043-420 これからも…… @名無し

どろどろとした血が手にまとわりつく。
床に広がる紅い染み。
ハアハアとまるで獣のような荒い息。
鼻を突く血のニオイが鼻の奥をくすぐる。
そして、足元に横たわるのは、かって友人だったはずの肉の塊。
「くふっ……」
漏れるように口から息が漏れ、そして、それは狂気じみた高笑いへと変わっていく。
「ひゃはははははははははは……」
だが、その高笑いは後ろから聞こえた音で止められる。
それは、人の声。
いや、声とはいえないだろう。
それは声になっていなかったのだから……。
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃっ………」
ゆっくりと振り向く。
そこには、ガタガタと振るえ、座り込む女性がいた。
ああ、知っている。
僕は知っているぞ、この人を……。
自然と口元が釣り上がっていく。
ああ、また楽しめる……。
また、この悦楽を楽しめる。
僕はゆっくりと身体の向きを変えた。
ガタガタと振るえながらも、まるでその場に縫い付けられたかのように動けない女性――シャーリーに近づいていく。
ゆっくりと手に持っている紅く染められたナイフを振り上げた。



「はいっ、OK----っ」

その一言で、場面の雰囲気が変わる。
殺気だった雰囲気が一気に緩和され、日常の空気へと変わっていく。
そして、メガホンをもったミレイがニコニコしながらその場に出てきた。
「いいわっ、いいわよぉぉぉっ、ライっ、あなたさいこーよっ。もうすごいとしか言えないわっ。まるで本物の殺人鬼みたいよっ」
よほどの事がない限り見れないほどの実に満足げな笑顔。
どうやら、ミレイとしては、文句ない出来栄えって事らしい。
「ああ、確かに……。さっきのは鬼気迫る演技だったな」
横でカメラを回していたルルーシュが驚いた表情で相槌を打つ。
「うんうん。私、本当に怖かったから……」
複雑な表情で笑いながらシャーリーも頷いている。
「あははは……。なんか複雑だなぁ……」
僕は苦笑して頭をかいた。
ただ夢中でやっただけなのだ。
褒められる事に慣れていないせいか、少し恥ずかしい気がするものの悪い気はしない。
「何言ってるのよっ。褒めてるんだからっ……。この後も頼むわよぉ」
バンバンとミレイさんに背中を叩かれる。
少し痛いけど、なんかとても嬉しかった。

こうして、ミレイの一言から始まった生徒会製作の自主作製映画の撮影は順調に進んでいく。
始めは乗り気ではなかったみんなも、いつの間にかいろいろがんばってしまっていた。
本当に会長のガッツの魔法の効果はすごいとつくづく思い知らされる。
まぁ、そう思っている僕もかなり楽しんでいるし、みんなもかなり楽しんでいる。
ドタバタと過ごしていく時間。
淡々とした日常とは違うお祭り的な時間。
だが、それもまたいいものだ。
そんな事を思いつつ、続きのシーンの撮影準備をしているみんなを見回しているとミレイさんに声を掛けられた。
「ふふっ、いつの間にか自然に笑えるようになったみたいね、ライ」
その言葉に、僕は初めて自分が微笑んでいる事に気が付いた。
ああ、そうか……。
これが自然な微笑みなんだ……。
「でも、まだまだだからねっ。これからもバンバン楽しんでいくんだから……」
ミレイが楽しそうにそう宣言する。
「はいっ、がんばりましょう、ミレイさんっ」
ぼくも精一杯の笑顔で頷く。
そう、まだまだなのだ。
これからももっともっと楽しまなくては……。
僕の大切な友人達と一緒に……。
そして、それは、僕の大切な思い出になっていくだろう。
決して忘れる事のない、大切な大切なものに……。

<おわり>


最終更新:2009年12月01日 02:00
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