042-235 かわいい大物候補 @余暇

ある日の午後、僕はルルーシュたちの部屋で、ルルーシュやナナリーと談笑していた。
「あ、そうだ。そう言えば……」
会話の途中で、僕はあることを思い出した。それは、ここ最近巷で話題になっている現象の話題である。
「もうすぐ、皆既日食があるんだよな。旅行会社がツアーなんかも企画しているらしいが」
「ああ、そう言えばそうだな。もっとも、このトウキョウ租界では皆既日食ではなく、部分日食だがな」
僕の言葉に対し、紅茶の入ったカップを持ちながら、ルルーシュが答えた。
「滅多に見られる現象ではないから話題になってはいるが、どうも当日は、あいにく広い地域で悪天候らしい」
ルルーシュはそう言うと、新聞を持ってきて僕に見せてきた。
「見ろ、ほとんどの場所が雨の予報だ」
「うわあ、本当に傘マークだらけだな。せっかく高い旅費を払って見に行っても、天気が悪かったらガックリするだろうな」
「だが、こればかりは仕方あるまい。何しろ自然が相手だからな、文句を言っても天気は変わらん」
「日食、ですか……」
僕とルルーシュが話をしていると、ナナリーがポツリと言った。
「ん?ナナリー、どうしたんだ?」
僕が声をかけると、ナナリーはモジモジしながら言った。
「えっと、日食ってお月様がお日様を食べるように隠すから、そう呼ぶんですよね」
「まあ、そうだな。それがどうしたんだ?」
ルルーシュが尋ねると、ナナリーは頬を染める。
「あの、実は昨夜夢を見たんですけど…わ、笑いませんか?」
「ああ、笑ったりしないさ。だからどんな夢を見たか、教えて欲しい。ライもそうだろう?」
「もちろんだ。だから、恥ずかしがらずに言えばいい」
ルルーシュの言葉に僕も同意し、ナナリーを促す。すると彼女は、少しずつ話し始めた。
「あ、あのですね……。最近日食の話題が多かったもので、その…自分がお日様を食べる夢を見てしまったんです」
「へ、へえ。すごい夢だな」
随分とスケールの大きな夢を見たものである。そして、ナナリーはさらに言葉を続けた。
「それでですね、あの…お日様って、どんな味がするのかなって思ったんです。チョコレートみたいに甘いんでしょうか、それとも辛子みたいに辛いんでしょうか。
実際には食べる物ではないとわかっているのですが、お二人はどう思いますか?」
ナナリーが、恥ずかしそうに僕たちに尋ねてきた。すごい夢を見たかと思えば、かわいい疑問を抱いたり恥ずかしそうな仕草を彼女が見せている。
僕がルルーシュの方を見ると、彼は若干表情を緩め、それでいて真剣に何かを考えている風だった。どうやら、僕と同じく彼女に「かわいい」という感情を抱きながら、質問の答えを考えているらしい。
「ふむ、太陽の味なんて、ナナリーは面白いことを考えるんだな。他人と違う切り口で物事を見るのは、それだけ多角的に物事を考えられるという長所だし、恥ずかしがらなくてもいいんだぞ。
さて、そうだな。俺が考えるに太陽の味とは……」
「ああっ!大変なことを忘れていました」
ルルーシュが答えを言おうとした時、ナナリーが声を上げた。
「お日様って、すごく熱いんですよね?もし本当に食べようとしたら、熱過ぎて味わうどころではありませんでした。それに、口の中や舌を火傷してしまいます。
すみません、変なことを聞いてしまって。お兄様やライさんを困らせてしまいました」
重大と言えば重大なことに気がついて、ナナリーはシュンとしてしまった。僕はルルーシュの方を見て、アイコンタクトを交わす。
(な、なあルルーシュ。ここは当然、フォローだよな)
(愚問だな、ライ。当然だ、全力でナナリーをフォローしろ!)
シスコンオーラ全開で、ルルーシュが僕に訴えてくる。まあ、わかってはいたが。
(でも、ナナリーって考えることが独特だったりするよな。今の話題も、正直驚いた)
(ふむ、本当にそれだけか?ただ単に、驚いただけなのか?)
(いや、そんなことはない。考えることも、恥ずかしがるその仕草も、正直かわいいと思ってしまった)
(ああ、そうだろうな。俺もそう思った。だが、ナナリーと付き合うことは許さん!)
「だから何故そっち方向に行くんだ」というツッコミはせず、僕はルルーシュと目で会話をしていた。
そして二人が出した結論は、「ナナリーはかわいくて、今はただ彼女のフォローをすべし」というものであった。
「ナナリー、別に君は悪くないさ。太陽を食べる夢なんてスケールが大きいし、発想が面白いと思う。純粋にすごいと思うぞ」
「ライさん……。本当に、そう思いますか?おかしくないですか?」
ナナリーの問いかけに、僕に代わってルルーシュが答える。
「ああ、おかしくなんかない。さっきも言ったが、独特な視点や発想を恥じることはない。会話の幅も広がるし、聞き手側の俺たちにとってもいい刺激になる。
だから、もっと自分に自信を持つんだ。誰もお前を変な目で見たりしないし、もしそういう奴がいたら、俺たちが守ってやるさ。そうだろう、ライ?」
「ああ、そうだな。ルルーシュや僕だけではない、咲世子さんや生徒会のみんなもいる。君を温かく見守ってくれる人はたくさんいるから、君はいつまでも君らしさを失わないで欲しい」
僕とルルーシュはナナリーに優しく温かい視線を向け、やがて彼女に笑みが戻った。
「お兄様もライさんも、本当にありがとうございます。変なことを言ったかと思って、不安だったんです。お二人にそう言っていただけて、何だか元気が出てきました。
私、これからも自分らしさを失わずに頑張っていこうと思います」
ナナリーの明るい笑顔を見て、僕とルルーシュは安堵した。彼女には、いつまでもこの笑顔を保っていて欲しいものだ。
「しかし、太陽を食べる夢なんて本当にすごいよな。スケールが大きいし、ナナリーの人柄の大きさも表わしているのかもな」
僕がそう言うと、ナナリーはまた恥ずかしそうな表情を見せた。
「そ、そんなことはないです。ただ、ちょっと人には言いにくい夢があるので、それに関連づいたお日様の夢を見ちゃったのかもしれません。日食のお話も、関係はしていましたけど」
「それは、将来の夢ってことか?」
「は、はい」
僕が尋ねると、ナナリーはコクリと頷いた。太陽と関係のある将来の夢って、何だろう。
「ナナリー、もし良かったらそれも教えてくれないか?僕は君と知り合ったばかりだし、もっと君のことを知りたいんだ」
「俺も知りたいな、ナナリーが持っている夢を。兄としてお前の夢を応援したいし、サポートできることはしてやりたいからな」
「じ、じゃあ言いますね」
ナナリーがモジモジしながら、口を開く。
「これは将来の夢というより、『こういうのもいいなあ』って考えた夢なんですけど、その…お日様を食べてしまいそうなくらい、圧倒的な存在感に興味があるんです」
「「……何?」」
僕とルルーシュの声がハモッた。これはまた、すごいものに興味を持ったな。
「スケールが大きくて存在感のある人物になったら、どんなに広い世界が見えるのかなあって思うんです。あとは、みなさんに頭を下げられる気分を知りたいといいますか……。
その、今の生活はすごく楽しいですし、何も不満はありません。ただ、その…『お日様を食べてしまいそうな勢いを持つ女王様の気分を味わいたい』という、ちょっとした憧れみたいなものなんです。
や、やっぱり恥ずかしいです。『女王様になりたい』なんて、女の子っぽい夢を話すのは」
恥じらいながら自分の夢を語るナナリーを、僕はただ圧倒されながら見ていた。そういう夢を持つ女の子だっているのかもしれないが、あまりにもスケールが大き過ぎる。
もしかしてナナリーは、本当にスケールの大きな女性になる素質があるんだろうか。
(ルルーシュはどう思って……)
僕がルルーシュの方を見ると、彼は難しい顔をして考え込んでいた。
(ま、まさかナナリーがそんな夢を……。くっ、血は争えんということか!皇帝も母さんも、良くも悪くもスケールの大きい人間だったしな。
だが、俺はどうすればいい?ナナリーの夢を応援したらいいのか、いや、彼女には優しい心を忘れないでいて欲しい。しかし夢を否定することは俺には……)
「ル、ルルーシュ?」
僕が声をかけると、ルルーシュは我に返った。
「はっ!あ、ああ。すまない、考え事をしていた。ナナリーの夢が大きくて眩しくて、少し驚いてしまったんだよ」
「そ、そうか。僕としては、大きな憧れや夢を持つのは悪いことではないと思うが、君はどう思う?僕と一緒に、彼女を応援するのか?」
「お兄様?」
「あっ、いやその……」
僕の視線とナナリーの不安そうな表情を一度に受け、ルルーシュはうろたえた。だがすぐに平常心を取り戻すと、髪をかき上げながら言った。
「ふっ、愚問だな。俺は妹を否定したりしない、全力で応援してやるさ!」(内心はすごく複雑だがな……)
「そうか、そう言うと思ったよ。良かったな、ナナリー」
僕がナナリーに声をかけると、彼女はまさに太陽のような明るい笑顔と声で言った。
「はい!私、頑張りますね!」
その笑顔を見て、僕は思った。「確かにかわいいけど、本当に単なる憧れなんだろうか。ひょっとしたら、ひょっとするかもしれない」と。
とりあえず、日食の前日はてるてる坊主を吊るそう。日食に興味はあるし、ナナリーも晴天が好きだから。


最終更新:2009年07月20日 21:43
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