「ミレイさん!」
机をはさんで二人の男女が向かい合っている。 銀と金、異なる二色の髪の色が互いの存在を知らせている。
そしてライは真剣な面持ちで言葉を発する。
「ナナリーの誕生日プレゼントって何がいいですか?」
ゆっくり、そして確実に放たれたその言葉に、ミレイ・アッシュフォードは腕を組みながら答える。
「自分で考えなさい」
言葉尻に音符を付けていそうな声色で言うミレイ、しかしその顔は少しこわばっていた。
「いえ、考えても思いつかなかったから……いっそナナリーに聞こうかなって……」
なおも言い募るライにミレイはビシっと風を切り指をライへと向けた。
「いい? プレゼントはね、人に聞くもんじゃないのよ! プレゼントは……心なの!」
彼女が胸を張って右手を左胸にあてて言ったその言葉にライは感銘を受けた。
「プレゼントは……心……」
「その通りよ! いくら高価なものであっても、心がなければそれはただの物体! 元素の塊よ! 心がこめられたものにかなうはずがない!
ライ、貴方が精一杯考えたプレゼントが、ナナちゃんのことを想って選んだプレゼントが! もっとも誕生日にふさわしいプレゼントなのよ!」
さらに続いたミレイの言葉を聞き終えると、ライは感動した様子で言う。
「ありがとうございました! 会長! それではプレゼント買いに行ってきます!」
そういって駆け出そうとするライの背中にミレイが声をかける。
「ちゃんとお財布は持った? ハンカチは? ティッシュは?」
「大丈夫ですよ、しっかりポケットに入れています!」
言いつつライは外へと駆けていく。
一人残されたミレイは呟く。
「まぁ、本人に聞くのは間違ってはいないけど、ルルーシュと被る可能性が高いと思うわよ、プレゼントがね」
多少ノリで喋っていたミレイであった。
「……で、だ」
並ぶ店々を見ながらライは思う。 結局何を買おう、と。 よくよく考えればある程度の指針が欲しかったからミレイに聞いたのだ。
別に何から何まで彼女に聞こう、と思っていたわけではない。
「どうするかなぁ……」
止まっていても仕方がない、とばかりにとりあえずライは歩き出す。 なにか歩いているうちに思いつくのではないか、と考えながら。
「へぇ、ここにこんな店があったんだな……」
初めて見る店に歩みを遅くしたりしながらそれでもプレゼントを探す、という目的は頭から外さない。 ナナリーに渡すプレゼント、ということで視覚的に楽しむものはほぼアウトである。
お菓子とかも味や香りのいいものじゃないとなぁ、と思いつつショーウィンドウに並べられた商品を眺める。
「難しいなぁ……」
そう呟きながらもライはどこか懐かしい気持ちに包まれる。 以前にも同じことをしたような、そんな気がした。
しかしながら抽象的なそのイメージは完全には形をなさず、ふとしたことで再び崩れる。
「あら、ライ様?」
そう後ろから声がかけられる。 彼を様付けする相手など彼の今持つ記憶のなかでは一人しかいない。
「咲世子さん? どうしてここに?」
「私は少し夕食につかう食材を買いにきたのです。 ライ様こそどうしてここに?」
ライは今現在ナナリーの近くにもしかしたらルルーシュよりも傍に居ることが多いかもしれない咲世子に言ってもいいものか悩んだ、が彼女が秘密を漏らすことはないであろう、という判断より打ち明けることに決めた。
「実は、ナナリーへのプレゼントを買いに着たんです」
その言葉に咲世子は少し目を見開く。 そして、彼女は確認するようにライに聞いた。
「……今からですか?」
「今からです」
「ナナリー様の誕生日は」
「明日ですね」
咲世子は絶句した。 せめて、せめてもう少し早めに買うべきではないか、と。 一日で考えたものをプレゼントにするつもりなのか、と。
しかし、続く言葉に咲世子のその気持ちは打ち消される。
「実は一週間くらい考えてたんですけどこれだ! ってものが思いつかなくて……
この前もシミュ……仕事中にぼんやりしちゃってロイドさん―――――あぁ、ロイドさんっていうのは僕とスザクの上司なんですけど、ロイドさんに『こんなんじゃいい結果が得られないよ』と嘆かれて……」
その言葉に咲世子は何を言うべきか考える。 一週間悩んで決まらないプレゼント。 自分が今、彼女が欲しがっていたものをほのめかせばおそらく彼はそれを買う。
それはそれでいい、だが、彼自身が彼女に何をあげるか、精一杯悩みぬいた上で選ぶものの方が良いことは分かりきっている。 だが、ここまで悩んでいるのだ、おそらく、何を買うか決めてもそこで再び何かに迷うかもしれない。
ゆえに、咲世子はライに小さな助け舟を出すことにした。
「これは私見ですが、おそらくライ様がそこまで考えて選んだものであれば、ナナリー様が喜ばないはずはないと思いますよ」
「そうでしょうか……?」
「そうです」
少し言い募るライに対して強く言う咲世子、実際、ライと二人で折り紙を折る彼女の様子を見るとそう思わないほうがおかしいだろう。
俯き何かを思案するライだったが、ふと何かを思いついたように顔を上げる。
「ありがとうございます、なんだか迷いが晴れた気がします。 最初に思いついたプレゼントを見て決めようと思います」
その笑みを見て、咲世子も笑顔で答える。
「お役に立てて光栄です」
どこかの店へと走ってゆくライを見送りながら咲世子は思う。 秋とはいえ早く冷蔵庫にタマゴを入れないと、と。
最終更新:2009年11月02日 22:08