043-198 とある日の日常風景(ラウンズVer) @全力感想人Y

 ブリタニア本国の一角、皇帝の騎士・ナイトオブラウンズ達は己の技量を高めあっていた。
 互いに訓練用の木剣を手に取り、打ち合うその様は舞を踊っているようにも見える。
「へぇ、ますます腕に磨きがかかってるじゃないか」
 少し距離をとり、相手を見据えながら長身の青年、ジノがそう口に出す。
 それを受け、彼が剣を打ち合っていた銀髪の青年も返す。
「それはこっちの台詞だよ」
 そして、互いにニヤリと笑い再び剣舞を始めようと駆け出す――
「……十分経った……休憩……」
 が、どこか冷めた声が二人の動きを止めた。
「いいじゃないか、アーニャ。 実際の戦場で10分以上経っても決着がつかないことだってあるさ。 その為に訓練しておくべきだろ?」
 そういうジノの方を向こうとせず、携帯を弄りながらアーニャは言う。
「『10分以上戦う訓練』ではなく『10分以内に倒す訓練』をすべき……
 それに、最初に10分経ったら教えてくれって言ったのはあなた……」
「まぁ、とりあえずは休憩しよう。 訓練自体は後でまたやればいい」
 そう言うアーニャに対してジノは反論の言葉を探していたが、対戦相手の青年、ライにまで休憩しようと言われた為に諦めることにした。
「じゃ、休憩しますかね……で、だ。 スザクはどうするんだ? 模擬戦」
 木刀で素振りをしていたスザクは勢いよくそれを降り下ろしたあと、左手で汗を拭いながらジノの方を向く。
「うーん、僕も訓練しようかと思ったんだけど……」
 そして彼はチラリとアーニャの方を見る。 その視線を感じたのかアーニャは傍らに置いている銃を手にする。
「……あぁ、なるほど、得物が噛み合わないってことか」
「……銃は剣より強し」
 アーニャを見てジノが言うと彼女はポツリと呟いた。
「じゃあ五分くらい経ったら僕かジノと戦おうか」
 ドリンク(ただしセシル作ではない)の入った水筒を片手にライが言うとジノとスザクが頷いた。
「ほぅ、その向上心は素晴らしいなぁ」
 と、扉から聞こえてくる声。 そちらのほうに3人が視線を向けるとそこには開いた扉に背を預けたルキアーノ・ブラッドリーがいた。
「そこで、だ。 俺もお前たちの訓練に協力してやろう。 ありがたく思え」
 胸を張ってそう言うルキアーノに対して、ライとスザク、ジノは一瞬顔を見合わせてから揃って答えた。
「せっかくですけどお断りします」

 少し止まる時間、ややあってルキアーノが叫ぶ。
「この『ブリタニアの吸血鬼』が直々に稽古をつけてやると言っているのに断るだとぉ!?」
 懐に手を伸ばしながら叫ぶ吸血鬼をみてライは答える。
「だって……投げナイフと戦っても……」
 ライの言葉に追従してスザクとジノが頷く。
 以前の訓練で、ルキアーノはひたすら距離をとってのナイフを投げてきたのだ。 回避の訓練にはなるが攻めに集中できない、故に三人は断ったのだ。
「自分の有利な条件で戦うのが策士というものだよ。 不利な条件だからって戦わない君たち」
 嘲るように言うルキアーノを見ながら三人は小声で話す。
「……なんか言ってることおかしくないか?」
「奇遇だな、僕もそう思った」
「うん、確かにそう思う」
 とりあえず意見が纏まった三人は、少し休憩を長くしようとそう決めた。 が、ルキアーノが更に続けた言葉に事態は加速した。
「まぁ、しょうがないよなぁ、自らが仕える皇女様を護れなかった枢木卿と共にいる奴等だ。
 実際護れなくて良かったのかもしれないなぁ、虐殺――」
「ブラッドリー卿」
 ルキアーノの言葉を遮りながら、スザクは傍らに置いていた自らの手袋を取ろうとする。
「それ以上言うなら……僕は貴方に名誉を賭けた決闘を申し込まねばなりません」
 スザクはルキアーノに鋭い視線を向けながら静かに言った。 彼の後ろに立つライも同様の視線をルキアーノに向ける。
 彼もまたユーフェミアを護れなかった、そして彼女に起こった真実を知る者だから。
 その両者の怒りを感じとったのか、ルキアーノは口の端を歪めながら楽しそうに叫ぶ。
「いいだろう、さぁ、決闘だ! 互いの命を! 大切な物を賭けた! 
 私は奪う! 君たちから大事なものを! なんなら二人で来たまえ!」
 大量のナイフを構えるルキアーノに対してスザクは近くに備えつけられていた剣を手にする。
 また、ライも一歩進むがジノにより止められる。
「……何故止める」
「分かってて言ってるだろ。 スザクは正式に決闘を申し込んでいない。
 ブラッドリー卿から始めたわけだが、これは明らかに私闘だ。 二人でかかれば騎士道不覚悟、お前ら揃って処刑かもな」
 軽く言うジノだが、その目から真剣さを感じたライはゆっくりと頷く。
 スザクは負けない、そう信じて見守ることにした。

 張り詰める空気、高まる緊張感。 そして、どちらも動かずに過ぎる時間。

「双方そこまでッ!」
 だが、その空気は打ち破られることになった。
 いつの間にやら両者の間にビスマルク・ヴァルトシュタインが割って入っていたのだった。
「お前達のどちらでも、今失えばブリタニアにとって大きな不利益となる」
「だが、枢木卿が……」
「申し訳ありませんでした」
 言い繕おうとするルキアーノだったが、スザクがビスマルクに頭を下げ、その場を離れたことで後を続けることは出来なかった。
「……ふむ、どうやらブラッドリー卿は血の気が有り余っているようだ」
 そんなルキアーノの様子を見てビスマルクは言う。
「私でよければ訓練に付き合うが、どうだ?」
「ったく、頭にきたのは分かるがもっと落ち着けよ。 ヒヤヒヤさせやがって」
 うつむき歩いてくるスザクの首に手を回しながらジノが言う。
「……あぁ、ごめん……」
「気にするな――とは言えないな、僕も」
 そう言いつつライは、何か話題を変えられないかと言葉を探し、そして浮かんだ事を口に出した。
「――そういえば、何故ここにヴァルトシュタイン卿が……」
 皇帝の騎士『ナイトオブラウンズ』基本的に順列などはないが、ナイトオブワン、ビスマルク・ヴァルトシュタインだけは違う。

 訓練場に来ることなどないほど忙しいはず、その疑問を傍らから聞こえた声が解消した。
「私が呼んだ……ケンカが始まりそう、って……」
 アーニャが携帯電話を弄りながら言う。 無関心に見えてやることはやっていたようだ。
「ありがとう、アーニャ」
「ごめん、アーニャ」
 ライとスザク、二人がそれぞれの言葉でアーニャに礼を言う。
「別にいい……」
 少し携帯電話から目を話してそう言うと、彼女はまたそれを弄りだした。
「お、なんか面白いことになってるぜ!」
 いつの間にかスザクから腕を離していたジノが三人に声をかける。
 その視線の先には対峙する二人のラウンズがいた。

「ヘヘっ! それじゃあお手柔らかに……」
 軽薄な笑みを口元に浮かべつつルキアーノが言う。
 だが、その視線は真剣に目の前にいるビスマルクに向けられている。
 そのビスマルクも木剣――身の丈を超える長さである――を構え、相手をその右目で見据えていた。
「戦場で大事なものは――」
 訓練用なのだろう、刃引きされたナイフを構えて走りつつルキアーノはいつもの口上を述べようとする。
「黙れッ!!」
 空気が震えるような大声、それに一瞬ルキアーノは止まる。
「そして聞け! 我が名はビスマルク! ビスマルク・ヴァルトシュタイン! ブリタニアの剣なり!」
 そう叫ぶとビスマルクは一気にルキアーノとの距離を詰めた。
「ちぃ!」
 舌打ちしながらルキアーノは一息に三本のナイフを投げる、が
「どぉぉぉぉりゃぁぁぁ!」
 ビスマルクはその大剣にて迫るナイフをすべて払った。 そしてその勢いのままルキアーノにその剣を降り下ろす。
「あぐっ!」
 悲鳴をあげた後、倒れるルキアーノに対してビスマルクは言う。
「安心しろ、峰打ちだ」


 この顛末をみたジノとアーニャは「峰打ちは凄い威力だ」と間違った知識を植え付けられるがすぐに横の二人に訂正された。
「諸刃」の剣に峰はない、と。

おまけ的な何か「副題:彼が峰打ちと叫んだわけ」

「ライ卿、礼を言うぞ」
 必殺技の試し打ちという訓練を終えたビスマルクはライに話しかけてきた。
「はい、気に入ってもらえたようで良かったです……それでこれを」
 ライはビスマルクに紙袋を渡した。
「おぉ、すまないな。 続きが気になってたのだ」
 柔らかな笑みを浮かべながらビスマルクは言う。
「ぼ……私も枢木卿に薦められて興味を持って……今は彼以上にはまっていますよ」
 ライもそういいながら笑う。
「SAMURAIとはすごいものだな。 エリア11、矯正エリアとなったとはいえ侮れぬ底力だ」
 紙袋の中にはSAMURAI、もといさまざまな形で書かれる小説や漫画などが詰め合わされていた。


最終更新:2009年10月04日 23:51
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