番外編 その5

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番外編
☆人斬りの涙☆


提督「ああ! 俺のザクの斧がない!」

加賀「あの小さい斧ですか? 何かのゴミかと思って捨てました」

提督「なんだと!? それじゃあ俺のザクが手持ち無沙汰になるだろうが!」

加賀「知りませんよ。だったらちゃんと持たせてあげてください。
    その玩具が持ってるの斧じゃなくてチュッパチャプスじゃないですか」

提督「なんかこっちのほうが強そうで……」

加賀「ああ、それはそうと提督。また横須賀の住民から依頼が来ていますよ」

提督「ザクの斧を探す依頼以外はしない」

加賀「分かりました。では受諾しますね」

提督「そうなの!? 本当に斧探す依頼なの!?」


加賀「依頼内容は人探しです」

提督「はあ? 誰だよ。ザク? それとも斧田さんとかってオチ?」

加賀「違います。ああ、でも人でもないようですね」

提督「やっぱりザクじゃねえか」

加賀「人斬りを探し討伐する依頼です」

提督「人斬り?」

加賀「最近この辺りで噂になっているんです」

提督「へえ……」


加賀「何でも、近いうちにこちらの方に現れるとか現れないとか」

提督「全くどこのるろうに剣心だよ。アホか人斬りなんぞ。
   そんなもん流行りもしないっつうの」

提督「要は通り魔事件が横行しまくるかもしれないってことだろ?」

加賀「はい」

提督「そんなのかもしれないの領域だろ。
   しかも町民の噂レベルのものだし」

加賀「それもそうですね。すみません」

提督「いやいいさ。ただ警戒しておくことに越したことはない」




この話は私と提督、そして彼女の出会いの話。
無力である私達の前に容赦なく襲い掛かる狂気。
どうすることも出来なくなった私達の前に
皆もよく知っている心優しい彼女はどう動いたのか。


これはそういう、悲しみの上に立つあの子の話。



噂は噂でしかない。
そういう考えがあったが、
あまりにも危険な噂ではあったために
警戒を強化しようという結論に至った私と提督。


しかしやはり噂でしかなかった”人斬り”の話。
私達で調べることは調べたがあまりいい情報は手に入らず。
そんな中で……。



北上「へえ~。それで人斬りってのは出てないんでしょ?」

提督「あったりめえだろ。そんな古臭いアホが出てたまるか」


提督と共に北上ラーメンに行った時でした。
珍しく客が一人だけ入っていたその日、
提督は北上さんに愚痴を溢していました。


北上さんは私と提督以外の唯一の客にも
話を振ることにしたようで……。


北上「お客さんは何か知ってる? 人斬りのこと」



提督「おいおい、こんな普通のお客さんをビビらせたらダメだろ」

北上「ああ、そっか。すいませんね。えへへ」

大井「もう、なんかもう少し明るい話題はないの?」

加賀「本当ですね。すみません」


「知ってるよ。聞いたことある」


提督「マジ?」


「ああ、マジさ。大マジだよ」


この時、私達は初めて出会いました。
服のフードを取るとそこには片目に眼帯をした女性だった。
それが天龍でした。


天龍「ああ、俺も長年追い続けていた奴さ」

提督「何?」

天龍「ああ。この目をやられた時からな。
    あいつには仕返しをしなくちゃいけねえってずっと探して歩いてるのよ」

提督「そいつは助かる。何か情報はないか?」

天龍「教えてやってもいい。
   だが、こいつは誰にも言っちゃいけねえ。いいな?」

提督「任せろ。そんな必要はねえよ。
    そいつは俺が捕まえるからな」

天龍「ははは、そいつは頼もしいぜ。
    あんた俺と協力しないか?」


提督「あんたとか?」

天龍「ああ、俺の名は天龍。よろしくな」

提督「いいだろう。協力しよう」

加賀「提督……」

提督「大丈夫さ。こいつは悪い奴じゃない。
    俺には分かる」


こうして北上ラーメンで偶然の出会いを果たした
私達はその場で人斬りの情報を交換したのだった。

天龍は北上さんと大井さんに聞かれるのを嫌がる素振りを見せたが
二人は普通に仕事をしている最中だし聞かないようにする、
と言っていたのでそのまま続けた。


得た情報。


最初の人斬りは自身の親と殺したことから始まったそう。
人斬りは親を殺し、その重罪で故郷を追われた。
しかし、自分を追ってくる連中を次々に返り討ちにし殺すうちに
人斬りの異名で呼ばれるようになったとか。


人斬りには最愛の者がいた。
その人を連れ、その人を護るために刀を取り、
そしてついに最愛の者が病気で倒れた時、
救うために必要な薬と金を人から奪うようになってしまった。


追ってくる連中を返り討ちにし殺して逃げ延びていた間に
すっかり自分の心を失ってしまい、本当の人斬りとして目覚めた。

今もその逃げの旅の中で人斬りをしながら移動を続けている。


天龍は被害者の一人で目をやられたそうだ。
その仕返しのために今は旅を続けているそうだ。


提督「なるほどねえ……」

加賀「なんだかにわかには信じ難い話ですね」

提督「ああ、人斬りに同情でもしちまうぜ」

天龍「最初俺も聞いた時は笑っちまったぜ」

提督「あんたもこの話は自分で調べたものじゃないのか?」

天龍「ああ、すまんな。信ぴょう性がなくて」

加賀「いえ、情報はいくつあってもいいものです。
    ありがとうございます」

提督「心配すんな。俺と加賀がいれば……
    きっと捕まえられるさ」


それから天龍と別れたあと提督と二人で鎮守府に帰宅する途中。


提督「しかし偶然もあったもんだなぁ」

加賀「はい。中々有益な情報だと思いますよ」

提督「そうか? まあ人斬りの裏の話は分かったのかもしれないけど、
    結局はどうやって止めるか、だよな」

加賀「討伐するんじゃないんですか?」

提督「そうだなぁ~。まあそうなんだけども」

加賀「それより提督――


きゃああああああああ!!


提督「悲鳴!? 行くぞ加賀!」

加賀「!? はい!」


現場まではさほど遠くなくすぐに到着しました。
それがこの事件の始まりでした。


提督「人が倒れてやがる……」

加賀「……提督、この傷は刀で斬られたものです」

提督「マジかよ……。出やがったのか」

加賀「はい。……人斬りでしょう」



倒れていたのは若い女性。
この近辺に住む一般人だろう。
応急処置をし、救急車を呼ぶ。


ちょうど電話で呼び出しているあたりで先ほど別れたばかりの
天龍と再び合流したのでした。


天龍「……遅かったか。この人が殺られた時は見ていたか?」

提督「いや俺達も悲鳴を聞いてから駆けつけたから、その時にはもう……」

天龍「そうか」

加賀「これはやはり先ほど言っていた――」

天龍「ああ、間違いない。こいつは俺が追いかけている人斬りの仕業だ」

提督「とうとうこの町にも来たってことか」

天龍「そのようだな」

提督「やっぱり警戒は強化するに限るな」

加賀「ええ、そうですね」


それから救急車はすぐに現れ、
被害者を乗せていった。


私達は事情を近くにいた野次馬達に
話を聞いてみたところやはり誰も何も見ていないとのこと。


その事件が起きた次の日。


夜になると天龍から電話が。
内容はもちろん人斬りの被害についての電話。


天龍「ああ、今はもう被害者は病院に搬送された。
    こんなに早いペースで襲われ続け居ているのは初めてだ」

提督「そうか……すまないな」

天龍「ああ、こっちの動きは任せろ。何かあったらすぐに連絡してやる」

提督「助かるよ」


提督は電話を切ると被害報告があった場所を大きめの地図に丸で印をつけていた。
一つ目の現場の丸と見比べるも結局は何も分からなかったようで、大きくため息をついた。



提督「まだ関連性は見えないか……」

加賀「こういった犯罪者は関連性など無く
   無作為に行っている可能性の方が高くないでしょうか?」

提督「確かにそうかもしれない。だが、現場を抑えておくのに越したことはない。
   予防線は張れるだけ張っておけ。」


今の所、共通点はどちらも夜になると人通りが少ない裏道であること。
まあ2件目の被害の時も誰も目撃者はいないとのことで、
そこを狙って行っているのだろうけれど。




後日。時間帯は夜ではなく夕方でした。


提督「まだ事件の起きていない夜になると人通りが少ない道に来てみた訳だが」

加賀「ええ、遅かったようですね」

提督「……とりあえず搬送しなくちゃな」

天龍「またか。すまん」

提督「いやいいんだ」

加賀「……提督?」


この時提督は妙に天龍と距離を取っていました。
何かを察したかのように。
いつもの超人的な直感で何かを感じたようでした。


被害者が病院へと搬送されたあと、
私達は現場に残っていた。


提督「……俺こそすまん。まだ日が沈みきっていないから油断していた」

天龍「ああ、今日はイレギュラーかもしれない。
   いつもは日が完全に落ちた夜にしかやらないからな」

提督「なあ……天龍」

天龍「ん? どうした。何か分かったことがあったか?」

提督「お前……人斬りが誰なのか知ってるんじゃないのか?」

加賀「……提督、何を」


提督は薄々ではあるが感づいていた。


提督「一番最初に話した時から何か引っかかると思ってたんだよ」

天龍「何が言いたい」

提督「北上ラーメンでお前と話した時。
    一番最初に絡んできたのはお前の方だった」

提督「それもちょうど人斬りの話をしている時に」

天龍「そうだったな。それがどうかしたのか?
    俺は人斬りを追っているんだぞ。
    何か新しい情報がないか普通は知りたいってもんだ」

天龍「それが全然知らない奴の適当な噂話のレベルだとしてもだ」

提督「……まあそれはいいさ。でもよ、あんたちょっと詳しすぎやしないか?」

提督「そしてあんたは確実に現場にいる」


天龍「……」

提督「それだけ詳しくて……どうして捕まえられない」

提督「何か理由があるんだろ?」

天龍「理由? なんだよそれは」


提督「……お前が人斬りだからだよ」


天龍「……」

提督「凶器はどこに隠した」

天龍「俺が人斬り? はははは! 馬鹿だなぁ」


天龍「それは根拠がなくて言ってるんだろ?」

天龍「何を言ってるんだあんたは……」

天龍「あんたは人斬りの現場にも遭遇したことない。
    それなのに俺を犯人だと決めつけるのか?」

天龍「ちょっとそいつは早計すぎたな。
    捜査ってのはもっと慎重にやるもんだぜ?」

天龍「答えはNOだ。残念ながら違うね。俺は人斬りじゃない」

天龍「だが、そう思うなら捕まえてみろよ。もちろん現場でな」

天龍「今は何も証拠がないんだろ?」


天龍はそれだけ言うと去って行きました。
私達はそれを無理に追わなかった。
……というよりかは追えなかった。
角を曲がったところですぐに天龍は姿を消していたのだから。



私と提督は鎮守府に帰ってきて作戦を立てることにした。


加賀「どうするつもりですか」

提督「ふふふ、俺に策がないとでも?」

加賀「思ってました」

提督「作戦は単純だ。囮作戦を結構する」

加賀「分かりました」

提督「いや、まだちゃんと……。内容を聞きなさいよ」

加賀「私が囮になるのでは?」


提督「違うよ。俺だよ」

加賀「だめです」

提督「いいんだよ俺で。俺が捕まえるの!」

加賀「そんな子供のわがままみたいに言ってもだめです」

提督「……という訳でさ。加賀の服が欲しいんだ」

加賀「なっ……」


話を聞くとどうやら私の私服を借りて人通りの少ない道を
一人で歩いていれば襲われる可能性があると思ったらしい。

というかそれなら普通に私が私服で歩いていればいのでは?



後日。その作戦を結構する前の日。
私はある情報を手に入れて提督のもとへと走っていた。


加賀「提督っ。重要な情報が手に入りました」

提督「何?」

加賀「被害にあったものは重症ではあるが無事で
    その後事情を聞いた所、新しい法則がわかったんです」

加賀「それは事前に人斬りの噂話を聞いているということです」

提督「は? どういうことだよそれ」

加賀「ですから、襲われる前日かに天龍との接触があるんです」

提督「じゃあ結局俺達だって狙われる可能性があるってことか。
    ますます加賀を私服で歩かせる囮作戦なんかできねえな」

提督「……待てよ。天龍と関わった奴が危ない……」

提督「北上達がやべえ! 急げ加賀!!」


私達は全力で北上ラーメンに走った。
辺りは暗くなり始めていて北上ラーメンはすでに営業中。


相変わらず人は入ってなかった。


提督「北上ぃ!」

北上「わっ、びっくりしたー。どしたの?」

提督「ふぅ無事か」

北上「え? 何が?」

加賀「大井さんは?」

北上「大井っち? 暇だしちょうど切らしてた材料の買い出しに」



提督「どこまで行った!?」

北上「何々さっきからどうしたのさ」

提督「いいから! 大井がやばいんだって!」

北上「えっと、駅前のスーパーまで行ったと思うよ」

提督「加賀はここに残って北上の護衛だ!
    俺が行ってくる!」

加賀「はい。気をつけて下さいね」




ここからは提督が行っただけなので後から提督や他の人に聞いた話ですが……。
駅前まで全力で走ってスーパーの方まで行った提督。
そしてスーパーの帰り道を歩く大井さん。


大井「北上さんへのチョコまで買っちゃった。
    喜んでくれるかなぁー? ふふ」

大井「ん? 誰?」


大井さんが見たのは黒いコートでフードを深くまで被った
いかにもな変質者だったそうだ。


袖からチラチラと見えるのは刃物。
手ぶらだった大井はすぐに何かやばいと感じたらしい。
そして同時に店で提督達が話していた人斬りの噂を思い出す。


いざという時、いきなり自分の命の危機を感じた時
足がすくんで動けなくなるというのは本当らしく、
迫りくる人斬りにその場にへたり込むしかなかった。


大井「な、何あんた……だ、誰」


人斬りは返事もせずただ刃物を振りかざすだけ。
このまま刺されれば見事に新しい事件現場が出来上がる訳だったが……。


忘れてはいけないのは彼女も元軍人。
寸での所で刃物を避けてみぞおち辺りに蹴りをぶち込んだ。


怯んだ隙に刃物を奪わなくては、と思ったらしいが
ぶんぶん振り回して近づくに近づけなくなったと。

そこにようやく遅れて登場するのがあの男。


提督「オラァァ!」


人斬りに卑怯にも後ろから羽交い締めにし


提督「大井!! 俺に構わずやれ!!」


あなたはラディッツ戦のピッコロさんですか。と言わんばかりの必死の羽交い締め。


大井「分かった!」


そして即答する大井さん。
躊躇なく蹴りをお見舞いし、提督ごと吹っ飛ばす。



倒れた所に提督が苦しみながらも詰めかけてフードに手を伸ばす。


提督「捕まえたぜ……天龍。ざまあねえな」

大井「危ないっっ!」


近づいた提督の油断を誘い反撃に別の刃物を懐から取り出した。
しかし斬りつけたのは提督ではなく提督を突き飛ばし庇った大井さんだった。


大井「あ゛ぁ゛ぁあ……ッ!!」


軽傷だったらしくまだ大井さんは動ける状態にあった。
そこに人斬りは止めをさしにきたが、それを止めたのは意外な人物だった。



天龍「おい、お前ら……!!さっさと逃げろ!!」

提督「天龍!? お前……お前が人斬りじゃなかったのか?」

加賀「提督……!!」

提督「加賀!? なんでここに!」

加賀「事情を説明したところどうせ人来ないし
    閉店にして助けてに行きたいって聞かなくて」

北上「大井っち!! 大丈夫!? 大井っち!」

大井「北……上さん。ごめんね」

加賀「提督……ここで仕留めましょう」

提督「そのつもりだ。死んだ大井のためにも敵は討つ!」

北上「大井っち死んでないし。勝手に殺すなし」


天龍「待て!」

提督「何でお前が止めるんだよ」

天龍「だめだ」


私達と人斬りの間に仲介するようにいる天龍。
人斬りは不思議と天龍が間にいても天龍を攻撃することはなかった。


そしてその隙に人斬りは逃げていった。


提督「おい! 待ちやがれ!!」

提督「てめえ天龍!! どういうつもりだ!」


天龍「すまん。だが、今じゃないんだ」

天龍「あいつを捕まえるのは今じゃないんだ」

提督「……何言ってやがる」

提督「お前あの人斬りについて知ってることがあるんだろ!?」

天龍「何もない」

提督「ふざけんなお前! 俺が必ずなんとかしてやる……だから」    

天龍「すまんっ」


それだけ言い残して天龍は走って居なくなった。
提督はすぐに追いかけていったがまたしても角を曲がった所で
姿を消されたらしくすぐに戻ってきた。


もう少し根性見せて追いかけたらどうなのかと思ったが黙っておく。
それから大井を病院に送った。
私達は急遽閉店にした北上ラーメンに戻ってきて、
護衛と称して一晩はそこに泊めてもらうことにした。


次の日の夜。
あの作戦はついに結構された。
天龍の言う捕まえるのは今じゃないという言葉。
次々と被害者が出る中でそんな時期は待っていられなかった。



私は私服に着替えた。
提督の設定だと”OL生活4年目にして早くも仕事に疲れを感じ始めた
木曜の夜の残業終わりで疲労しきった女性会社員”らしい。
一度顔を見られているので分からないように
眼鏡をかけて、髪はほどいていた。


提督たちが遠くから見守る中でハンドバッグに入れたサバイバルナイフ一本で
あの狂気じみた人斬りから護身できるか少し不安だった。


ヒールをカツカツあえて大きく鳴らしながら歩く。
周囲の警戒は怠らない。

何も考えずにこの辺をうろつけばいいと言われていたのでそうしていたが
中々現れない人斬り……。


ぐるっと回ってきてこの辺も二周目に差し掛かるかもしれないと
思いながら道を曲がった時、ハッとした。


人斬りが道の真ん中に立っていた。


   「加賀じゃねえか」

加賀「……?」


喋った? 前に大井さんが襲われた時は喋りもしなかったのに。
私はすぐに信号弾を発射した。


人斬りは深く被ったフードを取った。
それと同時に提督が現れた。


加賀・提督「……天龍?」

提督「何で……天龍! お前なんだ! 人斬りはお前じゃない!
    昨日そう分かったはずだ! そうじゃないのか?」

天龍「いいや。この前にあったあいつこそが偽物」


提督「何言ってんだよお前……!」

天龍「俺が本物の人斬りだ」

天龍「人斬り天龍様だ」

天龍「ふふ……怖いか?」

天龍「一度殺ってみたかったんだよ。現役の将校をよぉ」

提督「狙いは俺か?」

天龍「いいや。お前たち全員さ」

天龍「提督、あんたを殺し、加賀も殺す。
    あの仕留め損ねたラーメン屋二人も殺す!!」


天龍は大きな刀を持っていた。
やはり武器が違う。奴……じゃない?


提督「どういうことだ。説明しろ天龍!」

天龍「知られてたら困るんだよ」

提督「人斬りを……か?」

天龍「そうだ。人斬りの存在を知られていたら困るんだよ」

天龍「お前らみたいな奴が追いかけてくるからこっちは安眠もできねえ!!」

天龍「だから知ってる奴を殺す!!」

天龍「俺達の安眠のために!!」


俺達……?


提督「加賀、天龍は俺に任せろ。
    お前は後ろを頼む」

天龍「……なっ、何で出てきやがった!! クソ……!!」


後ろを振りむくと……そこには別の人斬りが。


天龍「何で出てきたんだよ! 最悪のタイミングだぜ……龍田!!」

龍田「天龍ちゃんに何しようとしてるの」

天龍「やめろ龍田! 家に帰れ! お前は何も心配しなくていいんだ!!」

提督「そうか……。お前が本物の人斬りだな……」


龍田と呼ばれる女性は懐から刃物を取り出した。
あの時と同じ刃物。だがそれはすぐに形状を変え薙刀のような大きさになった。
刃渡りが随分大きいものだと思っていたら
持ち手の部分が伸びたようだったが仕組みは不明。


龍田「あたしの天龍ちゃんにいいいいいいいいいい!!!!!
    何勝手に関わってんだああああああああああああああああ!!!!!!」

提督「加賀ァッッ!!」


提督の投げて寄越した軍刀を受け取る。
正直刀は専門外なのだし、刀で薙刀相手をしたことはなかったのだが……
もうやるしかない。


龍田「どけぇえええええっっっ!!」


一撃一撃が嫌に重い。
本気の殺意を感じる。


その私の背後でも同様に
つばぜり合いが続く。


提督「訳を全部話してもらうぜ……」

天龍「チッ……退けよあんた!あいつは俺が止めなくちゃいけないんだ!!
    加賀が殺されちまうぞ! いいのか!?」

提督「馬鹿が。うちの一航戦を舐めるなよ」

天龍「違うんだ! あいつじゃなくて本当に俺が人斬りなんだ……!」

提督「もうそんな嘘はやめろ!」



天龍「あいつは……あいつは違うんだ!」

提督「何でそんな嘘をつくんだ!」

天龍「嘘なんかじゃねえって」

提督「だったら何で辛そうに泣くんだ」

天龍「……俺の妹だからに決まってんだろ!!」

提督「……ッ」

天龍「……あいつがああなっちまったのは全部俺のせいなんだ。
    だから俺が止めなくちゃいけないんだよ……」


生まれた時から仲の良かった姉妹は近所でも評判だった。
二人は順調に育っていった。仲が良すぎと評判になるほど仲の良さは一層増した。


ある時、天龍には恋人が出来た。
しかし、天龍の彼は軍人だった。

天龍の彼は深海棲艦との戦争で死んだ。
悲しみにくれた天龍を慰めたのは妹の龍田だった。

龍田は姉を溺愛し異常なまでに姉に執着していた。
龍田はそれ以来、天龍を悲しませる者が誰であろうと近づけなくしたのだった。


親も友人も。何もかもから天龍を遠ざけた。
天龍は次第に孤独になり龍田に頼るようになったが、
すぐに天龍もこれが龍田による陰謀だと気付き龍田に猛抗議する。


その時の喧嘩で目を負傷したらしい。
罪の重さから龍田は心に病を持つようになった。
守ろうと思っていた天龍を傷つけているのは自分だったと気づいたからだった。


その時、龍田の心は壊れてしまったらしい。
天龍と離れ次々と天龍と関わっていった人を斬りつけるようになった。


天龍関わった奴が一人もいなくなれば
また天龍は自分の所に帰ってくると思ったらしい。
なんとも愚かな考えである。


天龍は龍田を止めるべくあとを追った。
だが、天龍は空回りばかりしていたことに最後まで気がついていなかった。
自分が別の町に行き、行く先々で龍田のことを聞いてまわれば
今度はその匂いを嗅ぎつけ町で龍田が人斬りをする。


そして辿り着いたのが私達のいる町だった。
そこでようやく天龍は龍田に追いつくことができたのはいいが、
取り逃がしてしまった。その後も人斬り行為は続き……。


そして大井が襲われた時、
天龍は思ってしまったのだった。

解放されたい。この呪いから何もかも解き放たれて自由になりたい。
いや、いっそのこと死んでしまいたい。

だが、最後に……龍田だけは何としても助けてやりたい。
その気持ちだけは残っていた。
彼女を救うために彼女を追いかけ始めた最初の心を忘れていなかった。


天龍はついに自分が人斬りとして名乗り出ようと決意した瞬間だった。
幸いにも龍田の顔はバレてなかったみたいだったし。


そして昨晩龍田と合流できた天龍は忠告した。
二度と人斬り行為はしないで欲しいと。
自分はもう大丈夫だから、傍にいてやるから、と。


自分が人斬りだと名乗り出ることで龍田は捕まらない。
龍田の罪を自分が被り、それで終わりにしよう。


姉思いの妹の優しさから生み出された間違いを
妹思いの姉の優しさで何としてでも助けてやりたい。


龍田「ハァ……ハァ……私の天龍ちゃんにぃいいいい!!」

加賀「……予想通り持久戦に持ち込めばこちらのが何枚も上手のようですね……!」

龍田「ハァー……ハァー……あ゛あ゛ああああああッッッ!!!!」


素人の薙刀など動きが読めれば何てことがない。
私は龍田の一振りを完全に見切り、避け、
顔面に拳を4,5発叩き込む。


加賀「ハァァッ!」

龍田「……がっ、あ、ぅぅぅ~……ッッ!!」


隙をついて龍田の関節を決め、薙刀を落とす。


龍田「ざ……触るなぁァアア!! ぐ、うぐゥォエ……」


本気で絞め落としにかかる。


天龍「やめろおおおお!! 龍田に乱暴をしないでくれえええええ!!」

提督「しまった! 加賀!」


天龍に突き飛ばされた私は龍田から手を離し地面に倒れる。
龍田はその場に力が抜け座り込み、その上から天龍が覆いかぶさるように守る。



天龍「本当は龍田はいい奴なんだよ……!
    俺のせいで……俺のためにこんなことをしてるんだ」


天龍「もういいんだ……もういいんだ龍田」

天龍「俺は大丈夫だから」

天龍「もうやめてくれ……頼むから」



衰退しきった龍田に涙を流す天龍。
その光景はまるで私達のほうが悪者かのようだった。


天龍「二人で自首するからよ……もう許してくれよ」

提督「罪があるのはその人斬りだけだ。
    天龍、お前は釈放される結局は離れ離れにになるのがオチだ」

天龍「だったらいっそのことここで俺達を殺してくれ」

提督「だめだ」

龍田「天龍……ちゃん? だめよ」

天龍「……龍田?」

龍田「ごめんね天龍ちゃん。天龍ちゃんは……ちゃんと生きなきゃだめよ。
    罪に裁かれるのは私だけで十分……そうでしょ?」


提督は黙って頷いた。
それに天龍は提督を睨みつけるが提督は怯みもしなかった。



龍田「……提督さん……? 天龍ちゃんのこと……お願いできる?」


提督の返事は言うまでもない。


それから龍田は刑務所に入れられた。
提督の根回し(主に舞鶴さん方面)のおかげで死刑にはならずに済んだ龍田。
天龍は週一、多くて週ニで必ず通っている。今でもそう。


ちなみに根回しとっていもそれは殆ど舞鶴さんがやったらしい。
提督は舞鶴さんの元へ100回以上土下座しに行っただけとのこと。



最初は死んだ彼がいた軍に入るのはどうかと思ったが、
天龍に聞くと


天龍「ああ? んなもんの傷は龍田のおかげで癒えたから別に平気さ。
    それに死んでった元カレが守ろうとしていたもんを今度は俺が守る。
    あいつの代わりになれたら……それでいいかなって」

加賀「そう。ならいいわ」


こうして私達の鎮守府には提督と私に加わり新しいメンバーが来た。


天龍。
心優しき姉。


彼女の眼帯の下の秘密は私、以外は知らない。
提督も知らない。


今回の後日談。
お風呂の脱衣所でこんな会話が聞こえてきた。


鈴谷「うわぁっ!!びっくりしたぁぁ!
    天龍姉の眼帯の下初めて見ちゃったよ~~……」

天龍「ああ? そうだっけか? 別に隠してたわけでもないけど」

摩耶「そうなのか? 思いっきりタブーに思ってたから触れなかったけど」

電「はわわっ痛そうなのです……」

愛宕「それで眼帯してたんだ。知らなかった~」

天龍「何だよそんなに気になってたのかよ。
    だったらもっと謎の感じにしたままのが良かったか?」

鈴谷「で、それどこで傷つけたの? 転んだ?」

天龍「そんな訳ねーだろ」


電「摩耶お姉ちゃん膝隠してどうしたのです?」

摩耶「な、何でもねえよ! ほら、電さっさと風呂はいるぞ!」

鈴谷「誰かさんはさっき漫画みたいに転んでたもんねー? 
    効果音を付けるならずべーって転んでたよ」

摩耶「っっるせえ!!」

愛宕「まあ無理に聞くのも悪いわよ。人に歴史ありって言うでしょ?」

天龍「まあな。そうだなー。強いて言うならこいつは――

天龍「愛の証かな」
最終更新:2014年05月04日 10:52