それはきっと青春と呼ばれるもので、とても得難いものだと分かっていました。
だけど…それが今、私の手の中にはありません。
それは…勿論… ――

和「はぁ…♪んんっ♪」

ベッドの中、私の手は下着の中に突っ込まれていました。
ブラをズラし、ショーツを持ち上げるそれは信じられないくらい器用に動き、私を責め立てています。
まるでそこが私以外の誰かに操られてしまっているような淫らで嗜虐的な動き。
それに私の女の部分は潤み、トロリと愛液を漏らしてしまいました。

和「(あぁ…っ♪私…また…こんなぁ…♪)」

私は今までそういう事を穢らわしいものとして忌避して来ました。
そう言う事は結婚後、旦那様とする事であって、とてもはしたないものだと思っていたのです。
しかし、そんな過去が嘘のように私の指は肌を這いまわり、敏感な部分を弄るのでした。
まるで足りないものを埋めようとするようなそれに私の中から冷たい熱が鎌首をもたげ始めます。
それに指先は加速し、股間からクチュクチュと言う音をかき鳴らしました。

和「(んうぅっ♪クる…っ♪来ちゃう…ぅぅっ♪)」

そうやって湧き上がる熱を飲み込んだ熱がぶわりと身体中に広がり、私の肌を刺すのです。
ビリビリとした強い快感が神経を駆け巡り、全身を震わせるそれは…今の私にはもう慣れたものでした。
何せ、この感覚が欲しいが故に…私はそれを…オナニーを何度もしているのですから。

和「く…ぅぅ…ん♪」

枕をキュッと噛んでも声が出てしまう淫らで熱い痺れ。
それは私の内側から溢れ、身体を興奮させていました。
しかし、それでも尚、足りず、私の指はクチュクチュとソコを弄ってしまうのです。
愛液滴る肉の穴を指でピストンするようなそれは絶頂を迎えた私をさらに追い詰め、気持ち良くしてくれました。

和「(でも…足りません…っっ♥♥)」

勿論、そうやって自分で自分を慰めるのは気持ち良いです。
私の身体はもうとても敏感で、中の粘膜を擦るだけで簡単にイッてしまうくらいなのですから。
しかし、それでも私は…それを物足りないと感じてしまうのです。
それはきっと私が…こんなものとは比べ物にならないほど気持ち良い感覚を知ってしまったからなのでしょう。

和「須賀…くぅん…♥」

それを与えてくれるであろうただ一人の男性であり、こうなった私を一度、鎮めてくれた部活の仲間。
その名前を呼ぶ声はとても甘く…そして淫らなものでした。
ここに須賀君が居たら…きっと襲わずには居られないようなドロドロとしたそれ。
それはきっと…私の身体が須賀君を求め、彼を誘惑しようとしているからなのでしょう。

和「ちが…う…♪こんなの…私じゃありません…っ」

私が十五年付き合ってきた『原村和』と言う女の子はエッチな事が嫌いで、男性が苦手でした。
須賀君はそんな中で数少ない例外だとは言っても、決してそういった感情を向けるような相手じゃありません。
いえ、そもそも…そんな感情自体、今までの人生の中ではないものだったのですから。
しかし…それがあの日…訳の分からないまま劣情に流されてしまった日から…変わってしまいました。
身体が須賀君を求めて止まず…こうして自分を慰めた回数は数知れません。

和「(でも…満足出来なくって…)」

どれだけ自分の中を激しく弄っても、太くて逞しい男性器で中を抉られる快感と屈服感には敵いませんでした。
須賀君に犯されて…頭の中まで絶頂感で満たされるような…アレには到底、及ばないのです。
そんなの自分じゃないと言い聞かせても…決して消えないその欲求不満に私は少しずつ追い詰められていました。
それはもう理性の歯止めがなければ…すぐさま須賀君のところへと駈け出してしまいそうなほどに大きくなっているのです。

和「ふ…ぁ…♪」

そんな風に欲求不満が私を追い詰めているとは言え、自慰は対処療法程度にはなりました。
少なくとも身の内を焦がすような劣情がおとなしくなったのを感じて、私はそっと一息を吐きます。
しかし、それだってそう長くない事はこれまでの経験上、分かっていました。
恐らく後数時間もしない内にさっきのそれは再び私へと襲いかかり、私の思考を揺らすでしょう。
それを思うと目尻から涙が浮かびそうになるくらい不安が胸を埋め尽くしました。

和「私…なんでこんな…」

その問いに答える人は誰もいませんでした。
自室であるこの部屋には私以外には誰も居ませんし、当事者である私自身だってまったく分かっていないのです。
ただ…あの日、須賀君の和了を聞いてから…自分の中で本能が目覚めてしまったかのように劣情が止まらないという事だけ。
しかも、それは少しずつではあるものの大きくなり、私の胸を打つのです。
最終的にはどんな自分になるかさえ想像も出来ないそれに私はぎゅっとシーツを掴みましたが、恐怖はまったく晴れません。

和「須賀君…須賀君…」

その恐怖を須賀君はきっと受け止めてくれる。
そんな漠然とした予感が私の中にはありました。
あのちょっとスケベで、でも優しい彼ならば、私の不安を解消し、この欲求不満も消し去ってくれるのでしょう。
しかし、それはきっと須賀君にとって迷惑になるでしょうし…何より… ――

和「(もし…そんな事になったら…私もう…須賀君から離れられません…っ)」

何が作用したかは分かりませんが…エッチな事が嫌いだった原村和が今の私になったのはたった一度の過ちが原因です。
それと同じ過ちをもう一度、繰り返したら…私はもう完全に須賀君に依存してしまうでしょう。
ただ快感を得る為に彼を誘惑し、催した劣情を発散させて貰う為に…ドンドン淫らになってしまうのです。
そうなったら…、もうきっと歯止めが聞きません。
今でさえ悲鳴をあげるほど追い詰められている理性が、再び須賀君の逞しさを知って我慢出来るとは到底、思えないのです。

和「(それに今だったらまだ…まだ何かの間違いだったと言えるのです…)」

私が訳の分からない欲情を覚え、須賀君に襲いかかったという事実。
それはまだ…一度だけであれば、何かの間違いであったと…めぐり合わせが悪かっただけだと言い訳が出来るのです。
しかし、二回目ともなれば幾ら偶然だと主張しても自分を騙す事さえ出来ません。
自分が淫乱になってしまっているという事実を認めざるを得なくなり、きっと私の自意識はボロボロになるでしょう。
それを思えば、まだこうして我慢し続けている方がマシ…と思えなくもないのです。

和「(だからと言って…このままずっと逃げてばっかりじゃいけないって事も分かっているんです…)」

須賀君に会ってしまったら…本格的に我慢出来なくなってしまうかもしれない。
そんな恐ろしさが私を学校から遠ざけ、あるべき日常を遠いものにしていました。
最初は優しかった両親にもぎくしゃくとした物が混じり始めていますし、逃げていられる時間はそう多くはありません。
しかし…今の私の内側に巣食う不安や恐怖は一人で立ち向かうには大きすぎるものなのです。
ですが、事の経緯が経緯であるだけに両親やゆーきたちに相談する事も出来ません。
一歩脚を踏み外せば、自分が自分でなくなってしまうかもしれないその感覚に私は一人震え続けていました。


― コンコン

和「あ…」

そんな私の意識が現実に戻ったのは控えめなノックの音が原因でした。
それに引かれるように顔を上げれば、何時の間にか日が落ちて、部屋が真っ暗になっています。
そんな事にさえ気付かなかった自分に一つ自嘲を向けながら、私はそっとブラを付け直し、パジャマの乱れを直しました。

和「は、はい」
和父「和、今、良いか?」

そうやってワンテンポ遅れて返事をした私に答えたのは気遣うような父の言葉でした。
頑なに私から麻雀を取り上げようとしていた人と同じとは思えないほど優しいそれに思わず胸が痛みます。
私が不登校になっていると言う事に心を痛めているのは何も私だけではないのですから。
しかし、父も母も理由を深く尋ねようとはせず、私のしたいようにやらせてくれています。
ただ、放置するのとは違う父の優しさに甘えてしまっている自分に自己嫌悪を抱く反面、助かっていると思うのでした。

和「えぇ…大丈夫です…」

そんな自分に嫌気を感じながらの言葉は少しだけ震えていました。
どうやら父が来てくれたと言っても、先の不安や安堵は解消されていないようです。
それに一つため息を吐いた瞬間、父がゆっくりと扉を開き、中へと入って来ました。
暗闇の中、微かに見えるその顔にはほんの少しばかりの疲労と困惑が見えます。
それは恐らく家族以外では感じ取る事の難しい微かなものでしょう。
しかし、普段の父はとても厳格で立派な男性なのです。
少なくとも私の前では決して見せないその感情に今の私が掛けている心労の大きさを感じました。

和父「なんだ…電気もつけていないのか?」
和「すみません…」
和父「いや…気にするな。そういう時もある」

そう言いながら、父は壁際のスイッチを操作して電気をつけてくれました。
瞬間、パッと部屋に光が満ち、私の視界を眩しく照らします。
それに微かに目を細めてしまう辺り、私はかなり長い間、そうやって暗闇の中にいたのでしょう。

和父「それより今日は何か食べたいものでもあるか?久しぶりに早めに帰ってこれたから店屋物でも取ろうかと思っているんだが…」和「いえ…特には…」
和父「そう…か…」

そう会話する私達の間には明らかに壁がありました。
父は突然不登校を始めた娘に対する戸惑いから、そして私はそんな父に対しての申し訳なさから。
勿論、普段だってそこまでべたついた親子関係を形成してきた訳ではありません。
しかし、私は私なりに父のことを尊敬して来ましたし、今も変わらずそうであるのです。
それなのに…ほんのすこし歯車が狂ってしまっただけで、こうなってしまう。
その原因が自分であるのにどうにも出来ないもどかしさに私はそっと顔を俯かせました。

和父「後…今日はお前に客が来ているみたいなんだが…」
和「客…?」

私が不登校を始めてから、そうやってお客さんが来たのは一度や二度ではありませんでした。
ゆーきや咲さん、そして部長もお見舞いに来てくれたのです。
しかし、穢れてしまった私は彼女たちにどんな顔をして会えば良いのか、まったく分からず、それらを全て拒否していました。


和「(特に咲さんには顔を見せられない…)」

私があんな事をしてしまったのは咲さんがとても大事にしている人なのです。
本人はそれを恋心ではないと否定していますが、私の目から見て、何時そうなってもおかしくはありません。
そんな人と一時の過ちであるとは言え、あんな事をしてしまって、気安く会えるほど私は脳天気な女ではないのです。
結果、私は大事な合宿にさえ、無断で休んでしまい、こうして一人部屋の中で震えているのでした。

和「(それでも皆は私に対して連絡を取ろうとしてくれて…)」

そうやって不義理を重ねる私に皆は休まずにメールを送ってくれていました。
今日、部活で何があったか。
学校でどんな事を勉強したのか。
それらはとても輝いていて、楽しそうなのが無乾燥なはずの液晶から伝わってきます。
けれど、それを嬉しく思う反面、私は皆のメールに返信する事さえ、私は重く考え始めていました。

和「(私…こんなに良い友人に恵まれているのに…迷惑ばかりかけて…)」

秋季大会や新人戦を控える大事な時期に無断で部活を休み、しかも、お見舞いに行っても会おうともしない部員。
そんな私を気にかけてくれるのは嬉しいですが、そこまでされても私は応える事が出来ないのです。
そのどうにも逃げられない重苦しさに返信の手は鈍り、今ではメールも返さないようになってしまいました。
まるで自分の罪がドンドンと重くなっていくようなその感覚に私の胸は詰まるような鈍痛を覚えます。

和父「大丈夫か?」
和「えっ…あ…はい…」

それが顔に出ていたのでしょう。
父が気遣うようにこちらを見て、尋ねてくれました。
それに反射的に頷きながらも、胸の痛みは収まりません。
いえ、ふとした時に私の胸を強く打ち、逆に強くなっているように思えるのです。


和父「…体調が悪いと断って来ようか?」
和「すみません…お願いします…」

実際、体調が優れないのは本当です。
ただ…それは決して眠れば治る類のものではなく、寧ろ断れば断るほど悪化していく心因性のものでした。
それが分かっているのに逃げようとする自分を叱咤する気持ちはありますが、やはりどうにも出来ません。
既に自分だけで罪に立ち向かえる段階を超えてしまっているのです。

和父「そうか。まぁ…その方が良い。相手は何やら軽そうな男だったからな」
和「男…?」

しかし、そんな私の耳に届いた父の声は意外なものでした。
今日は合宿から皆が帰ってくる日であり、家が近いゆーきが来てくれたと思っていたのです。
ですが、父は何度も遊びに来ているゆーきの顔を知っていますし、何より彼女は男の子に見間違われるような子じゃありません。

和「(も…もしか…して…)」

いえ…私の交友関係の中に軽そうと言われる男の人なんてたった一人しかいないのです。
そもそも私はあまり交友関係が広い方ではありませんし、男の子の知り合い自体ほぼいないのですから。
そこに軽そうと言う特徴が付与されれば、最早、それは確定と言っても良いくらいでしょう。
そうは思いながらも私は信じられなくて、おずおずと父に向かって口を開きました。

和「あの…その人ってもしかして…」
和父「あぁ。確か須賀京太郎とか言う名前だったか」
和「須賀…君…」

父から出てきた名前は私の予想通りの人でした。
須賀京太郎。
清澄麻雀部の黒一点にして、私が襲ってしまった人。
今は身体が求めて疼き、抱きしめて欲しくて仕方がない人。
そんな認識が思考の中にプカプカと浮かび上がり、思わずその名前を言い直してしまいます。
それだけでも胸の奥がキュンと疼き、奥から会いたいと言う欲求が湧き上がって来ました。
まるでもう我慢の限界だと言うようなそれに私はシーツを握りしめましたが、歓喜ともどかしさが混ざったようなそれはなくなりません。
寧ろ、そうやって意識すればするほど大きくなっていくようにも思えるのでした。

和「(でも…どうして…?)」

これまで彼からのメールはありませんでした。
お見舞いに来る事もなかった須賀君と私との接点は今までなかったはずです。
ですが、それが嘘のように今、彼は私のところに来てくれている。
その嬉しさとまたおかしくなってしまうのではないかという恐怖が私の中で渦巻きました。
お互いに強く心を揺さぶり、迷わせるようなそれに私はキュっと唇を噛み締めます。

和父「では、断って…」
和「ま、待って下さい!!」

そう言って出て行こうとする父を私は反射的に呼び止めてしまいました。
その声は思った以上に大きく、振り返った父が微かに驚いていたくらいです。
それを放った私自身、まさかそんな大声になるだなんて思ってはおらず、顔が赤くなるのを感じました。
しかし、もう言ってしまった以上、ここで迷ってはいられません。
どの道…私が社会的に復帰する為には避けては通れない道なのですから。

和「(そう…それだけ…それだけであって…他の何でもないんです…)」

トクンと甘い疼きを走らせる自分の心臓にそう言い聞かせても、粘ついた欲求はなくなりませんでした。
二週間もの間、ずっと欲望を抑え続けていた重石がグラグラと揺れ、蓋が開きそうになっているのを感じます。
ともすれば、今にも玄関に駆け出したくなるような強いそれに私はそっと自分の胸を押さえました。
けれど、欲求どころか再びこの感覚をおさめてくれる人が来たと言う歓喜もなくなりません。

和父「和…?」
和「えっと…会い…ます」
和父「何…?」

そんな私に尋ねる父の言葉にさっきからは考えられないほどの小さな声が出てしまいます。
けれど、父が聞き返したのは決して、それが聞き取れなかったからではないのでしょう。
麻雀をめぐって私と対立した父にとって、私が自分の意見を曲げる事がどれだけ珍しいかを知っているのです。
それが相手 ―― しかも男の名前を聞いた後に豹変すれば、男親としては聞き返したくなるでしょう。

和「(でも…それは誤解…いえ、誤解ってほど認識が間違っている訳じゃないんですが…)」

須賀君の名前を聞いた瞬間に意見を変えたのは確かですし、今まで女友達にも会おうとしなかった私が須賀君にだけ会おうとしているのは事実です。
でも、恐らく父が考えているような艶っぽい関係じゃなくって…いや、その…そういうのをある種、飛び越えてしまったものでもあるんですが…。
だ、だけど、それは須賀君が悪い訳じゃなくって、寧ろ、私が原因で…。
あの、だから…えっと…と、ともかく…! ――

和「だ、大丈夫ですから…入ってくださいと伝えてくれますか…?」
和父「あ、あぁ…」

自分でも思った以上に頭の中が一杯で父の認識を正す言葉は出て来ませんでした。
それに父が驚きに歪んだ顔のままそっと部屋から出て行きます。
今と言う好機を逃してしまった以上、父の認識を元に戻すのは骨が折れる作業なのかもしれません。
しかし、そう思いながらも、私の胸は期待を感じる事を止めませんでした。
ずっと求め続けていた人との対面に私はそっと枕元から鏡を取り出し、自分の顔をチェックし始めます。

和「(だ、大丈夫…ですよね?)」

元々、化粧なんて殆どしないタイプですし、髪型だってそこまで崩れてはいません。
最近、寝不足で肌が荒れているのが多少、気になりますが、それだって一目で見て分かるほどじゃないはずです。
けれど、須賀君がすぐ近くにいると思うと無性にそれらが気になり、じっと鏡を見つめてしまいました。

和「(十分くらいほど待ってもらった方が良かったかも…)」

それだけあれば少なくとも髪型を結い直す暇くらいはあったでしょう。
しかし、或いはブラシで髪を梳いて整えるだけでも多少は違ったかもしれません。
そうは思えども、既に私は父に須賀君を呼んでもらうように頼んでしまったのです。
それを今更、翻す事など出来るはずはなく、私はドキドキとしながら、彼を待っていました。

― コンコン

和「ひゃいっ」

そんな私の耳に届いたノックに思わず声が上ずってしまいました。
情けないそれを須賀君に聞かれてしまったと思うと顔に熱が集まってしまいます。
けれど、それ以上に私の胸を動かしていたのは期待と不安でした。
さっきの醜態に対する羞恥とは比べ物にならないほど大きなそれに私はぐっと掛け布団を握りしめます。
そんな私の前でゆっくりと扉が開いていき、そしてその向こうから金髪の男の子が顔を出したのでした。

和「須賀…君…♪」

まるでそれが夢ではない事を確かめるような言葉。
それは何処かうっとりとしていて、須賀君に媚びているようにも聞こえました。
いえ…実際、私の身体は媚びているのでしょう。
あの時ほどではないにせよ、強い欲求不満が渦巻く身体を何とかして欲しくて、私は彼を誘惑しているのです。
そう思うとお腹の奥が熱くなり、また満たされなさが湧き上がって来ました。

和「(あぁ…♥須賀君が…また私の部屋に…♪)」

それと呼応するように脳裏を過る醜態の思い出に、しかし、私の身体はジュンと熱くなってしまいました。
『私』というパーソナリティにとって、恥ずかしくて一生、忘れていたいそれは、けれど、身体にとっては甘美なものであるのです。
またアレが欲しいと訴えかけるようなそれを私は反射的に腕に力を込める事で抑えようとしました。
けれど、それはあまり芳しい結果にはならず、私の身体は須賀君を見ているだけでドキドキと興奮を覚えてしまうのです。
内心、予想していたとは言え、まるでスイッチが入ったように変わっていく自分の身体に私はそっと項垂れました。

京太郎「和…俺が…」

そんな私の前で扉を閉めながら、須賀君は決意した顔で言葉を紡ぎます。
元々の顔の作りが整っている所為か、それはとても格好良く見えました。
普段からそうやって真剣にしていれば、きっと騙される女の子だっているでしょうに。
そんな事を思った瞬間、私の胸は小さな痛みを訴えるのです。


和「(…あれ?)」

それは今までの良心の呵責や重苦しさとは一線を画するものでした。
それらの鈍痛とは違ったチクリと刺すような痛みに私は内心、首を傾げます。
今まで須賀君と接してきた事は数あれど、こんな痛みを覚えた事なんてありません。
いえ、それどころか私の人生を探しても一度も見当たらないその痛みに私の理解は追いついていませんでした。
けれど、初めての感覚に思考を向けていられる余裕は私の中に殆ど残ってはおらず、すぐさま期待と興奮にかき消されてしまいます。

京太郎「俺が悪いんだ!許してくれ!!!!」
和「…え?」

瞬間、その場でガバリと身体を倒し、須賀君が床へと頭をつけました。
まるでその場に跪くようなそれは所謂、土下座と言う奴でしょう。
しかし、そうと認識しながらも、突然の出来事に私は軽い困惑を覚えました。

和「(須賀君は悪くなんてないのに…)」

確かに私の変調は須賀君の『何か』に因るものなのかもしれません。
信じたくはないですが、あの時の私はそれほどまでにおかしかったのです。
しかし、もし、そうだとしてもその責任を須賀君に求める事など不可能でしょう。
あの時の様子から察するに彼はそれをまったく知らず、寧ろ私に対して我慢すらしようとしてくれていたのですから。
悪いのは原因はどうであれ、劣情に負けてしまった私であり、そして今も逃げている原村和なのです。

和「か、顔をあげてください。そんな…」
京太郎「いや!全部話し終えるまで頭はあげない…!」

しかし、そう言っても須賀君が顔をあげません。
頭を床にこすりつけるようにして土下座を続けていました。
その痛々しいくらいに必死な姿に私は何も言えなくなってしまいます。
須賀君をそこまで追い詰めたのが私の対応だったと思うと、尚更でした。

和「じゃあ…教えてください。どうして須賀君は自分が悪いと思うんですか?」
京太郎「和が…和がおかしくなった原因が俺にあるからだ」
和「…どうしてそう言い切れるんです?」

勿論、私だってそういう考えは確かに頭の中にありました。
けれど、須賀君が口にするそれは推察と言うレベルを超えて、断言するようなものになっています。
あんな非常識な状況を説明できるだけの何かが恐らく須賀君にはあるでしょう。
しかし、それがどうしても理解出来ず、私はそう尋ね返しました。

京太郎「俺達が…今日まで三連休を利用して合宿だったのは知ってるよな?」
和「え…えぇ…一応…メールも届いていましたし…」

須賀君にはメールの返事を返さなかった事を咎めるつもりはないのでしょう。
私に確認するその言葉は決して怒りを感じさせないものでした。
恐らく、それはこれから先の説明に必要不可欠な言葉なのでしょう。
そうは思えども、それに対して返信すらしていなかったという事に再び良心が痛みを訴えました。


京太郎「そこで…俺は漫さん…いや…合宿先の生徒を和みたいにさせてしまったんだ…」
和「え…?」

『私みたい』。
その言葉の意味を私は最初、正確に察する事が出来ませんでした。
勿論、それは普段、私がしているような髪型にした…なんて些細な事ではないのは分かっているのです。
しかし…一体、誰が想像出来るでしょうか。
ほんの僅かなやり取りで…女の子の身体をこれ以上ないほど興奮させるような力があるだなんて、到底思えません。
けれど、苦渋に満ちた須賀君の言葉からはそうとしか思えず、私の頭から現実感が薄れて行きました。

和「そ、それって…あの…」
京太郎「…あぁ…まぁ…その…ムラムラして普段より熱っぽくなった…的な…」

どうしても信じられなくて漏れた私の言葉に須賀君が必死に言葉を選びながら応えてくれました。
それは恐らく、私と顔も知らない『漫さん』の二人の名誉を傷つけまいとするものだったのでしょう。
しかし、それでも迂遠なその言葉に私の顔がぼっと熱くなりました。
まるで内側から燃え上がるようなその熱にあの日の甘美さを思い出し、私の興奮が蠢きだします。
それを脚をぶつけるようにしながら抑えつつ、私は須賀君の次の言葉を待っていました。

京太郎「そこで…その人と色々と話したんだけれど…やっぱり俺との対局からおかしくなったのは確かみたいだ」
和「まるで…私みたいに…ですか?」
京太郎「あぁ…」

苦々しそうに漏らす須賀君の胸中は私には分かりません。
しかし、彼は彼なりにその相手の事を大事に想い、だからこそ、毒牙に掛けた事を後悔しているのでしょう。
そして、それと同時に須賀君は後悔を抱きながらも、そこから脱却し、乗り越えようとしているのです。
それは恐らく…私ではない『誰か』のお陰なのでしょう。
それが咲さんなのか、それともゆーきなのか、或いは『漫さん』なのかは分かりません。
しかし、そうやって須賀君が乗り越えた事に私が関与していないという事が無性に寂しくて…まるで置いていかれたように感じるのです。

京太郎「そんなオカルト、和としては信じられないと思う。でも、実際、俺がまたやらかしてしまったのは事実なんだ。だから…」

そこで須賀君は言葉を区切って、一度、顔をそっとあげました。
そこにはさっきまでの苦渋はなく、ただただ私の事をまっすぐに見つめてくれています。
今の須賀君の中には私以外の誰もいない。
それを感じさせる強い視線に、私の胸は少なくない歓喜を覚えました。
けれど…それは部活に打ち込んだ時などに感じる清々しいものではなく、何処かドロっと粘ついたものです。
今まで感じたことのないその暗い喜びに困惑を覚えた瞬間、須賀君の頭が再び床へと打ち下ろされました。

京太郎「まずは…それを和に謝りたい。…本当にすまなかった」
和「…」

正直な事を言えば、この期に及んでも私は須賀君の言葉が信じられませんでした。
私はオカルトなんてまったく信じていませんし、馬鹿な事をと思う気持ちの方が強いのです。
ですが、須賀君がこんな悪趣味な嘘を吐くとは思えませんし、何より彼にとってメリットがまったくありません。
それ故に彼の言葉を冗談か何かだと断じる事も出来ず、私はどういう反応をすれば良いのか分からなくなってしまっていました。

和「…すぐには信じられません。あまりにも荒唐無稽な話ですし…そう言った能力なんて元から信じていませんから」
和「でも…もし、そうだとするなら、悪いのは須賀君じゃありませんよ。だって…知らなかったんでしょう?」
京太郎「そう…だけど…」

数十秒の思考の末、私が選んだのは須賀君を許す言葉でした。
いえ、元々、私は別に彼に対して怒っていた訳ではないのでその表現は正しくはないのでしょう。
元から私が優柔不断だったのがあそこまで発展してしまった一因でありますし、須賀君を誘惑したのも私だったのですから。
寧ろ、悪いのは意固地になり、そうしたオカルトが関与していたとは言え、劣情に負けてしまった私の方でしょう。

京太郎「それでもレイプみたいな形になった挙句、膣内射精したのは俺の責任だ」
和「え…?」

しかし、そう思っていたのはどうやら私だけだったみたいです。
どうしてそうなっているのかは分かりませんが、須賀君の中では私をレイプしているような形になっているのですから。
しかし、彼の言葉からそれを察する事が出来ても、一体、どうしてそうなったのかまではまったく分かりません。
あの日の事を思い返すまでもなく、彼を興奮させようとしていたのは私の方で、一度だって須賀君を拒んだ事なんてないのです。
確かにちょっと意地悪されたのは怖かったですけれど、でも、そのゾクゾクが気持ち良くって…また苛めて貰う事を想像しながら私……っ♪♪ ――

和「(い、いえ…違います。そうじゃなくって…!)」

気を抜いた瞬間、漏れ出してくる淫らな思考を頭を振るようにして追い出しながら、私はそっと須賀君に向き直りました。
どうしてそうなのかまでは分かりませんが、あの日の出来事を須賀君も強く悔いているのは確かです。
それならば、今、私がする事はそう言った淫らなものを思い浮かべる事では決してありません。
そこまで須賀君を追い込んでしまった事に対する責任を取るのがまず真っ先に必要な事なのですから。

和「えっと…その…誘ったのは私の方でしたし…」
京太郎「それでも…様子がおかしいと思いながらも俺は襲いかかったんだ…すまない…」
和「…じゃあ、須賀君はあのまま私を放置していたのが正しいと言うんですか?」
京太郎「それは…」

問い詰めるような私の言葉に須賀君が言葉を詰まらせます。
恐らく彼にだってあの時の行為が完全に間違っているという意識はないのでしょう。
それでも私に謝罪するのはどうしようもない罪を背負ってしまった罪悪感と後悔から。
ならば、それを少しでも軽くしてあげる事が須賀君の為になるのでしょう。

和「須賀君が言っている事が事実だとしたら、あのまま私を放って置かれたら、私は誰彼構わず襲っていたかもしれません」

そう思いながらの言葉は自分でも信じられないくらい冷たいものを身体にもたらしました。
何処か心地良いゾクゾクとしたものとは違うそれに私の肩がブルリと震えます。
それはまるで考えるのも恐ろしいと言わんばかりの感情が胸の内から溢れて来ているからなのでしょう。
さっきの期待混じりのそれとは違う恐ろしいだけの感情に私の震えは止まらず、思わず須賀君に手を伸ばしたくなるのでした。

和「(でも…今はダメ…ダメなんです…っ♪)」

そうやって縋るように彼に触れれば、この恐怖は私の中から消え去るでしょう。
ですが、それと共に私の理性が消え去る事も理解出来てしまうのです。
そうなったら、あの日の再現とも言うべき出来事に発展してしまうのは目に見えていました。
勿論、それをまったく望んでいないといえば嘘になってしまいますが、今日は家には父がいるのです。
もうすぐ夕飯で母も何時帰ってきてもおかしくない事を思えば、それに身を委ねる訳にはいきません。
そうなった時にお互いの身に訪れるのは破滅以外の何物でもないのですから。

和「須賀君はそれでも良かったんですか?私が誰とも知らない行きずりの相手とあんな事になって良かったと思ってるんですか…?」
京太郎「そんな事あるか!!」

試すような私の言葉に答えた須賀くんの声には軽い怒気すら孕んでいるものでした。
空気を強く震わせるそれに驚く反面、胸の奥がジィンと震えるのを感じます。
そうやって怒るくらいに…須賀君は私を大事に思ってくれている。
それが男としての独占欲なのか、或いは部活仲間としてなのかまでは分かりません。
ですが…何となく…前者であれば、良い…とそんな言葉が脳裏を過ぎりました。

和「私もそうです。色々とありましたけれど…その相手が須賀君で良かったと思っているんですから」

須賀君は人の胸をチラチラ見てくるスケベですし、おっぱいの大きな美人を見るとすぐにデレデレするくらい気が多いです。
だけど、優しくて、暖かで…そして他人の為に一生懸命になれる心の持ち主でもあり…だからこそ、私は名前呼びを許しているのでしょう。
間違いなく、父を除けば、私の人生の中で最も親しくなった男性。
そんな須賀君が初めての相手で…まぁ…100%嫌じゃないと思うくらいには…心を許しているのは確かです。

京太郎「でも…膣内射精は行き過ぎだろ…」

しかし、それでも須賀君が自分自身を許せないのでしょう。
絞りだすようなその声には自責の感情が強く混じっていました。
ですが、それは逆に言えば彼が自分を責められる理由がそれしかないという事なのです。
けれど、それもまた私にとってはあまり大した問題ではありませんでした。

和「多分、大丈夫ですよ。私、ピル飲んでますから」
京太郎「え…?」

人並み以上に重い生理に苦しめられてきた私にとって、ピルは常用薬も同然でした。
勿論、生理が近かったあの日もしっかり飲んでおり、妊娠の心配もほぼありません。
あの時はそこまで考えていた訳ではありませんが、私が今、そこまで妊娠の心配をしていないのはそれが理由です。
とは言え、ピルを飲んでいるだなんておおっぴらには言うものではありません。
須賀君が知らないのも無理はなく、驚いてあげた顔が呆然とした表情ものを浮かべていても仕方のないものだと言えるでしょう。

京太郎「でも…俺は…」

そのままそっと視線を俯かせての須賀君の言葉は未だ苦渋の色が強いものでした。
流石にさっきほど強い自己嫌悪を感じさせるものではないとは言え、彼が自分を許すにはまだ足りないのでしょう。
そう思うと原因の一端を担うものとして申し訳なくなりますが、こればっかりは私がどうこう出来るような問題じゃありません。
私に出来るのは少しでも須賀君が自分を責めないように許してあげる事だけなのですから。

和「私は気にしていませんよ。後は須賀君が自分を許せるかどうかです」
京太郎「…すまない…」

そう言って再び頭を下げた須賀君の顔は少しだけ明るくなっていました。
勿論、それはまだ自分のことを許せた訳ではないのでしょうが、気が楽になっている事を感じさせてくれます。
それに安堵と共に嬉しさを感じてしまうのは、私が須賀君の役に立てたと言う実感が胸の内から漏れているからでしょうか。
咲さんでも…ゆーきでも…『漫さん』でもなく、私が須賀君の心を軽く出来たと言う事にドロリとした喜びを感じてしまうのでした。

京太郎「それじゃあ…どうして学校に来ないんだ?」
和「う…それは…」

須賀君を励ますので精一杯で正直、その辺りの事をまったく考えてはいませんでした。
勿論、それは須賀君に会ってしまうと色々と歯止めが効かなくなってしまいそうで怖かったからです。
実際、今も須賀君に飛びつきたくて仕方がなく、お腹の奥の欲求不満は少しずつですが大きくなっていました。
正直、こんな状態でろくに部活なんて出来ないので、不登校を選んで正解だったと思わなくもないのです。

和「(でも…それを須賀君に言う訳には…)」

アレはまだ不可思議な何かしらが作用したから仕方がなかった、と言い訳する事が出来なくもないのです。
そうやってオカルト染みたものを認めるのは微かにプライドが許しませんが、それ以外にあのおかしな状態を説明できないので仕方ありません。
ですが、今の私はそんなオカルト染みた何かの影響なんてまったく受けていないのです。
既に一度、影響は抜け切り、一時期は冷静にもなっていたのですから。
そんな私が今、須賀君に劣情を伝えるのは、それだけ自身が淫らである証になってしまうでしょう。

和「(い、言えません…!そんな…そんなエッチな事…)」

勿論、既にアレだけの醜態を見せてしまった以上、今更ではあるのかもしれません。
しかし、そうやって開き直るには私はずっと一人で悩みを抱え込んでいたのです。
その悩みの種を共有し、受け止めてくれる人が来ただけでそこまでは開き直れません。
ましてや…相手は須賀君なのですから… ――

和「(あれ…?須賀君なら…何なんでしょう…?)」

須賀君は私にとって大事な仲間です。
こんな事にはなってしまいましたが、それでもその認識だけは揺るぎません。
しかし、それだけではさっきの特別視は説明出来ない気がしました。
部活仲間なのは他の麻雀部の皆も同じですし、何も須賀君だけに限った事じゃありません。
それなのに須賀君だけを特別に扱うその言葉はまるで… ――


京太郎「和?」
和「え…あ…ご、ごめんなさい…」

そんな私に不思議そうに尋ねてくれた須賀君に、その思考を封印しました。
それは考えてはいけないという本能の囁きと、現実的な問題が混ざり合ったが故です。
折角、歩み寄ってくれている須賀君の目の前で、未だ影も形も見えない問題に思考を割くのはあまりにも失礼が過ぎるのですから。
とは言え、今の私の状態をどうやって伝えるか、或いは適当に誤魔化すかが決まらず、私は沈黙を続けてしまいます。

京太郎「あ、あの…もし、違ったら自意識過剰だって笑うくらいのつもりで聞いて欲しいんだが…」
和「は、はい…」

そんな私の前で気まずそうな表情を浮かべながら、須賀君はそうやって口にしました。
まるで焦れたようなそれに申し訳なくなりますが、やっぱり私の中で結論は出てこないままです。
そうやって須賀君の方から言葉を口にして時間を稼げる事が有難いと思うくらい、今の私は追い詰められていました。
普段ならば即断即決で色々な事が決められるのに…まるで歯車が噛み合わない自分の現状。
それに自嘲を覚えた瞬間、須賀君はそっと唇を開きました。

京太郎「もしかして…俺を見ると…その…色んな意味で我慢出来なくなったり…する?」
和「ふぇ…?」

その言葉を私は最初、信じる事が出来ませんでした。
それも当然でしょう。
だって、それは私の現状を的確に、そして遠回しに表現したものなのですから。
まるで私の胸中を読めたようなそれがどれだけ事実であれど、頷く事など出来ません。
寧ろ、呆然とした思考が理解を進める度に、胸の奥底から羞恥の感情が沸き上がってくるのです。

和「(も、ももも…もしかしてそんなに顔に出てましたか…!?)」カァァ

今まで私は普通にしていたつもりでした。
どれだけ内面では劣情がうねっていても、私はそれを表に出ないように努めて来たのです。
しかし、須賀君が私の心中を表現しているという事はそれはまったく出来ていなかったと言う事なのでしょう。
そう思うと顔が熱を持ち、須賀君の顔がマトモに見れなくなってしまいました。
いえ…そもそも見られている事さえも我慢出来ず、私は思わず布団を被って隠れてしまいます。

京太郎「あ、あの…和?」
和「あう…あうぅ…」

突然の奇行に出た私を心配するように須賀君が言ってくれますが、私は彼に顔を向けられません。
マトモに返事すらも出来ず、布団の中であうあうと奇声を発していました。
まるで全身で狼狽えている事を表現するようなそれを私は止められません。
それが情けなくて、恥ずかしくて…自己嫌悪が大きくなっていく私の目尻から潤むような感覚が伝わってきます。

京太郎「えっと…図星だった?」
和「わ、分かってるなら、聞かないで下さいよ…もぉ…」

そんな私を追い詰めるような言葉に震える声で返事をしました。
しかし、須賀君は何も悪くはなく、ただ、私の心境を悟ってくれただけなのです。
そうやって拗ねるような言葉を向けるのはお門違いであり、八つ当たり以外の何者でもないでしょう。
ですが、あまりにも恥ずかしすぎる自身の醜態を思うとどうしても冷静にはなれず、私の目から涙が一筋溢れました。

京太郎「あー…ごめん…な」ポス
和「あ…」

そうやって布団に隠れている間に須賀君がベッドに近づいてきたのでしょう。
その声はさっきよりも近く、また何か重いものが触れたようにベッドが微かに揺れました。
それらは恐らく須賀君が私のベッドに腰を下ろしたが故なのでしょう。
しかし、それに困惑を覚えるよりも先に須賀君の手が優しく、布団を叩いてくれるのでした。

和「(まるで…慰めるみたいに…)」

布団の内側へと引きこもろうとする私に傍にいる事を教えるような行為。
それが私の胸を無性に暖かくして、自己嫌悪を和らげてくれました。
ちょっと乱暴で…でも、だからこそ、須賀君らしいその慰め方はさらに続き、少しずつ心が落ち着いていくのを感じます。
それが少し癪で…でも、嬉しくて…そんな何とも言えない感覚に私が安堵の息を吐きながら、そっと布団から顔を出しました。

和「…ごめんなさい…取り乱したりして…」
京太郎「いや、気にするなよ。俺がちょっとデリカシーがなかった」
和「そんな事…」

そのままゆっくりと態勢を直す私の前で須賀君が申し訳なさそうに笑います。
でも、彼に何の非はないのは明らかで、責められるべきなのは冷静さを失った私の方でしょう。
けれど、それをここで須賀君に言ったところできっと彼はそれを認めません。
それだったら別の話題に切り替えた方が良い。
そう思った私はさっき微かに疑問に思った事を口にするのです。


和「それにしても…随分と手馴れてませんでしたか?」
京太郎「あぁ…咲も結構、やるからな、アレ」
和「や、やるんですか…」

勿論、咲さんの事を私は大事な友人だと思っています。
多少、理解不能な打ち方をする事がありますが、それを補ってあまりある魅力を持つ女の子でしょう。
しかし…その…彼女は何というか…普通よりもちょっと色々な事が不得手な子なのです。
別に侮辱したりとか下に見ているとかそういう意図はまったくありませんが…その……と、とにかく!
咲さんと同じ事をしてしまったと思うと微かにショックを受けるくらい…彼女は色々と苦手でした。

京太郎「まぁ…和が同じ事やるとは思わなかったけれど…」
和「う…わ、忘れて下さい…そういう事は…」カァ

アレは色々とテンパっていただけであって何かの間違いだった。
そう思いたい私の前で須賀君が意地悪そうに口にします。
それに顔が赤くなるのを感じながらも、もう布団の中に逃げ込もうとは思えません。
ある程度、恥ずかしいところを見られて自分の中で吹っ切れ始めているのでしょう。
それが正しいかどうかまでは分かりませんが…悪い気がしないのは事実でした。

京太郎「後…俺がさっき言ったのは別に和の様子から察した訳じゃない。…教えてくれた人がいるんだ」
和「え…?」

そんな私の前で顔を真剣な表情へと変えながら、須賀君はそっと口にしました。
それは恐らく彼が言う二人目の犠牲者 ―― 『漫さん』の事を言っているのでしょう。
しかし、私はそれに安堵を覚えるよりも先に、少なくない驚きを覚えてしまいます。
今のこの状態が決して私だけのものではないのは間違いなく、嬉しい事でした。
でも、それ以上に…私が認められず、目を背けていた事に向き合い、須賀君に教えたその勇気に私は驚きを隠せません。
一体、どうしてそんなにも強く…立ち向かう事が出来るのか。
恐ろしさに震えていただけの私とは比べ物にならないその人に…私は… ――

京太郎「…ごめんな。俺は…和に辛い思いをさせてばかりだ…」

そう消沈して口にする須賀君の顔は強い鬱屈を見せていました。
たった一度の過ち、そうであるはずの事が今も尾を引き、私を苦しめていると言う事に須賀君も悲しんでいるのでしょう。
どれだけエッチでスケベでも、彼は人の苦しみを喜べるような人ではないのです。
いえ、寧ろ、率先して悲しみ、自分を責めるような優しい心の持ち主なのですから。

和「(私は…)」

そんな須賀君に何か言わなければいけないのは分かっているのです。
しかし、あまりにも衝撃的な事実が並び、未だ私の思考は完全に回復してはいませんでした。
頭に浮かぶ言葉の中から選ぶには、それらはあまりにも多すぎて、私に逡巡をもたらします。
そんな自分が情けなく思えると同時に…胸中で嫌な感情がじっとりと広がっていくのを感じました。

和「(その『漫さん』なら…こんな事はないんでしょうに…)」

自分が自分でなくなってしまいそうな強い劣情から逃げずに戦い、そして須賀君を励ました人。
そんな人であれば、きっと今の須賀君を優しく慰めてあげられるのでしょう。
そう思うと無性に胸が苦しくて、何かをしなければいけない気がしますが、気持ちだけが空回りして決められません。
結果、私たちの間には重苦しい沈黙が降り、お互いに無言の時間が続いてしまいました。

京太郎「でも…俺…責任だけは取るから…」
和「…え…?」

そんな中、ポツリと漏らすような須賀君の声が私の耳に届きました。
それに驚いて俯きがちになっていた顔をあげれば、意外なほど近くに須賀君の顔があります。
キリッと引き締まった真剣そのものなその表情に嘘はなく…そして少しだけ格好良く見えました。
さっき部屋に入って来たよりもドキドキするのは…須賀君がさっきとは比べ物にならないほど近いからか、或いは… ――

和「(って言うか…せ、責任って!?)」

勿論、私にだってその言葉の意味は分かっています。
ここでそんな言葉を口にするという事は…たった一つの事を意味するでしょう。
でも、それは咲さんに悪いですし、何より私だってまだ色々と分かってはいません。
須賀君の事は好きですが、それは異性としてのものではないはずで…でも、今の私は凄い…ドキドキしていて自分で自分の気持ちがまったく理解出来ませんでした。
それでも悪い気持ちじゃない事だけは確かで…私の胸に期待の色をじんわりと広げるのです。

和「(それに…須賀君が…私のものになってくれるのであれば…)」

この恐ろしいくらいに大きな欲求不満も恐れる事はありません。
毎日、私の事を愛し、それを受け止めてくれる人がいるのですから。
しかも…相手は『漫さん』と言う人を捨ててまで…私を選んでくれているのです。
私が到底、及ばないと思うような…素晴らしい人ではなく…私を…原村和を選んでくれている。
それに否定しきれない優越感と喜びを感じながらも、私の思考はグチャグチャになっていきました。

和「(あぁぁ…っもう…どうしたら…!?)」

喜びと期待、そして、戸惑いと困惑。
それらが入り混じり、そしてぶつかり合う胸中で私は叫ぶように言葉を浮かばせますが、どうしたら良いのかは分かりません。
もうすぐそこまで運命の時が迫っているのに、今の自分の感情さえ定かではない事に強い憔悴が浮かび上がって来ました。
あまりにも大きすぎるそれに思考がクラリと揺れた瞬間、須賀君の口がゆっくりと開いていきます。
それに…私の頭の中はショートして、何も分からなくなり… ――























京太郎「だから、俺!鹿児島で能力制御の方法と和たちが普通に戻れる方法を探してくる!」
和「わ、わ…私の方からもよろしくお願いします!!!」




















和「…え?」
京太郎「ん?」

その瞬間、聞こえたその声に私は信じられない気持ちになりました。
だって、須賀君の言葉はまったく私の考慮の外にあったものなのですから。
しかし、自分の醜態にサァっと冷え込んでいく頭の中が寧ろそっちの方が当然ではないかと思い始めます。
幾ら何でも…責任を取ると言うのが『恋人になる』というのはあまりにも短絡的で行き過ぎでしょう。
そんな事にさえ気付かないくらいテンパっていた自分に羞恥心さえ湧き上がりません。
ただ、呆然とする気持ちが続く中、私は幾つか確かめようと本能的に唇を動かします。

和「能力制御…ですか?」
京太郎「あぁ!合宿先の監督…いや、代行らしいけど、まぁ、それっぽい人に紹介してもらったんだ」
和「どうして鹿児島なんですか?」
京太郎「代行さんがツテを持ってて、一番能力とかオカルトに詳しいのがそこだって。後、そこからなら別の所にもツテがあるから無駄足になる事は少ないだろうって紹介してくれたんだ」
和「そう…ですか」

どうやら私の聞き間違いでも何でもなかったみたい。
それを須賀君の返答から確認した私の顔が真っ赤に染まっていきました。
ただただ、ひたすら大きすぎる羞恥心に飲み込まれるようなそれに私の身体がわなわなと震え始めます。
自分でも制御出来ないそれに私は自分を落ち着かせようと深呼吸を試みました。
しかし、それすらも身体中を埋め尽くす恥ずかしさに上手くはいかず、頭の中の熱も取れません。
結果、私の思考はじわりじわりとそれらに侵食され、真っ赤に染まっていくのです。
またさっきと同じく…自分が何をしようとしているのかも分からないその感覚に私の口は勝手に開き… ――


和「す、須賀君の…須賀君のぉ…!」
京太郎「え?」
和「須賀君の馬鹿…ぁぁああっ!」
和父「須賀ァァァ!!和に何をしたあああああああ!?」バンッ
京太郎「え…えぇぇぇ!?」

瞬間、バンと乱暴に扉が開き、父が部屋へと入ってきます。
それに須賀君が驚いた声をあげますが、私はそれどころではありませんでした。
まるで自分ではないような酷い八つ当たりの言葉に羞恥心と自己嫌悪が湧き上がり、胸の中がさらにグチャグチャになっていくのです。
突然、飛び込んできた父が明らかに誤解している事に対してフォローしなければ、と言う意識はあるものの、口から言葉が出ません。
出るのはただ、獣めいた呻き声だけでした。

和父「」チラッ
和「う…ぅ」マッカ+ナミダメ
和父「」チラッ
京太郎「え、えっと…あの…の、和のお父さん?」
和父「君に父と呼ばれる筋合いはない!!!!!」
京太郎「す、すみません!!!」

父の怒号に近い声に須賀君がその場で土下座する勢いで頭を下げました。
けれど、父の怒りはそれで収まってはいないようで、視線に敵意がありありと現れています。
一見、冷静そうに見えますが、理不尽な言葉を須賀君に向ける辺り、かなり父もまたかなり混乱しているのでしょう。
しかし、そんな父を宥められるこの場で唯一の存在が私である事は分かっているのですが、どうにも私の口は自由に動いてはくれませんでした。


和父「…とりあえず今日は帰ってくれ」
京太郎「いや…でも、俺…まだ伝えたい事が…」
和父「それとも国家権力に強引に連れて行かれたいか?」
京太郎「今すぐ帰らせて頂きます」

シュバッと俊敏な動きそのもので立ち上がる須賀君には迷いがありませんでした。
恐らく私の部屋に来る前に色々と父に脅されていたのでしょう。
対立する事はままありますが、父は基本的に一人娘である私を愛してくれているのですから。
それがちょっと行き過ぎだと思うことはありますが、まぁ、それも一人娘を持つが故の過保護だと思うと理解出来なくはありません。

和「(でも…私…)」

話したい事がまだ残っているのは決して須賀君だけではないのです。
私だって、彼に色々と伝えたい事や謝罪したい事があるのですから。
しかし、そう思うのは私の中では少数であり、その殆どがまだ燃え上がるような羞恥に悶えていました。
結果、あうあうと情けない声しかあげられない私に背を向けて、須賀君が部屋から立ち去ろうとします。
それが嫌で反射的に手を伸ばした瞬間、須賀君が扉のところでそっと振り返り、私を見ました。

京太郎「えと…だから、俺…当分、鹿児島に行くし…帰ってくる時はメールをする」
京太郎「だから…俺がいない間だけでも学校に行ってやってくれないか?」
京太郎「皆…一見…元気そうだけど凄い無理してるのが伝わってくるんだ。それは俺には何とも出来ない。だから…」
和父「言いたい事はそれだけかね?」
京太郎「すみませんすみません!!」

その言葉の途中で再び父に恫喝された須賀君が今度こそ去っていきます。
何処か居心地悪そうに肩を縮めて、背筋を丸めるその姿はテレビで見る容疑者か何かのようでした。
そんな須賀君に申し訳なさが湧き上がった瞬間、バタンと扉が閉じられ、私はまた一人へと戻ります。
そのまま数分ほど耳を澄ませていましたが、サイレンの音などは特に聞こえませんでした。
あくまでアレは恫喝と言うだけで父も本気で警察を呼ぶつもりはなかったのでしょう。
それに微かな安堵を覚えながら、私はゆっくりと立ち上がりました。

和「(とりあえず…父の誤解を何とかしないと…)」

少なくとも須賀君が何も悪くないと言う事だけは分かってもらわないといけない。
そう思うと少しだけ身体に力が入り、やる気が沸き上がってくるのを感じました。
この二週間近く、殆ど感じられなかったその気持ちの上向きに私はぎゅっと握り拳を作ります。
指の先までちゃんと力が入るその感覚に勇気付けられた私は一歩脚を踏み出して… ――




― それから私は久しぶりに父を大喧嘩をする羽目になったのでした。









~和父~



京太郎「俺が悪いんだ!許してくれ!!!!」
京太郎「いや!全部話し終えるまで頭はあげない…!」

和父「(ほう、いきなり謝罪から入ったか。中々、男らしいじゃないか)」
和父「(意志の強さを見せる意味でも譲っちゃいけないところも良く分かっているようだ)」

京太郎「そんな事あるか!!」

和父「(む…だが、どんな状況でもそうやって声を荒上げるのはいかんな、減点だ)」

京太郎「だから、俺!鹿児島で能力制御の方法と和たちが普通に戻れる方法を探してくる!」
和「わ、わ…私の方からもよろしくお願いします!!!」

和父「(ん…?能力…?鹿児島…?どういうことだ…?)」
和父「(まぁ、二人にも事情があるんだろう)」
和父「(それを話して貰えないのは親として寂しいが…それも子どもの成長かな…)」
和父「(私に必要なのは…もう和をまもってやる事ではなく、支えてやる事なのかもしれん)」










和「す、須賀君の…須賀君のぉ…!」
和「須賀君の馬鹿…ぁぁああっ!」

和父「」プチッ
和父「須賀ァァァ!!和に何をしたあああああああ!?」バンッ

結論:父はまだまだ子離れ出来ない。

復元してよろしいですか?