「しっとの心は!」
『父心!』
「押せば命の!」
『泉わく!』
『見よ!!しっと魂は暑苦しいまでに燃えている!!!』
しっと団、それは人前で公然といちゃつくアベックどもを撲滅するために活動する集団。
特にこのアッシュフォード学園支部においては学生と言う身分にありながら恋愛に現を抜かす愚か者どもに正しき道を示すことが主な目的となっている。
「諸君! 私がしっと団アッシュフォード学園支部団長のリヴァル・カルデモンドである!」
『リヴァル! リヴァル!』
「勇敢なる団員たちよ、よく集まってくれた!」
リヴァルが身振り手振りでその感謝の意を伝える。 ビシっと決めているポーズではないが、それでも力強さを感じる。
「君たちに集まってもらったのは他でもない……」
彼はそこで一呼吸置く。 それから、周りに居る団員たちを見渡した後口を開いた。
「来たるクリスマスにおいてのアベック殲滅作戦への協力を頼みたい!」
右手を前に突き出しながらリヴァルは言う。
「本来クリスマスというのはキリストの生誕を祝う、神が人間として生まれたことを祝う、厳かなる宗教行事!
それを何を勘違いしたのか、いちゃいちゃいちゃいちゃと、アベックどもが恋愛ごっこをやる習慣が蔓延している!
そこで我々がきゃつめらに正義の裁きを食らわしてやるのだ! これは決して私怨ではない! 神をもはばからぬ愚か者たちに天誅を下すのだ!」
『うおぉぉぉぉぉおぉぉおぉぉおお!!!』
そのとき、皆の心はひとつとなり燃え上がった。 そう、彼らのやっていることは正しいのだ。
本来厳かなる宗教行事をとち狂って恋愛行為にいそしむほうが間違っているのだ、家に帰って家族とともに祝うべきなのだ。
まかり間違っても電車内で手をつないで目と目で語り合ったり、イルミネーションを見て君のほうがきれいだ、とかいう行事ではない。
彼らは間違いを正すのだ!
そんな絶好調な雰囲気の中、唐突に団長の背後から声が上がる。
「ふぅん、面白そうなことをやっているね、リヴァル」
「……誰だ!?」
リヴァルは驚きを隠しつつ背後から聞こえてきた声の主を確かめる。 少なくとも彼がここに立つまで後ろに誰もいなかったはずだ。
そしてさっきの彼の演説中に入ってきたのだとしたら誰かが気づくはず。 リヴァルは警戒を強めながらゆっくりと後ろを向いた。
「やぁ」
「ラ、ライぃ!?」
そこにいたのはいまやブリタニアのエースパイロットと呼ばれている、リヴァルの友人、ライであった。
「何故ここに……まさか!」
「いや、たぶん君の考えていることと僕の目的は違うよ」
リヴァルは彼が自分たちを殲滅しにきたのかと思ったが、ライはその思考をすでに読んでいたようでそれを否定する。
「簡単なことだよ、僕もしっと団に協力―――アベックの殲滅を手伝いたいんだ」
「なん……だと……!?」
リヴァルは予想できなかったライの言葉に動揺する。 が、すぐに正気をとりもどし冷静に状況を判断する。
「しかし、ライはどちらかといえばもてるほうだろう? それにどんなルートでも女性キャラとのエンディングがあるはずだ」
訂正。 正気を取り戻していなかった。
「あぁ、大抵のルートではそうだよ。 でもね……」
彼はどこか達観したような表情になる。
「僕の選んだ道は特派なんだ……」
特派ルート、それは大抵のルートに存在する女性とのエンディングがないルート。 スザクとの友情エンドやロイドさんに最高のデヴァイザーと呼ばれるエンドの二択。
セシルさんとのエンディングがないのだ。 セシルエンドがないのだ。
「僕だって頑張ったさ! 特区日本が成立したあとも! でもね、いくら彼女の創作料理を食べようとも、何度気絶しようとも、なぜか思いが伝わらない!」
語るライの瞳からは涙があふれている。
「そして、ある日ジンギスカンキャラメルカレー・レモン味を食べたとき僕は悟ったのさ。 こんなにも苦しいのなら、こんなにも悲しいのなら、もはや愛などいらぬ! と」
そのアレンジされすぎた料理の味を思い出して若干顔を青くしながらライは締めくくった。
「ライ……疑ってごめん、本当にごめん……」
ライの言葉を聞いたみなが涙を流していた。 ライはもてる人間だ、というのはおよそそこにいる団員すべてが分かっている。
だがしかし、彼は愛ゆえに苦しまなければならなかったのだ。 その愛は憎しみに変わってしまうほど深き愛だった。
それほどまで深き愛ならば、彼らしっと団は嫉妬しない、彼らが憎むのは、あくまで軽い気持ちを持つアベックである。
彼らは思う、歪んだ愛を生み出すアベックどもを駆逐しなければ、と。
「ライ、俺たちはこれから君を同志として迎え入れよう。 そして、君にも話そう、我らしっと団の計画、そう……」
リヴァルは両手を広げ、大声で叫ぶ。
「ブラッククリスマス作戦を!」
「ダメだな、それじゃあダメだ」
「ちょっと待てよ、俺たちの考えたこのブラッククリスマス計画の何がだめだって言うんだよ」
しばらく黙って説明を聞いていたライが、早速計画にだめだしをする。
「アベックに武力介入って、これじゃあ普通に捕まるよ。 犯罪行為だ」
「で、でもアニメでは武力介入はかなりの戦果を……」
「現実を見ろ、これはアニメじゃない。 堂々と介入なんてできるはずがないんだ」
言い訳するリヴァルにライはきっぱりと言い切る。
「でもそれじゃあ作戦が……」
「任せろ、僕にいい考えがある、とりあえずは相手が知り合いのときは積極的に話しかけにいく。 空気を読めない振りをするんだよ。
少なくともそれでおおっぴらな場所でイチャイチャなどはできない。 建物の中とか人目に付かない場所でなら勝手にやればいい」
「……なるほど」
そばで聞いていたリヴァルや、その他の団員が頷く。 とりあえずマスクを被り警察沙汰スレスレのことをやる危険性は回避されるのは間違いなかった。
「そして、知らない人間のときは僕に任せてくれないか、ロイドさんに頼んで作ってもらった非殺傷兵器で……」
「おいィ! お前武力介入するなって言った自分の言葉を忘れたのかよ!」
ニヤリと笑みを浮かべながら銃のようなものを取り出すライに即座にリヴァルはツッコミを入れる。
「大丈夫、気づかれない距離から狙い撃つ。 ばれなければ犯罪じゃないってロイドさんが言ってた」
大丈夫だろうか、ブリタニア軍。 しっと団の面々にそんな思いがよぎった。
そんなこんなで議論は進み、大体の作戦内容が決まった。
「……では、最終手段として武力介入はありな方向でいいな」
「あぁ、どうしても分かってくれないアベックにはそれしかないからね」
ニヤリと笑うリヴァルとライ、それに釣られるように団員たちもほくそ笑む。
そして、満足げな表情を浮かべながらリヴァルは言う。
「では皆、解散!」
クリスマス当日、天気予報はくもり、どんよりとした空は絶好のしっと日和だ。
「よし、それでは作戦を決行する! しっとエースよ、準備はいいな!」
「はい、団長!」
しっとエースことライを筆頭に集結した隊員たちの前で団長、リヴァルは宣言する。
「これより、全アベックどもに正義の鉄槌を下す! 各自奮戦を期待する!」
『うおぉぉぉおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!』
団員たちは各自が思い思いの方向に走り去っていく。 それを見送ったしっとジミーとしっとエースの二人は標的と定めた存在のほうへ向かう。
ルルーシュ・ランペルージのいる方へと。
「見つけたぞ……世界の歪みを……」
「落ち着くんだ、リヴァル……まずは様子見だ」
草の茂みから双眼鏡でルルーシュの姿を確認する二人。 ルルーシュからは死角となっているが当然他の人間からは見えている。
公園のベンチに腰掛けて、なにやら疲れている様子のルルーシュ。 彼に裁きを下すべきか否か、まずはそれを見極めるのだ。
「……動きがないな」
「いや、左を見ろ!」
小声で呟かれたライの言葉に反応し双眼鏡を左のほうへと向けるリヴァル。 そこにはよく知るクラスメートの姿がうつっていた。
「シャーリーか、うーん、じゃあルルーシュは裁きの対象にはならないかな……」
シャーリーは積極的と言えるが、かといって度を越えた行動はしないはずだ。 軽いキスはあるかもしれない、だが、それを見せ付けることはないはずだ。
一応身内ということで、今回はおおめに見るという結論を下そうとしたリヴァル。 念のために言っておくが、シャーリーの口からミレイ会長にしっと団活動がもれるのを恐れたわけではない。
しかし、その無罪判決はたやすく覆ることとなる。
「む、なにやら緑色の髪の女の子が現れたぞ」
「なん……だと……!?」
リヴァルが双眼鏡で覗き見ると確かにアッシュフォード学園の制服を着た緑髪の女の子がピザを片手にルルーシュの左腕を掴み、歩き出した。
シャーリーはそれを呆気にとられたように見ていたが、我に返ったのかルルーシュの右腕を掴みその歩みを止める。
そして二人は口論、いや、シャーリーが騒ぎ、緑の髪の女はそれを受け流しているように見える。
だが、そんなことは些細なことだ。
「なぁ」
「なんだ?」
「ルルーシュ君、二股をかけてたのか」
「あぁ、そうみたいだね」
短い会話に嫉妬をこめて、二人は頷きあう。
『今が裁きの時!』
ライは懐からロイドさん謹製のたぶん非殺傷な銃を取り出す。 が、どこからか音もなく飛んできた苦無がそれに突き刺さる。
「なっ!?」
驚きつつもライはそれが飛んできた方向に目を向ける。 と、更に二本の苦無が飛んでくるのが見えた。
ライはそのうちひとつをギリギリのところでかわし、もうひとつは先ほど苦無いが突き刺さった銃で受け止める。
「どうしたんだ、ライ!?」
リヴァルが驚いた声を上げる。 彼の目にはいきなりライが転がったようにしか見えなかった。
「リヴァル、君はルルーシュの元にいくんだ。 そして、あの男の敵に裁きを 僕はここで彼女を食い止める。 いくんだ、リヴァル!」
ライは視線を一箇所にとどめながらそう言う。 目をパチクリさせるリヴァルの手になにか少し重量の感じられるものが渡される。
「大して威力はないスタンガンだ。 バチィ、とルルーシュにかましてやれ」
小さな声で言うライにうなずき、リヴァルはルルーシュの元へ向かう。 その背中に一本の苦無が投擲されるが、ライが先ほど銃に突き刺さった苦無を投げてそれをはじく。
「……ゴム製か」
投げられた武器の素材を手触りから判断する、げに恐ろしきはそんな武器で鉄を貫通する威力を生み出した存在か。
ライは再び視線を襲撃者のほうへと向ける。
「で、何故あなたがここに? 咲世子さん」
「ルルーシュ様を傷つけさせるわけにはいかないので」
ライが視線を向けた先、木の枝の上にはクラブハウスでメイドをしている篠崎咲世子がいた。
「一応非殺傷の武器らしいので傷は付かないはずでしたが、あなたが……」
「えっ!?」
ライの言葉に咲世子は意外そうな言葉をあげる。
「えっ!?」
そしてそれはライも同じである。 まさか驚かれるとは思っていなかった彼は、咲世子の反応に驚く。
『…………』
その場になんともいえない空気が満ちた。
最終更新:2009年12月30日 22:11