番外編 その7

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番外編
☆Stage Zero☆





「あなたは将来何になりたいんですの?」



昔、そう熊野に聞かれたことがあった。
その時、あたしは答えることができなかった。

今が楽しい。
ただそれだけでこの先の未来のことなんて見ようとも思わなかった。




毎日学校に行って友達の熊野とお喋りして
好きなことをして好きなように遊んで
日が暮れたら家に帰って温かいご飯を食べる。
そんな毎日が楽しかった。


友達の熊野。
あたしの唯一の友達でいてくれた熊野。
幼い頃、突然あたしの家の隣にどでかい家が建ったと思ったら
そこに越して来たのが熊野でよく二人してお互いの家の塀を乗り越えて遊んでいた。


でも少し周りと違う価値観を持っているあたしは
小等部に入って色んな子がいる中に放り込まれた時、
そこには溶け込めずにいた。

「変わった子」

そう言われて周りの子はあたしには近づこうとはしなかった。
あたしには自分が普通に思えていたし
熊野はそんなあたしにも普通に話してくれていた。


でも熊野はあたし以外にも友達がいて
ちゃんと周りとも打ち解けていて可愛いし頭もいいし
男の子にも女の子にも人気があっていつも周りに人がいた。


次第にあたしは熊野が羨ましくなった。
少し憎らしくなった。
大好きだった友達なのに。


「どうして熊野さんあの鈴谷って子といつも一緒に登下校するんだろうね」

あたしはある時、こんな話し声が聞こえたのがすごくショックだった。
自分のせいで熊野もみんなに嫌われるんじゃないかって。


だからすぐに熊野に言った。

「明日から……あたし一人で行くから」

「……? そうなんですの?」


次の日。

いつもあたしの家に迎えに来る熊野が来る前に家を出た。
でも全部お見通しだったみたいで熊野は玄関の前で立っていた。


俯いて横を素通りしたら熊野は何も言わずに後ろを着いてきた。
下校の時もそうやってきた。


何の嫌がらせかと思った。

次の日も。

その次の日もあたしの後ろを黙って着いてきた。

走って逃げたこともあったけどそれでも熊野は追いかけてきた。


「なんでそんなに構うのさ!」

「わたくしは別に……。あなたのお母様に言われただけですのよ」


聞けば、まだ塀を乗り越えてこっそり二人で遊んでいた幼い頃。
あたしのお母さんに言われたそうだ。
よろしくね、って。

ただそれだけで。


でもそれが人に言われたからという理由だったのに
少しむっとしたあたしは心にもない言葉を浴びせてしまった。


「熊野はあたしのお母さんに言われたからそうしてるだけでしょ」

「違いますわ。わたくしはあなたのことを心配して」


そこからしばらく言い争いが続いた。
そんなくだらない喧嘩をしたこともあった。


結局あたしはこの喧嘩のあと、熊野と仲直りをして
より一層深い絆で結ばれた。そんなような気がした。
実際に熊野には聞いてないから分かんないけどね。


まああたしは結局周りには馴染めずにいたけれど。


中等部に上がった時に深海棲艦との戦争が激化してきた。
その時、ちょうど進路希望調査が行われたことがあった。


「ねー、熊野は何になるのー? アダルトビデオに出演するのー?」

「しませんわよ! どうしてそうなるんですの!?」

「あはは、冗談冗談~」


全く、といった呆れ顔をこちらに向けるがすぐに真剣な表情になる熊野。


「わたくしは早くにでもこの戦争を終わらせたいですわ」

「へぇ……」


そりゃ誰だって早く終わって欲しいもんさ。
そんな風に思いながら適当に相槌を打つ。


「だからわたくしは艦娘になりますわ」

「げぇ!? マジ?」

「大マジですわ」

「だって高等部からの艦娘コースに編入するってことでしょ?」

「ええ、何か問題が?」


そう熊野は自慢げに言ってきたのがあたしは少し悔しかった。
熊野のお父さんがお金持ちの人とは思えないくらいに
優しい人だったのを思い出したあたしは聞いた。


「あのおっちゃん止めなかったのー?」

「おっちゃんて……あなたいつの間にわたくしのお父様のことをそんな風に」


こほん、と咳払いをする熊野。

「確かにわたくしが危険な目にあうのは大反対でしたわ。
 ですが、わたくしもそれで黙るほどではありませんわ」

「ふぅーん、それで? 熊野は正義のヒーローごっこをするの?」

「あなた軍人をそんな風に見てたんですの? 呆れてものも言えませんわ」


しっかり自分の夢を持っている熊野が羨ましくて、
ちょっとだけ嫌味を言ったつもりだったけど。
さすがに小等部の頃の喧嘩みたいに熊野はそれで怒ったりはしなかった。

それがまた悔しかったけれど。


「確かに正義心が無いと言ったら嘘になりますわ。
 ヒーローと言うと馬鹿らしいですが」


熊野は続ける。

「あなただって小さいころ正義の味方とか特撮とか好きでしたわよね?」

「えぇ~、そんなのホント小さい時のことじゃん」


確かに小さい頃よく男の子が見るような特撮ヒーロー物を
好きで見ていたことはあったし、
今でも漫画は好きだけど……それで軍人になろうとはあたしは思わなかった。


「あなたも向いているかもしれませんわよ? ヒーローに」

「ないない。あたしは将来イケメンの玉の輿に乗って
 優雅に老後までマイホームに引っ込んでるよ」

「それこそ今の戦時中には無理ですわよ……」


熊野のそんな言葉を無視してぼんやり考えた。


「ヒーローか。あたしにとっては……」


今でもずっと一緒にいてくれてる熊野がヒーローだよ。
ほんと、悔しかった。

何もない自分が。


ある時、中等部の教室に入った時
熊野の足が止まった。

少し青ざめた様子でいた熊野。

「どしたん?」

「何でもないですわ。少し体調が……」


そう言って熊野はすぐに保健室に行ってしまった。
その日、結局熊野は教室には戻ってこなかった。


次の日、熊野を心配して迎えに行くと
普通に元気に出てきたからあたしは安心した。


「早く行こう~。今日の課題忘れちゃったからさー」

「……そうですわね。はあ、わたくしが教えますから大丈夫ですわよ」

「まじ? ラッキー。とうとう熊野も鈴谷ちゃんにご奉仕する時が来たかー」

「はぁ。あなたという人はどうしてそう……まあいいですわ」

「でも珍しいねー。素直に見せるとか。今日は何? 便秘とかなの?」


熊野はジト目を向けてから大きくため息をついた。

まあこの時のあたしはなんにも考えてなかったし
まさかそんなことがあったなんて……思ってもなかった。


またとある日。
放課後。
いつものように熊野と帰ろうと思って熊野を探すけれど
熊野はどこにもいなかった。

ここの所元気のない熊野が心配だったから
あんまり話しかけないけど勇気を出してその辺の人に聞いてみた。


「ねえ、熊野知らない?」

「さあ……見てない」


そんな風に思い切って聞いてみるも皆知らない様子。
どこに行ったんだろう……熊野。


昇降口の下駄箱に行ってみる。
熊野の下駄箱を開ける。


既に上履きに履き替えられていた。

「もう帰っちゃったのかなぁ……?」


今まで置いて行かれたことなんて一度も無かったのに。
どうしたんだろう。
目の前には熊野の上履き。
上履きの下に紙が挟まってる。


便箋?
これは……。


「おほっ。こ、これはラビュレタァじゃないですか!」


熊野の奴、まあ人気者だからねぇ。1つや2つもらっていてもおかしくはないか。
ここは誠意をもって届けてあげるとしますか。

このラブレターを熊野に渡したら熊野はどんな風に驚いて恥ずかしがって
顔を真赤にしながら何て言うのか楽しみで仕方なかった。


「くーまーのんっ」

「あら鈴谷……。ごめんなさい今日……」

「いいってことよ。あたしも熊野が帰っちゃったことは下駄箱調べて分かったし」

「そう……」


それだけ言うと玄関の扉を閉めようとする熊野。
そこを無理矢理扉を抑えて引き止めて

「ちょちょ、ちょっと待った。何暗い顔してんのさ」

「……」

「んふふ、熊野にとっておきのものあげるよ」

「……なんですの?」

「さっき下駄箱調べたって言ったっしょ?
 その時に見つけたの。じゃーーん! 熊野宛のラヴレタ~」


熊野はそれを見るときつく睨みつけてきた。
熊野にそんな顔を向けられるのは初めてだったあたしは
ただただ驚くだけで……いや、それよりも怖かった。


嫌われるんじゃないかって。


「またそんなものを……!」

「え……」

「いりませんわ! こんなもの!!」


そう怒鳴ると手から手紙をひったくりビリビリに引き裂いた。

「な、何もそんなんすることないじゃん……どうしたの熊野」

「あなたという人は……! 今日はもう帰って下さい!」


今度は閉める扉を止められないようにかあたしのことを少し突き飛ばして
それから壊れるんじゃないかってくらい思いっきり扉を閉めた。


あたしは閉まりきった扉をただ見ることしか出来なくて立ち尽くしていた。


その晩。
自分の部屋の窓から隣の家を見つめる。
熊野はどうしてるんだろう。


今、何を思っているんだろう。


次の日。


いつか熊野にされたようにあたしは
熊野が登校する時間の3時間は前に家を出て、
隣の家の玄関の前に立っていた。


3時間も前からいたもんだから先に出勤するであろう
熊野のお父さんと鉢合わせた。


目を丸くしたお父さんだったがすぐに状況を察したのか
あたしの肩を軽く叩いて小さく

「あの娘をよろしくね」


そう言われた。
何か大きな使命を与えられた気がして
あたしのやる気はマックスになった。


3時間後。
結局いつもの時間に熊野が玄関から出てきた。
あたしはこの時、勝ち誇ったような顔をしていたのかもしれない。
何せ3時間も待っていたんだから。
先を越されないために。


熊野は本当に冷たい目で一瞥すると横を素通りした。
その後ろを黙って着いて行く。


だんだんと早足になる熊野。


「ねえ、熊野!」

「……」


「あたしね。熊野がそんな風に突き放してもずっと付き纏ってやるから!」

「……」


あれ? これじゃなんかストーカーみたい?
違う違う。言いたいことはそうじゃなくて……。


「熊野、何があったのか教えてよ。
 何も出来ないかもしれないけど熊野のちからになりたいの」

「……」


熊野が立ち止まる。


「そうですわね。あなたには何も出来ないですわ。
 あなたにして欲しいことなんて何もないわ」


それだけ言うと熊野は走りだした。
は、早っっ!

頑張って走って追いかけるも全然追いつけない!


教室に着く頃には熊野は自分の席で涼しい顔をしていた。
あたしは朝から汗だくで息を切らしていた。

みんな、
遅刻ギリギリの時間でも何でもないのに何で走ってきてるんだろう
そんな不思議そうな顔をして見てくる。
こっち見るな。


そんな朝からイライラづくしの日。
放課後も近くなってきた時、とある男子が声をかけてきた。


「あのさ」

「あん? 何?」

ついついそんなつもりもないのに睨みつけてしまう。
よく見たらその男子は学年でも噂が絶えないくらいのイケメン君だった。

「もし良かったら……放課後ちょっといいかな?」

「はあ?」


「話したいことがあるんだ」

「へえ……どこで?」

「体育館裏でいいかな?」

「分かった」


あたしはイケメンは好きだけど、
この時ばかりは本当に面倒でそっけない態度を取ってしまった。


が、すぐにそれを後悔した。
なんで学年1のイケメンにあんな風に呼び出しされて
そっけない態度取ったんだあたしは!
こ、この展開! もしかして告白なんじゃないの!?
春が来るんじゃないの!?
なんか熊野ともめてる最中だけど春が来ちゃうんじゃないのー!?


とか、そんなアホなことを考えながら放課後、体育館裏に行く。
そこにはその例のイケメン君以外にも色んな男女がいた。

男子がイケメン君を含めた4人。
女子が5人。


対するあたしは一人。


「何……これ」

状況の読み取れないあたしに対して
一人の派手な女が口を開く。

「あっははは。もしかして○○君から告白されるとでも思ったの?」

その隣の女も馬鹿笑いしながら言う。

「ないない! ありえないっつーの! こんな変人に」


はあ。どうやらあたしはここで意味もなくボコられるのかな?
少し価値観が違うだけで何をそんなに偉そうにしてるんだか。


「えっと、それで何の用事なの?」

「熊野さんのことなんだ」

「熊野?」

「まだ分かんないのかよ!
 〇〇君さー、熊野さんのこと好きで告白したのに振られたんだよ?」

「ちょーありえないよねー」


鬱陶しいなぁ。お前達には聞いてないよ。


「それってやっぱりあの変人のお守りが大変だからじゃね?
 ってうちらが言ったら何かマジギレしちゃってさー」

「マジうぜーからちょっとやり返したら大人しくなってよ」

「マジ○○君ちょーイケメンなのにマジ可哀想とか言ったら
 うぜー反応してくるからな」


馬鹿笑いする後ろの輩にイケメン君は困っている様子だった。
どうやらこのイケメン君は周囲の人間関係は上手に組めないようだ。


そこであたしはこの馬鹿達の会話の”やり返したら”
という言葉に引っかかった。


「やり返したらって……熊野に何したの?」

「まあまあ一緒に来いって」


そう言われてあたしはいつの間にかそいつらに囲まれていることに気がつく。
逃げられない。……黙って着いて行くしか無い……のか。


こうしてる間にも熊野は帰っちゃうかもしれないのに。
一緒に帰りたかったのに。まあ今は後ろを追いかけるだけになるけど。


連れて来られたのは自分たちの教室だった。
熊野の机に一直線に向かった取り巻きの馬鹿男の一人が
熊野の椅子を乱暴に蹴飛ばして机を漁る。


「ちょ! 何して――

「いいから見とけってマジ笑えるから」


一人の馬鹿女に腕を掴まれて止めに入れなかった。
そこから先はあたしの耳にただ馬鹿笑いが響くだけの時間が続いた。


「ってかさー、鈴谷さん顔はいいのにマジ勿体無いよねー」

「友達いないなら、ほら、一緒にやってスカッとしようよ」

「やべーよマジ。友達の鈴谷さんにやられたの知ったらマジ泣きすんじゃね!?」

「最初っからそれが狙いだっつーの!」


女は熊野の本を黒いペンでぐちゃぐちゃに塗りつぶす。
男は熊野の私物を漁っては次々にゴミ箱に放り投げる。



「ほら、あんたもやんなよ」



熊野はいつも勉強しなくても頭いいから良い点を取れる。
本人曰く、授業中に予習も復習も全て出来るし、問題無いとのこと。
そのために机に置きっぱなしの教科書……。

ボロボロにされたその教科書が投げて寄越される。

にやにやした顔で連中はあたしのことを見てくる。


あたしの唯一の友達の熊野に……。


熊野が最近元気ないのはこいつらが原因か。



絶対に許さない。



「あ゛ァああ゛あ゛あぁーーーーッッ!!!」

受け取ったボロボロの教科書を手に取ると
そのまんまあたしの腕を掴んでいる馬鹿女の横っ面を教科書でぶん殴った。


「痛っっっ!! なにすんだテメェ!」

「こいつッ!」



教科書で殴られてよろけた馬鹿女に対してすぐに他の女があたしの肩を掴んでくる。
容赦なくあたしはそいつの横っ面も教科書でぶん殴って、
怯んだ所をお腹の辺りを思いっきり蹴飛ばした。


他の子の机を巻き込み大きな音を立てながらパンツ丸出しでぶっ倒れる。
あたしはすぐに3人目の女に捕まり羽交い締めにされる。
4人目に平手打ちされ最初の女は髪を引っ張ってくる。


背後の女の脇腹に肘をぶち込んで、怯んだ隙をついて腕に噛み付く。
小さい悲鳴があがる中でなんとか逃げることが出来たあたしは
教室の扉の前で通れないように立つ馬鹿女を扉ごとタックルでぶっ飛ばす。


女同士のものに男子が関わってこないのが不幸中の幸いだったのかもしれない。
男子に加勢されたら絶対に勝ち目はない。


この時代、訓練も何も受けていないあたしは一般女子中学生と同じ。
男子に取り押さえられたら適うわけない。
戦略的撤退あるのみ。
ごめん熊野。ちょっとしか仕返しできなかった。


「待てコラ!!」


走りだして教室から逃げ出したあたしのうしろを物凄い剣幕で追いかけてくる。


学校から飛び出して、
なんとか逃げ切っても息切れが戻らない。
ボロボロになっちゃったよ……とほほ。
はぁ……でも怖かった……。


変人あつかいされてるのは慣れてるとは言え、
あんな風に敵意をむき出しにされることはなかったからなぁ。


こんなにボロボロになってお母さんになんて言えばいいんだろう……。


とぼとぼと荷物も放り出して逃げてきたけど……
あぁ~きっとあたしの荷物もぐちゃぐちゃにされてるよぉ~。


「鈴谷……? どうしたんですの!? その傷!」



なんて考えてる時にもっと会いたくないのに会ってしまった。
迂闊……なんてタイミングの悪い奴……。



「あ、あはは~……。ちょっとそこらの犬と取っ組み合いの異種格闘技戦を」

「こんな時に何言ってるんですの!? まさか……あの連中……」

「あ……ごめんね」

「いいんですわ。わたくしを怒らせたことを後悔させてやりますわ」

「違うの……そうじゃなくて」

「何がですの」

「こんなタイミングで……あれなんだけど。
 ごめん、手紙のこと。全部あいつらから聞いたんだ」

「……」

「熊野。断ったんだって?
 そしたら周りの取り巻きに因縁つけられたんでしょ?」


話をもう一度改めておさらいすると……。


熊野はイケメン君に好かれていて告白されるも断る。
これがそもそもの全てのきっかけ。

それを聞いたあの取り巻きの馬鹿共が
「イケメン君が可哀想でしょ~?」
とかいうくそったれな言い分でいちゃもんつけてくる。

熊野は耐えるも次の標的があたしになりそうだったのを庇って
攻撃がエスカレートしていく。


熊野がラブレターを見てあんなに激怒したのは
イケメン君も同じようにラブレターを使って呼び出してきてて
それがトラウマになっていたみたい。


ちなみに引き裂かれたラブレターはあとで繋ぎあわせてみたところ
全く関係のない人だったそうだよ。ご愁傷様。タイミングが悪いとしか言えないね。


そこから馬鹿猿達が考えたのが
あたしを熊野への攻撃に加担させること。
そうすればもっと傷つくんじゃないかと思ったらしいね。


熊野とおさらいをして明日学校に説明しに行こうと誓った。
その時、熊野は小さくつぶやいた。


「本当……どうして男女の恋愛沙汰にはくだらないいざこざばかりが起こるんですの」


これが後の彼女の病気を発症させる原因にもなっている……のかもしれない。
……が実はもっと別に元凶がある。それはまたのちほど。


次の日、二人で登校するとすぐに呼び出されたのはあたし達二人だった。
教員から説明を受けたのは驚くことに


昨日の騒動が全部あたし一人加害者として成り立っているものだった。
連中しか確かに目撃証言はいなかったし、
連中が口裏合わせをすればあたしはいともたやすく犯人になるのだ。


でもさすがの教員も馬鹿じゃないし、
あの連中の普段の素行を知っているし
あたしと熊野が毎日一緒に来てるのも知ってる。


だから机をぐちゃぐちゃにしたとか、
扉を壊したとかそんなことは怒られなかった。


だけど、先に手を出して女の顔を殴ったことに関してあたしはこっぴどく怒られた。
いくら友達のためだとしてもやり返してはいけないとか云々。


それと同じくらい先生には褒められた。

「友達のためによく闘った。お前は立派なヒーローだよ」

それが何よりも嬉しくて学校に来たばっかりだってのに
泣きまくって目元が腫れてしまった。


教室に戻る時。


「何をそんなににやけてるんですの」

「ん? 何でもないよ。熊野の言ってたこと……
 ちょっとわかったかもしれないかなって」

「……? どういうことですの?」

「へへへ、なんでもないよ」


あたしは少しだけこの時から身体を鍛えることにした。
自慢のナイスバディを保ちつつ……というのが非常に難しかったけれど。


そんな小さな事件があった日から
熊野の根回しもあってなのか、
二人共とくに面倒事に巻き込まれる対象にならなかった。


それどころか、しばらくするとあの仲間内での内乱みたいなのが
始まってものすごく滑稽だったのをよく覚えている。


あたしはこのあと熊野と同じ
艦娘になるために進学。
勉強もそこそこしなくちゃいけなかったのは全部熊野任せ。


そうやって高等部に入ったあと、
よく分かんないけどやたら才能がどうこうって褒められて
申し訳ないことにあっという間に以前からいた娘達を追い抜いた。


期待の新星コンビなんて言われてたけど。
実際そんなの実感なんてなかった。
たまたま訓練しても射撃訓練だって当たるし
艦載機運用訓練だって何となくだけど満点だった。


射撃に関しては熊野に「お祭りの出店にある射的感覚でやってる」とか
嫌味っぽく言われたし、
艦載機の方は
「本来なら3年以上専門的にやらないと扱える代物じゃない」
とかなんとか色んな人に言われたくらい。


まあでも入る時にはすでに
「飛び級なんて制度もあるからわたくしから置いて行かれても頑張るように」
なーんてドヤ顔で言われていたけども。

また熊野や先生からは

「そのうち引き抜きが来るかもしれないし、
 今から現役の司令官の所に行って話をつけてもらうのもいいかもしれない」

なんて話をされて、本気になれば何時だって
鎮守府の勤務が始められると言われていた。


まあそんなこんなで要するに
こっちに進学してからあたしと熊野はトントン拍子で事が進んで
何だか物凄い期待を背負っていたってこと。




だけど戦争は終わってしまった。




この戦争を終わらせるために熊野は軍に入って戦うことを決意した。
それに見習ってあたしも入ったけど、終わってしまったらだめじゃん。
必要なくなるじゃん。

平和になるのはいいことなのに……釈然としない。


終戦の報告を受けて半年くらい経過した。
その間、いつも通り訓練を怠らないようにしていたが、
みんなどこか気が抜けたような感じだった。


戦中は常に張り詰めたピリピリとした空気の中にいたのに
突然終わってしまったせいで、
皆これから自分がどうしたらいいのか分からないんだろうね。


ある晩、寮の二段ベッドの下の熊野が話しかけてくる。


「今更ですけど、終わったのよね」

「そだね」

「これもわたくし達が目指していた未来だったのでしょうか」

「うーん。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」

「……なんですのその曖昧な」

「だってそうでしょ? 本当は熊野さー
 自分が平和にしてやる! くらいの意気込みだったじゃん?」

「確かにそうですが……」

「でもそれってどっかでさー、深海棲艦どもを一匹残らず駆逐してやる!
 そんでもって名前を上げて地位と名誉を手に入れてやる!
 ってことだったんじゃないの?」

「……それは言い方に悪意がありますわ。
 でも……自覚はないですけど、もしかしたらそうだったのかもしれませんわね」

「だったら良かったんだよこれで」

「戦争が終わってってことですの?」

「そうそう。だって熊野は手を汚さずに済んだんだから」

「……そう」


「でもどうすんだろうね? せっかく艦娘になって
 技も技術もついてきたのに」

「どうするって別に戦争が終わったからと言って
 軍人がいなくなるわけではないですわよ」

「そりゃそうだけどさー」

「まあその点わたくしはもう当てがあってそこに行くのですけど」

「えっ!? いつから!?」

「来月からですわ。もうここを離れて……あなたともお別れですわね」

「そうなんだ……寂しいな」

「まあ別に会えないわけではないですし、
 あなたもどこかの鎮守府に勤務する形になれば
 何かの縁でまた会えますわよ」

「で、どんなところなの?」

「わたくしの所は条件は厳しいですわよ?」

「げー、そんな所嫌だなー」

「どこもそんなようなもんですわよ」

「なんか無いの? みんなでわいわい極楽楽しい平和な鎮守府は」

「有りませんわよそんな所……。……と言いたい所ですが」

「何々?あるの?」

「楽ではないと思いますが……
 変人あつかいされてるあなたにはうってつけの場所がありますわよ」

「ほほう? どういう所がうってつけなの?」

「まず……そこの提督はとんでもなく強くすごい指揮力、巧みな交渉術
 など飛び抜けたスペックを持っていて深海棲艦との戦争を終わらせた人」



さすがにあたしはこの時、どんな豪傑が出てくるのかと思ったもんだよ。
まあ蓋を開けたらあれだもんねー。
向こうもきっとあたしのことそんな風に思ってたり? ……いいけどね。


さらに熊野が続ける。



「艦娘の司令官として初めて戦場に出て多大な功績を上げた人物ですわ」

「ですがその裏では艦娘の犠牲など何とも思わない冷血人間で
 既に一人の犠牲者を出してるとか……」


まじ? そんな人のとこに行ったら盾とかコマにされてすぐ殺されそうだよ!?


「謎の疾走から突如として復活したり……」

「彼の艦隊の秘書艦は深海棲艦との戦争において
 前線で提督の指揮の下で活躍した鬼のような一航戦がいて……」

「他にも元人斬りがいて……」


人斬り!? それって大丈夫なの?


「あとは金髪巨乳がいるそうですわよ。
 あなたの好きそうな感じでしょう?」


どこでそんな噂を聞いてきたんだろうか、本当に謎だけど……。
でも。


「へぇ~、なんか色々いるんだね。面白そうじゃん」

「まさかそこ行くつもりなんですの!?」

「え? なんで? だめ? 怖いもの見たさっていうかさ」

「訓練も毎回、胃液を吐くそうですのよ?」

「それは……うーん、嫌だけど。大丈夫っしょ。
 だってうちらだって基礎体力作りの時はゲーゲー吐いてたじゃん」


熊野は呆れた顔で小さくため息をつく。


「まあいいですわ。そんな偉大な方の所に
 あなたみたいな人が採用されるわけないですわ」


――と、熊野は言ったけれど。


はっはっは、そんでこんなもんさ。
どうよ? 熊野が結果聞いた時どんな顔したか想像できる?


口に入れた紅茶がそのまんま口から出てたよ。
拭いてあげたけどさ。


いや前代未聞の採用らしいんだけども、
本当この時はまだ提督の権力の凄さってのを信じていたよ。


入ってみてたまげたよ。
だいたい面接受けた時だって脱げだの何だの言われて全裸になったけど、
その前から提督の頬にはビンタされた跡があったしね。
一体何したんだか……。


小さな頃に見た特撮の中で
あたしはなんでか分かんないけどイエローが好きだった。


カレーの好きなイエローを好きになったのか、
イエローが好きだったカレーを好きになったのか、その詳細はもう忘れちゃった。


ヒーローになろうとして、結局なれなかった格好悪い二人組は
準備段階だったステージ0から
次のステージ、”1”へとステップアップしていくのでした。


そう言えば……小さな頃、庭のテラスで大人しく本を読んでいた熊野に最初に声をかけて
遊びに誘ったのはあたしの方だっけかな……。
そんな熊野が囚われのお姫様にでも見えたのか、あたしは言ったんだ。
そこから出してやる! こっちへ来て自由に遊ぼう。



「ヒーロー見参!」






あー、そうそう今回の後日談。



熊野はあれからコネのある所に行ったんだけど、
そこがめちゃくちゃキツかったんだって。


熊野こそ艦娘を奴隷か何かと勘違いしてるお馬鹿な司令官にぶち当たったそうでね。
でも熊野ったら真面目ちゃんだから何されようが我慢してたんだって。


で、ある時現れたのがあのイケメンさんね。


彼は熊野よりも後から佐世保鎮守府に来たんだけど、
当時はお馬鹿な司令官の部下だったんだとさ。


でもある時、熊野にセクハラするお馬鹿な司令官を見て
何ともびっくりそいつを退役にまで追い込んだんだと。
ナニをしたかは知らないけどねー。


この頃から熊野の趣味が激変したのはよく覚えてるよ。
お嬢様らしくバイオリンとか休みの時は優雅に演奏してたのに
それらを突然全部売っぱらってたし……。
一体ナニを見たんだろうねー。


まあ今思えばあの人も頭おかしいくらいのスペックだったし、
佐世保さん自体、学年首席だったらしいし、
そんで上層部もじゃああの鎮守府は佐世保一人に任せてもいいか、ってなったとか。


何で助けてくれたのか熊野が聞いた時、
爽やかスマイルの佐世保さんは少し意味深な感じでこう答えてくれたそうだよ。


「僕もあなたのように世界を変えたかったんです。
 でも世界を変えるのに必要なのは周りを変えることでした」


いやー、熊野の暴露話になっちゃったね。
怒られそうだわー。
おしまいっ!
最終更新:2014年06月08日 22:22