043-593 銀色の妖精 @穴熊

「あれは、まだ原住民との争いが盛んだったころの領主の城です。一度は焼け落ちたそうですが、第三皇子がエリア11に赴任する前
ここの領主だった時に復元させたそうです。一般公開もされているそうですが、見ていきますか?」
ずいぶんと長くその城を見つめていたので、そう提案したが彼は静かに首を横に振るだけだった
旅にでてはや二週間、本国北部の山間の町まできたが、いまだに彼の目的が分からない
それというのも、彼が極端に喋らないためだ。以前はそうでもなかったが、この旅に出てから口数が減っている
この町が目的地ということは聞いているが、何をするかなどはまったく聞いていない。観光をするでもなく、誰かに会うでもなく、まっ
すぐに山を目指して歩き出した
ゆいいつ足を止めたのが先ほどの旧領主の城だが、それも過ぎ去り今は獣道を歩いている
さすがにここまでくると、目印もないらしく、たびたび立ち止まっては足元を確認している。私も見てみるとわずかに車が通った跡が
残っている
(それにこれはKMF?)
なぜ兵器がこんな山奥を通り、彼がその後を追うのか。謎は深まるばかりである

やがて藪を抜け開けた岩場にでると、先ほどの跡の正体であろう車やKMFが止まっている。いや、正しくは放置されている
砂埃をかぶり、KMFの間接部からは草まで生えている
「これが目的ですか?KMFが欲しいなら騎士団から持ち出せたでしょう?」
そう聞くと、彼は微笑みながら岩場の一角を指差した
見ると岩と岩の間に人ひとりが入れるかどうかという隙間があり、そこに車からケーブル類が伸びている
彼は迷わずその隙間に入っていってしまう
私も続いて入るが、狭いのは、はじめの20Mほどで見る見る隙間は広くなり、ライトで照らすと、床は平らにならされ両側にそびえ立つ
石柱が、ここが遺跡の類であることを匂わせている
進むと広間のような空間に行き着く。道はここで途切れており、中央には祭壇のようなもの、正面の壁には見上げるほど多きな扉がある
辺りにはこの遺跡の調査に使われた資材が転がっている
「いったいここは、」
質問をしようと彼の顔を覗きこむが、悲しむような、懐かしむような、そんな彼の顔を見ると言葉がでてこない
そんな私に気づいたらしく、表情を苦笑いに変え、祭壇の中央に向かう
見るとそこの床には四角い穴が開いていて、階段が地下に進んでいる
階段を降りきると、また通路のようだが、左右に扉がいくつも並んでいる
二人でその扉を一つづつ開けていくが、上の広間と同じくすでに調査の手が入っているらしく何も残っていなかったが、部屋の様子から
寝室と何らかの作業場、さらに大昔の手術室の三種類のようだった
(祭壇、隠し通路、そして手術室。おそらくは大昔の神殿、しかも邪教の類)
私が今までの情報からここが何なのか推察していると、いよいよ最後の扉になった。彼は広間で見せた表情をするが、今度はそれも
一瞬で扉を開く
そこは今までの部屋と大きく異なり、開かれた石棺が一つあるだけだった
おそらくはこの神殿の教主か神を名乗った者の遺体が入っていたのだろうが、今は中は空だ
そこで、私はあることに気がついた
(おかしい。この遺跡の発掘ニュース、記憶にない)
元がつくが、仕事柄あらゆるジャンルのニュースに目を通しているし、自分から探してもいる。この彼と旅の様に
私が思考に没頭していると何かに気づいたらしく、彼に肩をたたかれる
振り向くと石棺の内側を指差される。そこには大昔の文体で
“カリブの海で君を待つ”
と、書かれていた

「うっ、」
遺跡の中から出るとすでに夕暮れだったが、闇に慣れきった目には光が厳しい
「さて、次はカリブ海ですか。まずは、あなたのパスポートをっ!
新たな目的地への旅支度を相談していると、遠くから爆発音が響く
見ると町の方角から黒煙が昇っている
「おそらく、原住民族のテロ行為でしょう。ナンバーズでこそありませんが、彼らも随分と差別を受けているそうですからね。」
もっともそれがテロにまで発展したのは騎士団の活躍に感化されたせいだろうが
話の続きをと思い振り返ると彼の姿なく、代わりに放置されていたKMFの起動音が響く
そこで、私は彼の性分を思い出し溜め息をつく
「行くんですね?」
諦めの入ったその問いにKMFが頭をこちらに向ける
『ああ!もちろんだ!』


ディートハルト・リート著 銀色の妖精シリーズ 第一章『妖精と故郷』より抜粋


最終更新:2010年01月05日 01:21
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。