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第五層クリア後拠点パート2」を以下のとおり復元します。
―― 後日、私は中々、ご主人様と二人っきりにはさせてもらえませんでした。

それはやはりあの日、私がご主人様の性欲処理便器であり続けたからなのでしょう。
ご主人様は宣言通り、私を犯し続けてくれたのです。
その痴態に当てられて智葉さん達が誘惑しても、愛しいお方は私を手放しませんでした。
私が何度気絶しても、失禁しても、犯し続けてくださったのです。

美穂子「(…私が逆の立場なら嫉妬で狂いそうになります)」

私はこうしてハーレムの一員となっていますし、また積極的にその中へ女の子を引きこもうとしている一人です。
ですが、それはあくまでもご主人様の為であり、やはり女として愛しいお方を独占したいという気持ちはありました。
そんな私にも目をくれず、たった一人の女性だけを目の前で愛されたらどうなるか。
きっと欲情する以上に愛されている女性に嫉妬してしまう事でしょう。 

美穂子「(…だから、致し方ない事ではあるのですよね)」

それがご主人様に媚薬を盛ったから、とバレた瞬間、私の拒否権は全てなくなりました。
淑女協定での付帯条件を満たしていたとは言っても、夜にまでズレこんだのは流石にやり過ぎです。
その日、私が歓喜で死にそうになっていた裏で智葉さん達が文字通り涙を飲んでお互いを慰めあっていた事を考えれば、次の日の夜の性活で除外されなかっただけ御の字と言えるでしょう。

美穂子「…ふふ」

ですが、今日はようやくご主人様と二人っきりになれる日です。
流石にこの前のように媚薬を盛ったりはしません。
流石に前回の事で私も懲りているのですから。
……まぁ、皆が許してくれるならまたやりたいとは思っているのですけれど。
…だって、あんなに私だけを求めてくれるご主人様なんて最初以来でしたし…仕方ないじゃありませんか。 

美穂子「(…まぁ、それはさておき)」

今日の私はご主人様との時間をゆったりと過ごすつもりでした。
勿論、誘惑をしたりをしても問題はないのですが、そういうのとは無関係に穏やかな時間を過ごしたい。
そう思うのはきっと私が自分に自信を持てるようになってきたからなのでしょう。
どんな自分でもご主人様は受け入れてもらえる。
そんな確信がある今、無理に特別なご奉仕をする必要はありません。
勿論、求めてもらえれば全力で応えるつもりではありますが、私から何かアクションを起こすつもりはありませんでした。

京太郎「……」チラ

そんな私の隣で、さっきからご主人様がチラチラと視線を送ってきます。
何か言いたげなその視線は、きっと私に話があるからなのでしょう。
しかし、タイミングを伺っているのか、中々、その口から言葉が出てくる事はありません。
とは言え、ここで『何か御用ですか?』なんて聞いてしまったら、さっきからずっとタイミングを伺っているご主人様の面目を潰す事になってしまいます。
ここは知らない振りをするのが一番でしょう。 

美穂子「ご主人様、おかわりいりますか?」

京太郎「あ、あぁ、うん。貰うな」

代わりに差し出したティーポットにご主人様はそっとカップを差し出してくださいました。
流石にそのカップの中には山盛り紅茶が残っている、なんて単純なオチはありません。
ですが、さっきからご主人様は落ち着かない様子でグイグイと紅茶を飲んでおられるのです。
何時ものように紅茶の風味を味わう事もなく、ただただ注がれた分を嚥下するその姿。
そんなご主人様の緊張を解してさしあげたいのですが…ここで私が出来る事は何もありません。

京太郎「あ、あのな」

美穂子「はい」

京太郎「…その、もう俺達が再会してから結構経つよな」

美穂子「そうですね…」

そんな事をおもった瞬間、ご主人様からポツリと声が飛んできました。
それに小さく頷き返しながら私は脳裏にご主人様と過ごした期間を思い浮かべます。
夜が訪れる度にご主人様と淫らな逢瀬を繰り返すその生活はとてものんびりとしたものでした。
何せ、私達全員が満足するには一夜では到底足りないのですから。
ハーレムに付きあわせているお礼だと言わんばかりにご主人様が私達を念入りに愛してくださっている間に数日経過するのは日常茶飯事なのです。
結果、私達は迷宮をようやく五層まで攻略した状態ではありますが、既に季節は3つ過ぎ去っていました。 


美穂子「もう殆ど一年ですか…早いものですね」

京太郎「だな。最初は一周年になる前に迷宮も終わらせておきたいなんて考えていたけれど…正直、見通しが甘かったよ…」

美穂子「ご主人様は悪くないですよ」

迷宮が果たしてどれくらいあるのかまったく分かりません。
ですが、その中にとらわれている人々の数を考えるとまだまだ先は長いとそう考えるべきでしょう。
今のペースではもしかしたら十年経っても終わらないかもしれません。
ですが、それは決してご主人様の所為ではありません。
ご主人様に恋い焦がれ、その人となりに堕ちて、はしたないメスになってしまった私達の所為なのです。

京太郎「…ありがとう。まぁ、でも…こうして俺のやるべき事に美穂子を長々と巻き込んでいるのは事実だし…」

美穂子「違いますよ」

京太郎「え?」

美穂子「私は巻き込まれているんじゃありません」

美穂子「好きでご主人様の事を手伝っているんです」

美穂子「私がそうしたいから…勝手にやっている事なんですから」

私がご主人様の手助けをより直接的にする事になったのは、友達である智葉さんがいなくなるのが嫌だから、と言う理由でした。
けれど、それが今まで続いているのは、ご主人様の事を愛しているからです。
この人の事を助けたい。
助けて…そして自分の事を求めて欲しい。
そんな見返り込の愛情で側にいるだけの私に良心を傷ませる必要はありません。
ただただ私を愛してくだされば、それで十分過ぎるのです。 

美穂子「だから、ご主人様は私を巻き込むなんて考えなくても良いんです」

美穂子「私は巻き込まれているのではなく、それを望んでいるのですから」

美穂子「ご主人様が巻き込まないようにしようとしても、私は自分から飛び込んでいきますよ」

勿論、ご主人様の気持ちを立てるべきところは立てなければいけません。
それがメイドと言うものなのですから。
しかし、私を構成するパーソナリティはそれだけではありません。
ご主人様に恋い焦がれ、魔物になった『福路美穂子』も決して軽視出来る要素ではないのです。
いえ、寧ろ、こうして立派なメイドであろうとしている理由が、ご主人様への愛である事を思えば、そちらの方が大きいでしょう。

京太郎「…そっか」

京太郎「じゃあ、やっぱり余計に…必要だよな」

美穂子「…え?」

私がそう声を返した瞬間、ご主人様は自身のポケットに手を伸ばされました。
そのまますっと差し出されるのは銀色の輪っかです。
直径数センチのそれは表面には今にも羽ばたきそうな装飾が浮かんできていました。
その羽の根本に小さく埋め込まれている白い宝石は… ――

京太郎「…本当は何かの記念日にって思ってたんだけどさ」

京太郎「でも、俺…誰よりも一番怖くて傷つくであろう役割の美穂子に何も応えられていないし」

京太郎「だけど…今更、美穂子がいない生活なんて俺は考えられないし…考えたくもない」

京太郎「迷宮でも日常でも夜でも、俺にとって美穂子は欠かせない…いや、手放せない存在なんだ」

京太郎「…だから、ちょっと卑怯だけど…記念日でもなんでもないけど…受け取ってくれないか?」

美穂子「あ…あぁ…」

―― ハートのウロコを加工した宝石。

それはつまり、ご主人様からのプレゼントなのです。
主人からメイドに贈るものではなく、恋人から恋人へと贈られた唯一無二の。
この世で他にはないたった一つの指輪に、私は震える声を返しました。
それは勿論、私がご主人様から贈られるそれを誰よりも心待ちにしていたからです。

美穂子「(でも…)」

私は以前、智葉さんと憧さんに贈られた指輪に触らせてもらう機会がありました。
ですが、二人とは違い、私にはその宝石はまったく反応してくれなかったのです。
二人はそれをつける度に今よりもさらに強くなるのに、私はまったく変われないまま。
そんな苦い思い出のある宝石に、私はすぐさま返事をする事が出来ませんでした。 

―― 沈黙。

勿論、私にだっててなにか返さなければいけないと分かっています。
ご主人様はその指輪を完成させるのにどれだけ大変だったくらい私にも伺い知る事が出来るのですから。
しかも、それは二人がつけているのとは違って、完成品。
先に指輪を貰った二人とはまた違う『初めて』がそこにはあるのです。

美穂子「(だけど…もし光らなかったら…?)」

それは私の為にご主人様が作ってくれた唯一無二の指輪です。
もし、それで進化出来なかったら、私は一体、どうすれば良いのでしょうか。
今までは『あの指輪は私のものではないから』と言い訳する事が出来ました。
ですが…この指輪で進化出来なかったら…その言い訳も効きません。
私は、私が二人に対してご主人様への気持ちで負けているのだと…そう認める事になってしまうのです。 

美穂子「あの…その…」

それを意識すると余計に頷くことが出来ません。
私はそれを夢に見るほど欲しがっていました。
ご主人様にオネダリしようと思った回数は片手では効きません。
そんな指輪が目の前にあるというのに、『もしも』の事を考えると一歩踏み出す事が出来ないのです。
それが悲しくて、そして、何よりご主人様の好意を今も踏みにじっているのが辛くて…私の目尻から涙が浮かんできました。

京太郎「…美穂子、左手を出せ」

美穂子「え…あ、はい」

京太郎「ん」スッ

美穂子「…あ」

そんな私に向けられたご主人様の命令。
それに反射的に従った私にご主人様はスッと指輪を通してくれました。
さっきの緊張なんてどこかに置き忘れてしまったような何気ない仕草。
その意味に私が気づいた時にはもうその指輪は薬指にしっかりとはまっていました。 

京太郎「俺は臆病だからさ」

京太郎「そんな風に一方的に美穂子の好意だけを期待する事なんか出来ない」

京太郎「その分を返さないと、見捨てられてしまうんじゃないかって不安になるんだ」

京太郎「それが美穂子みたいな俺なんかとは釣り合いの取れない相手だと尚の事…さ」

京太郎「…だから、悪いけど、無理矢理、指輪を通させて貰った」

京太郎「…これで一生、美穂子は俺のモノだ」

京太郎「もうずっと離さない…俺だけのメイドになったんだ」

美穂子「~~~~~~~っ♥♥♥」

強引で自分勝手なご主人様の論理。
私の躊躇いなんてまったく考えていないそれは…けれど優しさなのでしょう。
だって、ご主人様は何時もそんな風にエゴを押し通すような事は滅多にしません。
寧ろ、メイドとして傅く私相手にだって優しく接してくれている人なのですから。
そんな人からの一方的な宣告は…私の中にある躊躇いを吹き飛ばす為。

美穂子「(…あぁ…っ♥♥♥)」

そう思った瞬間、私の胸の中で感情の波が弾けました。
嬉しい、幸せ、大好き。
そんな感情が私の中で混ざり合い、ぶつかるようにうねるのです。
そこには勿論、無理矢理、私の指に指輪を嵌めたご主人様を嫌うものはありません。
胸の内でさえも感嘆の言葉しか出てこないくらいに、今の私は喜んでいたのですから。

―― パァァ

美穂子「…あ」

そんな私の喜びに追い打ちを掛けるように指輪が光を放ちます。
憧さんや智葉さんが指輪を身につけた時にも放っていた不思議な光。
暖かで優しいそれに私はそっと目を閉じました。
瞬間、身体の奥底で蓋が開いたように力が溢れ、自分の身体が書き換わっていくのが分かります。

―― より強く、より硬く、より強靭に。

『進化』の感覚は以前、この身体になった時にも味わったものでした。
しかし、今、私が味わっているのはそれよりももっと激しく、そして強いものでした。
文字通り、身体が別の『何か』に変貌するその感覚は、けれど、不愉快なものではありません。
その源が私の愛しさであるかのように、私の身体に満ちる力の感覚はとても暖かいものでした。 

京太郎「…美穂子」

美穂子「…………ぁ」

ご主人様の言葉に私が目を開けた時には全てが終わっていました。
勿論、外見上は大きな変化がある訳ではありません。
自分の身体を見渡してみても、その手に生えた羽一つとってもそのままでした。
けれど、私の身体の内に渦巻く新しい力は、私が以前とは別物と行っても良いくらいに強くなっているのを感じさせるのです。

美穂子「…これで私は本当にご主人様だけの女になってしまったんですね…♥♥」

京太郎「あぁ、そうだ。これで美穂子は俺の女だ」

美穂子「はい…っ♥♥♥」

その進化の理由は私には分かりません。
まだそうやって私達の身体が変化するメカニズムが完全に解明された訳ではないのですから。
ですが、それでも…私の中に一つの確信がありました。
こうやって私が進化出来たのはご主人様のお陰だと。
そして…私はもう完全に身も心もご主人様の色に染め上げられてしまったのだと。
だからこそ… ―― 

美穂子「…ご主人様ぁ♥♥」

京太郎「ん」

そう呼びながら目を閉じたはしたない私をご主人様はギュっと抱き寄せてくれました。
まるで自分のモノになった女の感触を確かめるような強引なその手。
それに胸中が歓喜で沸いた瞬間、愛しい方は私の唇を奪ってくれました。
期待通りのそのキスに、さらに強くなった歓喜が私の胸を震わせます。

美穂子「ん…っ♪ふぁ…♥」

そんな私の胸にご主人様の手が掛かります。
自作のメイド服の上から私のおっぱいを揉みしだくその手にはもう遠慮はありません。
最初から私を犯すのだとそう宣言しているようなそれの口から甘えるような声が漏れてしまいます。
それに反応するようにご主人様は私の服を脱がせていって……

―― 結局、そのまま私は皆が帰ってくるまでの間に、沢山、ご主人様と愛を交わす事になったのでした。 



System
福路美穂子の好感度が100になりました → <<ご主人様のモノになった美穂子の事…思うがままに使ってくださいね…♥♥>>

福路美穂子の完全攻略に成功しました おめでとうございます





→コミュ:シズ



―― 今日の朝、俺は高鴨さんが目を覚ました事を聞いた。

起きた当初の混乱こそあったみたいだが、色々と情報を聞いた結果、落ち着いたみたいだ。
とは言え、あくまで山を超えただけに過ぎない。
安心させる為にも憧だけじゃなく、面識もある俺も顔を出してあげて欲しいと、そう職員の人に言われた。
俺自身、高鴨さんの様子は気になっていたし二つ返事を返した…のだけれど。

憧「…じろー」

京太郎「あ、憧さん…?」

そのお見舞いの準備からずっと憧は俺の事を半目で睨めつけていた。
何時ものそれとは違う平坦なその視線が何を示しているのか俺にだって分かっている。
彼女が親友である高鴨さんが俺に手を出されるのではないかと未だに心配しているのだ。 

憧「…なあに?」ジトー

京太郎「…そんな風に見るのはやめて欲しいんだけど…」

憧「…なんで?」

京太郎「なんでって…」

憧「…やっぱり見てない間にしずもあたしみたいにしちゃうつもりなのね」ジトトー

京太郎「なんでそうなるんだよ…っ!」

とは言え、ずっとそんな風に見られ続けているのも面白くはない。
高鴨さんは確かに可愛いとは思うが、俺の好みの対象からはかけ離れているんだ。
…まぁ、それを言ったら憧も久もちょっと好みとはズレているのだけれど…それはさておき。
ともかく、俺には高鴨さんをどうこうするつもりはない。
それは憧にだって何度も説明しているはずだった。

憧「…だって、京太郎、ドンドン恋人増えてるし…」

憧「あたしも納得済みではあるけれど…その手の事では信用出来ない」キッパリ

京太郎「うぐ…」

…だけど、これを持ちだされるとやっぱり何も言えないんだよなぁ…。
実際、憧が加入してから俺は久を堕としている訳だし。
それは必要な事だったと思っているが、さりとて、恋人がいる身で他の女の子に手を出したという結果は変わらない。
この手の事で俺が信用されないと言うのも致し方ない事なのだろう。

憧「まぁ、あたしは監視役も兼ねてるから諦めなさい」ジトトトトー

京太郎「ちくせう…恋人の目が痛い…」

憧「…あたし一人に絞ってくれるならこんな目はしないわよ」

憧「まぁ、無理でしょうけどね」ジトトトトトー

…うん、やっぱりこの話題を続けるのはやめようっ!
少なくとも憧の変化は期待できないし、何より藪蛇が過ぎる。
こうして話してる間にも嫉妬してるのか憧の目は厳しくなっているしな!
もう高鴨さんの部屋は目の前にあるのだから、話題を打ち切る為にもインターフォンを鳴らそう。 

―― ピンポーン

「はぁい」

京太郎「あ、俺俺。俺だけど…」

「その声…!もしかして、たかし君?」

京太郎「あぁ、そうだよ。たかしだよ」

京太郎「実はちょっと車で事故っちゃってさ」

「そうなの?怪我は大丈夫?」

京太郎「あぁ。幸い怪我はないんだけど…でも、相手がヤバイ人でさ」

京太郎「明日までに慰謝料として10万持って来いって言われちゃって…」

「大変じゃない…!お金はあるの?」

京太郎「いや…最近不景気でそんな貯金なくてさ…」

京太郎「だからさ…悪いんだけど、ちょっと金貸してくれないか?」

京太郎「今月ボーナス入る予定だから、それで色つけて一括で返すからさ」

「うん!大丈夫だよ!私とたかし君の仲だもん!」

京太郎「ありがとう。恩にきるよ」

憧「…あんた達、いつまでやってるのよ…」

そこでようやく憧からのツッコミが入った。
もうちょっと早めに来ると思ってたんだけど…憧としては俺の監視を優先したって事なのかな。
まぁ、何にせよ、。これでようやく一昔前に流行ったオレオレ詐欺ごっこに一段落つけられる。 


「その声は…!もしかして花子ちゃん!?」

憧「まだ続けるつもりならあたしにも考えがあるわよ、しず」

「ちぇー。憧ったらノリが悪いの」

憧「部屋の外で漫才する趣味がないだけよ」

憧「それより早く開けてくれない?色々と荷物もあるしさ」

「うん。分かった」

憧の言葉にインターフォンの向こうにいる高鴨さんが受話器を置いたのだろう。
ガチャンと言う切断音と共にインターフォンから何も聞こえなくなる。
そのまま数秒ほど待てば扉からカチャリと言う音が鳴った。
自分の部屋でも聞き慣れた金属音。
それが高鴨さんが部屋の鍵を解除した音だと理解した瞬間、扉が開いて… ――

穏乃「久しぶり、花子ちゃんにたかし君」

憧「せい」ズビシ

穏乃「いたっっ!」

中から顔を出した高鴨さんに憧は容赦なくチョップを食らわせる。
流石に色々と手加減しているのだろうそれに高鴨さんから痛みの声があがった。
しかし、その声とは裏腹に、彼女の顔にはニコニコとした笑みが浮かび続けている。 

穏乃「えへへ、この容赦の無さ…やっぱり憧だ」ニコー

憧「…ホント、あんたの中であたしの認識はどうなってるのかしらね…」フゥ

憧「…でも、まぁ、元気そうで良かった」

穏乃「うん。とっても元気だよ!」グッ

そう握り拳を作る高鴨さんに憧もまた笑みを浮かべた。
勿論、記憶の混乱もなければ、メディカルチェックも大丈夫だったと聞いてはいる。
しかし、親友と殺し合い一歩手前の喧嘩をやった憧にとってはやはり心配だったのだろう。
軽く笑みを浮かべる彼女には安堵の色が強く現れていた。

穏乃「…憧はなんか変わったね」

憧「そう?」

穏乃「うん。なんか耳も長くなってるし……すっごく色っぽくなっちゃった」

憧「い、色っぽく…」カァ

常日頃から彼女と一緒にいる俺には分からないが、やっぱり憧も色々変わったのだろう。
少なくとも、魔物に変わる前から憧と一緒に過ごしていた彼女にとっては。
まぁ、俺が毎日揉んでいる所為か、憧の胸は大分バストアップしてるしなぁ。
お尻も結構ボリュームアップしてるし…そのスタイルの変化だけでもかなり大きいだろう。 

穏乃「雰囲気が特にこう…ムラムラって来る感じ?」

憧「へ、変な事言わないでよ、もぉ」

穏乃「えへへ。ごめん」

そうにこやかに謝罪する高鴨さんの気持ちは良く分かる。
憧の格好は決して淫らなものではないが、その漂うオーラがエロいんだよなぁ。
その立ち姿から、仕草から、色気が出ていると言うか何というか。
本人はすっげええ嫌がるだろうけど、その唇にコンドーム咥えても似合いそうなエロさを感じるんだ。

穏乃「…そして須賀君も元気そうだね」

穏乃「荷物も沢山抱えてるし」

京太郎「おう」

俺の両手にはかなり大きめの袋が4つぶら下がっている。
その一つ一つに入っているのは日用品や衣服類だ。
憧が見舞いに行くなら持って行きたいと準備したそれらはかさばるけれども重くはない。
少なくとも自分でインターフォンを鳴らすくらいは簡単に出来る程度の重さだ。 

穏乃「えっと…とりあえず入ってもらった方が良いよね?」スス

京太郎「おじゃましまーす」

憧「大丈夫よ。タフさだけが取り柄みたいな奴だから」

チラリと俺に視線を寄越しながらの憧の言葉。
可愛げの欠片もないようなそれは、しかし、ただの冗談なのだろう。
この荷物だって、元々、憧が全部、自分一人で持って行こうとしていたしな。
俺が強引に奪い取らなきゃ、これらは憧の手にぶら下がっていた事だろう。
何より、さっき高鴨さんに扉を開けるように促した言葉だって、荷物を持っている俺を慮ってくれたものだし。
久しぶりに会った友人にいいところを見せたいのか意地を張ってはいるだけで、決して俺の事を何とも思っていない訳じゃない。

穏乃「ふーん…憧って須賀くんの事、そんなに良く知ってるんだ…」

憧「ま、まぁね。これでも一緒に戦う仲間だし…」メソラシ

穏乃「それだけじゃないような気もするけどなー」ニマニマ

憧「ぅ…」

…そんな風に高鴨さんに突っ込まれるのももう二度目なんだよなぁ。
いい加減、慣れるか素直になれば良い、と思うのだけれど…中々、そうはいかないんだろう。
まぁ、その辺、素直に俺の恋人です!なんて言っちゃう憧と言うのも中々、想像出来ないしな。
そんな事を考えるよりも持ってきた荷物を邪魔にならないところに運び込んでしまおう。 

穏乃「…憧って結構、その手の事、オクテだと思ってたけどなー」

穏乃「そっかー。そうなのかー」ニヤニヤ

憧「な、何…?」

穏乃「いや、幼馴染の知らない一面に、微笑ましさを感じているだけですよ?」ニマー

憧「べ、別にあたし、そういうんじゃないし…」

穏乃「照れない照れないっ!いいじゃん、春が来ちゃってもさ」

憧「き、来てないっての!」カァァ

憧はそう言うものの、基本的に俺たちは年中春真っ盛りだ。
それこそ複数人でベッドの中で発情した身体を絡ませ合うくらいには。
とは言え、まだ高鴨さんが目が覚めたばかりだし、その辺りを知らせるのはちょっとな。
情報として知るのと、友人が実際にそれをやっているのは別問題だろうし、下手に困惑させたりしない為にも黙っておこう。

穏乃「ってか…知らない間に憧が私よりも大人になってるなんてねー…」シミジミ

憧「お、大人って…」カァァ

穏乃「…え、何その反応」

穏乃「…え?もしかして……あ、憧、しちゃったの!?」ビックリ

憧「お、大声でそんな事言わないでよ!?」

…と思ってる間に憧が見事に地雷を踏んだ。
そこで大人って部分に反応するのはちょっと分かりやすすぎるだろう。
…思い返せば、淡ほどじゃなくても憧も墓穴掘るタイプだったっけ。
最近、デレデレになる事が多くなってきたから忘れてたけど…憧に任せるのは失敗だったかもしれない。 穏乃「否定しないんだ…」

憧「う…いや…それは…」

穏乃「そっかー…そっかー…」

穏乃「……ごめん。どう反応すれば良いのか分かんない…」

憧「だったらそういう事聞かないの…!!」マッカ

そりゃなぁ…。
目が覚めて世界が変わったって言うだけでも驚きだろうに、いきなり幼馴染から経験済みカミングアウトされるんだから。
俺だって咲からそんな事聞いたら、どう反応すれば良いのか分からなくなってしまうだろう。

穏乃「でも、男嫌いだった憧がそういうことするなんてねー…」

穏乃「本当に私の知らない間に数年経っちゃったんだなぁ…」

その言葉は染み染みを超えて、何処か寂しそうなものだった。
勿論、既に職員の人が高鴨さんに大まかな世界の状況は伝えている。
ここが彼女にとって数年後の世界だという事も情報として頭の中には入っているはずだ。
けれど、やっぱりそれを実感する事は出来ていなかったのだろう。
ポツリと呟かれたその言葉は、この滅茶苦茶な状況に対する理解が込められたものだった。 


憧「…しず」

穏乃「えへへ。なーんてね」

穏乃「ちょっとびっくりしたけど、数年後かー」

穏乃「また山の様子とかも変わってるんだろうなぁ」

穏乃「うん…!なんか思いっきり走りたくなってきた…!」

憧「…良いのよ」

穏乃「え?」

憧「…いきなり世界が変わりました、なんて言われて冷静でいられる方がおかしいんだから」

憧「あたしを相手にして遠慮なんてしてるんじゃないの」

憧「思ったこと全部ぶつけてきなさいよ」

穏乃「…憧」

それでもそうして高鴨さんが強がるのは、俺達に対して遠慮しているからだろう。
…だけど、そうやって遠慮する必要なんて何処にもない。
憧は高鴨さんにとっての気心の知れた幼馴染なのだから。
彼女自身、それを覚悟してココに来ている以上、そのような遠慮は不要だ。

憧「…あたしも同じだったしね」

穏乃「…憧も?」

憧「うん。いきなり世界がこんな風になりましたー…なんて聞いてさ」

憧「頭の中、めちゃくちゃで…訳分かんなくて…」

憧「…んで見舞いに来てくれたコイツに八つ当たりしちゃったのよ」

京太郎「あったなぁ…そんなのも」

それはもう今から半年以上、前の話だ。
毎日が濃い所為で、最早、思い出そうとしないと出てこない話ではあるが、確かに俺は最初、憧に辛く当たられたのである。
まぁ、それはあくまでも初期の初期であり、次に会った時は割りと普通に話も出来るようになったけどさ。
今ではツンよりもデレの方が多くて、二人きりになるとかなりの甘えん坊なんだけど…ってそれは関係ないか。
ともかく…俺が殆ど忘れていた事でも、憧の中にはしっかり残っていたって事なんだ。 

憧「だからさ。そんな風に強がんなくて良いのよ」

憧「あたしも京太郎もそういうのに慣れてるからさ」

穏乃「…………うん」ポロ

憧「ほら、おいで」スッ

穏乃「……憧っ」ダキッ

憧「よしよし…思いっきり泣いちゃいなさい」ナデナデ

憧「不安な気持ちは全部、あたしが受け止めてあげるからさ」

抱きつく高鴨さんに優しく言い聞かせるようにして憧がその頭を撫でる。
まるで幼い子どもにするようなその仕草に、母性を感じた。
憧は俺も含めてくれたけど…俺が入らなくても大丈夫そうだな。
泣いてる高鴨さんを慰めるのは憧に任せて、俺は持ってきたハーブティの準備でもしておくか。

穏乃「………憧」

憧「ん?」

穏乃「…なんか凄いおっぱい大きくなってない?」

穏乃「これってやっぱり須賀くんに育ててもらったの…?」

憧「なななっ!」カァァ

高鴨さんの言葉に憧の顔が真っ赤に染まった。
そのままプルプルと震えながらも、彼女からの反応はない。
言葉にもならない声を繰り返しているだけだ。
…もう半ばバレてるんだから諦めれば良いと思うのになぁ。
っていうか…そんな反応したらバレバレだろうに。 

穏乃「これ玄さんくらい大きいんじゃないかなぁ…」

穏乃「…なんかずっこい」

憧「ず、ズルくなんかないわよ…!」

憧「っていうか、そんな品評するんだったら離れなさい!」ベシ

穏乃「いたっ」

そこで再び繰り出される憧の一撃。
それに小さく声をあげながら高鴨さんは離れる。
その顔にはもうさっきのような涙は浮かんでいない。
俺の知る元気で暖かな彼女に戻っていた。

穏乃「うーん…でも、やっぱり玄さんよりはちょっと小さいかな…?」

憧「も、もう胸の話は良いでしょ…!」

穏乃「えー」

京太郎「えー」

憧「あ、アンタ達は…!!」プルプル

勿論、憧の胸を俺は毎日、しゃぶり尽くすように可愛がってやっている。
けれど、それとこれとはまた別物なのだ。
基本的に女性ばかりの環境で生活している俺にはそういう話をする相手がいないし。
出来ればもっとやって欲しいとそう思うくらいだ。

憧「まったく…そんな事やってたら玄みたいな大人になるわよ…」

穏乃「えー。でも、玄さん、格好良いじゃん」

穏乃「女将さん見習いとしてすっごく頑張ってるし」

憧「…まぁ、そこは認めるけど…それ以外がダメダメでしょ」

穏乃「おっぱい好きなくらい別に普通だと思うけどなぁ…」

穏乃「須賀くんもおっぱい好きでしょ?」

京太郎「大好きです!!」キリリ

憧「男と女を同じレベルで比べないのっ!」

まぁ、確かにその辺は男女の性差を理解せずに論じるのは論外かもな。
何せ、俺たちがそんな興味を向けるのは女性のセックスアピールである部分だし。
実際、玄さんはそこに並々ならぬ興味を向けているけれど、それは性的なものじゃないんだよなぁ。
俺と価値観は共有しているけれど、そこに至るプロセスがちょっと違ったというか。
男と女で見る目ってのはやっぱり違うのか、色々と話してて気付かされる事も多かった。
和に紹介されて会った時間はそう長くはないが、きづいたら魂の兄弟『同志クロチャコフ』と呼ぶような仲になっていたくらいである。
…まぁ、それはさておき。 

憧「だ、大体、京太郎は胸が好きって言うより変態なのよ…!」

京太郎「はいはい。じゃあ、その変態が用意したハーブティでもどうぞ」スッ

京太郎「あ、部屋のカップ、勝手に使わせて貰ったけどごめんな」

穏乃「ううん。大丈夫」

穏乃「それより美味しそうだね、そのお茶っ」

京太郎「あぁ。知り合いがわざわざ用意してくれたものだからな」

勿論、ここで言う知り合いは美穂子の事である。
俺たちの家事を言ってに引き受ける彼女は俺にお土産としてこのハーブティが入った魔法瓶を持たせてくれた。
普段、お茶会の時に俺たちが良く飲んでいるそれは、心が休まるような優しさと、そして舌の上に小さく残るような甘さで出来ている。
俺も憧もお気に入りのそれは、きっと高鴨さんも気に入ってくれるだろう。

京太郎「リラックス効果目当てで持ってきたんだけどさ」

京太郎「でも、そういうの関係なしに美味しいし、高鴨さんも一つどうだ?」

穏乃「うん。ありがとっ」

憧「…ぅー」

そう言って差し出したティーカップを高鴨さんは素直に受け取った。
そのままニコリと嬉しそうに浮かぶ笑みに憧は心配そうな顔をする。
けど、流石にそれは杞憂と言うか何というか。
お茶を渡した程度で惚れた腫れたな関係になる訳がない。
ましてや、これは俺が作ったのではなく美穂子が用意してくれたのだから変なものが入っていたりもしないしなぁ。 

穏乃「……優しい味…」

穏乃「美味しいね、コレ」ニコ

京太郎「だろ?」

穏乃「うんっ。私、気に入っちゃった!」

穏乃「ね、もっと飲んでも良い?」

京太郎「あぁ。おかわりもあるぞ」

穏乃「わーい」キャッキャ

憧「…あんまりしずを甘やかさないでよね」ジト

京太郎「そうは言うけどな、母さん」

憧「か、母さん!?」プシュウ

そんな憧をリラックスさせる為にも、ここはやっぱり一つ小粋なジョークが必要だ。
うん、決して、警戒心全開の憧をからかってみようだなんて思ってはいない。
ましてや、さっきまで蚊帳の外で、ちょっと寂しかったのは無関係なのだ。
こうして憧に警戒されっぱなしじゃ高鴨さんも疑問に思うだろうしな。
ここは彼女との時間をより実りのあるものにする為に、憧の警戒心を解くのが重要だろう。

京太郎「これくらいの年頃の子は甘いものが好きなのはごく当然の事だろう?」

京太郎「なぁに、ちゃんと終わったら歯磨きすれば良いだけなんだ、そう目くじらを立てる事はないさ」

穏乃「そーだよ、お母さん!」

憧「お、おかあ…」マッカ

穏乃「ねねっ、お父さん、お菓子はないの?」

京太郎「ちゃーんと準備してきてるぞ」

穏乃「わーい!お父さん大好きーっ♪」ダキッ

京太郎「はっはっ。お母さんには内緒だぞー?」

そしてそんな俺の発言に高鴨さんは付き合ってくれる。
最初に会った時からこの辺、彼女がノリの良い子っていうのは分かってるからなぁ。
出会った時間は少ないが、昔からの友人のような気安さで接する事が出来る。
そんな彼女でなければ、俺もいきなりインターフォン越しにオレオレ詐欺の真似事なんてやらないだろう。

憧「め、目の前でそんな事言って内緒も何もないでしょっ!」

京太郎「そりゃあお母さんには隠し事出来ないからなぁ」

憧「ふきゅっ♥」

穏乃「えへへ、お母さんとお父さんはラブラブなんだねっ」

京太郎「そりゃもうラブラブどころか激ラブだよ」

京太郎「お父さんにとってお母さんがいない人生は考えられないくらいだな」

憧「ふきゅきゅっ♥♥」

お陰でドンドンエスカレートしていく親子ごっこに憧が鳴き声を漏らす。
良く自爆した時にも漏らすその声は、しかし、何処か艶めいたものだった。
それは例え演技であっても、俺に好きだとそう言われるのが嬉しいからなのだろう。
どれだけ理性的に振る舞おうとしていても憧は魔物娘だし、身体も疼いているのかもしれない。 

憧「な、何よ…そんな風におだてたって何も出ないんだからね…?」クルクル

そんな憧から漏れるその言葉はきっと強がりなのだろう。
俺から視線を逸らしながら、指を弄ぶその瞳は明らかにさっきまでと色が違った。
チラチラとこちらを見る瞳には欲情を示すように怪しく濡れている。
その下半身に目を向ければ、まるでオシッコでも我慢しているかのようにモジモジと太ももが擦り合っていた。

京太郎「そっかー残念だなー」

京太郎「後でお母さんに買って欲しいものがあったんだけどなー」

憧「…別に高いものじゃなければ、あたしのポケットマネーで買ってあげるけど?」

穏乃「お母さん、ちょろ過ぎるよ…」

憧「ちょ、チョロくなんかないわよ…!」

憧はそう言うけれど、これはチョロいとしか言いようがないだろう。
と言うか、自分で言ってて、ちょっと憧の事が心配になったくらいだ。
この子、俺がモノにしてなくて、変な男に捕まってたら色々と大変だったんじゃないだろうか。
見た目とは違って、結構尽くしたがると言うかMなタイプだし…共依存まっしぐらな気がしないでもない。 

穏乃「でも、どうしてそこまでチョロくなったの?」

憧「だ、だから、チョロくないっての…!」

穏乃「まぁまぁ。それは横に置いといてさ」

穏乃「お父さんとの馴れ初めとか聞かせてよ」

憧「う…そ、それは…」チラッ

…まぁ、そう言われてもはっきり言えないよなぁ。
何せ、俺らが恋人同士になった経緯って結局のところ、『媚薬入りのケーキ食べて我慢出来なくなってやっちゃった』ってだけだし。
流石にそれを幼馴染でもある高鴨さんに言うのはハードルが高いだろう。
さりとて、既に高鴨さんはオレたちの関係に気づいているんだ。
ここではぐらかしても、その場限りの事でしかない。
だから、ここは… ―― 

京太郎「(…そうだな)」

高鴨さんの様子は随分と落ち着いたものになっている。
ある程度、世界観に対しての混乱も受けいれられたのだろう。
そんな高鴨さんならば、きっと俺達の事だって受け入れて貰えるはず。
…まぁ、ちょっと不安だけど…今の彼女を見る限り大丈夫だろう。

京太郎「…その、なんだな」

京太郎「お父さんもな…昔は若くてなー」

穏乃「ブイブイ言わせてたの?」

京太郎「そりゃもう、ブイブイどころかオラオラ系だったよ」

穏乃「良く分かんないけど格好良い!」

京太郎「ふっふっふ。時間とか止めそうだろ?」

そう冗談めかして自慢気に言いながら、俺は脳裏で話の持っていき方を組み立てていた。
俺と憧の馴れ初めはともすれば劇薬にもなりかねないものなのだから。
下手な話し方をしてしまえば、憧と高鴨さんの仲を引き裂きかねない。
ここでどう話すのかが重要だと自分に言い聞かせながら、俺はゆっくりと口を開いた。 

京太郎「で、まぁ、そんなオラオラ系だった俺を放っておけないってお母さんが仕事を手伝ってくれるようになってさ」

穏乃「愛の力だね!」

憧「そ、その時はまだ好きとかそういうの自覚してなかったもん!」カァァ

穏乃「……って事は今は自覚あるの?」

憧「…………の、ノーコメントで」メソラシ

穏乃「……憧」

またもや自爆した憧に対して高鴨さんはついに生暖かい目を向けるようになった。
多分、彼女もこれが憧の芸風だとそう理解したのだろう。
まぁ、憧にとっては不本意な事なんだろうけどさ。
憧だって自爆したくて自爆してる訳じゃないだろうし。
そんな憧だからこそ、親友相手にも芸として通じると言うのはある種、皮肉なところか。

京太郎「…それでお父さんもそんなお母さんの事が好きになってなぁ」

憧「ま、まぁ、ね?その…京太郎の仕事って命懸けのものだし?」クルクル

憧「そういうのも芽生えちゃっても仕方ないわよね、うん。そうよ、そうそう」ニマー

穏乃「…憧、顔にやけてるよ?」

憧「う、うるちゃいっ!」カァァ

京太郎「噛んだな」

穏乃「うん。噛んだね」

憧「もぉおおおっ!!それより話を進めなさいよ!!」

勿論、俺もちゃんと話を進めたいと思ってるんだけどなぁ。
けれど、それ以上に憧が可愛いと言うか隙が多すぎてさ。
ついついそっちの方に話が脱線しそうになってしまう。
とは言え、流石に延々と憧を弄って、話が進まないのもアレだしな。
一気に説明してしまおう。 

京太郎「で、ある時、お母さんから差し入れ貰ってな」

穏乃「差し入れ?」

京太郎「おう。まぁ…早い話、エロくなるケーキだ」

穏乃「エロ……?……えぇぇ!?」カァァ

憧「うぅ…」モジモジ

京太郎「まぁ、お母さんもそれがそういうケーキだなんて知らなかったみたいなんだけどさ」

京太郎「でも、知らずに二人でそれ食べちゃって…もう止まらなくてなー」

京太郎「ついついエロい事しちゃったんだよ」

穏乃「ふぇ…えぇぇ…」カァァァァ

…あれ?
さっきまでの反応からして結構、エロい事にも耐性あると思ってたんだけど…。
…これ、もしかして俺、結構、思い違いしてた?
見知っていた憧だからってだけで、実は憧とそれほど変わらないくらい高鴨さんも純情なのか…? 

穏乃「こ、告白とかは…?」

京太郎「しながらしちゃった感じかなぁ…」

憧「し、してない!あたしはしてないからね!!」

穏乃「…憧、もう諦めなよ…」

憧「お、女には譲れないものってのがあるの!」

憧「そもそもアレはレイプでしょ!あたし、嫌だって言ったもん!!」

穏乃「…え?」

京太郎「いや…それは…」

憧「あたしは被害者なの!調教されちゃった側なの!!」

憧「告白なんてするはずないでしょっ!!」

穏乃「ち、ちょーきょー…?」ヒキ

京太郎「あー…」

……しまった。
ここは高鴨さんじゃなくて憧の反応を考えるべきだったか。
意地っ張りな憧が本当の事言われて、はいそうですか、なんて言える訳ないもんなぁ…。
最近は多少素直になったとは言え、親友の手前、メンツだってあるだろうし…。
これは失敗だったかもしれない…。 

穏乃「え、えぇっと…つまり憧は嫌だったの?」

憧「そう!嫌だったのに無理矢理されたの!!」

穏乃「…そうなんだ」

京太郎「う…」

やばい。
今、高鴨さんの中で俺の評価が下がった気がする。
ギャルゲーなんかで聞こえるようなおどろおどろしい音楽が聞こえてきそうだ。
勿論、それはあくまでも幻聴でしかないんだろうけれど…。
だけど、チラリと俺を見た高鴨さんの目にはさっきの掛け合いのような気安さはなかった。

穏乃「…まぁ、憧の事だし、どうせ大げさに言ってるだけなんだろうけどね」

憧「う…それは…」

穏乃「やっぱり。ちゃんと須賀くんに謝らなきゃダメだよ?」

勿論、高鴨さんは憧の性質を良く理解している。
しかし、自分の良く知る親友が被害者だの調教されただの口走っていい気がするはずがない。
そう諭すように言いながらも、彼女は俺の方を見なかった。
間違いなく警戒されている。
それを感じさせる姿に、俺は何も出来なくて… ――


―― 俺はそれから一時間ちょっと高鴨さんの部屋で過ごしたが、その警戒を解く事は結局出来なかった。



System
高鴨穏乃の好感度は変わりませんでした





→コミュ:淡



―― 私にとって強さとは、アイデンなんとかだった。

テテー?ティティー?なんか忘れたけど多分、そんな感じの奴。
まぁ、昔っから淡ちゃんは淡ちゃん様だったからね。
弱い奴の嫉妬ばっかり受けてちょー大変だったし。
だから、弱い奴なんていらないってそう思ってた。
弱い奴も私なんて嫌いなんだって…そう思ってたんだよね。

―― …だけど…アイツは…。

キョータローは全然、強くなかった。
麻雀もてんでダメ。
腕力だって女の子である私にさえ敵わないダメダメっぷり。
体力だけはあるけれど…ただそれだけ。
正面から私と喧嘩したら負けちゃうくらいヨワヨワでダメダメな奴。 

―― 普通ならそんな奴気にも留めないはずなのにさー…。

何時もの私ならばそんな奴大嫌いなはずだった。
思いっきり捻り潰して、もう二度と私の前に顔を出せないようにしてやるのが常だったのである。
…けれど、私はその弱さがもう気にならなかったんだよね…。
それがキョータローが私を助けてくれた奴なのか、それとも他に理由があったのかは分かんない。
強くて可愛い淡ちゃん様にだって欠点くらいあるし、うん。

―― ただ…確かな事は…最初からずっと気になってた。

キョータローは変な奴だった。
あれだけ弱いのに智葉さんとか美穂子さんとかそういう凄い人に認められてる。
最初はコイビトだから周りから立てて貰ってるみたい、なんて思ってたけど…迷宮に一緒に入るようになってからそれが違うって分かった。
皆はキョータローの命令に進んで従ってる。
自分よりも弱くてダメダメで…護ってあげなきゃいけない奴の命令に、自分から身を任せているんだ。 

―― そして…私も。

勿論、命令には絶対に服従だってそう言われてたって事も無関係じゃない。
けれど、私はいつの間にかそういうのと無関係にキョータローの命令に従うのが『当然』になっていた。
それが一体、どういう理屈なのかは、私にだって分かんない。
私は小難しい事嫌いだし、そういうのは真面目な菫先輩にでも任せておけばよかったし。
…ただ、少しずつ、どうして皆がキョータローの言う事を聞くのか分かってきた気がする。

―― キョータローは中心なんだよね。

何度も、ううん、何度でも言うけどキョータローは決して強くなんかない。
けれど、キョータローは皆の中心だ。
私が評価する強さとは無縁な男が、アレだけ凄い人たちを集め、しっかりと噛みあわせている。
多分、キョータローがいなかったら、私達は連携すらろくに取れない。
文字通り要と呼んでも良い人に信頼されて命令されるのは…決して嫌じゃなかった。
ううん、寧ろ、自分に出来る事があるんだって…そう嬉しくなっちゃったくらい。 

―― …そんなキョータローに可愛い…なんて言われてさ。

…ちょっぴり…ほんのちょっぴりだけど嬉しかった。
勿論、私がキョータローみたいなムサ男から見ると、可愛くて可愛くて仕方がない事くらい自覚してるけどっ。
…でも、まぁ…不意打ちだったし…それにキョータローってそんな素振りまったく見せなかったし…。
だ、だから、ちょこっとだけ!!ほんの指先程度だけど、びっくりして嬉しいって思っちゃったの!!
……でも。

―― …きづいたら勝手に舞い上がっちゃってた…。

あの時の事を思い出すと恥ずかしすぎて死にそうになる。
「可愛い」って言葉を「好きだ」とまで変換しちゃったんだから。
い、いや…でも、普通、そう思うじゃん?
可愛いなんて早々、女の子に言わないでしょ。
そんな言葉言われたら口説かれてるって…私の事好きなんだって思っちゃうって。
うん、だから、私は悪くない。
舞い上がっちゃったのはキョータローの所為。
決してそう言うの変な格好したナンパ男とパパくらいにしか言われた事ないからなんて事はないっ!!
だって、淡ちゃん様が可愛いのは最早常識レベルだもん。

―― だから…今度こそそう言わせてやろうって思って…。

それが私の醜態になったのは、キョータローがそんなつもりがなかった所為。
でも、実はそれが照れ隠しなんだって証明出来れば私の誤解が誤解じゃなくなるんだ。
だから、私はキョータローが『淡ちゃん様抜きじゃ行きていけません、一生側にいてください!』って土下座するまで好きにしてやろうと思ったの。
……けれど、結果は酷いものだった。
勿論、前回よりは戦えたけど…最後の最後で私はあの高鴨穏乃にやられちゃった。
折角、命令違反までしていいところ見せようとしたのに…何も良いところを見せられないまま一撃で倒されちゃったんだ。

淡「はぁぁ…」

キョータローの周りにいる人たちは強い。
私も強いつもりだけど、私じゃ勝てないって思う人ばっかり。
だから、そんな人達の前でアピールするには…頑張るしかなかった。
けど、それも完全に空回り。
私に残ったのは命令違反したって言う情けない結果だけ。 

淡「(…自分の弱さに悩む事なんて一生ないと思ってた)」

私の知る『大星淡』は強くて、格好良くて、一人でも生きていける非の打ち所のない女の子だった。
…でも、それがこの世界で目覚めてからどんどん崩されていってしまっている。
私はあんなに強くて…弱い奴らのことを軽蔑してたはずなのに。
今では自分が弱いと言う事を自覚して…それで余計な事をしちゃって…キョータローに迷惑まで掛けちゃったんだから。

淡「…どうすれば強くなれるんだろ…」

美穂子「あら、強くなる方法が知りたいの?」

淡「…え?」

その呟きを私は誰かに伝えるつもりなんてなかった。
そもそも昼下がりのラウンジには私以外に誰もいない状態だったんだから。
けれど、そうやって悩んでいる間に人が…と言うか美穂子さんが側に来ていたんだろう。
ニコニコと優しそうな笑みを浮かべながら、美穂子さんは私の顔を覗きこんでいた。

淡「み、美穂子さん…?」

美穂子「ふふ。ごめんなさい、盗み聞きするつもりはなかったんだけれど…」

美穂子「通りがかった時に深刻そうな顔をしているみたいだったから」

美穂子「何かあったの?」

淡「う…」

美穂子さんは頼りになる人だと思う。
それにとっても優しいし、暖かいし、ご飯も美味しいし…まるでママみたいな人。
キョータローがたまに甘えているこの人ならば、きっと私の悩みを笑ったりしない。
…けれど、そんな風に人に相談なんて今までした事がない所為かな…?
そうやって優しく聞いてくれているのに、私は何も言えなかった。

美穂子「…淡ちゃんは強くなりたいのかしら?」

淡「…うん」

美穂子「それは誰の為に?」

淡「……それは」

……その言葉に一番最初に浮かんできたのは見慣れた金髪だった。

脳天気な顔してるのに、ココ一番ではキリって顔を引き締めて格好良くなる…あのヨワヨワ男。
私が護ってあげなきゃ、ろくに迷宮に出入りなんて出来ないキョータローの顔が…一番、最初に浮かんじゃった。
それはあくまでも私の為なはずなのに…あんな金髪ヨワヨワ男なんてオマケでしかないはずなのに…。
真っ先に浮かんできた優しい笑みに私の胸がドキンと跳ねちゃった…。 

淡「あ、あわぁ」プシュウ

美穂子「あらあら、まぁまぁ」ニコニコ

それに何故か身体が熱く火照っちゃう。
なんだか急に恥ずかしくなって、口から変な声が漏れちゃった。
で、でも…こんなの絶対、おかしい。
百歩譲って最初にキョータローの顔が浮かんできたのは許すとして…それにこんな熱くなるだなんて。
こんなの…まるで私の方があの変態の事を好きみたいじゃないの…!

美穂子「…そう。もうそこまでご主人様の事大好きになったのね」クス

淡「しゅ、しゅきじゃないもん!!」

ちょっと噛んじゃったけど、それは嘘じゃない。
ファーストコンタクトから無理矢理、部屋に押し入られてる私がキョータローの事好きになる理由なんてないんだから。
まぁ…確かに麻雀大会とか色々してくれて感謝している面もあるし…時々、見惚れるくらい格好良い顔をするのは認めるけれど?
でも、ただそれだけのヨワヨワ男に心惹かれるほど淡ちゃん様はチョロくない。
初恋だってまだしてないんだから。 

美穂子「あら、そうなの…じゃあ、残念ね」

淡「え?」

美穂子「ご主人様の事が大好きならば今すぐ強くなれる方法があるんだけど」

淡「ほ、ホント…!?」

美穂子さんはちょっと怖いけど、嘘なんて言ったりしない。
こう言うって事はきっとお手軽パワーアップな方法があるんだろう。
なら、それは是非とも教えて貰わないと!!

美穂子「えぇ。でも、ご主人様が好きじゃない子に教えるのは酷だから、私は黙ってご主人様に相談する事にするわ」

淡「え?」

美穂子「じゃあ、またね。淡ちゃん」スタスタ

え?え?え?
ち、ちょっと待って!!
ここは私に教えてくれる流れじゃないの!?
私に教えてお悩み解決ってなるのが普通じゃないの!?
少なくとも普通に帰って良いところじゃないよね…!? 

淡「ま、待って!!」ガシ

美穂子「あら、どうしたの?」

淡「あ…あの…あの………欲しい」

美穂子「え?」

淡「お、教えて欲しいの…強くなる方法…」カァ

ううぅ…す、すっごく恥ずかしい…。
で、でも、ここで美穂子さん逃したらきっと絶対後悔すると思う。
今まで何度となく窮地を乗り越えてきた淡ちゃん様の勘がそう言ってるんだから…きっと間違いじゃないはず。

美穂子「…でもね。ご主人様の事好きじゃない子に教えても意味はないし…」

淡「す、好き!好きだから!!」マッカ

美穂子「…本当に?」

淡「うんっ大好きっ!!」プシュウ

美穂子「ご主人様のためならば何でも出来る?」

淡「で、出来る…もん……」アワワ

ま、まぁ、本当は好きでもなんでもないけど?
ただ、誤解が誤解のままなのが嫌だから、頑張ってるだけだけど?
で、でも、それで仲間からも外されちゃったら元も子もないわよね…うん。
だから、これは仕方のない嘘。
何処にいるかも分からないママだってきっと許してくれるはず…!! 

美穂子「じゃあ、教えてあげるわね」

美穂子「…もし、強くなりたいならご主人様とセックスすれば良いのよ」

淡「セックス?」キョトン

美穂子「エッチの事」クス

淡「エッチ…?…ふぇ…えぇぇぇ!?」カァァァ

な、ななななななな何を言ってるのこの人は!?
いきなりキョータローとエッチしろだなんて…そんなの出来る訳ないじゃん!!
そういうのはやっぱり付き合って二ヶ月くらいが一番だって…そうじゃないとビッチだって思われるって雑誌にも書いてあったもん!
そ、それに…私もいきなりそんなの言われても心の準備が出来ないし…だ、だいたい、そういうのはもっとムードのあるホテルとかじゃないと…。

美穂子「恋する女の子は大好きな男の子の為ならば無敵になれるのよ?」

美穂子「…まぁ、それを差し引いても、『愛している男性』の精は魔物化の途中で止まっている女の子を完全に魔物にされるみたいだから」

美穂子「まだ人間の形をしてる淡ちゃんが手っ取り早く強くなるには『大好きな人』から精液を貰うのが一番よ」

淡「はぅぅぅ…」

…そうだ、忘れてた。
この世界はそういうエッチではしたない風になっちゃったんだ。
付き合ってから二ヶ月だなんてそんな常識、もう通用しない。
美穂子さんだってこうしている分には凄い穏やかで優しそうな人だけど…本当はすっごいエッチだし。
この前、遊びに行った時なんかインターフォン越しにエッチされちゃってすっごい声あげてたもん。
お陰で私、帰ってからすぐオナニーする事に…いや、それは今は関係ないよね、うんっ!! 

美穂子「良ければその方法も教えてあげるけど?」

淡「え?」

美穂子「淡ちゃん初めてでしょ?」

美穂子「やり方とか分かってた方が良いんじゃない?」

淡「そ、それは…」

た、確かにそうかも…。
だって…そ、その…相手はあのキョータローになる訳だし…。
美穂子さんとか憧とか一杯、エッチにさせてるあの変態を前に何も知らないでとか…ちょ、ちょっと怖すぎる。
でも、そうやって教わるのは恥ずかしいし……と言うか教わって良いのかって言う気もするし…。
あーうー…こ、これどうしたら良いのよ…!?

淡「……あ…ぅ…そ、その…」

美穂子「…まぁ、例え同性でも恥ずかしいわよね」

淡「う、ぅん…」

…悲しいかな、私は美穂子さんみたいに割り切れない。
と言うか、そうやってエッチの事教えてもらうとかどうすれば良いのかまったく分かんないし。
その方が良いかも、とは思いつつ…やっぱり無理…!
っていうかエッチ自体、無理無理!無理だもん!!

美穂子「じゃあ、帰ったらご主人様に淡ちゃんが呼んでたって伝えておくからね」

淡「…ふぇぇ!?」

美穂子「こういうのは思いついたら吉日よ?」クス

美穂子「それに後々ってなると余計に言い出しづらくなるでしょ?」

淡「そ、それは…そうだけど…」

美穂子「まぁ、淡ちゃんは強い子だから、一度決めた事を覆したりしないと思うけれど…念の為にね?」

で、でも、流石にちょっと心の準備はさせて欲しいというか!
寧ろ、やっぱりなかった事にしたい気も今からフツフツして…!!
だけど、強い子なんて言われたら、やめてなんか言えないし…あうぅぅぅ…なんかドンドン泥沼だよぉっ!

美穂子「じゃあ、一時間後、ご主人様に行ってもらうから…ゆっくり愛してもらってね?」

そう言いながら美穂子さんはスタスタと部屋に戻っていっちゃう。
それを引き止めたいと思いながらも、私には何も出来なかった。
そんな私ににこやかな笑みを浮かべながら美穂子さんはエレベーターに乗って…… ――

淡「…あわぁ…」

―― 結局、私はその場に蹲って頭を抱えたのだった。


―― 一時間って言うのはあんまり猶予のある時間じゃない。

何せ、私の部屋はあんまり片付いているとは言えない状態なんだから。
流石に掃除できないテンプレのような汚部屋じゃないけど、これからエッチするって言う場所には相応しくない。
も、勿論、私にはエッチするつもりはないけれど、でも、美穂子さんから事情をきいたあの変態がその気になってるかもしれないし!
襲われる可能性だってあるんだから、綺麗にしておくに越した事はない。

―― そ、それにシャワーも浴びないと…!!

勿論、私は毎日、お風呂に入っているし、今日だって何か特別な運動をしていた訳じゃない。
でも、もし、キョータローに少しでも汚いとかそんな事思われたら……もう生きていけないと思うし。
だから、そんなつもりはないけれど…うん、ないけれど、じっくり念入りに身体を洗って…後、服も一番のお気に入りに着替えておかなきゃ…!
後、下着もちゃんと見られても恥ずかしくないような勝負下着……って、なんか野暮ったいのしかない!?
菫先輩から大量に貰ったからって、自分で買わなかったのはかなりの失敗だったかも…!!
でもでも…もう一時間経っちゃうし、外に買いに行く時間もなくて…!!

―― ピンポーン

淡「あわわわわわっ!?」

って、なんでもう来てるの!?
一時間後まで後五分はあるじゃん!!
って、五分前行動ってやつ…?あーもう律儀なんだから!!
こっちの気持ちも少しは考えてよ…!!!!無理だって私にもちょっとは分かってるけど!!
でも、今、少しでもマシな下着探してるところなんだから!!

―― ピンポーン

あうぅ、二回目…!?
ダメ…コレ以上待たせるのは流石にまずい。
と、とりあえずインターフォンだけ出て、ちょっと待って貰おう。
流石にここで居留守使って帰ってもらう…なんて事になったら私だけじゃなく美穂子さんのメンツまで丸つぶれだし。
それは流石にこれからも一緒に迷宮に潜る仲間としては致命的だと思う。
だ、だから、これは決してキョータローとエッチしたい為なんかじゃない!
ぜ、全然、違うんだから!! 

ガチャ

淡「は、はい…っ!」

京太郎「あ、淡か?俺だけど…」

淡「ち、ちょっと待ってて!今、取り込み中なの!」

京太郎「あぁ。じゃあ出直そうか?」

淡「だ、大丈夫だから!そこで待ってて!!」

京太郎「お、おう」

よし…これでひとまず大丈夫…!
で、でも、勝負下着がないっていう状況はまったく変わってないし…。
い、いっそ、下着なしとか?
うん…それ良いかも。
キョータローは変態だし、絶対そういうの好きだもん。
よし…とりあえずそれにしよう!!

淡「(そうと決まれば服を来て…)」

鏡の前で最終チェック。
メイクはしなくても、淡ちゃん様は美少女だから大丈夫とは言っても…髪に癖とかついてたら恥ずかしいし。
だけど、鏡に映る自分はお気に入りの服を着ているのも相まって、非の打ち所のない美少女だった。
これならあの金髪も私の魅力にメロメロになっちゃうはず!! 

淡「(そ、それで…強引に押し倒されたりとかさ…)」カァァ

私は強引なのは嫌だけど…で、でも、必死に抵抗するのは弱い奴みたいだし?
ヨワヨワ男のやりたい事受け入れてあげるのも強い奴のよゆーって言うか?
あ、でも、そういう時にもちゃんとキスはして欲しいな…♥
憧とやってたみたいな…優しくてとろけるような…えっちなキス…♪
あれだけしてくれるなら…ちょっとくらいの意地悪は許してあげても良いかなって…♥

淡「(って、そんな事考えてる場合じゃない…!)」

着替えたばっかの部屋はまだ服や下着が散乱している状態だし…!
とりあえずそれらを纏めて適当に押入れに突っ込んで…!!
下着がシワになるけど…菫先輩とママ、ごめん…!
今は大事なところだから、許してください!! 

淡「お、お待たせっ」ガチャ

京太郎「おう。もう大丈夫なのか?」

淡「な、何言ってるの?淡ちゃん様は大丈夫じゃないはずがないじゃないっ」

京太郎「そっか。でも、今逆になってたぞ?」

淡「ふぇぇ?!」

京太郎「ウ・ソ♪」

淡「このっ」ゲシ

京太郎「いててて。ちょ、止めろってば」

淡「うっさい、この金髪馬鹿!!」

必死になって準備してた後なのに、そんな事言われたらびっくりしちゃうでしょ!?
もう…ホント、女心が分かってない鈍感やろーなんだから…!!
……まぁ、お陰でちょっと緊張が解けたけどさ。
多分、私が緊張してるから言ってくれたんだろう。
それくらい私にだってもう分かる。
…だからと言って、そうやってからかわれるのはあんまり好きじゃないし…これくらいは良いよね?
淡ちゃん様ほどの美少女からかって遊んでるんだもん。
軽く蹴るくらいはキョータローだって覚悟してきてるはず。 

淡「…まぁ、とりあえず入りなさいよ」

京太郎「あぁ。お邪魔します」

淡「邪魔するんなら帰ってよ」

京太郎「まーまー。そう言うなって」

京太郎「美穂子からおやつにプリン貰ってきたからさ」

淡「ホント!?」パァ

えへへ、美穂子さんのお菓子ってすっごく美味しいんだよね。
特に私はプリンが大好き!
クッキーも良いけれど、それより甘くてとろける感じが堪らないの。
一口一口にタマゴの優しい甘さとカラメルの濃厚な味がからみ合って…食べてるだけでも頬が緩んじゃいそうになるくらいっ。

淡「じゃあ、早く食べましょ!」

京太郎「はいはい。まぁ、その前にお茶とか準備しないとな」

淡「えー。面倒だからキョータローがやってよ」

京太郎「お前なー…いや、まぁ、良いけど」

淡「えへへ。やった!」

まぁ、私が淹れても良いんだけど…キョータローの方が淹れ方上手なんだよね。
流石に美穂子さんほどじゃないけど、しっかりと基礎が出来ている感じ。
知り合いの執事さんに教わったらしいけど、アレ絶対、嘘だと思う。
今どき、執事なんている訳ないじゃん。
しかも、主人が呼べば何処からともなく現れて、料理炊事洗濯全て完璧で、目を離している間に屋敷中を磨くような執事とかさ。
キョータローも私が馬鹿だと思って嘘吐くけど、そうなんども騙されてあげないんだから。 

淡「あわぁ…♪」

そんな気持ちも美穂子さんのプリンの前では無力だった。
一口で美味しいが気持ちを上回り、頭の中がそれで埋め尽くされる感じ。
一体、どうやったらこんな素敵なお菓子を作れるようになるんだろう…。
あんまり料理とか好きじゃないけれど、これだけは習っておきたい気もする。

京太郎「あんまりガツガツ食うなよ?物足りなくなるぞ」

淡「その時はキョータローの貰うから大丈夫っ!」

京太郎「お前なー…」

そう呆れるように言いながらもキョータローは自分の分をあんまり食べない。
何だかんだ言いながらも、私が欲しいと言ったらくれる奴だし、残しておいてくれているんだと思う。
そういうところ、まったくもって素直じゃないよね。
そんなに淡ちゃん様の事が好きなら、はっきり『このプリンを献上するから好きになってください』って土下座すれば良いのに。
そしたら私だってちょっとくらいは考えなくもないんだけれど… ――

京太郎「で」

淡「ん?」モグモグ

京太郎「何か相談があるって美穂子からは聞いたんだけど…」

淡「んぎゅっ…げほげほっ」

京太郎「ちょ、大丈夫か?」

淡「ば、馬鹿!!飲み物飲んでいる時にそんな事言わないでよ…!!」

京太郎「えぇぇ…」

なんだかキョータローは理不尽そうな顔をするけれど、それは食事の時にする話題じゃない。
だ、だって…それは、私とキョータローがエッチするって事なんだから。
折角、プリン食べて、キョータローに入れてもらった美味しいお茶を楽しんでたのに…いきなりそれはちょっとズルい。
完全にキョータローがここに来た理由を思い出しちゃって…意識が引っ張られちゃうじゃないの…。

淡「(そ、それに……スカートの中、スースーしちゃって…)」

私はキョータローみたいな変態じゃないし、ノーパンノーブラなんて一度もした事がない。
だから、そうやってスカートの中がスースーして頼りない感覚は初めてで…意識しちゃうと…どうにもこう…恥ずかしいんだよね…。
勿論、私もキョータローも椅子に座ってる訳だし…決して見られたりはしないんだけど…。
でも、もし、気づかれちゃったらと思うとお腹の奥がなんか切ない感じになって…太ももがモジモジってしちゃう。 淡「(…こ、これ見られたら…絶対、痴女だって思われるよね…?)」

淡「(ううん…ただの痴女じゃなくて…さ、誘ってるって思われちゃう…)」

淡「(キョータローとエッチしたくて堪らない…淫乱女だって思われちゃうよぉ…)」フルフル

…今更だけど、下着つけてないのは失敗だった。
だって、これ見られたら…絶対、勘違いされちゃうもん。
私にはそんなつもり全然なかったのに…キョータローがスキスキだって思われちゃう。
勿論…そ、その、嫌いじゃないけれど、私はそういうつもりはまったくないというか…。
こうしてキョータローとエッチする事になったのも強くなりたいってだけで…別にキョータローの為なんかじゃないし…。

京太郎「…どうした、顔色赤いぞ?」スッ

淡「あわぁっ」ビクッ

京太郎「…うん。やっぱ熱いな。熱があるぞ」

あ、当たり前でしょ!?
いきなりそんな風に額に手を当てられたら、熱だって出ちゃうに決まってるじゃん!!
って言うか、そんなに気安くさわらないでよね!!
キョータローの手大きくて暖かくて…ゴツゴツしてるんだから!!
パパみたいな手に安心する以上にドキドキして…余計にアンタの顔見れなくなっちゃうじゃん…!! 

淡「な、なななななにゃにゃっ!!」

京太郎「にゃ?」

淡「~~~~っ!!!」フルフル

淡「べ、別のお菓子取ってくる!」ガタッ

京太郎「あ」

うあー…わ、私、何やってるんだろ…。
額に手を当てられたくらいで耐え切れなくてその場を立つだなんて…。
こ、こんなのまるで少女漫画みたいじゃん…。
い、いや、でも、そんなのない!!
だって、こいつは少女漫画のヒーローみたいにイケメンじゃないし!!
だから…これは気の迷いで…私がドキドキしてるのもただの風邪で…!!

京太郎「っ!淡!?」

淡「え?ふきゃっ!?」

やば…そんな事考えてた所為で家具に足引っ掛けて…!?
バランス崩れ…ダメ…このままじゃ倒れちゃ…!! 

ガシ

淡「…ふぇ?」

京太郎「ふぅ」

…あれ?痛く…ない?
って…私の手、引っ張られて……。
そ、そっか…キョータローが捕まえてくれたんだ。
まるで少女漫画のヒーローみた… ――

ボンッ

淡「にゃ、にゃにゃにゃにゃ何するのよ!?」

京太郎「いや、何するって…そりゃ倒れそうになってたら助けるだろ」

淡「要らない!そんなの要らないから!!」ジタバタ

だ、だって、こんなの…ドキドキしちゃうじゃん!!
女の子にとって倒れそうになるのを助けてもらうのは夢のシチュエーションなんだよ!?
少女漫画ではテンプレと言っても良いくらいに出てくるような展開なんだよ!!
そ、それをこんな金髪男にやられたら…わ、私、勘違いしちゃうじゃん。
今のドキドキはキョータローの事が好きな所為なんだって…少女漫画に影響されてそう思っちゃうじゃん!!

京太郎「ちょ、馬鹿…!暴れるんな…ってあ」

淡「…あ」

そこで私はようやく理解した。
今の私は倒れこむ状態でキョータローに支えられている状態だって言う事を。
まだ自分の足で立っていない状態でキョータローの手を振りほどくと再び身体が堕ちるだけなのだと言う事を。
再び身体が重力に惹かれる感覚と共に私はよーやく理解したのである。

淡「ひにゃっ!?」

京太郎「あー…」

でも、そうやって理解しても床へと叩きつけられる衝撃はなくならない。
思いっきり頭から落ちた私の顔にはジンジンとした痛みが走っている。
半分、人間止めたって言うけれど、この辺りの痛みは人間だった頃とは変わらないらしい。
身体は強靭になったはずなのに、痛みは変わらないなんて、霧の製造元に文句を言いたい気分だ。 

淡「ひたーぃ…」

京太郎「そりゃ思いっきり言ったからなぁ…ってえ?」

そんな私にキョータローが呆れるようにそう言うけれど、これはキョータローの所為でもあると思う。
だって、キョータローがちゃんと私の事捕まえててくれてたら、こんな風に痛い思いをする事はなかったんだから。
まったく本当にキョータローはヨワヨワだから困るよね。
しかも、お陰で顔からべちゃりっていちゃったし…顔にも傷ついちゃってるよね、きっと…ううん、間違いなく。
これは本格的にキョータローに責任取って貰わないと…ってあれ?キョータロー何見てるんだろ?
あたしの背中からお尻にかけて視線を感じるんだけど… ――

淡「…………あ゛」

…待って、いやいやいやいやいや…待って。
違うよね?絶対、違うよね?
今、倒れた所為でスカートめくりあがったとかそんなのないよね?
だ、だって…一回、私止まったもん。
キョータローの手に止めてもらえたんだから。
幾ら際どいサイズのミニスカートだって言っても…それくらいで見えちゃう訳… ―― 

淡「……」サァァ

……確認の為に背中に回した手に…スカートの縁がかかってた…。
つまり…………これは…私が、見られちゃったって事で。
キョータローに…アソコ全部…知られちゃったって訳で。
毛の一つも生えてない…子どもなところも分かってしまった訳で。
………あーもう…もう…こんなの…こんなの…っ!!!

淡「う゛うぅぅぅ…」ポロポロ

京太郎「ま、待て!大丈夫だ!何も見てないから!!」

淡「そんな事言う時点で丸わかりじゃないのよおお!!!」

自分の情けなさと恥ずかしさが許容範囲を超えちゃったんだろう。
ポロポロと溢れる涙にキョータローが焦った声をあげた。
だけど、そんな風に言われても、全然、慰めにはならない。
だって、キョータローがそんな事を言うなんて、この変態にノーパンだった姿を見られたとしか思えないんだから。 

淡「(死にたい…もう死んじゃいたい…)」

折角、助けてもらえたのに、お礼も言えず突き放して…それでノーパンだったところを見られるなんて。
正直…今の私に良いところなんてまったくない。
ただ失敗ばかりを繰り返して、恥ずかしいところや情けないところを見られて…。
きっと京太郎にも幻滅されちゃった…。
痴女だって…変態だって、淫乱だって…そんな風に思われちゃったに違いない。

淡「(………………でも…!)」

…………私だけそんなに恥ずかしい思いをするなんて不公平だ。
勿論、理性ではキョータローに非がない事くらい流石の私だって分かってる。
悪いのは全部私で、コイツはそれをフォローしようと必死になってくれていたんだから。
でも…それを拒んで絶対に見られたくないところを見られてしまった以上…私にはもう後戻りは出来ない。

淡「(キョータローの恥ずかしいところも見なきゃ…!!)」

それで『お相子』にする。
私が見られた恥ずかしいところを『なかった』事にして貰うんだ。
勿論、ノーパン姿と引き換えになるような恥ずかしいところなんて普通じゃ滅多に見られない。
だから…ここは… ――

淡「…ふ、ふふふ…ふふふふふふ…」ユラァ

京太郎「…あ、淡…?」

淡「…キョータロー、勝負よ」

京太郎「いきなり何を…いや、まぁ良いけどさ」

私の様子に微かに引きながらもキョータローは乗ってくれる。
それはきっと出来るだけ今の空気を変えたいとそう思っているからなのだろう。
迷宮で私に見せつけるように憧とエッチしてた癖に、この辺りは本当に優しい。
…だけど、その優しさが今は仇になってしまうんだ。 

京太郎「で、何の勝負するんだ?」

京太郎「麻雀以外だったら何でもいいぞ」

淡「………っち」カァァ

京太郎「え?」

淡「だ、だから、エッチで勝負するの!!!」プシュウ

京太郎「…は?」

瞬間、キョータローは鳩が豆鉄砲喰らったような間抜けな顔をした。
まるで私の言っている事が理解できないと言わんばかりのその表情に私の心が怯みそうになる。
けれど、私はもうエッチの勝負をすると断言してしまったのだ。
既に格好悪いところばっかりを見せ続けているというのに今更、撤回なんて出来ない。

京太郎「…い、いや、勝負って…意味分かってるのか、それ…?」

淡「と、とーぜんよ。分かってないはずないじゃないっ!」

…勿論、私にだって、それがどういう事をするのかくらい分かってる。
私はキョータローとキスしたり、おっぱいもまれたり…アソコイジられたりして…エロエロにされちゃうんだ。
それが恥ずかしいと言う気持ちは今の私にだってある。
けれど…キョータローにさっきの私を忘れてもらう為にはこれしかないのだ。
初心者である私がキョータローの事をイかせて…それを材料にして『相殺』して貰う道しか私には残されていない。 

淡「(それに…私、絶対に淫乱だって思われてるもん…)」

普通に生活してて、ノーパンになる人はいない。
ましてや、今日は ―― 実際は美穂子さんが勝手にやったんだけれど ―― キョータローに相談があるとわざわざ来てもらっているんだ。
それなのにも関わらず、下着も履いていないなんて…絶対に誤解されてる。
けれど…私にはそれを否定出来るほどの材料もなくて。
それならばいっそ、堕ちるところまで堕ちた方が気持ちも楽だ。

京太郎「ま、待てって。自棄になっても何の解決にもならないだろ?」

淡「自棄になってないもん!!」

自棄なんかじゃない。
ただ、私に残されているのがこれだけというだけだ。
それなのに恥ずかしいと躊躇っている訳にはいかない。
今の勢いがある間にキョータローに、うんと言わせなければ、さっきのそれは私の中で思い出したくもない汚点になってしまうんだから。 

淡「勝負は簡単、相手をイかせた方が勝ちね」

京太郎「いや…あの、淡さん?」

淡「うるちゃい!キョータローは勝負を受ければ良いの!!」

淡「それとも何!?初心者の私にイかされるのが怖いの!?」

京太郎「いや…そういう訳じゃないけど…」

けれど、中々、キョータローはうんとは言ってくれない。
そうやって挑発しても気乗りしない様子のままだった。
折角、こんな美少女とエッチ出来るなんて…失礼な奴。
流石に飛びかかって来て欲しいとは言わずとも…二つ返事を返すのが当然じゃないだろうか。

京太郎「って言うか、お前、初心者って事はやっぱ処女なんじゃないか」

淡「そ、そういう揚げ足取らないの!」

京太郎「いや、揚げ足じゃないだろ。大事な事だ」

京太郎「幾ら恥ずかしいからってそう自分を安売りするんじゃねぇよ、初めてなんだったら尚の事さ」

淡「う…うぅ…」

…やめてよ。
そんな風に優しい目されたら…勢いが鈍くなっちゃうじゃん。
ただでさえ…勢いにまかせてないと恥ずかしさで死んじゃいそうなのに…。
キョータローにこんな格好悪いところ見られたってだけで涙出ちゃいそうなのに…。
そんな優しくされたら…私……私…… ―― 

淡「…なんで…」ポロ

京太郎「え?」

淡「なんでそんなに普通なの…?」

淡「私…そんなに魅力ない…?エッチ…したいと思わない?」

淡「可愛いって…そう言ってくれたの…嘘だったの?」

京太郎「…淡」

…本当は泣きたくなかった。
そんな事してしまったらキョータローが困るだけだって私にだって分かってるんだから。
けれど、そうやって勝負を仕掛けても、まったく相手にされず…ただ優しく諭されるなんて…あまりにも惨めだ。
その優しさが嬉しくて…本当は甘えたくて仕方がなくて…でも…さっきの記憶は消えなくて。
私の気持ちを分かっていて…でも、肝心なところで理解まではしてくれないこの馬鹿に…私はどうしても涙を止められなかった。

淡「私にだって自分の言ってる意味くらい分かってるもん!」

淡「女の子にとって初めてのエッチがどういうものかくらいキョータローに言われなくても分かってる!」

淡「だから…だから、言ってるんでしょっ!」

淡「私もキョータローとエッチしたいから…仲間はずれは嫌だから!」

淡「幾ら恥ずかしいからって誰彼構わずこんな事言わないわよ!この馬鹿ぁぁっ!!」

そんな涙と共に私の口から言葉が飛び出していく。
それは私にとってまったく意識していなかった言葉だった。
ううん…意識はしていても、決して直視はしたくなかった弱音にも似た感情。
それを私は涙に後押しされるようにして吐出し、目の前の鈍感馬鹿に叩きつけている。 

淡「ぐす…ひく…」

京太郎「…淡、ごめんな」ギュッ

淡「あ…」

京太郎「…俺、淡がそんな風に思ってるなんてまったく想像もしてなかった」

京太郎「鈍感でごめん」

そんな私をキョータローの手は優しく抱きしめてくれる。
そのまま謝罪する金髪鈍感馬鹿に、感情が吹き荒れていた私の心も少しだけ収まっていった。
……で、勿論、そうやって少しは冷静になると自分が何を言ってしまったのか理解もする訳で。
キョータローの太くて暖かい腕の中で私は恥ずかしくて死にそうになっちゃう。

淡「…反省した?」

京太郎「あぁ。反省した」

でも、それでまた暴れだしたりするような事はなかった。
…ちょっと悔しいけど、私は多分、慣れちゃったんだろう。
だって、さっきから私、キョータローの前で一杯恥ずかしい事言っちゃったし…しちゃったし…。
それに…聞きたい事もあったから…恥ずかしいのは恥ずかしいけれど、自分でも思った以上に身体は大人しくしてた。

淡「私…可愛い?」

京太郎「すげー可愛い」

淡「…淡ちゃんの事…好き?」

京太郎「大好きだ」

そんな私の身体から…なんか何時もとちょっと違う声が漏れる。
勿論、出したくて出してるんじゃないの。
だって…こんなデレデレな声…恥ずかしいじゃん。
まるで大好きなコイビトだけに聞かせる特別な声は…でも、収まらない。
その上、キョータローは私の言葉にしっかりと頷いてくれて…だから…私、嬉しくて調子に乗って… ――

復元してよろしいですか?