「うぅん、んん……」 薄明かりに照らされたからか、夜分に目覚めてしまった。 そして触れ合える位置に彼がいないことに気づき、寝惚けながらに身を起こす。ベッド近くの机に向かい、何かをしている彼の姿が目に入った。 布の擦れる音が聞こえたからだろうか、彼は私が起きたことに気づいたようだ。 「起こしちまったか、悪いな。怠いなら寝てろよ」 身体は彼が言う通り適度な疲労を感じていた。それは不快な感じではなく、むしろ愛しさと喜びに満たされてくる類いのものだ。 下腹部にはまだアレが入っていた名残がある。 眠気もあったが、私は彼がしていることの方が気になり、答えを催促した。 「京ちゃん、何してるの?」 「ああ、これか。手紙を書いてるんだ」 「手紙?」 携帯電話の普及と伴に紙面での文書をやり取りすることは少なくなった。少なくとも私たちのような若い世代では廃れてしまっている。 そんな考えが表情に出ていたのだろう。 「昨今ならスマホのアプリで連絡を取るのが主流だもんな。まあ、あいつが器械音痴だから携帯もろくに使えないし仕方ないんだよ」 彼は苦笑いを浮かべた。 それにしても、このご時世に携帯も使えないとはある意味で凄いかもしれない。 だから、彼がいったい誰に手紙を認めているのか気になってしまう。 「誰に宛てて?」 「う~ん、……咲だ」 我が不肖の妹の名前が告げられ、私は恥ずかしさに悶えそうになった。同時に、京ちゃんにわざわざ筆を執らせる咲に対して少しだけ嫉妬を覚える。 私と妹の仲は正直に言って芳しくはないからこそ、余計にだ。 「手紙なんて置いて、もう一回しよう?」 こんな風に我儘を口にするのも致し方ない。決して彼とのエッチに溺れているとか、京ちゃんのはだけた体に見惚れて欲情したとかじゃない。 「書き終えてからな」 「京ちゃんのいけず……何を書くつもり?」 私よりも手紙を取ったことで彼が文面に何を書くのかとても気になった。 「別に大したことじゃないな。近況報告程度さ」 「ふーん、私のことも?」 「一応、俺も照と咲の問題については知ってるからな。だから、照が元気にしていることをあいつに教えてやりたいけど、書かないよ」 「……ありがとう。京ちゃんは優しいね。だから、大好き」 私の幼馴染み。 彼とこんな爛れた関係になるなんて少し前までは思いもしなかった。 長野での過去を消すように、私は親しかった友人も、血の繋がった家族も、全てを棄てたのだから。 当然、京ちゃんにも連絡先を教えることなく東京へと引っ越した。だから、もう、会うことはないと思っていたし、初恋には蓋をして思い出のアルバムへと変えたはずだった。 しかし、彼は東京に来た。 義務教育を修了し、東京にある学校へと進学することを選んだのだ。 残念ながら私を追ってきたわけではなかったけど、偶然街中で再会し、思い出話に花を咲かせた。 ファインダーの中にあった想いが浮き上がり、私は彼にアプローチを掛けた。 そして恋人になり、初体験をし、今では頻繁に独り暮らしをしている彼の家に遊びに来ている。 「ねえ、京ちゃん」 「何だよ?」 「結婚しよう!」 今よりももっと深く、明確な繋がりを求めてしまうのは咲の影を感じたからかもしれない。 私は知っている。 あの子も京ちゃんのことを好きであることを知っているのだ。きっと、私と京ちゃんの関係を知れば黙ってはいないだろう。 「気が早すぎだ。それに法律があるから男は18まで婚姻は無理だろう?」 ああ、どうして男女の入籍可能な年齢が違うのだろうか。私はゴールインしてしまいたいのに。 いっそ妊娠すれば、誰も私たちの間に立ち入れないだろうか。私の実力なら出産後、暫く育児に集中してからでも十分にプロの世界で渡り合える。 「何、思案顔してんだ?」 「別に……」 「後、ちょっと待ってろ」 手紙を書き上げた京ちゃんと朝までした。 私は生で良いよって言ったのに彼はしっかりとゴムをつけた。実に残念。私を大切にしてくれているからなんだろうけど、ちょっと不満。 だから、彼の首に目立つ痕を残すのは仕方ないよね。 カンッ! -オマケ- 菫「はあ」 淡「何ため息吐いてるの菫先輩? 幸せが逃げちゃうよ」 菫「アレを見てるとため息も吐きたくなるぞ」 淡「テル? 最近、滅茶苦茶絶好調だよね! 今日なんてこの淡ちゃんですら一度も南場に辿り着けなかったし」 菫(東三局トビ)「そうだな……」 誠子「私たちが相手だと東一局での見もないので余計にキツイですよ」 尭深「何時も上機嫌ですし、好物のお菓子までくれるんですよね。何か良いことでもあったんでしょうか?」 菫「おそらく男だろうな……最近は外泊を申請して寮に帰って来ない日も多いから」 淡「テルに男? う~ん、聞いたら教えてくれるかな?」 菫「私が聞いた時ははぐらかされたけどな」 誠子「気になりますね」 尭深「それなら今度、尾行してみます?」 淡「面白そうだね!」 誠子「宮永先輩の彼氏か」 菫「ふむ、次にあいつが外泊を申請した日に決行するか」 四人が普段とまるで異なり京太郎に甘える照の姿に戦慄を覚えるのは少し先の未来である。 もう一個カンッ!